33話 初戦
明日香
「ねぇ、あーちゃん。塔ってあれじゃない!?」
ラングレシア王国を出て1日野宿を挟んで2日目の夕方頃、ウチ達はついに風舞が待ち構える塔を見つけた。
まだまだ塔までは距離があって塔を囲む森の中にすら入ってはいないが、目視出来る距離にあるという事は数キロ歩けば辿りつくという事でもある。
「んー、そうみたいだね。皆ここにテントを建てるみたいだし、ウチらも野営の準備しよっか」
「賛成!! はぁ……ようやくここまで来れたよぉ」
「本番はここからだろ?」
「うっさい。オサムは男子なんだからテント張って来て」
「へいへい。桜子は女子なんだから美味いもん作っといてくれよ」
「はいはい。ほら、天海くん達はもうテント建て始めてるよ」
「ったく…ケイ、俺達も行こうぜ」
「ああ。分かった」
オサムちんとけーくんが二人揃って馬車に積んであるテントを取りに行く。
アンさんに指導を受けていた寺田っちのパーティーが馬車の扱いを習っていたおかげで、必要な荷物は全て馬車に積み込む事が出来たから余計な体力を使わずに済んでいる。
ウチのパーティーは戦闘訓練ばかりだったけれど、寺田っちのパーティーみたいに様々な技術を身に付けておく事は重要かもしれない。
「ん? あーちゃんどしたの?」
「何でもない。それより、さっちんは料理の準備しなくて良いの?」
「あぁ、やんないとだよねぇ」
「なんかおつかれ気味?」
「んー。いくらテントがあるとは言ってもちゃんと寝れなくてね〜」
「あぁ、そういうこと」
「あーちゃんは平気なん?」
「まぁ、うちは何回かキャンプとかやった事あるし」
「良いなぁ。私もキャンプとかやっとけば良かったかも」
「そんなに夜寝れないなら、むらやんのパーティーに野宿のやり方でも聞いてきたら?」
「え? なんで?」
「むらやんのとこ、ダンジョンの中でも寝れる様に訓練したらしいよ。多分うちらの中じゃ、一番外で寝るのが上手い」
「マジか。そんじゃちょっと料理がてら聞いてくる」
「あいよー」
さてと、ウチも今のうちに自分の仕事をしないとね。
えぇっとまゆちゃんセンセーは……あ、もう始めてる。
「佳織ちゃん。うちも周辺警戒行って来るからちょっとお願いね」
「うん。皆が戻って来るまでにテーブルと椅子作っておくね」
「ありがと。佳織ちゃんが土魔法得意でマジで助かったよぉ」
「ううん。明日香ちゃんも頑張って」
「おっけー。ちゃちゃっと片付けて来るから待っててね!」
そうして佳織ちゃんに軽く別れを告げたウチは、少し出っ張った石の上で座禅を組むまゆちゃんセンセーの元へ向かう。
まゆちゃんセンセーはウチ達勇者の中で一番周囲の気配を探る能力が高いため、昨日の夜もこうして周囲の魔物の気配を探ってくれていたのだ。
「あ、天満っちもいたんだ」
「うん。皆に全体の指揮を任された以上、周囲の状況は常に把握しておきたいからね」
天満っちは今の今までテントを建てるのを手伝っていたのに、指揮官として必要な事はしっかりとこなしている。
ウチは目の前の事に集中しちゃうと周りが見えなくなるタイプだから、天海っちのこういうところはフツーに尊敬するわ。
「それで、実際んとこ魔物はいそう?」
「ふぅ……森の奥に何匹かいるけれど、あんまり強そうなのはいないね。刺激しなければ近づいて来ないと思う」
「草原の方は?」
「草原の方にはいないんだけど草原と森の境目にゴブリンっぽい気配があるから、あれだけは倒した方が良いかも。密偵だと面倒だし」
「りょーかい。そんじゃ、パパッと行って倒して来るわ」
「私も一緒に行けたら良いんだけど、篠崎さんの速さには敵わないからなぁ」
「ウチだってリジェネをかけてもらわないとアレは出来ないんだからお互い様だって」
「昨日も言ったけど、周囲には十分に気をつけてね。危なくなったらすぐに引き返して来て」
