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75話 樽の中から

 


 風舞



 大変ベタな感想で申し訳ないのだが、目を覚ましたのに目の前が真っ暗だと、人はまだ寝ているのかと思ってしまうらしい。

 ……ていうか腰が痛い。



「えぇっと、なんすかこれ?」

『さぁ? 箱か何かに入れられている様ですが…』



 フレンダさんと今後のギフトの訓練について大まかな方針を決めてそろそろ目を覚ませそうだと思って目を覚ましてみると、窮屈な箱か何かに詰められていた。

 ボタンさんのせめてもの優しさなのか一応毛布か何かに包まれてはいるみたいなのだが、それでも体のあちこちが硬い内壁に当たってかなり痛い。



「これ、どうやって出れば良いんですかね?」

『腕力だけでは無理そうですし、何か魔法を使うしかないのではありませんか?』

「よし、それじゃあ…」



 それじゃあ適当な魔法で中からぶっ壊してやろうと思ったその時だった。



 ドガーン!!



 大砲か何かが打ち込まれたのかと思うほどの音が鳴り響き、俺の入れられていた箱が横倒しになる。

 倒れたまま転がり始めたし、もしかして円柱形の……樽か何かなのか?



「おい! この航路は安全だったんじゃないのか!」

「そのはずですが、我々にも何が何だか…」



 お、近くに人の声がする。

 樽を中から魔法でぶち壊すのは自分の体を傷つける可能性があるし、外に人がいるなら樽の蓋でも開けてもらおう。



「おーい! すみませーん! ここから出してくださーい!」

「ん? 今何か声が聞こえなかったか?」

「おそらく海賊の声でしょう。さぁ、ジェラルド氏はどうぞこちらへ。緊急用のボートがございます」

「うむ。報酬は弾むから、よろしく頼むぞ」



 あ、声が遠ざかって行ってしまった。

 それにしても海賊がどうとか航路がどうとか言っていたし、もしかして俺は船にでも乗っているのか?



『諦めて自力で出たらどうですか?』

「それじゃあそうしますかね…」



 なんて言いながら多少の痛みに覚悟を決めて魔法を放とうとしたその時だった。

 またもや大砲の衝撃が俺の鼓膜を揺さぶり、樽の中で軽く脳を揺さぶられる。

 今の音はかなり近かった気がしたが……って!?



「あららら? なんかめちゃくちゃ転がってません?」

『良いから早く出なさい! 今すぐに外の状況を…』



 それが樽の中で目を覚まして最後に聞いたフレンダさんの声だった。

 どうやら俺は頭を強打して、再び気を失ってしまったらしい。



 ◇◆



「おい。ですから早く樽から出なさいと言ったではありませんか」

「面目次第もございません』



 再び白い世界にて、おめおめと気を失って引き返してしまった俺は素直に土下座をする。

 折角目を覚まして自分の現状を把握出来そうだったのにこの失態。

 もう、平謝りするしかないな。



「やれやれ。折角少しは自分の置かれた状況を把握出来るかと思ったのに、この後どうするのですか?」

「そ、そんなに怒らなくても、今回はすぐに目を覚ますんで大丈夫ですって。軽い脳震盪ぐらい慣れっこですから」

「毎度フーマの傷を完治させているトウカが聞いたら激怒しそうな言い様ですね」

「……はい。すみません」



 ボクサーみたいな脳に衝撃を受けやすい人はパンチドランカーという脳障害が起こりやすいと聞いた事があるが、俺がそれに陥っていないのはトウカさんやエルセーヌが毎回俺の脳の小さな傷一つに至るまで完治させてくれているからに他ならない気がする。

 本当にいつもありがとうございます!



「次に目を覚ます事があれば良いですね」

「そんな縁起でもない事言わないでくださいよ」

「だったら少しでも早くに目を覚ます努力をなさい」

「んな無茶な」

「何か言いましたか?」

「誠心誠意頑張らせていただきます!」



 こうして、俺はどうにか脳震盪から復帰しようと無駄な努力をしつつ、お叱りモードのフレンダさんのお説教をしばらくの間受ける事となるのであった。

 頼む、マジで早く目を覚ましてくれ!




