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クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...  作者: がいとう
第4章 微妙にクラスメイト達と馴染めていない気がするんですけど…
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70話 お好み焼き

 風舞



 往来の人々の視線を背中に受けながら店に入ると、俺たちの入店に気がついた店員さんが話しかけてきた。



「いらっしゃいませお客様。本日はどういったものをお求めでしょうか?」

「こっちの美人さんに似合う服を買いに来ました。それとエルサさんに挨拶に…」

「オーナーにですか? もしかして貴方は…」

「あ、はい。フーマです。忙しかったら出直しますけど、もしお時間があればお会い出来たらなと…」

「ほう、妾の前で他の女に会いたいとぬかすか」

「エルサさんならきっとフラムに似合う服を用意してくれるだろうから、そう目くじらを立てるなよ。折角の綺麗な顔が台無し……じゃないな。怒ってても美人だ」

「当然じゃ。よし、今の妾は特別に機嫌が良いからそのエルサとやらにも会ってやろう。それではお主、取次ぎを頼めるかの?」

「は、はい! ただいま!」



 ローズに頼まれた店員さんがパタパタと奥に入って行く。

 そう言えばエルサさんはアトリエで服を作っていると言っていたし、もしかしたらそこに案内してもらえるのだろうか。

 ファッションデザイナーのアトリエなんて見た事ないし、少しだけ楽しみだな。



「のうフウマよ。折角じゃから妾もお主に何か買ってやろうと思うんじゃが、欲しいものはないかの?」

「いきなりどうしたんだ?」

「お主とマイはお揃いの首飾りをつけておるじゃろう? 妾もお主に妾を近く感じてもらえる物を贈りたいんじゃ」

「そうは言っても欲しいものなんてなぁ…」

「何でも良いのじゃぞ?」

「つってもなぁ。欲しいものと言えば新しい武器が欲しかったりもするんだけど、ローズが買ってくれて初めて持った片手剣を大切にしたいって考えもあるし、特には無いんだよなぁ」

「やれやれ。つまらん答えじゃのう」

「はいはい。悪うござんしたね」

「む? 拗ねておるのかの?」



 ローズが意地の悪そうな顔を浮かべながら俺の頰をつついてくる。

 ちょ、ちょっと。

「ほれほれ〜」とか言いながら俺で遊ばないでくれよ。

 かなりこそばゆい。



「あら、フーマさんがとてつもなく綺麗な女性と来てくれたって聞いて見に来てみれば、確かに物凄い美人さんね」

「え、エルサさん。ちょうど良いところに。助かりました」

「ちょうど楽しくなってきたところなんじゃが間が悪いのう」

「これは失礼いたしました。私、この店のオーナーのエルサ・ペロッティと言います。本日はご来店いただきどうもありがとうございます」

「うむ。妾はフラム・レッドじゃ。それと、お主のことはフーマよりよく聞いている。何でもかなりセンスの良い服を作るそうじゃな」

「いえいえ。私などまだまだです。それよりもまずは奥の部屋に移動しませんか? ささやかではございますが紅茶もご用意しております」

「ほう、それは楽しみじゃな」

「恐縮でございます。それではどうぞこちらへ」



 こうして俺とローズはエルサさんに連れられて店の奥に向かい、高そうな洋服がいくつか飾られた部屋に案内された。

 部屋の中央にはこれまた高そうなソファーと机が置かれていて、かなりラグジュアリーな空間になっている。

 ハイブランドショップの奥にはVIPルームがあるって聞いたことがあるけど、こんな感じなのか。

 なんか俺だけ場違い感が凄い気がするけど大丈夫か?



