81話 大きな戦利品
風舞
これは俺の元いた世界での海賊に関する話なのだが、海賊は航海計画を提出しないために、沈没してサルベージされた後にも、その船がどの海賊の船なのか、それどころかそもそも海賊の船なのかすら分からない事が多いらしい。
つまりこれは敵と戦って船を沈められた場合、ほとんどの海賊は誰に知られる事もなく海に溶ける様に消えてしまうとも言えるだろう。
そんな不謹慎な事を考えてしまったのは何故かと問われれば、俺が小一時間ほど目を離した隙に我が黒髭海賊団の船が黒づくめの集団に占拠されていたからなのだが……
「ふん。造作もありませんね」
真紅の槍の石突きを甲板に叩きつけながらそう言った圧倒的な強さを持つ吸血鬼さんによって、ものの数秒で逆に相手側の船を占拠してしまっていた。
まぁ、いくら一人とは言っても一騎当千を素で行く様なフレンダさんに敵う集団なんてそういないよな。
「お疲れ様です。それとほら、仮面」
「今更遅くはありませんか?」
「ほとんどの人が早すぎて顔なんて見れてませんって。フレンさんの美しい顔は俺だけのものですから、ほら早く」
「ふん。あいかわらず調子の良い男ですね」
俺のキザなセリフシリーズナンバー13を鼻で笑い飛ばしたフレンダさんが俺の渡した変装用の仮面を被ってため息をつく。
実際いきなり空から降って来てものの数秒で敵を全員やっつけたフレンダさんを目で追える人物なんてそうそういないだろうし、今から仮面をつけても十分に効果はあるだろう。
仮に顔を見られていたとしても、目は青くしていたみたいだし、エルフと言えば押し通せるはずだ。
「さてと、それじゃあまずは……おいボブ! 何があったのか説明しろ!」
「うっす!」
ボブが、黒の会と名乗っていた黒づくめの集団の船から黒髭海賊団の船へと戻って来た俺に呼び出されて近づいて来る。
こんなに従順なやつが俺の指示を無視して戦闘を始めたとは思えないし、何かしら占拠されるだけの理由があったはずだ。
「キャップが出かけてだいたい20分ぐらい経った後、奴ら…黒の会が現れて俺達を襲って来やした」
「逃げる事は出来なかったのか?」
「流石に魔船相手にはどうにも…」
「魔船?」
「魔力で動く船ですね。大型の魔道具とでも思ってください」
「なるほど。それじゃあ、黒の会ってどういう組織なんだ?」
「やってる事は俺らとそう変わりありやせんが、黒の会の奴らは宗教じみてやして、地上で行き場のなくなった奴が多く乗船しているはずです」
「へぇ………。まぁ、詳しいことは後に聴くとして、その船はこの船よりも高性能な訳か」
「それはそうですが、魔法を使える奴の少ない俺達の魔力で動かす事は流石に無理ですぜ?」
「魔力、魔力ね。どうですか?」
「この程度なら余裕ですね。その気になればフーマ一人でも動かせるかと」
「という訳だ。今から引っ越しを始めるから、全員に準備をする様に言っておいてくれ。俺は先にあっちに行って準備を進めとく」
「う、うっす!」
「あ、私も先にそっちに行きたいです!」
俺達の話を聞いていたのか、体のデカい海賊達を押しのけてビクトリアさんが俺とフレンダさんの前までやって来る。
最後に少しだけつまづいて、俺に支えられるというお茶目っぷりもセットだ。
「………おい」
「分かってます。優しそうなお姉さんでも、これは演技」
「ん? 何か言いましたか?」
「い、いえ。それじゃあ行きましょうか」
「はい!」
こうして今回の戦利品である魔船を手に入れた俺達は、黒の会の高性能な船へと引っ越す事となった。
さて、ボブ達が荷物を纏めている間に俺達は黒の会についての情報を洗わないと。
「フレンさんは黒の会って聞いたことありましたか?」
「いえ。私も聞いた事のない組織ですね」
「黒の会はハルガ周辺ではそれなりに有名な組織です。地上で行き場のなくなった人達が多く在籍しているらしく、その性質から女子供も多い様ですね」
ビクトリアさんがそう言って視線を向けた先にいた船室の中の子供達が蜘蛛の子を散らす様に逃げて行く。
流石のフレンダさんも子供を殴る事はしなかったらしい。
「ボブは宗教じみてるって言ってましたけど、神様か何かを信じてるって事ですか?」
「さぁ? 詳しくは何も。何せ地上を追われた人ばかりですから、戻って来てお話をしてくれる人なんてそうそういないでしょうしね」
