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2話 サピエンティア・ディアボルスに加入しました。

 風舞





「そうだった。俺は気絶して捕まったのか」



 俺は背もたれに体重を預けながらため息をついた。足枷と手枷がガチャガチャと鳴る。



「さて、魔力は…ん? アイテムボックスが使えない。なんでだ?」



 アイテムボックスからステータスカードを取り出して自分の魔力を確認しようとしたのだが、何故かアイテムボックスが使えなかった。

 なんとなく魔法を使う為の集中が出来ない感じがする。

 頭がぼんやりとしているのは血を流しすぎたからだと思っていたが、別の原因もあるのかもしれない。



「やばいやばいやばい。麻薬組織に捕まって逃げられないってどう考えてもやばい。今考えてみたら俺はなんて事してんだよ。ゴブリンキング倒すとこまではまぁ仕方ないとしても、その後のはかなり考えなしだろ。助けを呼ぶなりしろよ俺。もしかして、これが勇者の称号の影響なのか? 俺はあんなに熱血キャラじゃないはずだぞ? ていうか、思い返してみたら俺一人殺っちゃってんじゃん。もうお天道さんに顔向けできないぞ、俺」



 ダンジョンを出てからの俺は、ゴブリンキングとの戦闘の高揚感が抜けてなくて視野も大分狭くなっていたように感じる。

 普段の俺ならいくらシルビアさんが心配でも、いきなり麻薬組織に殴り込みにはいかないだろう。

 マジで何やってんだ俺。


 そうやって自分の行いを反省する事で心を落ち着けようとしていると、俺のいる10メートル四方くらいの部屋の外から足音と話し声が聞こえて来た。

 扉は木製で見るからに作りも良くないので、話し声がよく聞こえる。



「おいダビル。そのルーキーがカールを殺ったってのは本当か?」

「なんだ? びびってんのか?」

「いや、そういう訳じゃねぇけどよ。カールはCランクの冒険者だったろ? どうも信じられなくてな」

「そういう事か。単にE級相手だと思って油断してる間に殺られたんだろうよ。それに俺も一度この目で見たがあいつは縮地が使える。念のために登録の時のステータスカードを確認させたから間違いねぇだろうよ」

「縮地なら今は拷問用の椅子に縛り付けてあるから安心だな。それに罪人用の拘束薬を飲ませてるし、寝てる間に呪術もかけてある訳だしな」

「やっぱりびびってんじゃねえか」

「だからそうじゃねぇって! 俺は慎重なだけだ!」



 ローズが冒険者登録の時に転移魔法の代わりに縮地で登録しておいたから、いざとなったら縮地と言い張れと言っていたのを途中で思い出してからそうしておいて良かった。

 俺の魔法が使えないのは恐らく拘束薬ってのが原因だろうから、その効果が切れたら逃げられるはずだ。

 こうして俺は生かされている訳だしすぐに殺される訳じゃないだろう。

 逃げるチャンスはその内来ると思う。呪術もかかってる気しないし。


 そこまで俺が考えていた所でドアが開いた。

 この二人の男がさっきの話し声の二人で間違いないだろう。

 片方の男は地下室で見た覚えがある。

 さっきの話を聞いた感じ、恐らくこいつがダビルだろうな。



「よぉルーキー、起きていたみてぇだな。気分はどうだ?」

「左腕と肋骨が折れてて痛い。あと、頭もボーッとする」

「ふん。怪我は俺たちの所為じゃねぇから我慢しやがれ。おっと、逃げようとしたって無駄だぞ。お前にはある薬を飲ませて魔法とスキルが使えない様にしているからな」



 ほう。

 つまり頭がボーッとするのは拘束薬とかいうやつの副作用なのか。

 逃げるタイミングの指標になりそうだな。



「俺をどうするつもりだ」

「別にどうもしなさいさ。お前から少し話を聞いて教育をした後で開放してやる」

「教育?」

「まぁ、それは後でのお楽しみだ。まずは質問をするから答えろ。嘘をつこうとしたって体が動かなくなるだけだから、正直に話すんだな」

「呪術か」

「なんだ、知ってたのか?」

「シルビアさんもあんたらについて話せなくなってたからな。見当はつく」



 多分俺には呪術がかかっていない。

 こいつらの呪術が相手にかかっているか確認する方法が実際に試してみることみたいで助かった。

 俺に呪術をかけた奴が魔力感知とかのスキルを持ってる奴で、呪術を使うタイミングでかかってるのか判別できたら殺されていたかもしれない。



「それじゃあ話は早ぇ。お前はどこまで俺たちについて知っている」

「あんたらが悪魔の祝福を売り捌いてる事と、詐欺でパン屋の美人さんを無理矢理冒険者にしたくらいだな」

「その事を他の誰かに話したか?」

「いや、誰にも」

「そうか。では次の質問だ。シルビアをどこに隠した」

「別に隠しちゃいない。俺が一人の男と戦ってる内に自分で逃げた」

「んな訳あるか! あいつはまともに逃げられるような体じゃなかった。お前が何かしたんだろ!」

「知らねぇよ。お前がさっき嘘はつけないって自分で言ったじゃねぇか」

「クソッ!!」



 ダビルが苛立った様子で俺の座っている椅子を蹴りつけた。

 椅子は地面に固定されているためにびくともしないが、尻に振動が伝わって来てビックリした。

 だが、こういう奴らは怯えた顔を見せれば態度をデカくしてくる。

 ここは強気にいかねば。



「もういいか? さっきから傷が痛んでしょうがねぇんだ。さっさと解放してくれ」

「ふん。まあいい。だが、今後は気をつけて生活する事だな」

「どういう意味だ」

「お前、自分が何したか忘れたのか? お前は何の罪もないギルド職員をいきなり殴ったし、冒険者を一人殺したんだぞ? そんなお前が真っ当な生活を送れると思っているのか?」