「おけまる。そんじゃ、いっちょやって来ますか」
天海っちとまゆちゃんセンセーに軽く返事をしたウチは、まず靴を脱いで風魔法で下から風を吹き上げる様にして体重を軽くする。
そしてそのまま縮地を発動させ、思いっきり地面を蹴り飛ばした。
「っつぅぅ。これを普段から使いこなしてるか、舞ちんはどうなってんだよぉ」
なんて皆には聞かせられない泣き言を吐きつつ、舞ちん直伝の高速移動方を使って数秒とかからずにまゆちゃんセンセーが感知したゴブリンの下まで辿りつく。
えぇっと、数は6匹か。
これなら魔法を使わない方が早そうだね。
「舞ちん流剣術 斬波!!」
つい先日舞ちんに習ったばかりの剣術でゴブリン二匹の首を一振りで跳ね飛ばし、動揺する残りの4匹もサクッと仕留める。
よしよし。周囲に魔物気配もないし、今日の雑魚狩りはこれで終わりで良さそうだね。
そう思った矢先の事だった。
小さな風切り音と共に、森の中から矢が飛んでくる。
「シッ!」
ウチはその飛んできた矢を剣の側面で叩き落とし、手紙っぽい紙を括り付けられた矢を拾い上げた。
この古典的でベタ感じ…おそらく矢を放ってきたのは舞ちんだろう。
「舞ちん達は今回手出し出来ないからって事で直接会うのは避けたんだろうけど、これじゃあ意味ないじゃん」
なんて事を呟きながらも師匠達の優しさには心の中で感謝をしつつ、野営の準備を進める皆の元へ帰る。
既にまゆちゃんセンセーにかけてもらったリジェネの効果は切れているため、帰りは普通に走っての移動だ。
ウチの技術ではダメージを受けずに風魔法を使えないし、生傷だらけになるのは避けたいので帰りがこうなってしまうのは仕方がない。
出来れば今回のテストまでには完璧にしときたかったけど、舞ちんでも習得するまで時間がかかったらしいしなぁ。
なんて事を考えながら走ること数分、ウチはようやく天海っち達の元にたどり着いた。
「ただいまー。まゆちゃんセンセーの言う通りゴブリンがいたから倒して来た。それと、これは多分舞ちん達からの手紙」
「矢文とは、随分と古風だね」
「まぁ、舞ちんはそういうの好きだかんね」
「あはは。それじゃあ、この内容は今日の夕食時にでも皆に発表するよ」
「うん。ウチじゃ難しい事は分かんないし、話す内容はまゆちゃんセンセーと天満っちで決めて。そんじゃ、ウチは料理の手伝いをしないとだから」
「了解。篠崎さん、お疲れ様」
「あ、私もお話しが終わったら料理の手伝いに行くから待っててね」
「りょ。さて、今日の晩ご飯はカレーカレーっと」
もう少しで風舞の待つ塔へと辿りつく。
風舞とウチの間にはまだまだ大きな差があるけれど、あの塔の最上階にいる風舞の元へ辿り着けば、その差がかなり縮まる様な気がしていた。
そうすればウチはようやくあいつと………
「うわぁぁぁ! あーちゃん! 鍋から火が出た!!」
「はぁ…まずは目の前のことから片付けないとか」
ウチは炎を吹き上げる鍋の前で尻餅をつくさっちんを見てため息をつきながら、皆の待つ調理場へと向かうのであった。
◇◆◇
風舞
シャリアスさん達を撃退してから2日後の朝、俺は誰かに揺さぶられて目を覚ました。
この雑で遠慮のない感じは、おそらくフレンダさんだろうか。
「んん…」
「おいフーマ。侵入者です。 人数を鑑みるについに勇者が辿りついたと思われます」
「……そうですか。今何階にいるんですか?」
「現在は二階で魔物と交戦中です」
「へぇ………じゃあ、あと10分」
昨日はシャリアスさん達でも各階の魔物を倒すのに5分ずつかかっていたのだし、いくら人数が多いとは言っても勇者達の実力なら同じぐらいの時間がかかると思う。
まだまだ空が白み始めたぐらいの時間みたいだし、もう少しだけ寝させてもらお……
ドスッ!!