「当然と言えば当然の話ですね」
「それもそうか………。それで、この人達はどうしますか?」
フレンダさんが丁寧に片っ端から気絶させた黒の会の面々が至るところに転がっている。
船室にいる子供達や非戦闘員らしき人達の気配はまだ感じ取れるが、流石に皆殺しに出来るほど俺は血も涙もない訳では無いし…。
「宗教を盾に略奪をする者にまともな話も通じないでしょうし、海に捨てるかあちらの船に積み込むかしましょう」
「それじゃあ、あっちの船に積み込む方で」
「やはりフーマは甘いですね」
「甘いんじゃなくて優しいんです」
「ふふ。それでは私は中の子供達のお相手をして来ますね」
「あぁ……フレンさん」
「分かりました。ビクトリア、念のため私が護衛に付きましょう」
「多分大丈夫だと思いますけど…それじゃお願いします!」
そうしてフレンダさんとビクトリアさんが黒の会の魔船の船室へと入って行く。
これでボブをいきなり従順にしたビクトリアさんの謎の技の正体が分かれば良いのだが……。
「さて、頼むから気絶したフリとかは勘弁してくれよ」
一方の俺はそんな事を言いつつ、ちょっとカッコいい銃を拾ったりグニャングニャン曲がるサーベルに興奮したりしながら黒の会の戦闘員を一箇所に積み上げていく。
そんな作業途中に荷物を纏めて終えたボブがやって来たために、今度は転移魔法で黒の会の戦闘員を黒髭海賊団の船に押し込む作業を始めた。
ついでに海賊達に物資搬入の指示出しをする事も忘れない。
「えぇっと、それはそっちでそれもそっち。あ、そこは大砲を持って来るから空けといてくれ。それとボブ! 食料なんかよりも先に旗を持って来い! 自分の旗ぐらい大切にしろど阿呆!」
「う、うっす! すいやせん!!」
「まったく、何のために格好いい旗を下げてたんだか…」
なんて事を言いながらすぐにだらけそうになる海賊達に指示を出していると、ビクトリアさんとフレンダさんが子供達と非戦闘員らしき大人達を連れて甲板へ戻って来た。
黒の会の面々は一様に明るい顔はしていないのだが、特に反抗する気はないらしい。
「それじゃあビクトリアさん。そいつらはあっちの船にお願いします」
「分かりました! それでは皆さんこちらです」
ビクトリアさんはそう言うと隣の黒髭海賊団の船に黒の会のメンバーを連れて歩いて行く。
特に縄で縛られているわけでも枷をかけられているわけでも無いのに、誰もがビクトリアさんに反抗する姿勢すら見せなかった。
「どうでしたか?」
「ただ話を聞いていくらか言葉を交わしただけでしたね」
「それだけでああなりますか?」
「…………」
「フレンさん?」
「私の先入観故かもしれませんが、あの女は人の弱みを的確に突いている様な気がしました」
「人って普通弱みを突かれたら怒りませんか?」
俺だって自分で気にしている事を指摘されたら良い気分はしないし、弱みを突かれたら多少は腹を立てる気がする。
弱みを突く事で相手が従順になるなど不可能な気がするのだが……。
「ですから的確にと言ったでしょう。無神経に相手の問題に踏み込むのなら相手の機嫌を損なうかもしれませんが、上手く相手の弱みを刺激し、そこに寄り添えば友好な関係を築くなど容易ではありませんか?」
「確かに……。でも、それが出来るって事はボタンさんみたいに過去を読む能力があるって事になりませんか?」
「可能性はあります。ただ、そう結論づけるにはいくらか早計でしょうね」
「しばらくは様子見って事ですかね………」
「そう心配せずとも、私はビクトリアに扇動されてはいません。フーマはただ自分の事に集中なさい」
「あ、どうも」
仮面の向こうのフレンダさんがおそらく優しい顔で俺に回復魔法をかけてくれる。
ふぅ、ようやく昨日から続いていた腹痛が収まったみたいだ。
「それじゃあ、俺はあっちの船からデカい物を運んで来ますね。フレンダさんは海賊達がくすねる前に、この船の貴重品を回収しといてください」
「この私に小間使いを頼むとはフーマも偉くなりましたね」
「実際俺は船長ですからね。それじゃあ後は頼みましたよ」
フレンダさんはそんな俺のセリフを全て聞く前に俺に背を向けて手を振りながら船室へと入って行ってしまう。
あの吸血鬼さんは素直に俺に従うのは癪だが、それでもお願いすれば聞いてくれるだけの優しさはあるらしい。
相変わらず素直じゃない吸血鬼さんだな。
