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82話 悪魔の気配

 


 風舞



 魔船という高性能な船をゲットした事で機動力が格段に増した我らが黒髭海賊団は、今日は珍しくとある目的の場所に向かって全速前進していた。

 ここ数日は見かけた獲物に攻撃を仕掛けようと海の上を漂っていたが、中々ターゲットがかからなかったために、今日は目的を決めての行動である。



「キャップ。黒の会の本拠地に攻め込むって本当ですかい?」

「何か不満でもあるのか?」

「不満ってほどでもありやせんが、黒の会のメンバーは千人近いって言われてやす。流石にそこに俺達だけで攻め込むってのは……」

「どうした? 続けて良いぞ」

「いや、キャップとフレンさんの二人でどうにか出来そうっすね」

「心配せずとも、黒の会をどうにかした後の戦利品はお前らにもやるから安心しろ。ただし、強姦と無用な殺しは無しな。やったやつは見つけ次第逸物を切り落としてケツにそれを打ち込むからそのつもりでいろ。特にそこの3バカ!」

「ひ、ひぃっ!? な、なんすか!?」

「次ビクトリアさんにセクハラしたら海に捨てるから覚悟しろ」

「せ、セクハラだなんてそんな…」

「胸が大きいから肩が凝っているんじゃないかと思っただけっす!」

「私、ちゃんと寝る前にストレッチしているから大丈夫ですよ?」

「やれやれ。朝から騒々しい奴らですね」



 そんな事を言いながら船の行く先を眺めるフレンダさんの魔力で動くこの船の進路はというと、昨日戦利品を漁っている時にゲットした海図に記されていた黒の会の本拠地らしき孤島である。

 長い事を海賊をやっているボブ達でも近づいた事のない厳しい海流に包まれた島が黒の会の本拠地らしいのだが、そもそもそこに向かおうと思ったのは、地図と一緒に見つけた件の麻薬が原因である。



「ところでボブ。この夢の種ってのは、結構広まってるもんなのか?」

「そうですね。海賊の間でもそれなりに広まっているものかと」

「ちなみにこの船では?」

「手を出したやつは追放処分にしてやした。船の上という限られた空間は一度麻薬でダメになると立て直せやせんから」

「なるほどな。ちなみに、これを扱ってる海賊に心当たりはあるか?」

「あるにはありやすが、流石にどこにいるかまでは分かりやせんぜ?」

「それじゃあ、海賊の会合とかはあるのか?」

「ちょうど今日から10日後にありやすが……まさか!?」

「良かったなボブ。10日後にはお前がここいらのボスだ」

「ま、マジですか…」

「まぁ、ここらで画を描いている奴に見当が付けばの話なんだが……」



 そもそも悪魔の祝福をばら撒いている奴がいるはずなのだが、そいつの目的が一切分からない。

 悪魔が金を稼いでも仕方ないだろうし何かしらの目的はあるのだろうが、悪魔の思考は推測するだけ無駄だからなぁ。



「流石に人体実験って線はないですよね?」

「人体実験をするには広め過ぎですね。それに、この船に載っていた物はフーマがソレイドで戦った悪魔の作った物よりも効果が強いみたいですし、今更実験をする必要などないと思います」

「なら、人族の国家戦力の低下とか?」

「あり得なくは無いでしょうが、流石にそこまで流通したら各国で規制がかかるのではありませんか? 現状は多く出回っているとは言え、規制に入らない範囲の流通量みたいですし、悪魔の目的とは少しズレている気がします」

「やっぱり分かりませんね」

「……………」

「フレンさん?」

「フーマと同じにされるのが気に食いません」

「えぇ……」



 フレンダさんも俺と一緒で悪魔の目的が分からないのに、それでも俺に同意するのはプライドが許さないらしい。

 まぁ、智将と名高いフレンダさんが一介の高校生に過ぎない俺と一緒にされるのは嫌かもしれないけどさ…。



「はぁ、そんなんだから貧乳になるんですよ」

「私は貧乳になったのではなく、元から慎ましいのです」

「………おいボブ。そろそろ着くんじゃ無いのか?」

「お、俺でやすか?」

「おい。折角フーマの我儘を聞いて出て来てやったのに、無視ですか?」

「だってコメントし辛いんですもん」

「ふん。それだからフーマは愚昧と言われるのです」

「そうなんですか?」

「フレンさんにはしょっちゅう言われてますね」



 そんなどうでも良い話しをしながら船に魔力を送り込む事数分、特に何の問題も無く黒の会の島に上陸できてしまった俺たちは、船に残るメンバーと島に踏み込むメンバーに分けて、早速探索を開始する事にした。


