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77話 幼馴染

 風舞



 明日香を連れて今後の買い出しのために俺がやって来たのは、以前舞が難民のための事業を起こす時に協力していたラングレシア王国の財務大臣が頭目である王都最大の商会だった。

 俺が今回お姫様からもらった資金の半分はここでのみ使える商品券というか、お姫様からの紹介状のために、必要な物資はここで全て買い揃える手筈となっているのである。



「ね、ねぇ。風舞。ウチらこんなところ入っていいわけ?」

「別にダメな事ないだろ。ちゃんと買い物に来てる訳だし」

「でもほら、ここには子供はいないっていうか皆金持ちっぽいし」

「そりゃあ商会に来る人なんて大口契約の人がほとんどだろうからな」

「そうなのかもしれないけど…」

「ていうか城に出入りしてるんだから、別にこのぐらい大した事ないだろ。入らないなら置いてくからな」

「あ、ちょっと待って!」



 そうして俺は商会の前で尻込みしている明日香の前を歩き、明日香は踏ん切りがついたのか俺の後をついて来る。

 我らがギャルのボス様は城住まいのくせに、意外と庶民派らしい。



「いらっしゃいませ。本日はどういった御用向きでしょうか」

「これに書いてある物が欲しくて来ました。支払いも署名の通りに」

「かしこまりました。確認して参りますので、少々お待ちください」



 入ってすぐに俺たちの元にやって来た敏腕そうな男性職員はそう言うと俺からお姫様の書状を受け取り、建物の奥へと消えて行く。

 黒髪という事もあってかかなり目を引いていた俺と明日香は周囲に軽く会釈し、壁際に立って待つことにした。



「はぁ、めっちゃ緊張する」

「城でお姫様と話すのは大丈夫なのに、ここはダメなのか?」

「だってお姫ちんは友達だけど、ここの人はほとんど知らない人だし」

「明日香からしたらそうかもだけど、あっちからしたら俺達はこの国の勇者で命の恩人なんだろうな」

「恩人? なんで?」

「明日香があのセリアンスロープと戦って負けてたら、前線が崩壊してこの王都が壊滅してたかもしれないだろ? ほら、命の恩人」

「そっか。なるほど…」

「だからもっと堂々とした方が良いと思うぞ。少なくとも手汗で俺の服の裾を濡らすのをやめてくれると助かる」

「…………うっさい」



 明日香はそう言うと無意識に俺の手を掴んでいたのか、後ろから俺をどつきつつも顔を赤くしながら自分の手汗を拭き始める。

 明日香はなまじ人を見る目があるために性根の良い奴とはすぐに仲良くなるが、友達がいないところでは別にコミュ力が高い訳でもないらしい。

 まぁ、いきなり大人の仕事場に連れて来られても緊張するか。



「ていうか、なんであんたは平気なわけ?」

「何度か死にかけた事があるからな。人生観が変わったんだ」

『何を偉そうに。フーマも手汗がぐっしょりではありませんか』

「なんだ。風舞も結局緊張してんじゃん」

『ふん。幼馴染は騙せない様ですね。無駄に粋がるからそうなるのです』

「…………お家帰りたい」



 フレンダさんにいじめられ、明日香にトドメを刺され、俺の心はもうズタボロだった。

 おっと、目から男の汗が出て来そうだぜ。

 なんて一幕がありながらももうしばらく待つ事数分、先程俺に声をかけた男性が立ち話をする俺たちの元へ戻って来た。



「お待たせいたしました」

「いえ。それでどうでしたか?」

「はい。ただ今商品の準備を終えましたので、ご案内いたします」

「忙しい時にすみません」

「いいえ。我らが勇者様のためとあらば、惜しむべくもありません」

「……バレてんじゃん」

「ん? 別に今更っしょ? さっちんとか、そこのカフェに行き過ぎててんちょに勇者の嬢ちゃんって呼ばれてるし」

