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87話 花畑の戦い

 


 風舞




 最近フレンダさんとソウルコネクトをしていて気がついた事なのだが、魂を混ぜると言うよりは重ねる様なイメージをした方が、魂や体にかかる負担が少なくフレンダさんの力を引き出せる気がする。

 ソウルコネクトをした後はフレンダさんの記憶を追体験する事がよくあるが、寝ているときに見る夢の様にフレンダさんの記憶に俺の記憶が混ざるなんていうトンデモ展開になった事は一度もない。

 これもソウルコネクトの本質は混ざる事ではなく、重なる事である事を示す一つの良い例なのだろう。



『おいフーマ。何かしましたか?』

「フレンさんの愛を感じました」

『随分と余裕がありそうですし、魂の繋がりを浅くしますね』

「ちょ、ちょっと待って!」



 ソウルコネクトの本質が分かってきたとは言ってもフレンダさんの繊細な技術がなくては、俺の魂がフレンダさんに吸収されてしまうし、ソウルコネクトはあまり我が物顔で自慢できる様な技ではないのだ。

 とはいえソウルコネクトにも慣れてきた今の状態なら、ローズやフレンダさんが使うあの技も使えなくは無いと思う。



「君、実は魔族だったのかい?」

「それも有りかと最近は思ってる」



 俺の攻撃が1段と重くなった事で一度距離をとったモラクスが、俺の手に握られている真紅の片手剣に驚いた顔を見せる。

 基本的には見よう見まねで不足分はギフトで補ったのだが、これなら空間断裂よりも魔力的にも体力的にも効率よく火力を出せそうな気がする。



『血液を扱うのは構いませんが、フーマの肉体では細胞レベルで色々と不足しているでしょうから、貧血には気をつけるのですよ』

「意外とファンタジー武器も世知辛いんですね」

『強大な力ほど使い勝手が悪いのは当然の事です』

「夢も希望もねぇ」



 そう言いながら無駄な血液をこぼさない様に片手剣に纏わせた血液の硬度をあげ、フレンダさんの力を一点に凝縮していく。

 ローズなんかは全身に真紅のドレスを纏いながら戦うために見た目的にはかなり派手なのだが、血液を扱う事に関しては初心者な俺は武器一本を染色するぐらいでグッと我慢しておく。


 人間は血液が3リットル無くなると死ぬと言われているが、ローズやフレンダさんはどう考えてもそれ以上の血液を扱っているし、そもそもその血液がどこから出てきたものなのか検討もつかない。

 ぶっつけ本番で血を操るなんて離れ技をやっている以上、あまりハイレベルな芸当はしない方が良いはずだ。



「流石にこれは分が悪いか」

「俺は基本的にヒットアウェイ型だからな。一箇所に留まらない以上、お得意の麻酔攻撃も効果無いだろ」

「というより、確かに吸わせているのに倒れないあたり、耐性でもあるのかい?」

「………そうなんですか?」

『私に聞かないでください』



 てっきり俺は攻撃の瞬間以外は距離を取る戦い方をしていたから麻酔の効果を受けていないと思っていたのだが、モラクスが言うには俺はがっつり麻酔ガスを吸っているらしいし、もしかすると本当に耐性があるのかもしれない。

 もしかして、またギフトが無意識に働いているのか?



「俺、TUEEEE」

『おい。アホな事を言っていないで目の前に集中しなさい。何か仕掛ける様ですよ』



 フレンダさんの声により体に決して浅くはない傷のついたモラクスを再び視界の中に捉え、何かをぶつぶつ呟いているモラクスを注視する。

 魔力の動きは感じ取れないために魔法ではないと思うのだが、一体何をしているのだろうか。



「わざわざ変身を待つ必要もないか」



 俺はそう言いながら再び白い花を散らしながら走り、何かに集中するモラクスを逆袈裟に斬り上げる。

 俺の攻撃は確かにモラクスの腕を潜り抜け、的確に心臓のあたりを捉えたはずだった。

 しかし…



 ガキンッ!



