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53話 ギフトの謎

 

 風舞



 シルビアのおかげでいくらか緊張のほぐれた俺ではあるのだが、今回の模擬格闘戦は普段の俺の戦闘スタイルからするとアウェイも良いところである。

 まず第一に攻撃手段は徒手格闘に限られているし、人の壁によって設けられた広場の面積的に俺が転移魔法を使って十分に戦えるほどの広さがない。

 この条件で転移魔法を使ったとしても、転移直後の隙を狙われてワンパンでノックダウンするのが関の山だろう。


 よって今回は転移魔法は使わないつもりだ。

 空間魔法も模擬格闘戦に持ち出すには物騒な代物だし、そちらも使わない方が良いだろう。



「というわけで、3秒だけ力を貸してください」

『仮に私の全ての力を注いだとしても、3秒ではフーマに勝ち目はないと思いますよ?』

「そこはいつも通りアドリブでなんとかします。とにかく、タイミングと強度は任せましたよ」

『仕方ありませんね。いつも通り、私がフーマのフォローをしてあげましょう』



 頼もしき居候さんとそんな事を話しながら、俺の対戦相手である顔に傷のある黒髪の男性の前に立つ。

 この世界では珍しい黒髪に驚きはしたが、その目は色素が薄いのか青い色をしているし、俺たちと同じ日本人というわけではなく、先祖に勇者の血が混じっているだけなのかもしれない。



「俺はクロードだ。初めから全力で相手をしてやる」

「………高音風舞です。どうぞお手柔らかに」



 クロードさんはかなり真面目なタイプなのか、俺が日本人特有の愛想笑いを浮かべても、ちっとも口角を全く上げずに綺麗なフォームで拳を構える。

 この人はあれだな。

 おそらく舞と同じタイプの人間だ。

 類稀なる才能の上に血の滲むよう様な訓練を積んで、どんな分野でも最高以上の成績を残す様な人間だと、俺の直感が強く主張している。



「お次は転移魔法の天才タカネフウマくんと、第1師団副団長のクロードさんとの試合っす。解説のトウカさん。この試合、どう見るっすか?」

「近接戦闘の心得がほとんど無いフーマ様が、第1師団最強と名高いクロード様とどの様な試合をなさるのか、とても楽しみです」

「クロードさんは先ほど試合に参加したブリッツさんとシュトラウスさんを二人同時に相手に出来るぐらい強いっすからね。ぜひ頑張って欲しいっす!」



 なんだか急に逃げ出したくなってきた。

 てっきり舞が相手にするあの師団長さんの方が強いと思っていたのに、こっちの黒髪の青年の方が強いだなんて話が違う気がする。



『その人間が襲いかかってくる瞬間だけ私の力の半分を流し込みます。魂に後遺症の残る一歩手前の力を一瞬で流しますので、歯を食いしばりながらカウンターを入れなさい』

「はっはっは。ご冗談を」

「独り言の多いやつだ」



 ……フレンダさんとお話をしていたらクロードさんにおかしなやつだと思われてしまった。

 もう良いや。

 あまり恥を晒さない様に、一瞬だけ集中してそれで終わらそっと。

 多分、クロードさんが良い感じに手加減してくれるだろ。



「風舞くん頑張れ!」

「気張っていくのじゃ!」



 そんな二人の有難い声援を受けつつ一度目を閉じて深呼吸をし、不要な空気と共に余計な思考を抜いていく。

 シルビアの様に目を閉じて気配を掴む事は出来ないし、俺は視界に映る情報だけを頼りに最初の一撃に全てを込めるとしよう。


 フレンダさんの力を貸してもらえるのなら、相手が早すぎて見えないという事はないはずだ。

 全てはこの一撃のために………



『おい、フーマ?』


「それでは双方準備が出来たみたいっすね! それでは第5試合……開始っす!!」



 合図と共に敵が俺を仕留めようと動き出す。

 その流石の速さに俺の眼球の動きはついてこないが、リアルタイムで俺の五感を共有しているフレンダさんならその経験から敵の攻撃のタイミングを正確に割り出してくれるはずだ。