「マジかいな」



 てっきり勇者達の事はもっと秘密にされているのかと思っていたが、俺の想像以上に勇者の存在はこの街に浸透しているらしい。

 別にそのつもりがあったわけではないのだが、これは悪いことは出来なそうだな。

 ちゃんと勇者としての振る舞いを心がけないと。



「あ、風舞が真面目な顔してる」

「いちいち実況しないでよろしい」

「はいはい。それよりほら、お兄さん待たせてる」

「あ、すみませんでした」

「ふふ。お二人は仲がよろしいのですね」

「腐れ縁ってやつですよ。それより、案内をお願いします」

「はい。かしこまりました」



 なんとなく。

 そう。なんとなく明日香との関係を深掘りされたくなかった俺は要件の方を押し進めて足を動かし始める。

 何事にも時と場合がある様に、明日香との関係について話すのは今では無いと思うのだ。

 きっと明日香とてここでその話をするのは本意では無いと思う。


 俺はそんな事を考えつつ海賊稼業をするのに必要な物資を確認し、サインやら御礼やらを終えて明日香と共に商会の前で大きく伸びをする。



「ふぅ。思ったよりも早く済んだな」

「ね。これならウチ要らなかったかも」

「良い暇つぶしにはなっただろ?」

「まぁ。そりゃあそうだけど」



 そう言うと明日香は伸びをやめ、軽く遠くを見ながら俺に言葉を投げかけて来る。

 そういえば明日香には言いづらい事を言う時にこうやって見えない何かを見ようとする癖があったな。



「風舞はもう戻んの?」

「今戻ったら魔力が空になるだろうから、もうちょっとここにいるつもりだ」

「へぇ………」

「…………ちょっと散歩にでも行くか?」

「まぁ、良いけど」



 あまり明日香相手に緊張したくなかった俺は明日香がそう言うや否や手を伸ばし、明日香の腕を掴んで城壁の上に転移する。

 城壁の上からは薄くオレンジ色に染まり始めた空と、城下町の人々の暮らしが一望出来た。



「それで俺が最近何してるかって話だけど…」

「あぁ、そういえばその話をするって言ってたっけ」

「ああ。んで、俺がっていうか…俺達は今、悪魔を相手にしてる。アンかシルビアあたりに聞いたかもだけど、悪魔の祝福って麻薬を悪魔達がばら撒いているみたいで、とりあえずはそれをどうにかするのが俺たちのやる事だ」

「どうにかって?」

「人を影から操る悪魔を倒すのがメインだな。悪魔が麻薬を使って何をしたいのかは謎だが、とりあえずは西の海の流通網に紛れている悪魔をどうにかするのが直近の目標だ」

「ふーん。何か大変そう」

「随分と他人事だけど、この街にも何回か悪魔が出入りしてるんだから明日香も他人事じゃないからな?」

「分かってるけど、会ったこともない奴が敵って言われてもよく分かんないし」

『当然と言えば当然ですね。明日香にとって悪魔とは数回現れた強敵に過ぎないでしょうし、その程度の認識なのも頷けます』

「あぁ………それじゃあ、明日香も俺と一緒に来るか?」

「は? ウチが? 風舞と?」

「そう。明日香が。俺と」



 正直なところ勇者達の中で俺と舞だけが悪魔について知っている現状をどうにかしたいと思っていたし、明日香なら俺と一緒に行動しても問題なく物事を対処出来る気がする。

 もちろん明日香が望まないのなら無理に連れて行くことは出来ないが、明日香ならきっと……。



「あぁ、いや。やめとくわ」

「そうか。それじゃあ早速………って、あれ?」

「へぇ、何々? 風舞はウチに来て欲しかったわけ?」

「い、いや。そういうわけじゃないけど、明日香が暇ならどうかなぁって思っただけで…」

「いやぁ。風舞には舞ちんというものがあるのに、ちょっと寂しいからって直ぐに幼馴染に手を出そうとするとはなぁ。子供の頃の風舞からは想像出来ないほどヤリ◯ンになっちゃって」