 ちなみに俺とフレンダさんとビクトリアさんとボブは探索組である。

 ついでに付け加えておくなら、初日に俺に殴られて先ほどビクトリアさんにセクハラしようとしていたトンチンカンの3人も探索組だ。



「キャップ。縄の準備が出来やしたぜ」

「おいフーマ。濡れたくないので浜までお願いします」

「あぁ、はいはい。ボブ。準備してもらったとこ悪いんだが、全員転移で連れて行ってやるから集まってくれないか?」

「うっす。ありがとうございやす!」

「これ、俺たちいらなくね?」

「確かに。船でユーユージテキなセーカツをしてたいな」

「ユーユージテキって何だ?」

「酒を飲んで昼寝するって意味だ」

「なるほど! ユーユージテキってイイな!」



 悠々自適の意味はそうではない気がしたのだが、トンチンカンの話に加わるほど不毛な事は無いし、くっちゃべっている間に全員連れて砂浜まで転移する。



「きゃっ!?」

「おっと。大丈夫ですか?」

「あ、はい。ありがとうございます!」



 ちょうど足元に蟹がいたために躓いてしまったビクトリアさんを支えてやる。

 ビクトリアさんも俺達と同じ石鹸を使ってるはずなのに、何故か良い香りがするんだよな。

 これがフェロモンってやつか。



「はぁ、フーマもこりませんね」

「……よしお前達! とりあえず森の中を歩くけど、気は抜かずに集中して付いて来いよ!」

「キャップがそれを言うんすか?」

「カン。何か言ったか?」

「い、いえ! チョトツモーシンで付いて行きやす!」

「チョトツモーシンって何だ?」

「物凄く頑張るって意味だ」

「なるほど! チョトツモーシンってスゴイな!」



 そうしてグダグダな始まりながらも、俺達は黒の会の本拠地である孤島の探索を始める。

 この島は船の上から見た時にはそこまで大きくは無さそうだったのだが、こうして実際に降り立ってみると砂浜からすぐの森はかなり生い茂っているし、探索をするにはかなりの労力がかかりそうな気がする。



「本拠地って言うからにはそれなりに人もいるんですよね?」

「私達が降りたのは砂浜ですが他に船はありませんでしたし、反対側に港でもあるのでしょう。人がいるとしたらその近くでしょうね」

「ちなみに人の気配は感じ取れませんか?」

「遠巻きにこちらを見つめる視線が3つほど」

「え!? マジですか!?」

「おい。騒ぐなよアホ」

「逃げられましたね」

「とりあえずそっちの方に行ってみますか」



 遠巻きにこちらを見ていた人物の気配は感知できる範囲から出てしまったが、走り去って行った方向はなんとなく分かるし、とりあえずそちらに向かえば何かしらの痕跡を見つけられるはずだ。

 そんな事を考えながら森の中をひたすらに歩いていた時だった。



 ダーン!!