「フーマさん? 座らないのかしら?」

「あ、どうも。それで、その後はどうですか?」

「特に変わりないわ。私も息子も無事で、イッシュ様もイースー様もお変わり無いそうよ」

「そうですか。それは良かったです」

「ええ。それとあの日にはちゃんとお礼を言えなかったから、改めて今言わせてもらうわね。勇者様、私達を救ってくださりありがとうございました。このご恩は一生忘れず、末の代まで語り継ぎたいと思います」



 こうやって正面からお礼を言われるとなんだか照れ臭い。

 実際あの夜の立役者はシルビアだし、俺はほとんど何もしてないからなぁ……。

 あぁ、でも。ローズさんは嬉しそうですね。

 俺の事を自分の事の様に誇りに思ってくれているみたいだ。



「ほう。お主、中々見る目があるではないか! 褒めてつかわすぞ!」

「ありがとうございますフラム様。まさか伝説の冒険者様にお会い出来る日が来るととは思いもしませんでしたわ」

「妾などそう大したものではないわい」

「いえいえ。フラム様の伝説は私の息子も知るとこでございまして、帰ったら今日の事を自慢しようかと考えております」

「うわぁ。息子さん可愛いそう」

「ふふ。最近私よりもイースー様の方が凄いって言うんだもの。ちょっとした仕返しよ」

「大人げねぇ」



 それにしても、エルサさんの息子さんはあの夜の後もイースーくんと付き合いがあるのか。

 母親としては自分の息子がマフィアの若旦那と付き合いがあるのは心配なんだろうな。



「さて、それではそろそろ本題に入りましょうか。本日はフラム様のお洋服をという事でしたよね?」

「はい。今日はデートなんで、かなり気合いの入った服が良いです」

「あら、そうだったのね。大変仲がよろしいとは思っていたけれど、フーマさんには随分と素敵な恋人さんがいらっしゃるのね」

「ええ。それはまぁ……」

「ぬふふふ。のうフウマよ。妾とお主が恋人じゃと。のう、のうのう?」

「もしかして私の勘違いでしたか?」

「いいや。勘違いではないぞ! 妾はお主の事が大変気に入った! そうじゃ、どうせならば妾とフーマで揃いの服を用意してくれ! 確かペアルックと言ったかの?」

「お、おいフラム。あまりエルサさんに無理言っちゃ…」

「いいえ。何も無理な事はないわ。ちょうどフーマ様のために作った女性向けのドレスと男性向けのタキシードがあるの。フラム様とフーマさんは同じぐらいの身長だし、少し直すだけで大丈夫だと思うわよ?」



 なんで俺の女性向けのドレスを作っていたのか気になったが、それは聞かないでおいた。

 そう言えばスライス伯爵が近いうちに俺に女性物の下着を送るって言っていたけど、もしかしてエルサさんもその手の輩だったりするのか?

 エルサさんは子持ちのお母さんだし、そんな珍妙な遊びをしたりしないよな?

 とりあえずこの場は深く考えずに喜んでおこう。



「わ、わーい。やったなフラム。お揃いのドレスだぞ」

「お主、顔が引きつっておるが大丈夫かの?」

「お、おう。俺はフラムが喜んでくれればそれで十分だ」

「そうかの? ではエルサよ。そのドレスとタキシードとやらを持って来てくれ」

「はい。それでは少々お待ちください」



 エルサさんはそう言うと俺とローズに軽くお辞儀をして部屋から出て行く。

 大きな鏡やいくつかの服が並ぶ部屋で俺とローズは二人っきりになった。



「のうフウマ? エルサが持って来る服はどういうものなんじゃろうな」

「ドレスとタキシードでペアルックらしいし、同じ色だったりするんじゃないか?」

「ほう、ほうほう。同じ色か。良い。中々良いではないか」



 サンタクロースじゃないんだからそんなにほうほう言わなくても良いと思うが、ローズが楽しそうだからそれで良いか。

 ほうほっほーう。



「のうフウマよ。この後の予定は決まっておるのかの?」

「具体的には決まってないけど、何かやりたいことでもあるのか?」

「うむ。つい今しがた思いついたいんじゃが、妾とお主で昼食を作るというのはどうじゃ?」

「ああ。良いんじゃないか?」

「じゃろう? そうじゃろう? 折角エルサに服を仕立ててもらうんじゃからそれを着て共に食材を買いに行き、そのまま共に料理をするんじゃ。それで腹が膨れた後は風呂にでも入って、美味い酒を飲みながら肩を寄せて語らい合う。妾の体が戻ってからゆっくり過ごすという事じゃったが、少し予定を前倒してたいんじゃが…ダメかの?」