 集中しろ。

 ソウルコネクトの痛みが走り始めると同時に、最大火力の攻撃を寸分違わずに打ち込むだけだ。



『ここです!』



 魂の芯から燃える様な痛みを感じ、それと同時に正面の敵を捉えて深く重心を落としながら一歩前に出る。

 あとは正確な位置にこの渾身の拳を……



「双方、そこまで!」



 攻撃の直後、気がつけば俺は首筋に剣を添えられながら動きを止めていた。

 俺の全てをつぎ込んだ一撃はクロードさんを捉える事なく、不発に終わったらしい。

 俺としてはまったく自覚がないのだが、首筋に感じた強い殺気を受けて自ら動きを止めていた様だ。



「ユリウスさん。そろそろ剣を下ろしてくださいませんか?」



 俺の真横でクロードさんに刀を向けていた舞が険しい顔をしながら低い声でそう言う。

 どうやら俺が攻撃されそうになったのを見て飛び出してきたらしい。



『おいフーマ。マイに礼を言っておきなさい。マイが出て来なくては正面の人間の攻撃をくらっていましたよ』

「そうなんですか?」

『フーマの攻撃が想定以上に鋭かったためにこの人間が本気を出さざるを得なくなった直後、フーマがユリウスという白髭の老人の殺意を受けて止まりました。しかし、正面のフーマを対処することにしか意識を向けていなかったクロードはフーマが無防備な体勢になっても攻撃の手を止めようとはしなかったのです。それを止めたのがマイの正確すぎる居合というわけですね』

「なるほど」



 小声でフレンダさんと受け答えをする事でようやく何があったのかを把握する。

 要は俺とクロードさんが二人揃って死地に踏み込んだところを、ユリウス師団長と舞がそれぞれ止めてくれたという事だろう。

 俺とクロードさんが二人とも本能レベルで命を奪われると思うほどの殺気を受けたから互いの拳を止める事が出来たが、危うく模擬試合で致命傷になり得る攻撃を打ち込み合うところだった。

 俺もクロードさんも無理に動きを止めたために体のあちこちが傷ついているほどだし、この攻撃が正面からぶつかりあっていたらと思うとかなりゾッとする。



「どうやら双方ともに状況を飲み込めた様ですな」

「はい。お手数をおかけしました。舞もありがとな、おかげ様で死なずに済んだ」

「はぁ…風舞くんが無事なら良いのよ。ただ、皆の言葉を代弁させてもらうなら、もっと自分のことを大切にしてちょうだい」



 刀を納めながらそう言う舞の視線を追ってみると、トウカさんがクロードさんに向けて魔法を構えていたり、シルビアが剣の柄に手をかけていたり、飛び出しそうになった明日香をローズが抑えたりしていた。