 ◇◆◇




 アン




 フーマ様があれよあれよという間に樽詰めにされ、マイ様とシルちゃんがこの街の自警団の潜入調査に向かった頃、私とトウカとフレイヤさんの3人はボタンさんの経営する酒場の開店準備を手伝っていた。

 この酒場は昼間商品を売り捌いていた商人たちがその日の稼ぎで奮発しに来る少しお高めのお店の様で、内装も隅々まで気を使われた丁寧な作りになっている。



「それにしても、フーマ様は海賊に紛れて海上の流通の調査、それにシルちゃん達は自警団に潜入して陸上の調査なのに、私達は酒場で情報収集ってどうなんですかね?」

「そうですか? 私は酒場の給仕など初めてのことですので、不安半分期待半分といった具合なのですが…」

「そっか。トウカさんは生粋のお嬢様ですもんね」

「ふふ。私など大した事はありませんよ。今はとある偉大な勇者様の1従者にすぎません」

「マイ様が聞いたら喜びそうなセリフですけど……って、フレイヤさん! お昼寝はやる事が済んでからにしてください!」

「少しだけ。だめ?」

「ダメです。サボっていたらマイ様に言いつけますよ?」

「………分かった」

「あらあらあら。こっちはアンはんがいれば問題なさそうやね」



 嫌々といった様子で再びフレイヤさんが動き出したのとほぼ同時に、フーマ様の入った樽を運んで来たのであろうボタンさんが酒場へとやって来る。

 私達以外の従業員は今は下の階で料理の仕込みをやっているらしく、この広間には私達4人しかいない。



「それよりボタンさん。この街には悪魔の祝福って麻薬が蔓延っていて、その流通に自警団が一役買っている可能性があるってところまでは聞いたけれど、もう少し詳しい説明はそろそろしてくれるんですよね?」

「そうやねぇ。とりあえず今日のお仕事が終わったらゆっくり話すつもりやったんやけど、今日の予約を見る限り、アンはんならこの街で…更にはこの海で何が起こっているのか理解出来るんやない?」

「なるほど。今回の件はそれだけ複雑という事ですか…」

「そうやね。今回は自警団に海賊に商会に周辺諸国とどうにも勢力が多すぎて、一概に何処が良い悪いとは言い切れへんのよ。どうしてもうちからの説明だとうちの主観が入ってしまうやろうし、そこはアンはん達各自に判断をしてもらおうと思ってなぁ」

「それでこうして各所に人員が配置されていたのですね。かなり大規模な一件だと聞いていたので集団で事に当たった方が良いのではと思っていましたが、流石はボタン様です」

「あらあらあら。トウカはんは褒め上手やなぁ。その調子で今日はよろしくなぁ」

「……アン、トウカ。話すなら寝ても良い?」

「あぁ、ごめんなさい。先にお掃除を済ませちゃわないとですよね」



 そうしてフレイヤさんのやる気が途切れる前にさっさと掃除を済ませた私達はこの酒場の従業員さんとの挨拶を済ませ、陰謀渦巻く夜の酒場へとステキな給仕服を着て踏み出す。

 ふふ。それにしてもこの和服っぽい制服すごく可愛なぁ。

 酔っ払いの相手なんて勘弁と思っていたけれど、これなら少しは頑張れそうかも。

 フーマ様やシルちゃんもきっと頑張っているだろうし、私も精一杯出来る事をやらないとね!




 ◇◆◇




 風舞




 後悔後に立たずとはよく言ったもので、あの時にこうしていればのタラレバほど無駄な事は無いと俺自身よく分かっている。

 しかしだ。

 それでもあの時こうしておけば良かったと思ってしまうのが人の性であり、誰もが感じる苦悩がそこにはあるのかもしれない。


 例えばこんな時もそうだ。



「キャップ! こいつ、目を覚ましたみたいですぜ!」

「ようやく起きたか」



 樽の中で脳震盪を起こして再び目を覚ますと、今度は太陽の光が眩しいなぁなんて思いながらも両手両足が自由に動かせる事に感動してたのにも関わらず、目の前にむさ苦しい男達が俺を見下ろしていたりなんかすると、もう、過去の自分を悔やんでも悔やみきれない。



「ええっと、ここは一体?」

「ここは我らが黒髭海賊団の船の上だ。坊主」

「なるほど。海賊、海賊ね。それじゃああそこで縛られているエッチなお姉さんは?」

「あの女はつい先程襲撃した船から攫って来た今日の戦利品だ」

「ちなみに、俺はどうしてここに?」

「運び出した樽の中でお前が寝ていた。売られでもしたのか?」

「なるほど」



 はいはい、そういうことね。

 つまり俺が気を失うキッカケになった大砲はこいつらの撃ったもので、あのお姉さんは今晩のこいつらの慰みモノってわけか。

 よくよく見たら薬指に指輪をしているみたいだし可哀想に。



「可哀想だから助けよっと。って、あれ?」

「何をしようとしたのかは分からんが、その手枷は魔法とスキルを封じ込める特注品だ。お前の様な非力な坊主にはどうする事も…」

「ふんっ! お、やっぱりギフトは無効化できないみたいだな」



 今晩腹が痛くて眠れないんだろうなぁ程度の代償にセーブしたギフトの力で手枷を切断し、とりあえず自由に使える様になった転移魔法で船の上にいた海賊達を纏めて海の上に放り出す。