 そんなに可愛くお願いされたら断れるやつはいないと思う。

 少なくとも俺には無理だった。



「ああ。それじゃあそうしようか」

「ぬふふふ〜。幸せじゃのう。こうして誰の目も気にせずにフウマに好きなだけ触れて話せる事がこんなに幸せじゃとはのう。あぁ、お主の前では妾とて一介の小娘に過ぎないのかもしれぬ」



 ローズがソファーの上で俺を押し倒して俺の胸に自分の顔を擦りよせながら囁く様に声を漏らす。

 俺はそんなローズの頭を撫でつつ、話を続けた。



「俺は一介の男子高校だぞ?」

「それでは妾にとってお主が特別というだけじゃな」

「そ、それは…」

「なんじゃ? 言葉にせんと分からんのかの?」

「いや、俺は鈍感系主人公じゃないから分かるし。余裕だし」

「ふっ。そう拗ねるでない。しっかりと答えは教えてやるからの」



 俺に馬乗りになっていたローズが俺を引き起こし、俺の膝の上に座ったまま顔を寄せる。

 ローズは俺の目にローズだけが映っている事を見て満足そうに笑うと、熱の帯びた目で俺を見つめながら口を開いた。



「妾はずっと前からお主の事が…」



 ガチャッ



 こういうシーンは漫画やなんかでよく見るが、実際にその状態に陥ってみるとかなり気まずい。

 白い服を抱えているエルサさんも俺達の様子を見て瞬時に気がついたのか、かなり申し訳なさそうな顔をしている。



「やれやれ。妾とした事が目の前にばかり集中して部屋の外の気配にも気付かぬとは困ったものじゃな。エルサよ。構わん。入って来て良いぞ」

「申し訳ございませんでした。何分私には人の気配を読み取る力がないものでして…」

「気にせんで良い。元はと言えばお主の店で張り切っておった妾達が悪いんじゃ。お主が謝る事は何もなかろうよ」

「寛大なお心遣いに感謝いたします」

「うむ。それで、その白い布がお主の言っておったドレスとタキシードじゃな?」

「はい。ただ今準備いたしますので少々お待ちを」



 エルサさんはそう言うと持ってきたドレスを見やすい様にハンガーにかけはじめる。

 それを見た俺はドレスを見やすい位置に移動しようと思ったのだが、ローズは俺の膝の上に座ったまま笑みを浮かべていた。



「おい、エルサさんもいるんだから早くどい…むぐっ!?」



 キスされた。

 いきなりローズにキスされた。



「な、何を…」

「妾がそうやすやすとお主を逃すわけがなかろう?」

「こ、この魔王め」

「くっくっく。良い表情じゃ」



 ローズは最後に俺の唇を軽く指で撫でてそう言うと、俺の膝の上から立ち上がってエルサさんの方へ歩いて行った。

 エルサさんはそんな俺達の様子に全く気がついていなかったのか、ローズにドレスについて質問されて柔和な表情で応対している。



「魔王が強すぎて倒せない」



 一方の俺は瀕死になりかけたHPバーの如く顔を赤くしながらソファーに倒れ伏しているのであった。



 ◇◆



 エルサさんの用意してくれた服は真っ白なドレスと真っ白なタキシードだった。

 俺の方は流石というべきかサイズもピッタリで、汚してしまう事を心配しなければ何の違和感もなく着れる。

 この前の夜会でフレンダさんがエルサさんのドレスは簡素ながらも精緻なデザインだと言っていたが、俺がたった今着させてもらっているタキシードも、何というかスタイリッシュで良い感じだった。


 そして一方のローズはと言うと……



「ふむ。胸回りがキツく腰回りが緩いが中々良いドレスではないか」



 白いドレスが凄く似合っていた。

 ドレスとは言ってもワンピースとドレスとの間ぐらいのデザインで比較的カジュアルなのだが、それでもかなり上品で清楚な印象も受ける。

 エルサさん自身が城から抜け出したお姫様の余所行きの格好というコンセプトで作ったらしく、それが今のローズにピッタリ合っていた。



「のうフウマよ。似合っておるかの?」

「ああ。凄い綺麗だ。それと可愛い」

「お主は無駄な事には語彙力を発揮するのに、こと女性を褒めるとなるとかなりアレじゃな」

「アレってなんだよ」

「アレはアレじゃ。それよりもどうかの? こうしていると人間の花嫁に見えて来ぬか?」

「デザインの段階でウェディングドレスのスタイルも取り入れていますので、そう感じられたのかと思います。フーマさんと並んでいらっしゃると新郎新婦に見えると言う方もいらっしゃると思いますよ」

