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12話 リンルの実

短めです。

 


 風舞




 ラングレシア王国での休暇を終えた次の日から二日間、俺たち3人は別行動をすることとなった。

 ボタンさんは城の警備に関する情報を掴むために、エルセーヌはアメネアさんの配下であるペトラさんと救出作戦の打ち合わせと同じく城内の警備に関する情報を入手するために出かけて行った。

 そして最後の残る俺はと言うと……



「よし。サラマンダーフラワー爆弾一号の完成だ」



 一人で黙々と工作していた。

 そんなお留守番中の俺にフレンダさんが声をかけてくる。



『なぜ粉の入った筒を紐で縛って圧迫するのですか?』

「よくわかんないんですけど、爆弾って圧縮してある方が威力が高くなるらしいですよ。確か小学校の頃の先生が言ってた気がします」

『子供相手にその様な事を説明する教師も大概ですが、そういう理屈でしたか。しかし何のためにこの様なものを?』

「アメネアさんが閉じ込められてるのって魔法とかスキルが使えない場所なんですよね? だったら少しでもこういうのはあった方が良いかと思って」



 エルセーヌとボタンさんには実力不足という現実的な理由で同行出来なかったが、だからと言って一人でふてくされているわけにもいかない。

 自分に出来る事を少しでもやろうと前向きに考えているのはもちろんなのだが、出かける間際にエルセーヌが俺の耳元で囁いた……



「オホホ。ご主人様と(わたくし)の幸せのために出かけて来ますわね」



 というセリフがこの上なく俺にやる気を出させているのだ。

 諜報能力が皆無と言っても過言ではない今の俺ではエルセーヌやボタンさんの仕事の全てを手伝う事は出来ないが、エルセーヌを幸せにするために俺にしか出来ない事があるはずだ。

 そう考えての第一歩がこの工作である。

 千里の道も一歩からなのだ。



『なるほど。そういう理由でしたか』

「え? なんすか?」

『いいえ。なんでもありません。それより、そういう事なら私もいくらか力になれます。簡単な爆薬の調合方法を教えてさしあげましょう』

「え? フレンダさんってそんな事まで出来るんですか?」

『当然です。それと城に潜入するならどこに何があって近くに使えそうなものがあるのかも知っておいた方が良いですね』

「うす。よろしくお願いします」



 刻一刻とその時は近づいているが、今の俺たちは気力も事前調査も申し分ない。

 救出作戦がどう転ぶかは当日になるまでわからないが、この調子でいけば失敗で終わる事はなさそうだな!




 ◇◆◇




 ローズ



 久しぶりにフウマと共に過ごすことがが出来た次の日。

 今日も妾はマユミのパーティーと共にダンジョンに潜っていた。



「うむ、今の戦闘は中々じゃったぞ。それぞれが仲間の位置を確認しながら戦う事で突っ込みすぎもコンビネーションのミスも減らせる。妾の教えた知識が体に馴染んで来ておる様じゃな」

「ふぅ。ミレンさんの指導のおかげですよ」

「何も謙遜することはない。お主らは確実に強くなっておる。これはまごう事なくお主らの成果じゃ」

「ははは。ミレンさんは褒め上手ですね」

「じゃろう? 妾は褒めて伸ばすタイプじゃからの。サオトメは相変わらず体力不足が目立っておるが、3手目の投石は良い判断じゃったぞ。魔法が使えぬからと言っても遠距離攻撃が出来ぬわけではない。事実フウマは何の魔法も使えぬ間にも凶悪な武器を作り出してマイとの決闘で勝っておる。あやつの様に悪どく勝てとは言わぬが、使える物は何でも使うのが勝利への第一歩である事は間違いないの」