 ふぅ。いささか腹が痛いけれど、どうにかなったな。

 気休め程度に腹に回復魔法でもかけておくか。



「むーっ! むーっ!」

「あぁ、はいはい。今助けますよ」



 甲板の隅の方でむーむー言ってる赤毛のグラマラスな女性の口を塞いでいた汚い布を取ってやる。

 さて、このタレ目なお姉さんは一体…



「助かりました! お兄さんお強いんですね!」

「い、いえ。そんなでもないです」

「ふふ。謙遜する事はありませんよ!」



 このお姉さん、テンション高いな。

 それに肩と上乳が丸出しで中々にセクシーである。



『お姉様に告げ口しますね』

「ゴホンッ! それで、お姉さんはどうしてここに?」

「その、彼との新婚旅行に出かける最中だったんです。そこをこの海賊達に…」

「なるほど……」



 お姉さんが瞳に涙を浮かべながら悲しそうな顔でそう言う。

 新婚旅行で海賊に襲われるとは、なんて可哀想なお姉さんなんだろうか。



「それじゃあとりあえずハルガまで送れば良いですか?」

「そんな!」

「ハルガはマズいんですか?」

「マズいというかその……結婚予定だった彼にこの女をやるから見逃してくれと見捨てられたもので…」

「……つまり行くあてが無いと?」

「はい! そうなんです! ですのでお兄さんのお側に置いていただけたらなぁ。なんて…」



 ……………。

 なるほど、つまりこのお姉さんは結婚相手の男性に囮にされて見捨てられ、かなり困っているわけだ。

 こんな過酷な世界で女1人生きていくのもきっと大変だし、しばらくの間はこの俺が面倒を見ても…。



『犬や猫じゃないんですから、ダメですからね』

「わ、分かってますって」

「ん? どうかしましたか?」

「い、いえ。なんでもないです」



 そう言ってフレンダさんに返事をして怪しまれるのを誤魔化しながらそっぽを向こうとしたその時、上着の内ポケットに何かが入っている事に気がついた。

 俺はそれを興味の赴くままに取り出し、手紙らしきそれを開いて中を読んでみる。



「えぇっと何々……?」

「お手紙ですか?」

「あぁ、はい。ちょっとすみませんね」



 覗き込もうとしてくるお姉さんからなんとなく手紙の中を隠しながら目を通し始めると、一番上にボタンさんの綺麗な字で「開いたら10秒後に燃える」と書いてあった。

 それを読んだ俺は慌てて手紙を最後まで開き、とりあえずフレンダさんに丸投げしようと全体を視界に収める事を優先する。



「……あちっ!」

「も、燃えちゃいましたね。大丈夫ですか?」

「まぁ、このぐらいは…」



 そう言いながら少しだけ燃えかけた指先を軽く振っていると、海賊達が船の上に戻って来た。

 どうやら船の外壁をよじ登って戻って来たらしい。



「ちっ、舐めた真似してくれるじゃねぇか」

「俺は何もしてないだろ。困ってるお姉さんを助けただけだ」

「きゃーっ! かっこ良い!!」



 美人でグラマラスなお姉さんが黄色い歓声を飛ばしてくれる。

 ふっ、これは負ける気がしないな。



『おいフーマ。少し良いですか?』

「ん? 今良いところなんですけど…」

『先程の手紙の一文に海賊に紛れて調査を進める様にと書いてあったので、この賊共は死なない程度に痛めつける様にしてください』

「痛めつけるのは良いですけど、要は俺も海賊になれって事ですか?」

『まぁ、端的に言えばそうですね』

「……………よし。おいそこの女! この俺様からタダで逃れられると思うなよ!」

「え? ……………えぇっ!?」

『これは報告案件ですね』

「マジかいな」



 おかしい。

 俺は海賊になれって言われたから海賊っぽい言動をしたのに、何故ローズに報告されなくてはならないのだろうか。

 本物の海賊だってこのお姉さんにふしだらな事をしようとしていたんだから、俺の行動は間違っていないと思うのだが……。



「まぁ、いっか。お姉さんはそこでじっとしていてください。とりあえずあのヒゲダルマ達を片っ端からぶん殴るで、話はその後にゆっくりしましょう」

「た、タダでは逃げられないんですもんね。分かりました」

「……よ、よぉ〜し。頑張るぞ〜」

『これも報告案件ですね。やれやれ。覚えておくことが多そうで困ります』



 それなら忘れてくれれば良いのになぁなんて思いつつ、お姉さんを庇いながら片手剣を取り出す。

 フレンダさんの記憶力という閻魔帳は恐ろしくて仕方ないが、今は現状を正確に把握するためにも目の前の海賊をどうにかした方が良いだろう。

 さて、それじゃあカリビアンな戦闘を始めますかね。

次回20日予定です。

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