「ほう。気に入った。よし、妾はこれを買うぞ! フーマも良いじゃろう?」

「…………あ、ああ」

「のう、見てみよエルサ。あれがフーマが本気で照れている時の表情じゃ。そう拝めるものではないが、お主は特別じゃぞ」

「はい。新作を作る参考にさせていただきます」



 だって、ついさっきローズにキスをされたばかりなのに、いきなり新郎新婦とか言われたら仕方ないだろ。

 もう悪態をつく力すらも残っていない。



「え、エルサさん。それでこの服とそのドレスでいくらぐらいになりますか?」

「お代は結構よ。この前の夜会のお礼とデートの記念にもらってちょうだい」

「いや、流石にそれは…」

「それなら、今度のAWCで私の作った服を着てランウェイに上がってくれれば良いわ」

「ほう。AWCとな?」

「はい。幸いにも出場資格を手に入れまして。それと、もしよろしければフラム様もモデルになっていただければと…」

「うむ。もちろんフウマともども構わぬぞ。まぁ、時間があればという条件はつくがの」

「はい。それで結構です! 是非宜しくお願いします!」

「ちょ、ちょっと待ってください。AWCってなんですか?」

「アナザーワールドコレクション。略してAWC。世界最大のファッションイベントじゃ」

「アナザーワールドって事は、異世界人が主催でもしてるのか?」

「うむ。妾も詳しくは知らぬがそのはずじゃぞ」

「へぇ、そんな人もいるのか」



 もしかするとこの世界の服飾事情がかなり進んでいるのはその異世界人の影響なのかもな。

 思わぬところで同郷の人物の噂を聞いてしまった。



「さて、それじゃあ優秀なモデルを二人もお迎え出来た事だし、手早く仕立て直しをするわね」

「仕立て直しですか?」

「ええ。フラム様は少し胸が窮屈そうだし、フーマさんの方も必要でしょう?」

「そうですか? 俺はこれでバッチリだと思いますけど…」

「いいえ。折角のデートなんですから、しっかりと決めるべきよ。フラム様、少しお時間をいただいてもよろしいですか?」

「うむ。フウマをよろしく頼むのじゃ」

「はい。それではフーマ様はどうぞこちらへ」

「え? ちょ、ちょっと?」



 訳も分からぬ内にエルサさんに連行されてしまった。

 え? 俺はサイズもピッタリだからこれで十分なんだけど?