「おい。今すぐに起きて顔を洗って来なさい」
フレンダさんが真っ赤な槍を俺の枕元に突き立てながら低い声でそんな事を言う。
このまま二度寝したら今度はお前の頭に刺すぞとでも言いそうな形相だ。
「分かりました。起きます。起きますからその怖い顔をやめてください。フレンダさんにそんな怖い顔を向けられると胸がキュってなります」
「はぁ………ユーリアとシャーロットは既に下の階で待ち受ける準備を進めています。フーマは私達の主なのですから、しっかりとしてください」
「ふぁぁ………分かりましたよ。おはようございますフレンダさん。今日も美しいですね」
「はいはい。分かりましたからさっさと早く顔を洗って着替えて来なさい」
なんて事を呆れ顔のフレンダさんに言われつつ仕切りの向こう側にある桶に水をためて顔を洗い、着替えを済ませて軽く寝癖を直す。
若干寝汗をかいたためシャワーを浴びたいのだが、そんな暇は無いので一先ずは我慢だ。
「ふぅ。そう言えばエルセーヌはどこですか?」
「エリスは既に5階で勇者を待ち受けています」
「あぁ…例の真っ暗アサシンルームか」
我が魔王城は全部で8フロアあるのだが、下3フロアは適当に魔物を放っただけなので俺達が手を加えたのはそこから上の5フロアだけである。
そもそも今回は防衛戦という事なのでこうして度々侵入を許している時点でどうなのかと思わなくもないが、塔の上からフレンダさんとエルセーヌが魔法を打つと間違いなく勇者を何人か殺してしまうからという理由で、室内で手加減をしやすい状況を作り出すというのが今回のトラップのコンセプトだ。
そしてエルセーヌの管轄である5階はどんなフロアかというと、ただ真っ暗なだけである。
5階にある窓は全て塞ぎ、一切光の差し込まない空間がエルセーヌの望んだ唯一のトラップだった。
「ぶっちゃけ、5階より上に行ける勇者っていると思います?」
「いないでしょうね。我が娘がたかだか数ヶ月鍛えただけの勇者を相手に出来ない筈がありません。仮に三倍の人数がいたとしても不可能でしょう」
「やっぱり…」
エルセーヌの感知の網に引っかからないほどの勇者はいないだろうし、本気で気配を消したエルセーヌを感知できる勇者がいるとは思えない。
きっと勇者達は真っ暗闇の中、一人また一人と消されて行くのだろう。
「そういえばエリスから伝言がありますよ」
「伝言ですか?」
「邪魔者を排除する間お側を離れることをお許しくださいですって」
「なんだ。そんな事ですか」
「そんな事とは酷い主人ですね」
「だってエルセーヌってばふらっと消えてふらっと現れますし、いつ側にいていないのかよく分からないんですもん。言い換えれば、いつも側にいなくていつも側にいるとも言えます」
「つまり、どういう事ですか?」
「シュレディンガーのエルセーヌはいつも俺と共に…みたいな?」
「まったく意味が分かりません」
「そもそもエルセーヌは呼べば来てくれますし、呼んで来ないなら転移魔法で会いに行けば良いだけですからね。多少側を離れたぐらいじゃなんとも思いませんよ」
「……やれやれ。相変わらずフーマは愚鈍ですね」
「なんで!?」
何故かフレンダさんにディスられた俺は昨日1日かけてエルセーヌとユーリアくんの作ってくれた無駄にクオリティの高い魔王の椅子に腰掛ける。
さて、エルセーヌが戻って来るのは何分後になるのかね。
◇◆◇
エルセーヌ
自ら作り出した暗闇の中で勇者が来るのを待っている間暇だった私は、ご主人様の声を聞いていた。