 今回ばかりは、完全に自分の過ちである事を認めざるを得ない。

 つい最近シルビアやフレンダさんと一緒に訓練に出かけた時も似た様なミスをしたのに、俺自身全くこりていないとはかなり問題だな。



「本当にごめん」

「そんなに謝らないでちょうだい。あんなにゾクゾクする攻撃を見せてくれた風舞くんを格好いいと思っている私もいるんだから、なんだか申し訳なくなってしまうわ」

「えぇっと。それじゃあ……そろそろ試合は決着にして良いっすかね?」

「ほっほっほ。そうですな。クロードもそれでよろしいかな?」

「はい。タカネフウマと言ったか? 迷惑をかけたな」

「いえ。こちらこそすみませんでした」



 俺はそう言いながらクロードさんが出してくれた右手を握り、しっかりと頭を下げて謝罪する。

 クロードさんも少なからず身体を負傷しているだろうに、優しい人なんだな。



「というわけで、第5試合は引き分けって事で終わりっす! 奮闘した両者に拍手喝采!」



 審判役のアラッシュさんがそう宣言した事で俺の試合は終わり、俺たちはそれぞれ元の観客席に戻る。

 さてと………舞には悪いがそろそろ少し席を外させてもらおう。



「ごめん舞。緊張がほぐれたら急にトイレに行きたくなった」

「もう。仕方ないわね。それならユリウスさんにお願いして少しだけ休憩を入れてもらうわ」

「悪いな。それじゃあ、また後で」

「ええ。ちゃんと治してもらって来るのよ」



 舞は最後に小声でそう言うと、俺のお願いを叶えるために師団長さんの方へ歩いて行く。

 どうやら俺のポーカーフェイスでは彼女様の目をかいくぐる事は出来ないらしい。



「オホホ。随分と派手にやりましたわね」



 大丈夫かと声をかけてくれる皆に軽く返事を返しながら小屋の中に辿りついた俺に、エルセーヌがソファーでくつろぎながらそう声をかけてくる。

 俺はそんなエルセーヌの姿を見て内心ホッとしながらも、生意気に返事を返した。



「本気でやったらああなったんだ。俺だって望んで怪我をしたわけじゃない」

「オホホホ。まったく仕方ないご主人様ですわね。トウカ様を呼んでありますので、少しだけお待ちくださいまし」

「はいはい。ごめんなさいフレンダさん。もう少しだけ我慢してくださいね」

『…………』

「……フレンダさん?」

「オホホ。どうかなさいましたの?」

「なんか返事がない」

「オホホホ。それならお母様の貧しい胸の事を馬鹿にし放題ですわね」

『おいフーマ。後でエルセーヌをしばいておきなさい』

「尻たたき決定は分かったとして、どうかしたんですか?」

「オホホホ。しくじりましたわ」



 エルセーヌがわざとらしく困った困ったみたいな顔をしている。

 フレンダさんが俺の中にいるからってあまり調子に乗ってると、また自分の体に戻った時が怖いと思うぞ。

 まぁ、それはそれで面白そうだから何も言わないけれども…。

 それより、今はフレンダさんの話だ。



『戦闘開始前にフーマが集中を始めた直後、内臓が傷つきました』

「それって、俺は無意識のうちにギフトを使っていたって事ですか?」

『フーマは余計な情報を削る様にして集中していたので気づいていなかったのかもしれませんが、おそらくその通りです。これはあくまで推測の域を出ませんが、フーマのあの異常な集中力はギフトの力によるところが大きい可能性があります』

「俺自身、自分のギフトについて分かっていない事がありますからそうかもしれませんけど……それだとマズイんですか?」

『フーマが集中状態に入る度に無意識でギフトを使っていては、当人の気付かぬうちにギフトの反動でこと切れる可能性がある…と言えばわかりますか?』

「分かります。めちゃくちゃ分かります」

『少し前のフーマは自分のギフトをあらゆる魔法を行使できるものだと思っていましたが、レイザードとの戦闘で魔法以外にも対応できる事が確定的となりました。それにより、フーマの心の中で無意識にギフトの力を使えばどの様な事でも出来ると思い込んでいるのかもしれません』

「理性的にはそんな大層な事は考えてませんけど、最後の切り札としてギフトを信頼している感覚はあると思います」

『そこが今回の件の面倒なところなのです。無意識に干渉しようとなると、記憶を弄るぐらいしか方法がありませんし、本当に困りました』

「そうっすよねぇ…」



 なんて事を考えながらズキズキと痛む胃の感覚を感じていたその時だった。

 ソファーで自分の爪のお手入れをしていたエルセーヌが、来訪者が現れた事を知らせて来た。

 どうやらトウカさんが来てくれたらしい。



「とりあえず、この件はまた後で話しましょう。あんまり皆を心配させたくありませんし」

『フーマに隠し事が出来るとは思いませんが、お前がそう言うのならそうしましょう』

「ありがとうございます。さてと……入って良いですよー」



 エルセーヌが遮音結界を解いたのと同時に外の人物に声をかけ、ドアを開いて小屋の中に招き入れる。

 あれ? トウカさんだけだと思ってたのに、結構な人数が来たな。



「フーマ様。お体の具合はいかがですか?」

「そんなに心配そうな顔しなくても大丈夫だぞ。心配かけて悪かったな」

「まったく、普段からちょーし乗ってるからそうなんじゃん」

「お前は素直に心配させないでよバカと言えないのか」

「それは果たして素直なのかの?」



 俺の治療にやって来たトウカさんよりも先にシルビアと明日香とローズがそう言いながら小屋の中に入って来る。

 この3人にもすごく心配をさせてしまったみたいだ。



「まぁ、俺は全然大丈夫だからあんまり心配しないでくれ」

「それでは私の出番はなさそうですね」

「あ、嘘です。嘘。全身ボロボロで今にも死にそうです」

「フーマ様!? やはりお体の具合が悪いのですか!?」

「い、いや。シルビアが思ってるほどは悪くないぞ」

「しかし、今にも死にそうなほどだと……」

「うわぁ、シルビアさんかわいそ〜」

「ヤジを飛ばしに来ただけなら明日香は外にいてくれ。それよりトウカさん、シルビアが泣きそうなんで今すぐ回復プリーズ!」

「ふふふ。フーマ様はやはり可愛らしいお方ですね」

「やれやれ。フウマには困ったものじゃな」



 なんて言いつつも口元に笑みを浮かべているローズをよそに、シルビアに介抱されながらソファーに案内された俺はトウカさんの治療を受けることとなった。

 途中でエルセーヌの冗談を間に受けたシルビアが俺が死ぬのではないかと再び慌てたり、ローズが回復中の俺の膝の上にのって来て明日香に呆れられたりもしたが、俺の体に出来た傷はトウカさんの手によって粗方治療してもらう事が出来た。


 さて、次はいよいよ本命の舞の試合である。

 精一杯応援するから、是非とも頑張ってくれよ!

次回13日予定です

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