66話 呪いの鎧?
風舞
リリエルさんを先頭に中に入った遺跡は俺の予想に反して、明かりが壁にかかったランプしかなく、ところどころに謎の骨が転がっていたりと、かなり遺跡だった。
遺跡なのだから遺跡で当然だとは思うのだが、あまりにも生活感がなくリリエルさんがここに住んでいるという言葉が少し疑わしくなってくる。
「ねぇ、リリエルさん。この遺跡ってどのくらいの広さなのかしら?」
「広さですか? このぐらいです!!」
いやいや、建築物の広さをジェスチャーで説明しようと思うなよ。
ちっとも分からん。
「なるほど。思ったよりも狭いのね」
え? 分かるのかよ。
流石というかなんというか、舞の底知れなさを感じた。
「それよりも、妾はその鎧がどの様なものなのか気になるんじゃ……のだけれど?」
「どんなものって言われても、古い鎧としか言いようがないですよ! 私も鎧があるなぁと思った程度で、触った事も近付いたこともないですもん! あぁ、でも! お部屋の真ん中のポツンとありますね!」
「えぇ…。それ、絶対ロクでもないやつじゃん」
『何故そう思うのですか?』
「遺跡にある謎の鎧で部屋の中央にあって、近づいた事もない。これは鎧が動いて襲いかかってくるパターンです」
「それは件の鎧がリビングアーマーか何かだという事かしら?」
「確証はないけど、そんな気がするってだけだ」
リリエルさんの紹介する鎧が魔物かそうでないかは気になるが、一番は魔物だった場合に鎧を討伐したらその鎧がドロップするのかが気になる。
というか仮に鎧がドロップしたとして、散々攻撃した後の鎧って使い物になるのか?
「あ、着きました! ここですここ!」
「え? 早っ!?」
ちょっと考え事をしていたら鎧のある部屋についてしまった。
ついさっき舞が思ったよりも狭いって言ってたけど、こんなに狭かったのか?
まだここから入り口が見えるぞ。
「ふむ。見たところ魔物ではなさそうじゃ…なのだよ」
「でも、近づいたら急に動き出すなんて定番中の定番よ?」
「とりあえずここから攻撃でもしてみるか?」
「えぇっ!?」
いちいちリアクションが大きくて鬱陶しいなこの女神様。
それもその反応が微妙に古臭い。
「………なんですか?」
「ここは私のお家なんですから、暴れられたら困りますよぅ!」
「軽く水魔法を当てる程度です。ほら、蜘蛛の巣がついてるし埃も凄そうだからちょっと洗いたいんですよ」
「それなら良いですけど、くれぐれもお家を壊さないでくださいねー」
「はいはい。おいミレン。本気で水魔法だ。あの鎧に当たらなくても構わん」
「お主、結構心が小さいのう」
『まぁ、フーマですからね』
なんだよ、やるなって言われるとやりたくなっちゃうあれだよ。
そういう時もあるだろ?
「それで、水魔法はミレンちゃんが撃つのかしら?」
「うむ。まぁ、一先ずは様子見じゃ…だけれどの」
ローズがそう言って一歩前に立ち、部屋の外から古びた鎧に手を向ける。
さてその肝心の鎧だが…舞のために誂えたかの様に女性物だな。
ローズのレッドドラゴンの鎧はゴツゴツした魔物の素材を元にした事がよく分かるものだが、あの鎧の表面はシルビアの白い鎧と同じく滑らかで金属製みたいだ。
ただ、あの鎧は真っ黒だしシルビアの鎧が聖騎士の鎧とすると、どうも暗黒騎士が着てそうなんだよなぁ。
そんな事を考えながらローズの放ったウォーターボールを目で追っていると、その水球がバシャンと音を立てて鎧に当たった。
「………何ともないわね」
「ああ。普通に綺麗になっただけだな」
「どうする?」
「こうなったら直接確認するしかないだろうな」
「それもそうね。ふふっ、ワクワクしてきたわ」
俺はゾクゾクしてきたよ。
急に動き出したりしないよな?
俺はホラーはあんまり得意じゃないんだぞ?