まだ起きたばかりで碌に頭も回っていない様だが、お母様とご主人様の会話を聞く限り、ご主人様が私を大切に思い信頼を寄せてくださっている事はよく分かった。
「オホホ。罪作りなご主人様ですわね」
そう言って思わず笑みを浮かべてしまう私の元へ勇者達の気配が近付いて来る。
階段を登って来る勇者は魔法で明かりを保っているらしく、この階の暗闇の中にうっすらと光が差し込んで来ていた。
気配を探ってみるに、狭い階段で戦闘になっても良い様にパーティーごとに別れて移動しているらしい。
「足場が悪いから気をつけて」
「もう、なんでこんなにガラクタが転がってんの?」
「どうせ高音がばら撒いたんだろ。って、生ゴミまであるのかよ」
最初に階段を登って来たのはアスカ様のパーティーの様だ。
確かに勇者達のパーティーで戦闘力が一番高いのはこのパーティーだし、未知の空間に挑むには最善の選択と言えるだろう。
「さて、魔物まみれの次は真っ暗闇か」
「4階までと同じなら真っ直ぐ行けば階段があるはずだけど、どうする?」
「途中で障害物があったら嫌だし………ちょっと待って」
「あーちゃん?」
「多分誰かいる。こっちを見てる」
少し気を緩めすぎてしまった様だ。
そう言えばアスカ様はマイ様の一番弟子だし、敵意に対しては勇者の中でもトップクラスに敏感である事をすっかり忘れていた。
「誰かって、エルセーヌさんか?」
「多分。後ろを取られたらマズイから見落としがない様にゆっくり移動するよ。それと、佳織ちゃんは敵発見の信号を出して」
「う、うん」
アスカ様達が密集陣形を取りながらどの様な違和感も見逃さないようにゆっくりと移動を始める。
アスカ様達ならば正面から挑んでも負ける事は無いとは思うが、今回はあくまで模擬戦だしあまりステータスに頼った戦い方はしない方が良いだろう。
オホホホ。プロの技というものを見せてあげますわ。
そう考えた私はドレスの裾から空気に触れるだけで着火する液体の入った火炎瓶を取り出し、適当な方向に向かって投げつけた。
パリン!
「な、何!?」
「もしかして火炎瓶か?」
私の投げた火炎瓶の炎が床に広がり、アスカ様達の目をクギ付けにする。
深い暗闇の中での明かりはそれが陽動だとは分かっていても無視できない存在感を放つ。
そしてその明かりに目を奪われている一瞬の隙をついてやれば楽に仕留めることが出来るはず。
そう考えて一気に動き始めたのだが…
「ファイアーウォール!!」
「オホホ? まさか防がれるとは予想外ですわ」
全員が私の投げた火炎瓶に目を奪われていた事は間違いなかったのに、アスカ様の展開したファイアーウォールに行く手を遮られてしまった。
気配を感知された感覚は無かったはずだが…
「やっぱりエルセーヌさんか。舞ちんが暗いとことか迷路ではエルセーヌさんが襲って来るって言ってたけど、本当にいるとはね」
「オホホ。私の気配に気がついていましたの?」
「いんや。何か不審な事が起こったらファイアーウォールを使えって舞ちんに言われたからそうしただけ」
「オホホホ。これはご主人様にアスカ様のパーティーは成長していると報告しなくてはなりませんね」
「ウチ達としてはエルセーヌさんを倒すつもりだから、そっちも報告してくんない?」
「オホホ。仮に私に一撃でも入れられれば考えて差し上げますわ」
オホホホ。
さて、手早く片付けてご主人様に褒めてもらいますわよ!