 真紅の片手剣が紫色に光る鎖に弾かれ、僅かに軌道を逸らされる。

 あの紫色の光は見覚えがあるが、まさか……。



「従魔契約という言葉は聞いたことがあるかい?」

「ああ。というより、最高の従者と契約してる」

「ならば話は早い。従魔契約とは、魔物を強化するのに最も簡単な技術だ」

「………そうなんですか?」

『主人の魔力や生命力をパスを通して送り込む事が可能です』

「知らなかった」

『フーマの場合、自分を疎かにしてエリスに力を分け与えそうでしたから、伏せておいたのです』

「そんな事…」

『無いとは言わせませんよ?』

「すみません…」



 自分でもエルセーヌがピンチだったら俺の全てを彼女に渡しそうな気がしてしまったために、ただ謝る事しか出来なかった。



「話を進めても?」

「ああ。悪かったな。で、従魔契約をしたから強くなったって? それじゃあお前の主人を先に倒しに行けば良いのか?」

「確かに僕をこれ以上強化しないためにはそれが有効だ。とはいえ、そう簡単にそれが出来るかな?」



 そう話している間にモラクスの体に紫色に光る鎖や首輪や手枷が次々に増えていき、二足の雄牛の体を多数の拘束具が埋め尽くしていく。



「おいおい。まさか……」

「その通りだ。僕が現在契約している数は百を超える」

「なるほど。流石はモラクス。生贄はそういう使い方をしていたのか」



 ここまでのモラクスの話を聞くに、黒の会の全ての人がモラクスと従魔契約を結ばされ、アイツのブースターとして蓄えられていたのだろう。

 俺とエルセーヌの従魔契約はエルセーヌが主導で行ったものだが、エルセーヌには俺の声が常に届くらしいし、契約と共に何らかのオプションをつける事も出来る筈だ。

 そう考えると、モラクスの言うことには逆らえない様な契約を結ばされていてもおかしくは無い気がする。

 契約で自分の利益を人から毟りとるとは、何て悪魔らしいやり方だろうか。



『おいフーマ。これは少し本気を出さねば厳しいのではありませんか?』

「そうですね。早々にアイツを止めないと従魔契約をしている人達が絞り尽くされる気がしますし、短期決戦でいきましょう」

『……やるのですね?』

「倒れる前に片付けるんで、サポートお願いします」

『………絶対に死んではダメですからね』

「今の良いですね。もう一回言ってもらえませんか? 今度はちょっと泣きそうな声で」

『まったく、フーマはもう少し緊張感を持つべきです。しかし今回は私の失態もありますし……ご、ご褒美には期待しておいてください』

「超ヤル気出た」



 そうしてフレンダさんとの会話に集中する事で戦闘の高揚感を追い出した俺は一度深く息を吸い、ゆっくりと吐きながら意識を研ぎ澄ましていく。


 敵はモラクス一人。

 相手は魔法以外にも薬物などの目に見えない攻撃もしてくる為、どんなに些細な変化も見逃さない様にせねばならない。


 空気の流れや匂い、音や気温にも意識を向けつつ、あくまで敵を屠るために自らの体を俯瞰的に捉え直す。

 モラクスを相手に有効打になり得るのはおそらくこの片手剣のみ。

 悪魔は回復力も凄まじいため、魔石を貫き一撃で仕留めるか、氷漬けにして身動きを封じる必要がある筈だ。


 余計な思考は捨て去り、集中しろ。

 モラクスの些細な動きから、弱点となる魔石の位置を探し出せ。

 常に情報の取捨選択を行い、最適な道筋を選ぶ様に体を動かせ。



「遊びは終わりだ」



 敵の体に纏りついていた紫色の拘束具が消え、先ほどよりも速く力強い動きで敵が迫る。

 相手がこちらに近づいて来るのなら、俺が動く必要はない。

 最小限の動きで、最大効率の攻撃を。



「シッ!」

「グアァァッッ!」



 ククリナイフを鼻先三寸で躱し、敵の意識が片手剣に集中している間に片手で敵の左目をえぐり出したが、悪魔を相手にこれは致命打にはならない。

 敵の視界が狭くなっている今のうちに、まずは敵の足を……。



