69話 ハニーパイ
風舞
思い返してみれば、こうしてローズと二人で出かけるのは久しぶりな気がする。
この前二人で出かけたのはソレイドで開催された討伐祭の最中だったが、あの時はフレンダさんも一緒にいたし、本当の意味でローズと二人で行動するのは数ヶ月ぶりぐらいかもしれない。
ちなみにローズ大好きフレンダさんは昨日の晩に白い世界に行ったら、「昨日のお風呂でお姉様を堪能しすぎてしまったので、今日は控えておきます」と言っていた。
フレンダさんにとってローズは興奮剤か何かなのかもしれない。
是非ともローズ中毒には気をつけて欲しいところだ。
「にしても、遅いな」
舞に見送られてローズと一緒に家を出たのだが、少し寄りたいところがあるから先に行っていてくれと言われて、俺は冒険者ギルドの建物の横に一人でポツンと立っていた。
今日も冒険者諸君は冒険に行くらしく、ダンジョンの入場券や依頼書を持ちながらギルドに出入りしている人が多く見える。
「ふぁぁぁ。眠い」
昨夜は遅くまで3人で話していたから割と寝不足だ。
それにソレイドの陽気はかなりスッキリしていて、太陽の照りつける夏でも日陰なら割と快適に過ごせる。
あぁ、何という昼寝日和……。
そんな事を考えつつあくびを噛み殺していると、始めて会った時と同じ赤いドレスに身を包んだローズが現れた。
やっぱりローズは赤い服が似合うな。
「ま、待たせたのじゃ! 待ったかの?」
「いや、今来たところだ」
実際にはローズと別れてから真っ直ぐここに来たため30分近くは待っていたのだが、こういうのは様式美というものがある。
例え何時間待っていたとしても、今来たところだと言うのが男の甲斐性だろう。
「そ、そうか。それは良かったのじゃ」
「おう。さて、時間は有限だしさっさと行こうぜ。先ずはどこに行きたい?」
「そうじゃな……妾は特に行きたいところは…」
「それじゃあ、何か甘いものでも食べに行くか。昼には少し早いけど、少しぐらいなら大丈夫だろ」
「う、うむ! そうじゃな!!」
なんだかローズがたどたどしいと言うか、緊張しているのか挙動がおかしい。
おい、俺まで恥ずかしくなってくるだろうが。
仕方ない。ここは男としてローズをリードしないと…
「ほら、それじゃあ行こうぜ」
「む? どうしたんじゃ?」
くそぅ、頼むから察してくれよ。
デートで手を差し出すって言ったら他に無いだろう。
「手、手だ」
「手? 手がどうしたんじゃ?」
「ぬあぁぁっっ、もうっ! ほら、行くぞ!!」
「ぬわっ!? お、おおっ!?」
結局、ローズの手を無理矢理掴んで歩き始めた。
あぁ、こんな調子で上手くいくのかね。
◇◆
ローズとのデートで一番最初に来た場所は最近ソレイドで話題の菓子屋だった。
この菓子屋はダンジョンで取れる蜂蜜を使ったサクサクのパイが人気らしく、沢山の人が小さな店の前に並んでいる。
「ほう。こんなところにこの様な店があったとはのう」
「つい数日前に出来たばっかりらしいぞ? サクサクの生地と甘すぎず少し大人な味付けが人気らしい」
「ふむ。それは何とも楽しみじゃな。どれ、早速並んでみるとするかの」
よしよし、ローズは気になってくれたみたいだな。
ふぅ、冒険者ギルドの前で話してる人達の話を盗み聞きしといて良かったぜ。
こうしてみると噂話というのも馬鹿に出来ないな。
「流石に日なたは暑いのう」
「大丈夫か? ジュースでも飲むか?」
「いいや。これから甘いものを食べるから水で我慢しておくのじゃ」
「そうか? それじゃあ頼む」
コップを二つ出してローズに差し出す。
ローズは「うむ」と言って水を注ぎ、片方を受け取って飲み始めた。
そんな俺たちの様子が気になったのか、後ろにいた若い女性が話しかけてきた。
武装はしていないけれどそこそこガタイも良いし、オフの日の冒険者だろうか。
「お二人さん、随分と仲が良いのね。もしかして兄妹?」
「いや、デート中です。ほら、こっちはエルフでしょう? こう見えて一つ違いなんですよ」
「ふぅん。それは失礼しちゃったね。お詫びに二人の分も出してあげるよ」
「いえいえ。今日はデートなんで男らしいとこ見せたいんですよ。お気持ちだけで大丈夫です」
「それもそうか。いやぁ、これは失敬失敬。お、どうやら次が君たちの番みたいだね。それじゃあ良い一日を」
「ええ。良い一日を」
さて、それじゃあ噂のハニーパイを二つ買ってっと……。
あぁ、横にいたから分かっていたけど、なんだか難しそうな顔してるな。
「大丈夫か?」
「む? 何がじゃ?」
「何がって……そのだな」
「あぁ、すまぬ。いや、別に妾は気にしておらんぞ。お主が妾のことをしっかりと女として扱ってくれて嬉しいし、大したことはないんじゃがな。じゃが、やはり周りから見ると妾達は姉妹に見えるんじゃなと思っての」
そうか。
ローズはこの見た目でも中身は立派な大人だし、やっぱり子供に見られるのはそう気持ち良くないよな。
ローズが子供の姿になったのは謀反を起こされた結果でもあるわけだし、その気持ちは尚更だろう。
「フウマ? どうしたんじゃ?」
「よし、次行くとこが決まったぞ」
「む? どこか行きたいところでもあるのかの?」