◇◆◇
明日香
タイムリミットまで残り3日となった朝早くに始めて塔に挑戦したが、ウチ達は5階のエルセーヌさんが待ち受ける広場を突破する事が出来ずに引き返す事となってしまった。
「あーちゃんと勇気のパーティーがやられるとか、マジありえんてぃーじゃね?」
夕暮れになって暗い雰囲気で始まった反省会を盛り上げようと星宮っちがいつもの調子で口を開く。
一番最初にウチ達のパーティーがエルセーヌさんを発見し、佳織ちゃんに簡単な魔法を放ってもらって敵発見の信号を送ったのだが、下の階で待っていた皆には佳織ちゃんの飛ばした信号は届いていなかったらしい。
それだけにとどまらず、私達が戦っていた事にすら気が付かなかったそうだ。
おそらく、エルセーヌさんが戦闘中のウチらごと結界か何かで周囲を囲っていたんだと思う。
「エルセーヌさんのいる5階を突破するには、少なくとも3パーティー分の戦力は必要だと思う」
「となると、明日香さんと天海くんと真弓先生の3パーティーが最善ですかね」
「でも、そこから先にはフレンさんもいるんだろ? 俺達の最大戦力が万全じゃない状態で勝てるのか?」
「それじゃあ、どうすれば良いっていうの?」
「それは……特に浮かばないけれど」
少しだけ盛り上がった会議もすぐに静かになってしまい、重い沈黙が流れる。
こんな時は天海っちがいつもウチ達を仕切ってくれるのに、天海っちは怪我の治療中で反省会には参加していないから悪い雰囲気が悪いままになってしまっていた。
「こんな時、風舞なら…」
「あーちゃん?」
「舞ちんがどうしようもなくなったら風舞ならどうするか考えろって言ってたの思い出してた」
「あぁ、土御門さんはいつも高音くんが凄いって話ししてるもんね」
「そういえば、シルビア姉さんも高音パイセンが凄いって話いつもしてたわ」
「トウカさんもよく言っていましたね」
皆から次々と風舞が凄いという話を聞いたと声が上がる。
どうやらここにいる全員が風舞の武勇伝を一度は聞かされているらしい。
「なんだよー。やっぱり高音パイセンは超エリートなのかよー」
「まぁ、お姫様にも一目置かれているみたいだしね」
「エルフの里の危機も救ったって聞いたし、そりゃあかなり強いよなぁ」
「僕達は誰も使えない転移魔法を使えるしね」
「よく分かんないけど、必殺技みたいなのもあるんでしょ?」
「良いなぁ……俺も必殺技的なの欲しいわぁ…」
確かに風舞は強い。
ウチには使えない変な魔法やスキルを覚えているし、ウチには思いつかない様な作戦を何個も思いつく。
けれど、アイツが強いのはそれが理由だろうか。
アイツとウチの違いは本当にそこなのだろうか。
「………違う。きっとそうじゃない。風舞は多分強くなんてない」
「いやいやいや。高音パイセンは強いって。だってこの前いきなりアイアンクローされたし」
「星宮っちはその気になればあの時反撃出来たんじゃない?」
「ムリムリムリ。反撃してたら殺されてたわ。あの目はマジで怖かった。軽くチビりかけたもん」
「それは根性の話っしょ? ステータス的にはどうだった? あのまま風舞に頭を潰されそうだった?」
「………いや、握力自体は大したことなかったな。多分ステータスだけなら俺の方が上だわ」
「だしょ? それに、アイツがよく使う転移魔法も最強な様で、他の魔法は同時に使えなかったり転移後は隙が出来たり色々デメリットはある」
「それでは、明日香さんは高音くんが強い理由は転移魔法やステータス以外の要素にあると言いたいのですか?」
「うーん……多分そう。アイツは昔から天才だし大抵の事はやれば出来るやつだけど、それだけでウチらが束になっても敵わないほど強いって事は無いと思う」
そうだ。
ウチがまだ子供だった頃に誘拐されそうになって助けてくれた時も、アイツはただの子供だった。
確かにあの頃から頭が良くて運動も出来たけれど、いくらなんでも大人に敵うほどではなかったと思う。
それでも、それでもアイツが強いのは……
「アイツが強いのは、いつも本気だから。本気だからボロボロになっても戦えるし、本気だからどんな手段でも使うことが出来る」
「それだったら俺達だってめちゃめちゃ本気だぞ。ていうか、そう言うあーちゃんが本気じゃなかったら俺達は全員本気じゃないことになんじゃん」
「ん〜……そうじゃなくて。これはあくまでウチがそうだって話なんだけど、ウチはお姫ちんの力になりたくて今回のテストでは良い点を残そうと思ってるとこがあったんよね。そのためにここまで来てそのために今日も本気で戦ったけど、多分それじゃあダメなんだと思う」