「フラム様、私の店の者を手配いたしますので少しお待ちください」

「うむ。この紅茶でも飲みながら待たせてもらうのじゃ」

「ありがとうございます。それでは失礼いたします」



 エルサさんはそう言うとVIPルームの部屋のドアをパタリと閉じ、俺の方を向き直って少し興奮した様子で話しかけてきた。



「フーマさん! あんなに美しい恋人がいただなんて、なんで黙ってたのよ!」

「いや、フラムはその…まだと言いますかなんと言うか、恋人って訳じゃないです。今日が初めてのデート。それで察してください」

「なるほど。それで二人とも初々しいしさを感じるのね」



 おそらく部屋の中のローズには聞こえているのだろうが、興奮したエルサさんは止まらない。



「ねぇねぇ。フーマさんはフラムさんのどんなところが好きなのかしら? ちょっとお姉さんに教えてちょうだいよ」

「……あの、この服の仕立て直しをするんじゃなかったんですか?」

「えぇ〜、何も照れなくても良いじゃない。それに、この私が仕立て直しが必要なオーダーメイドを作ったりしないわ」

「さいですか。じゃあ俺は中に戻りますね」

「中に戻っても良いけど、仕立て直しするということはフラムさんには一度裸になってもらう必要があるのよ?」

「ちっ、それじゃあ外で待ちます」

「ふふ。そう怖い目をしないでちょうだい。仕立て直しではないけれどフーマさんはこれ、ちょうど最近届いたばかりのワックスがあるの。試してみる?」

「へぇ、ワックスあるんだ」

「あら、ワックスを使ったことあるの?」

「俺の家は理髪店ですからね。当然です」

「理髪店? 聞いたことないわね」

「髪を切る店の事ですよ。パーティーのためのヘアセットなんかもやります」

「へぇ、それは面白そうなお店ね。それで、ワックスはつけて良いのかしら?」

「あぁ、はい。それじゃあどんな美人でも惚れちゃう様な良い感じで」

「それは難しい注文だけれど、分かったわ。それじゃあそこに座ってちょうだい」



 こうして俺はローズの服の仕立て直しが終わるまでの間、この世界の女性がグッとくるシチュエーションなんかを聞きながら、数ヶ月ぶりのワックスをつけてもらいつつ時間を潰した。

 エルサさんの話は俺をからかう内容が半分以上だったが、年上の女性の落とし方についてはかなりためになったし、早速実践してみるとしよう。

 ふっふっふ、ローズが顔を真っ赤にして恥ずかしがる顔が目に浮かぶぜ!



 ◇◆



「またのお越しをお待ちしております」



 エルサさんに見送られながら転移魔法で店を出た俺とローズはそのままソレイドに戻って来た。

 食材の買い物をするならダンジョンから取れる食材が豊富にあるソレイドが一番だし、その後に料理をする事も考えるとやはりソレイドが一番だろう。



「ふぅ。やっぱりソレイドは落ち着くな。なんか俺の第二の故郷になりつつある」

「そうかの? 妾はお主が隣にいてくれるだけでいつでも心安らぐんじゃが?」

「甘いぜフラム。そんなに見え見えなセリフじゃ俺はときめかない」

「なんじゃい。多少髪が逆立っただけで一端の男気取りかの?」

「そんなところだ。それじゃあお嬢さん。お手をどうぞ」

「やれやれ。仕方のないやつじゃ」



 白いドレス姿のローズはそう言いつつも俺の手を取り、肩を寄せてきた。

 そうして近づいてきたローズからは甘い薔薇の香りがほのかに香ってくる。

 どうやらこっそりと武装をしていたのはローズも同じらしい。



「これしきの事で心揺さぶられるとはお主もまだまだじゃのう」

「店員さんが俺の気にいる香水はどれじゃろうかって何回も聞かれたって言ってたぞ」

「な、なな…なんのことかの?」

「へぇ、適当に言っても当たるもんだな。フラムってば超可愛い」

「ぬ、ぬぅぅぅ。フウマの癖に生意気じゃ! それよりもほら、早く肉を選ばぬか!! 食材の見極めはお主の専売特許じゃろう!」

「おう。フラムのために心を込めて選ばせてもらうな」

「ぬうぅぅ。フウマのアホ! 多少色気づいたぐらいで調子に乗るでない!」



 そんな調子で俺とローズは市場を周りつつ食材を買い集め、互いに如何にして相手を照れさせるかという不毛な争いを続けた。

 結果としては両者が共倒れになる前に和平を結ぶ事になったが、その原因は二人とも腹の虫が鳴き始めたというなんとも締まらない理由だった。



 ◇◆



 今日の昼食だが、市場での買い物中に「妾でも簡単に出来る料理はないじゃろうか」とローズが呟いていたため、楽に作れて普通に美味しいお好み焼きを作ることにした。

 幸いにも我が家にはどデカい鉄板があるし、それを庭に持ち出して魔法をちょちょいと使えばアツアツの鉄板がすぐに用意出来る。

 やっぱり火起こしのないバーベキューはかなり楽チンだな。



「ふぅ。待たせて悪かったの」

「それは構わないけど、脱いじゃって良かったのか?」



 料理をするならドレスは動きづらいし汚れるとローズが言ったため、俺とローズは1時間ほど前にもらったばかりのドレスとタキシードを着替える事になった。

 ローズがそれで良いなら良いのだが、かなり気に入っていたみたいだし少し気になるな。



「うむ。先程も言ったが折角のドレスを汚したくはないし、それに…」

「それに?」

「お主と恋人に見られない事を気にしておった妾を見て、お主が妾に血を吸わせあんなにも素晴らしいドレスを用意してくれた上に、ソレイドの者にそれを見せびらかす場までくれたんじゃ。妾はそれで満足じゃよ」