「クソが」

「まあ、俺達も魔族じゃない。お前が俺達に協力をするってんならその罪を揉み消してやってもいい」

「協力?」

「そうだな。先ずはシルビアを探し出して連れて来て貰うか。あいつは大事な実験体だ。経過を調べなくちゃいけない。それに、マイムとミレンだったか? 仮にお前が協力しないならこの二人がどうなるか、賢いお前ならわかるよなぁ?」

「あの二人には手を出すな!」

「俺達の言うことを聞いている限り手を出さないと誓おう。お前はギルマスのお気に入りであるミレイユの専属らしいが、妙な動きをしてみろ。俺達には有力貴族の仲間もいるんだ。いくら冒険者ギルドの街とは言っても、たかがギルマス如きじゃ相手にもならねぇだろうな。まあ、呪術のせいで話したくても話せねぇだろうがなぁ!」



 ダビルがそう言ってゲラゲラと笑う。

 貴族の仲間なんているのか。

 人数もそこそこいる様だし結構大きい組織なのかもしれないな。



「わかった。お前達の言う事を聞こう」

「ほう。やけに素直じゃねぇか」

「俺には自分の命よりも大切なものがある」

「ヒュー。カッコいい事言うじゃねぇか。俺は賢い奴は嫌いじゃねぇぜ。おいゴッチ、外してやれ」

「ああ」



 ゴッチと呼ばれた男が俺の手枷と足枷を順番に外していく。

 そういえばこいつ部屋に入ってから一言も喋んなかったな。

 ダビルの方がゴッチより偉いのか?



「さて、これからのお前は今迄通り冒険者でもやりながら、俺達のお願いを時々聞いてくれればいい。お前はそこそこ腕が立つ様だし俺達が上手く使ってやる。ソレイドで呪術を解ける奴は俺達の他にいねぇし、ソレイドからは呪術で出られなくしてあるから変な気を起こさない事をオススメするぞ」

「ああ、お前達には逆らわない」

「流石期待のルーキーだ。お前達は冒険者ギルドじゃ有名人だからな。俺も期待しているぞ」

「そうかよ」



 俺が立ち上がって部屋から出ようとするとダビルが後ろから声をかけてきた。



「ようこそ、悪魔(サピエンティア )()叡智(ディアボルス)へ。歓迎するぞルーキー」



 クソ覚えづらい名前だな。

 俺は心の中でそうボヤきながら麻薬組織の建物を後にした。




 ◇◆◇




 風舞




 剣とリュックサックを返してもらって外に出ると日が既に傾いていた。

 昼飯を作る約束をしていたのに大分遅くなってしまったな。



「ふぅ。特に何もなく出れたな。取り敢えず帰るか」



 俺が家まで歩いて帰り玄関を開くと、皮鎧を着た舞がそこに立っていた。



「ただいま。どっかに出かけんのか?」

「え? 風舞くん?」

「そうだぞ? 遅くなって悪かったな」



 俺がそう言うと舞が俺に抱きついて来て泣き始めてしまった。



「風舞くん風舞くん。私、凄い心配したのよ! 全然帰って来ないと思ってたら傷だらけの獣人さんが突然家に来て助けを求めて来るし本当にビックリしたのよ! もう風舞くんに会えないんじゃないかと思ったら私、本当に怖くて…」

「わかった。わかったから一旦離してくれ。左腕と肋骨が痛い」

「嫌よ! もう一生離さないわ!」

「俺、血も汗も凄いし風呂に入りたいんだけど」

「一緒に入りましょう!」

「それに疲れたからベッドで横になりたいし…」

「私も一緒に寝るわ!」

「マジで?」

「マジよ!」



 舞は興奮のあまりおかしな事を口走っている事に気がついていないみたいだ。

 物凄く俺を心配してくれていたんだな。

 舞には悪いがちょっぴり嬉しい。

 そう思っていたらローズとミレイユさんが玄関にやって来た。

 二人共外に出る為の格好をしているし、俺を探しに行こうとしてくれていたのだろう。



「おおフーマ。帰ったか」

「ああ、ただいま。心配かけたみたいで悪かったな。

「気にするでない。こうしてお主も無事に帰って来たし何も問題ないわい」

「そうですよ。本当にフーマさんが無事で良かったです!」

「ミレイユさんも折角の休日に迷惑かけてすみませんでした」

「私は皆さんの専属なんですから、迷惑なんかじゃありませんよ」



 ミレイユさんはそう言ってにっこりと笑った。

 ああ、この人が俺達の専属になってくれて本当に良かったと思った。



「それで、何があったのか話してくれるんじゃろ?」

「ああそうだな。その前にマイムを何とかしてくれ」

「自分で何とかせい。自業自得じゃ」

「はぁ。それもそうだな」



 その後、俺は何とか舞を説得をして離してもらってからミレイユさんに回復魔法で骨折を直してもらい、汗と血を風呂で流してからリビングで今日一日俺に何があったのかを話し始めた。




3月11日分2話目です。

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