「おっと。まさか仕留め損ねるとは」



 体内に異物が入り込むのを感じ転移魔法で距離をとったが、僅かばかりに体内への毒物の侵入を許してしまう。

 急激な体温の上昇と発汗により、ここまでと同等のパフォーマンスは出来ないと判断し、次の行動の指針を変える。



「さて、どうやらこちらの毒には耐性がない様だね。毒が体に回るのが先か、それとも致死量を投与されるのが先か。どちらにせよ、僕にとっては良い結末になりそうだ」



 集中しろ。

 まだ四肢は動くし、前も向けている。

 全ては、ただ目の前の敵を屠るために。




 ◇◆◇




 フレンダ




 フーマが集中状態…というより一種のトランス状態になってから既に5分が経過した。

 フーマは私の思考を読んでいるのではないかと思うほどに、上下するソウルコネクトの深度に合わせて常に必要最低限のギフトの力を解放しているのだが、それでも肉体と精神にかかる負荷は大きく、それなりに痛みに慣れている私ですら顔を歪めるほどの激痛が常に体を走っている。



「さて、残りは7分といったところか。体内に毒が回らない様に心拍は抑えて戦っている様だけれど、そろそろ限界も近そうだね」



 現在のフーマの戦闘中の判断は非常に合理的で戦略的にはモラクスを圧倒しているのだが、従魔契約によって力を底上げしたモラクスを仕留めるには至らず、毒によって鈍る体により少しずつ体力も落ちてしまっている。

 その分の体力をギフトで補おうとすればするほど体が壊れてしまうために、かなり悪い部類の悪循環に陥ってしまっていた。



『ステータス的にはモラクスを上回っていますが、常に回復し続ける相手を圧倒できるほどの力はありませんか』



 フーマには聞こえない様に一人でそう呟きつつ、ソウルコネクトを一層深く繋げ、フーマの負荷を出来るだけ軽減する。

 フーマは以前私とシルビアの前でギフトを暴走させて倒れてからは自分の体を計算に入れて戦う様にはなってくれたが、最後の最後に手詰まりだと判ずれば、きっと命の全てを燃やしてモラクスを仕留める筈だ。



「これは、悔やんでも悔やみきれませんね」



 毒を使う相手などかなり久しぶりだったために判断が遅れ、早々に離脱してしまった自分に腹がたつ。

 隣にフーマがいなくてはあのまま呼吸をする事も出来ずに死んでいたともなると、自分の情けなさに呆れる他無かった。

 仮にフーマが自分の命を炉にくべようとするのなら、私の魂をフーマに譲渡してフーマだけでも助けるつもりではあるのだが、それは本当に最後の手段だ。


 まずは現状を打破するための方策を考えねばならない。


 モラクスは従魔契約を悪用して力を底上げする事で、体の損傷を代償に圧倒的な力を得ているフーマと渡り合っている。

 そして従魔契約の相手は黒の会のメンバーであり、彼らの生命力と魔力が尽きるまではモラクスが倒れる事は無いだろう。

 モラクスの余裕の様子を見る限り、フーマが倒れるよりも先に従魔契約による強化が止まる事はまずない筈だ。


 となると従魔契約をしている黒の会のメンバーをどうにかする方が手っ取り早いのだが、フーマが彼らを害する方法をとるとは思えない。

 しかし、あまり綺麗事を言っても現状を打破出来ないのなら、最低限の犠牲には目を瞑るべきだ。



「フーマ。ここの花畑を根こそぎ切り上げ、火をつけてから居住区に転移させてください」



 フーマが私の言葉を聞くと同時に空間断裂で拡張した斬撃で花畑を切り裂き、そこに高レベルの火魔法で一瞬にして火をつけてそのまま転移させる。

 モラクスはフーマの行動に首を傾げていたが、考える隙を与えまいと動くフーマによってその思考は止められる事となった。


 一か八かの賭けではあるが、ここの花は先ほど私が吸ってしまった麻酔の主成分である様だし、これを居住区にいる人々に吸引させる事が出来れば、モラクスに流れる生命力を別の要因で奪う事が出来る筈でだ。