「さてと、お引越しお引越し」
俺はそんな事を口ずさみながら、大砲やらソファーやらの荷物を片っ端からアイテムボックスに入れて引っ越し作業を進めるのであった。
◇◆◇
舞
ハルガの自警団ディープブルーに身を置いて数日が経ったある日、私とシルビアちゃんはこの自警団の団長であるカーリー・レイに呼び出されていた。
昨日も真面目に働いていたし説教をされる覚えは無いのだが、それでも組織のトップに呼び出されるのは緊張してしまう。
「マイム、シルビア両名到着致しました」
「ああ。適当に座れ」
指示通りカーリー・レイの正面に向かい合う様に置いてあったソファに座る。
向かいのソファーには以前私を警邏に連れて行ってくれたメイリーさんが座っているし、座るのならここを除いて他には無いだろう。
「夏ももう終わりだってのに、まだまだ暑いねぇ」
「そうですね」
「あれ? もしかして緊張してるの? 大丈夫大丈夫。カーちゃんは無愛想だけれど、意外と優しいところも…」
「メイリー」
「あぁ、ごめんごめん。カーちゃんの銃は対魔物用だから私でも粉々になっちゃうって」
「ふん」
カーリー・レイはつまらなそうに鼻を鳴らすと銃を下ろし、私とシルビアちゃんの方に鋭い視線を向ける。
ってあら? シルビアちゃんってば顔は相変わらずクールなのに、尻尾が私の方に伸びてきたわね。
ふふ。もしかして無意識のうちに私を頼ろうとしているのかしら?
「お前達を呼び出したのは、そこの馬鹿の部隊に配属になったからだ」
「馬鹿って、しどい」
「メイリーの部隊がうちで何をやっているのかは知ってるな?」
「治安維持全般であったかと」
「そうだ。街中の暴徒の鎮圧、軽犯罪の対処、更にはハルガ周辺海域の魔物の駆除と海賊などの犯罪者の始末がそいつの仕事だ」
「他には商人さんに依頼されて船旅の警護とかもするねぇ。今も3分の1ぐらいのメンバーは海に出てると思うよ」
「なるほど…」
ここ数日を過ごして分かってきた事ではあったが、このディープブルーは自警団と言うよりは傭兵団と言った方が近い仕事を受け持っている様である。
ハルガの権威者達からお金もらって動いているわけだし、傭兵団みたいだという感想に間違いはないだろう。
「メイリーの部隊は決して甘くは無いが、それだけ給料も良い。金が欲しいお前達にはうってつけだと思うが、どうだ?」
「是非よろしくお願いします」
「ああ。せいぜい死なないこったな」
「多分大丈夫じゃない? 下手したら二人とも私より強いだろうし」
「私のセリフはお前に向けられたものだ」
「えぇ!? 死なないようって、そういう事なの!? あ、でも…カーちゃんが私を心配してくれていると思えばそれはそれで…」
「これはお前達二人の今日までの給料だ。メイリーのところは朝が早いから、今日は寮に戻って好きにしろ」
「はい。失礼します」
「し、失礼します」
お金をもらうなり部屋から退出するシルビアちゃんに続いて団長の部屋を出る。
メイリーさんがぶつぶつ言っていたけれど、放っておいて良いのかしら?
「マイム様。いよいよですね」
「え、ええ。そうね」
「マイム様でも緊張する事があるのですか?」
「あら、どうしてそう思うのかしら?」
「マイム様の汗の匂いが変化していましたので、緊張しているのでは無いかと…」
私は緊張しても常に同じパフォーマンスが出来る様な術を持っているからあまり緊張すること自体に関心を持った事は無いが、シルビアちゃんがそう指摘するという事は、私はそれなりに緊張していたのかもしれない。
もしかしてさっきの尻尾も私を励まそうとしてくれていたのかしら。
「そうね。確かに緊張していたけれど、シルビアちゃんのお陰でどうにかなったわ」
「お力になれた様で幸いです」
「ふふ。流石はフーマくんの従者ね。とても優しくて頼りになるわ」
「ありがとうございます」
相変わらず顔はクールだが尻尾はブンブン動いているあたり、本当に風舞くんの事が好きなのね。
ふふん! 私も自分の彼氏が皆に人気で鼻が高いわ!
「さて、それじゃあ今日は昇進祝いも兼ねて盛大にやりましょう!」
「はい。お付き合いさせていただきます」
そうして私とシルビアちゃんは自警団の詰所を出て美味しい海鮮類を食べに出かけるのであった。
さて、いよいよ明日からが本番かしらね。
次回30日予定です。
遅くなり申し訳ございません