「ああ。俺の知り合いにファッションデザイナーがいるから、ちょっと買い物に行こうぜ。ちょうどお姫様に給料をもらったばっかりだしな」
「それはボタンに借りていた金を返すためのものではなかったのかの?」
「また稼げば良いんだから気にする事ないぞ! よし、それじゃあ行くぞ!」
「お、おい! 妾はまだ食べ終わってないんじゃが!?」
「ちょっと高めに転移するからゆっくり食べてて良いぞ! よし、テレポーテーション!!」
さて、エルサさんに会うのは夜会ぶりだけど元気にしてるかね。
俺はローズを引っ張って走りながらそんな事を考えつつ転移した。
◇◆
ラングレシア王国上空にて、俺はローズの手を握りつつ空の中を落下していた。
ローズは食べていたホームパイを自分のアイテムボックスにしまうところまでが限界だったのか、口元に食べカスをつけたまま俺の方を見ながら目をパチクリさせている。
「なぁ、ローズって超可愛いよな」
「な、なんじゃ。いきなり」
「俺は今のロリロリなローズも結構好きだぞ。子供っぽいなぁと思って接すると、包容力で滅多打ちにされるところとか、かなりゾクゾクする」
「おい、理由が変態チックで素直に喜べないんじゃが……」
「まぁ、あれだ。俺はロリモードのローズも大人モードのローズも好きだけど、折角のデートなんだから全力で味わうってのはどうだ?」
「どういう意味じゃ?」
「だからほら、俺の血を飲んで良いぞ。ていうか俺は大人モードのローズもロリモードのローズも堪能したいから血を吸ってくれ。昼間は大人の魅力たっぷりのローズと一緒に遊びまくって、夜はロリモードのローズと美味い物でも食いながら穏やかな時間を過ごす。これが俺の提案する今日のデートプランだ!」
俺はローズの頰についた食べカスをとってやりながらニッと笑ってそう言った。
ローズは自分の頰に食べカスがついていた事が恥ずかしかったのか少し頰を赤くしつつも唇を尖らし、俺の胸をつつく。
「分かってはおったが、お主は中々我儘じゃな」
「だろ? 勇者ってものは魔王に迷惑をかけるもんなんだぜ」
「ふん。カッコつけすぎじゃ」
「惚れたか?」
「うるさいわ。この馬鹿者め」
ローズはそう言って柔らかく微笑むと、俺の首筋に顔を寄せてそっと牙を突き立てた。
そう言えばフレンダさんには何度も噛み付かれているけれど、ローズに噛み付かれるのはこれが初めてだな。
なんて事を考えながら痛みに耐える準備をしていたら、予想外の快楽に腰を抜かれそうになった。
なんだこれ、胸が熱くて体が溶けそうだ。
「ふぅ、やはりお主の血は美味いのう。ご馳走様じゃ」
「お、おう。お粗末様だ」
「なんじゃ? 妾の魔力に当てられたのかの?」
大人の姿になったローズが自分のギフトでドレスを着替え直しながら俺を抱き寄せつつそんな事を言う。
なんかこのまま頷くのは癪だな。
「い、いや。ローズが美人すぎて見惚れていただけだ」
「ほう、愛い奴じゃのう。どれ、褒美をやろう」
「ちょ、ちょっとローズさん!! 流石に空中でベッドインはアクロバティックすぎるって!! って、おい! 舌舐めずりしながら脚を絡めて来るな! お、おい! ちょ、ちょっと待っ!!」
ぬあぁぁ。
煽ったのは俺だけど、ローズが美人すぎて辛い。
さっきまで恥ずかしそうにモジモジしてばっかりだったのに急に積極的になるなんて……最高かよぉ。
◇◆
大人モードのローズと一緒にラングレシア王国の王都に降り立った俺は、そのままローズと腕を組みながら何人かにエルサさんの店の場所を聞きながら歩き回って、ようやくエルサさんのハイブランドショップにたどり着いた。
そうそう。ベッジって名前のブランドだったわ。
ようやく思い出せた。
「ほう。ここがフウマの知り合いの店という訳じゃな?」
「そうなんですけどフラムさん。流石に距離が近すぎやしませんか?」
今のローズはミレンという偽名を名乗るにはこれまでと姿が違いすぎるため、フラム・レッドと名乗ってもらっている。
ローズは一時期フラム・レッドと名乗って人族の国を回っていたことがあったらしいし、おそらくこの偽名に疑問を感じる人はいないだろう。
ローズ本人が言うには全盛期の体はもっと魅力的で蠱惑的だったらしいが、今の俺と同じぐらいの身長のローズでも十分すぎるぐらいにセクシーだと思うぞ。
だってずっと右腕に感じるおっぱいが凄く柔らかいし。
「なんじゃ? お主は嫌なのかの?」
「そういう訳ではないんだけど、かなり目立っていると言いますか何と言うか…」
「おかしいのう。妾の目はこの通り青いし、この肩に刻まれたお主との契りの印も魔法で隠しておるはずなんじゃがなぁ」
「性格変わりすぎだろ」
「お主の血のせいで体が疼いてたまらんのじゃから当然じゃ。それよりも早く入るぞ。流石に人の目が鬱陶しくなってきたわい」
「あいよ。仰せのままに」
「うむ! 苦しゅうない!!」
あぁ、今の表情はちょっと子供っぽかった。
子供の姿の時は大人っぽくて大人の時は子供っぽいなんて、なんて魅力的なんだろうか。
そんな事を考えていた俺は、高鳴る心臓の音をローズに聞かれていないか内心緊張しつつ、ローズと一緒に店の中に入った。
長くなりすぎたので今回はここまでです。
ローズとのデートはまだ続きます。
次回19日予定です。