 そう考えフーマに出した支持だったが、モラクスとの戦闘は何ら変化を見せる事もなくそのまま4分が経過してしまった。



「ガフッ…」

「どうやらそろそろ本格的に毒が回り始めた様だね」



 モラクスの言葉を信じるのなら、残り時間は後3分。


 このままではフーマの命が失われてしまう。

 ならばそろそろ私の全てをフーマに渡した方が良いかと考え始めたその時だった。


 フーマと対峙していたモラクスの動きが急に鈍り、フーマの鋭い攻撃を受けて一直線に吹き飛んで行く。

 原因は分からないが、今が好機である事に間違いはない筈だ。



『堪えどころですフーマ! このまま押し切ってしまいなさい!』



 返事をする事すらも出来ないほどに余裕のないフーマは、壁に叩きつけられて立ち上がろうとするモラクスの重心を踏みつけて動きを封じ、そのまま次々と心臓や腎臓や頭蓋などの急所に攻撃を叩き込んで行く。

 モラクスは困惑と悪魔特有の死期を悟った時の不気味な笑みをないまぜにした顔をしていたが、フーマの片手剣がモラクスの魔石をえぐり出した事で動きを止め、黒い霧となってそのまま消えた。



『お疲れ様ですフーマ。よく頑張りましたね』

「……まだです。解毒薬を………飲まないと…」

『船に転移してください。トンチンカンに運ばせた荷物の中に、それらしき物があったはずです』

「分かり……ました………」



 フーマがギフトの力を緩め、最後の力を振り絞って船に転移してくれる。

 後はここの海賊がフーマを見捨てるか否かが問題なのだが……



「キャップ!? その体は一体!?」

『……16番。16番の薬を飲めば助かるはずです』

「16番……薬………じゅうろ……」

「うっす! おい! さっき持ってきた瓶の中から16番を持って来い!」

「あいさー!」

「手の空いてるものはありったけのポーションを! この人は、まだここで死なせちゃ………」



 そこでフーマの意識は途切れ、外の世界の情報は失われてしまった。

 しかし半吸血鬼となっている今のフーマはそれなりに丈夫な体をしているし、海賊達の動きを見る限りフーマがこんなところで命を落とす心配は無いだろう。

 さて、私はその間にソウルコネクトをフーマの心体に負荷がない様にしつつ、奮闘をしてくれたフーマを迎える準備をしなくては…。



「あぁ……今回はマジで死ぬかと思った。毒とかマジで勘弁だわ」

「良くやりましたねフーマ。ご褒美は何が良いですか? 今回ばかりは、素直にフーマをお願いを聞いてやらなくもありません」

「それじゃあ、コスプレ膝枕頭ヨシヨシで」

「その要望がスンナリ出てくる自分が恥ずかしいと思った事は無いのですか?」

「そ、それには触れないでください。それより、素直にお願いを聞いてくれるんじゃないんですか?」

「はいはい。ほら、私は何に着替えれば良いのですか?」

「それじゃあ……」



 フーマはそう言うとメイド服やら黒いスーツやらストッキングやらを次々と生み出し、私の前に並べ始める。

 いささか数が多い気もしますが、今回の私にフーマの要求を断る権利はありませんし、甘んじて彼の欲望に付き合ってあげるとしましょう。



「ん〜。白い世界だと汗はかかないし、タイツの良さは半減するから外に戻ってからの方が良いのか?」



 し…しかし、流石に外でコスプレをしてフーマを甘やかすのは他の人物に見られる可能性があるかもしれないので、勘弁してもらいたいですが……。


 私はそんな事を考えながらフーマの細かいこだわりに少しだけ引きつつ、出来るだけ平静を装って一つ目の衣装に着替えるのであった。

 やれやれ、フーマの変態っぷりには本当に困ったものですね。

次回、8日予定です

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