「つまり、どういう事ですか?」
「要は、本気で風舞をぶっ倒すつもりでやんなくちゃダメって事。確かにウチらが実は色々出来るってアイツに教えるために真剣に戦うってのも大事だと思うけど、今回の目的はあの塔から風舞を追い出すだけで、少しでもカッコよく見せようとか少しでも上手に戦おうとか思っちゃダメなんだと思う。どんなに卑怯でもどんなに泥臭くても良いから、風舞に参りましたって言わせる。それだけのために戦わなくちゃ、アイツには勝てないんだよ」
そうだ。
そもそもアイツは色々おかしいやつなんだから、普通に戦っても勝てるはずがない。
アイツに勝つには、風舞よりもしつこく、風舞よりもねちっこくやるしかないのだ。
「え、えぇぇぇ。でも、これはあくまでテストなんでしょ?」
「確かにそうだけど、ウチはアイツばっかりお姫ちんに頼られてるのが腹たつ。シルビアさんとアンさんの命の恩人だとか、エルフの里を救っただとか、悪魔を倒しただとか色々すごい事をやったらしいけど、ウチ達だってめっちゃくちゃ訓練してきたし! それと、ウチ達のことを守らなくちゃとか思ってるらしいのもめっちゃ腹立たつ! だから一発キツいの食らわせて、調子に乗んなこのチート野郎って思いっきりドヤ顔しながら言いたい!」
「それなら俺だって、一人だけ異世界でハーレム作りやがってって高音の顔面ぶん殴りたい!」
「流石星宮っち。こんな時でもブレないじゃん」
「そりゃあそうだろ。俺はいつだって女の子にチヤホヤされるために生きてんだよ。それなのに高音は俺を差し置いてチヤホヤされやがって…」
「はいはい! それなら私も高音くんの事思いっきり殴りたい! 一度高音くんには上下関係ってものを教えてあげた方が良いと思うんだよね」
天海くんの治療を終えたまゆちゃんセンセーが回復組の皆と共にテントから出て来る。
そしてその最後には、パーティーの皆をかばって一番怪我を負ったウチ達のリーダー天海っちが立っていた。
「僕も一度でいいから高音くんが悔しがる顔を見てみたいかな。ほら、いつも澄まし顔でクールな高音くんが僕達に負けちゃったらどんな顔するのか見てみたいでしょ?」
「それは確かに……」
「それと、僕達が負けたら高音くんに何でもお願いされちゃうって言うなら、僕達が勝ったら高音くんに何でもお願いしても良いって事じゃない?」
「それじゃあ、どうやったらモテるか聞いても?」
「勿論教えてくれるだろうね。それどころか、恋人が出来るまで全面的にサポートしてくれるかもしれない」
「凄く美味しいって評判のパンケーキも?」
「朝から晩まで焼き続けてくれると思うよ」
「息抜きにどっかの離島にバカンスに連れて行ってって言っても?」
「高音くんは転移魔法が使えるんだから、離島どころか世界旅行に連れて行ってもらおうよ」
クラスの皆が自分の欲望を次々と口にし、それを聞いた天海っちが風舞なら叶えてくれると肯定する。
ウチらが本気で倒そうと思っている相手が何でも出来るとんでも超人になっていっているが、誰もが自分達が勝つ事を前提に話を進めていた。
「今日僕達はエルセーヌさんと戦ってみて分かったけれど、エルセーヌさんとは普通に戦っても勝てない。普通に戦っても勝てないんだから、相手が用意したフィールドで戦って勝てるわけがないんだよ」
「やっぱりそっかぁ。天海くんのパーティーとあーちゃんのパーティーとまゆちゃんセンセーのパーティーを合わせても無理そう?」
「多分あの5階で戦っているうちは絶対に勝てないだろうね。だから、あの階を無視するかエルセーヌさんをあの階から引き出すかしないといけない」
「そんな方法あるのかな?」
「そこをこれからウチらで考えるんしょ。折角舞っち達から4階のネタバレと頑張れってメッセージをもらったんだし、ウチらの師匠のために絶対に勝つよ!」
「「「「「おー!!!」」」」」
初戦はウチらの負けだったけれど、タイムリミットまではまだ2日ぐらいある。
だったらこんなところで落ち込んでいる時間なんてあるわけがないし、俯いている余裕なんて全くない。
今日はウチらに圧勝したと思って喜んでいるかもだけれど、せいぜい勝利のお酒ってやつで酔っ払ってると良い!
ウチらが風舞を引きずり倒して土下座させてやるから、覚悟してろよ!!
次回、16日予定です。