「おい。JKがヤリ◯ンとか言うなよ。ていうか、俺は別にそういうつもりで明日香に声をかけたわけじゃ…」

「わぁってるって。風舞がウチの実力を認めてくれたのは嬉しいけど、ほら、ウチは皆のリーダーだし? 風舞1人を構ってあげられる程暇じゃない的な?」

「嘘つけ。今だってちょっと泣きそうになってる癖に」

「別になってないし。ちょっと女の汗が目から出そうなだけだし」

「はぁ、お前は昔からそうだな」

「……何が?」

「皆を今後も纏めていかなくちゃいけないけど、俺達が知らないところで知らない何かと戦っているのも、自分には何か出来る事があるんじゃ無いかと思ってしまう。ガキの頃から責任感ばかり強くて、色々と溜め込みすぎてしまうのはデカくなってもそのままだな」

「……そんなんじゃないし」

「痛っ!? 何も急に殴らんでも…」

「殴ってない!」

「いや、それは嘘…って危な!?」



 明日香の拳が的確に俺の顎に当たりそうになり、俺はそれをギリギリのところでかわす。

 す、少し見ない間に良いパンチを覚えたじゃないか。



「ま、まぁあれだ。明日香が困ってたら一緒に困ってやるぐらいの事はしてやるから、そう心配すんなって」

「だから心配してない! ていうか風舞だって本当は色々不安な癖に生意気!」

「そうは言っても明日香は昔っから手がかかる奴だったし、実際おばさんにも明日香をよろしくって言われた事あるし」

「それは昔の話っしょ! 今のウチは超強いし! 皆を纏めるのなんか余裕だし! だから風舞がそばにいなくても全然平気だし!」

「はぁ、分かった。分かったから殴りかかるのをよしてくれ。今の明日香の攻撃は避けるのもかなりキツい」

「………………ごめん」

「泣いたり怒ったり泣いたり忙しい奴だな」

「だって風舞が…」

「はいはい。ほら、何故かアイテムボックスに残ってたハンカチをやるからとりあえずその顔を何とかしてくれ」

「……うん」



 明日香はそう言うとからハンカチを受け取って涙を拭き、綺麗にたたみ直してから俺に返そうとする。

 別にJKの体液を採取する趣味は俺には無いしな……。



「それやるよ。どうせ元々ハンカチとか使うタイプじゃないし、好きに使ってくれ」

「なんか、形見みたい」

「俺は死んでないんだが?」

「じゃあ、遺品みたい」

「お前、そこまでアホだったのか?」

「うっさい。風舞のバカ」

「はいはい。それじゃあ馬鹿な俺はそろそろ戻るからな。それと、あんまり人前で泣くんじゃないぞ」

「風舞の前でしか泣かないし」

『ほう……』

「ほうって何すか…」

「だって風舞なら黙らせるの簡単だし、風舞の前でなら泣いてもみんなにバレない」

『そう来ましたか。中々面白くなって来ましたね』

「俺には余命宣告にしか聞こえませんでしたけどね」

「は? 意味分かんない」



 ようやく落ち着いて来た明日香が少しだけ笑みを浮かべながらいつもの調子でそう言う。

 幼馴染である分容赦は無いだろうし、今後出来るだけ明日香は怒らせない様にしよう。

 そうしよう。



「んじゃ、またその内様子を見に来るから元気でな。皆にはよろしく言っといてくれ」

「あいよ。風舞も頑張ってね」

「明日香もな。それじゃあまた」

「うん。また」



 俺はそう言って小さく手を振る明日香を見て少しだけ懐かしい気持ちになりながら、陰謀蠢く海賊達の海へと転移する。

 さて、そろそろ気持ちを切り替えて為すべき事を為さないとな。



『大事な幼馴染の為にも益々失敗出来なくなりましたね』

「………………そうですね。それじゃあ、たまには頑張りますか」



 そうして気合を入れ直した俺は、あまり元の位置から動いていなかった黒髭海賊団の船に転移するのであった。



次回23日予定です

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[気になる点] 最近読み始めて初めての感想 そのハンカチ実は女性物のパンツだったってオチがあったりしません??
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