「はい! ありがとうございます!」



 うむうむ。

 こうしておると妾が幼かった頃を思い出すのう。

 妾も叔母上によくこうして鍛えてもらったものじゃ。



「よし。それでは安全の確認も出来た様じゃし、少し休憩じゃ。各自自分の装備を確認しておくように」

「「「「「「イエスマム!!」」」」」」

「うむ。良い返事じゃ!」



 こやつらはマイとフウマに比べればいささか派手さにはかけるが、素直で飲み込みも早いし向上心が強い。

 この調子でいけば、いずれ我が城にも攻め込んでくる日が………いや、今の妾がこやつらを迎え撃つことはなかったの。

 妾は国を捨ててフウマとマイを選んだんじゃ。

 今さらあの玉座に座ることなど、もうないわい。


 そんな自己整理をしつつパーティーメンバーに怪我がないか見回っておると、いち早く長剣の手入れを終えたマユミが妾に話しかけてきた。



「ミレンさん。ちょっと良いですか?」

「む? どうしたんじゃ?」

「その、剣の扱いで少し聞きたいことがあって」

「ほう。遠慮なく申すが良い」

「それでは遠慮なく…」



 マユミはそう言うと剣を両手で構えた。

 そう言えばこやつはフウマとエルフの里に向かってから杖から長剣に持ち替えたから、他の者に比べると剣の扱いは慣れていないんじゃったな。



「右上から左下に斬り下ろすのはそれなりに上手く行くんですけど、左上から右下がなんか違和感があるんですよ。私は後衛なんでこの剣も護身用みたいなところがありますけど、自分がメインで使う道具くらいはそれなりに使える様にしたくて」

「良い心がけじゃな。して、要は利き手ではない方でも武器を扱える様になりたいと言うことかの?」

「多分、そうだと思います」

「それでは、お主の利き足はどちらじゃ?」

「え? どっちだろ。えぇっと、歩き出す時は………あれ? 両方ですかね。多分、両利きです」

「それならば話は早い。今度から素振りをする際には自分の足の動きを注意するんじゃ。まず右手を軸に剣を振ってその時の足の動きを確認し、一度剣を腰に差してから左手を軸に剣を振ったときの足の動きを確認する。その足の動きに慣れたら剣を持って体に馴染ませていくという手順じゃな」

「なるほど。足の動きですか」

「うむ。お主は楽をする動きが得意じゃろう? じゃったら、いかに楽に剣を振るかを考えれば自然と身につくはずじゃ」

「あぁ……高音くんにエルフの里に連れて行かれてから、どうも無駄な動きをしたくなくなったんですよね。やっぱり疲れるのは嫌ですし」

「長期戦ともなると勝敗を分かつのはいかに体力を温存できたかという点になる事も多い。おそらくフウマはそれをお主に教えたくて世界樹まで連れて行ったんじゃろうな」

「そうですか? どうせ私に嫌がらせをしたかっただけだと思いますよ。昨日もすごくまずいリンゴもどきを食べさせられましたし」

「リンゴもどきかの?」

「はい。このぐらいの大きさで赤くてリンゴっぽいんですけど、食べると苦酸っぱいやつなんですけど、知ってます?」

「赤くて拳大で苦酸っぱいか……」



 心辺りはある事にはあるんじゃが……。

 妾の知っているリンルの実はスカーレットの特産品じゃし、フウマがそれを持っておるはずがない。

 あやつがどこで何をしておるのかは聞いておらぬが、おそらく妾達に隠れてどこぞの誰かの人助けか秘密の特訓でもしておるんじゃろうし、スカーレット帝国にいるという事は流石にないじゃろう。

 となると、おそらくリンルの実ではないじゃろうな。



「ミレンさん?」

「あぁ。いや、すまぬ。心辺りはないのじゃ」

「そうですか〜。あれ、すごくまずかったんですよね。うわぁ、思い出しただけで腹が立ってきた」

「やれやれ。お主は相変わらずじゃのう」

「えぇ〜。それを言うならミレンさんの高音くん贔屓も相当ですよー」

「そ、そんな事はないわい。……ほれ、そろそろ休憩も終わりじゃ。今日中には第80階層まで攻略するんじゃからキビキビ行くぞ!」

「仕方ない。今日も美味しいお酒のために頑張りますか! みんな、そろそろ行くよー!」

「「「はーい」」」



 なんじゃい。以前他の勇者達に侮られていると嘆いておった割には皆に慕われておるではないか。

 この調子なら、妾達のパーティーが1ヶ月後の模擬戦で優勝するのも容易いじゃろうな。

 見ておれよフウマ! 帰って来たお主が驚く様なパーティーを育てあげてみせるのじゃ!!


次回、15日予定です

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