「そっか。でも、あのドレス似合ってたのになんか勿体無いな」

「妾は大人の女じゃからな。お主に飽きられぬ様に手を変え品を変えておるのじゃ!」

「へぇ、大人の女ねぇ」

「むっ。なんじゃいその顔は」

「……いや、別になんでもない」



 危ねぇ。

「俺が好きなのは大人子供関係なくローズなんだよなぁ」なんて意味のわからないセリフを言うところだった。

 くそぅ、ローズに血を与えた影響か、普段よりも口が軽い気がする。

 この前俺の血を飲んで今の姿になったローズと風呂に入った時の彼女はもっと目がトロンとしていたのに、今回こんなに胸が熱くなっているのは俺だけなのか?



「のうフウマよ。それで、お好み焼きというのはどうやって作るんじゃ?」

「お、おう。そうだったな。それじゃあまずは野菜を切るところから始めよう」

「うむ。それと言い忘れておったがフウマよ」

「ん? どうしたんだ?」



 そう尋ねた俺の側にローズが寄って来て、まな板に向かっていた俺の後ろから柔らかく抱きつきながら耳元で囁く様にこう言った。



「妾ももうそろそろ我慢の限界じゃ。飯の後は分かっておるの?」

「ぬ、ぬうおぉぉ。それはズル過ぎだろ」

「ほれほれ。手が止まっておるぞ。さっさと料理を済ませぬか」

「…………はぁ、分かった。分かりましたよ」

「うむうむ。ところで、妾は何をすれば良いんじゃ?」



 ローズがそう言ってキャベツと包丁を持ちながら首を傾げる。



「ちくしょう! なんでお前はいちいち仕草が可愛いんだよ! キャベツは千切りだよこの野郎!!」

「ぬおっ!? いきなり大声を出すでない。驚いたではないか」

「だから可愛いすぎか!! 悔い改めろ!!」

「何を改めれば良いのかさっぱり分からぬ」

「俺もだよこんちくしょう!!」



 そんなこんなで無事に(?)お好み焼きの仕込みは終わり、俺とローズは次々と焼きあがるお好み焼きを汗だくになって食べながら舌鼓を打っていた。



「おぉ、やはりフウマの作る料理は美味いのう」

「そりゃどうも。ローズの千切りしたキャベツも良い味出してるぞ」

「じゃろう? 妾の渾身の千切りじゃ!」



 ローズがそう言いながら嬉しそうに笑い、それに伴って一つに結われた金色の髪が鮮やかに揺れる。

 俺は夏の太陽の下で笑うローズの眩しさを感じつつ、そんなローズに見惚れて少しだけ焦がしてしまったお好み焼きを淡々と処理していた。



「む? もう次で最後かの?」

「ああ。次で作った生地は最後だな」

「むぅ。折角コツを掴みかけておったんじゃがのう」

「またお好み焼きをやれば良いだけだし、まだもう一枚焼けるんだから十分だろ?」

「それもそうじゃな。ではフウマよ! 生地を流し込むんじゃ!」

「あいよ」



 ヘラを構えてポーズを決めるローズの指示通りに別で焼いていた豚肉の側に生地を流し込む。

 それを待っていたローズは真剣な顔でヘラを操り始め、手際よくお好み焼きを作り始めた。

 さて、俺はこの間に軽く片付けでもしてますかね。



「おお、そうじゃった」

「ん? どうした?」

「ついでとは言えぬかもしれぬが、手が空いていたら風呂を沸かして来てもらえんかの?」

「お前はまたそうやって…………」



 またそうやって俺をからかうのかと言おうと思ってローズの方を振り返ったら、そのローズが顔を真っ赤にしながら、俺とは目を合わせないように注意しつつお好み焼きを作っていた。

 俺はそんなローズを見て振り返った勢いを失い、ゆっくりと自分の手元に視線を戻しながら口を開く。



「わ、分かった。これが済んだら沸かしとくな」

「う、うむ。頼むのじゃ」

「お、おう」



 結局俺は片付けの後に風呂を沸かし、戻って来た後にローズの作ってくれたお好み焼きを一言も話さず二人で黙々と食べた。

 そして折角ローズの作ってくれた料理なのに、緊張のあまりか味がよく分からなかった。



もう少しだけローズとデート続きます。


次回19日予定です。

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