 少し離れた位置からの銃撃音と共に俺の足元に鉛玉が撃ち込まれる。

 どうやらこれ以上先に進んだら当てるという警告らしい。



「あぁ、これは頭に当たれば俺も駄目そうだな」

「当たる前に避ければ良いだけでしょう」

「あの〜。私にはそんな事出来ないですよ?」

「それでは脳天を撃ち抜かれるのみですね」

「そんなぁ!」

「キャップ。どうにかなりやせんか?」

「あぁ……フレンさん。5分だけ皆を守ってあげてくれませんか?」

「3分です。私の相棒を名乗るのならそのぐらいはやってのけなさい」

「はいはい。分かりましたよ。ボブ、少しの間ここは任せたぞ」

「うっす。お気をつけて」



 そんなボブの心に染みる応援を聞いた俺は弾の飛んできた方向に転移し、崖の上からフレンダさん達を見下ろしていた二人組の後ろに転移する。

 狙撃手が一人に観測手が一人とは、かなり現代的な戦い方をするんだな。



「なぁ、それってライフルなのか?」

「シッ!」



 俺が声をかけると同時に立ち上がりナイフで切り掛かってきた男の攻撃を躱し、クロスカウンターを鳩尾に撃ち込む。

 やっぱりステータス的にはそこまで大した事はないな。



「クソっ!」

「ちょっと待て」

「がふっ!?」



 観測手らしき男が逃げようとしたために転移魔法で俺の目の前に転移させて蹴りを打ち込んだのだが、当たりどころが悪かったのか、一撃で意識を刈り取ってしまう。

 仕方ない。話は狙撃手の方に聞くか。



「他に狙撃手は?」

「……………」

「だんまりか」

「こんな事をしてタダで済むと思うなよ」

「それは海賊に向けて言うセリフじゃないな。自分の行動にそれなりのリスクは持ってる」

「果たしてモラクス様の前でも同じことを言えるかな」

「それだけ聞ければ十分だ」



 自分の主君の名を意外とあっさり漏らしてくれた男の意識も刈り取り、望遠鏡と狙撃銃を取り上げて二人揃って俺達から離れた森の中に転移させる。

 魔物の気配はこの島からは感じ取れないし、きっと命を落とす事は無いだろう。



「後は他の狙撃手だが……。いや、とりあえず戻るか」



 戦利品の狙撃銃と望遠鏡をアイテムボックスにしまい、結界を張って待っていてくれたフレンダさんの元へ向かう。

 あまり時間はかけていないし、これはかなり好成績なんじゃないか?



「遅い。待たせたからには、何かしらの情報はあるのでしょうね」

「モラクスって名前のやつが黒の会で偉いって事がわかりました」

「モラクス。モラクスですか…」

「聞き覚えでもあるんですか?」

「確か火の国の書物にそんな名前の悪魔が出て来た様な…」

「あぁ、ソロモンの72柱の悪魔ですね」

「ソロモン? それって人の名前なんですか?」

「ソロモンは俺の故郷で有名な人物なんですけど、物凄くザックリ言えば悪魔のボスなんです」

「悪魔のボス。怖そうな人ですね」

「まぁ、そのソロモンの事は良いとして、問題はモラクスの方です」

「モラクスってのはそんなに恐ろしい悪魔なんですかい?」

「詳しくは俺も覚えてないけど、人身御供。つまり生贄で有名だな」

「生贄ですか…。確かにそれは面倒ですね」

「そうなんですか?」

「生贄自体はどうでも良いんですけど、生贄で有名な悪魔となると、黒の会のメンバーを生贄にパワーアップする能力ぐらい持ってるかもしれないんですよね」

「イケニエってなんだ?」

「美味そうな女って意味だ」

「なるほど。イケニエってエロ…ぶばぼっ!?」



 トンチンカンがアホな話しを始めたから殴り飛ばしておいた。

 こいつらには緊張感というものは無いのだろうか。



「やれやれ。これだからトンチンカンはお馬鹿と言われるんだ」

「フレンさんの真似ですか?」

「俺の尊敬する人のモノマネです」

「…ふん!」

「痛っ!?」

「ふふ。怒られちゃいましたね」

「そうですね……」



 後ろからフレンダさんに蹴られてしまったが、先を行く彼女の耳がピクピク動いているし、怒らせてしまったという訳では無いはずだ。


 それよりも、モラクスか。

 確か雄牛の悪魔だったはずだけど、果たして俺達の前にその姿を現わすのか否か。

 なんとなく嫌な予感がするけれど、大丈夫だよな?


 俺はそんな事を考えながら、尊敬するフレンダさんの後を追って森の中を走るのであった。

次回、31日予定です

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