『おいフーマ。腰が引けていますよ?』
「こういうの苦手なんですよ。めっちゃ怖い」
『なるほど。これは良い情報を手に入れました』
「俺に怖い話をしたらフレンさんが泣いて謝ってもいじめます」
『泣いて謝ったら許してくださいよ……。それより、お姉様達は既に鎧を調べ始めていますが?』
「あ、ホントだ」
気がつけば、舞とローズとリリエルさんが鎧のすぐそばまで行って鎧の周囲を周りながら話をしていた。
どうやら近づいてもいきなり動くという事はなかったらしい。
「おーい。どんな感じだ?」
「黒くてカッコいい鎧だというだけね。多少汚れてはいるけれど、鎧自体は新品同然よ」
「かなり質は良いのだが、何で出来ているのか見当がつかぬ」
「本当ですねー。不思議ですー」
おい、女神様からの贈り物なのに、その女神があげる鎧の事を何も知らないってどうなんだよ。
この女神も口ぶり的に元からあったこの遺跡に住み着いたみたいだけれど、いくらなんでも何も知らなすぎだろ。
「ん? 台座に何か書いてあるぞ」
「え? どこどこ?」
「ほら、そこの角のところに」
「これは、何と書いてあるんじゃ?」
そうか。
ローズなら読めるかもと思ったけれど、流石に無理だったか。
確かにこの漢字、ちょっと難しいもんな。
ローズの日本語は勉強して身につけたものでスキルじゃないし、仕方ないと言えば仕方ないと思う。
「鎧袖一触よ。鎧の袖にちょっと触っただけで、敵を倒しちゃうって意味ね」
「へぇ。ためになりますね」
「リリエルさんは何も知らなかったんですか?」
「はい。だって私、鎧とか興味ありませんし、私の部屋は遺跡に入ってすぐの扉のところですもん。魔物に絡まれるのにわざわざこっちの方まで来ませんって」
この女神は何か腹心があって俺達を嵌めようとしているんじゃないかと思ったが、どうやらそれは無さそうだな。
だってこの女神様、何というか雰囲気がほんわかしすぎている。
多分、頭の中はお花畑なのだろう。
「む? マイよ。どうしたのだ?」
「ええ。この字、どこかで見覚えがあるのよ」
「見覚えってこの世界に来てからか?」
「ええ。多分…………あ、これだわ」
舞がそう言って腰に差していた妖刀星穿ちの刀身を見せる。
確かにこれには漢字で『妖刀星穿ち』って書いてあるけど、鎧の『鎧袖一触』と同じ人の字なのか?
「これ、多分同じ人の字よ。ほら、ここの曲がるところとかそっくりでしょう?」
「そっくりって言われても分かんないけど、同じ人の字って事は同じ人が作ったのか?」
「ええ。おそらく」
「妖刀星穿ちと同じ人が作ったって事はその鎧も呪いの鎧だったりすんのかね」
「どうかしら。星穿ち、何かわかる?」
「え? その刀話せたのか?」
「話せないわよ?」
えぇぇ。なんか話せそうな雰囲気出してたじゃん。
話せないのに聞いたのか?
「ふむふむ。星穿ちちゃんは鎧袖一触ちゃんについて何も知らないみたいね」
「話せないんだよな?」
「だから話せないと言っているでしょう?」
だったら今どうやって意思の疎通をしたのだとも言いたくなったが、星穿ちの事は舞にしか分からないし、そういうものと思っておくしかないか。
「ふむ。それでどうするのじゃ…だ?」
惜しい。
ついさっきまでは自分の語尾に慣れてきていたのに、少し間が空いたらまた元通りになっちゃったな。
「そうねぇ。貰えるなら貰いたいわね。だって黒くてカッコいいし」
「だよな! ちょうど俺もそう思ってたんだよ! ほら、この背中のスラッとした感じがすごく良い!」
『い、いきなり大声を出さないでください。情緒不安定ですか』
「そうよね! それにほら! この腰の部分、あえて鎧で覆わない事で、自分でスカートなりズボンなりを履かないといけない。そこにファッションの可能性を感じるわ!」
『こっちもですか』
「わ、妾もこの鎧は良いと思うぞ! なんかこう、良い感じじゃな!」
『お姉様…自分も話に入りたかったのですね』
そんなこんなで3人で鎧袖一触を褒めちぎった後、リリエルさんの「私、お茶淹れておきますから終わったら呼んでくださいねー」という言葉を聞いて我に返った俺達は、3人で鎧の手入れを始めた。
とりあえずクモの巣やら埃を払いのけ、今はそれぞれのパーツを手分けして磨いている。
ちなみに鎧のパーツはざっくり分けると腕と胴と脚の3つだ。
「最初はどうなるかと思ったけど、結構良い鎧みたいで良かったな」
「そうね。防御力も高そうだし、それなりに動きやすそう。流石は星穿ちの作者の作品ね」
「しかし、実際のところ。この腰やその刀を作った者は何者なんじゃろうな。おそらくお主らと同じ勇者だとは思うんじゃが…」
「漢字を使えるみたいだし俺もそう思うけど、そのうち叔母様に聞けば分かるんじゃないか? そもそもここにお宝があるって言ったのは叔母様なんだろ?」
「存外、その叔母様がこの鎧や星穿ちを作ったのかもしれないわよ?」
「なるほど。それは確かに…」
「ありそうな話ではあるの」
あの叔母様なら日本語も達者だろうし、星穿ちや鎧袖一触みたいなとんでも武具を作れそうな気がする。
そう考えてみると、もうそうとしか思えないぞ?
「むぅ。女王様の時と言い、ローズちゃんの叔母さんの時と言い、風舞くんばっかり神様にあっていてズルいわ」
「舞もついさっき会っただろ? リリエルさんも神様らしいぞ」
「でも、何というかリリエルさんって神様っぽくないんだもの」
「それはそうだけど、あんまり言ってやるなよ」
「むぅ。良いなぁ、私もローズちゃんの叔母さんに会ってみたいわ」
「叔母上はそう期待するほどでは無いと思うがの。そもそも神ではないわけじゃし…」
「そうなのか?」
「仮に叔母上が神だった場合、妾も神の血を引いておる事になるんじゃが?」
「それなら、ローズちゃんと別れた後に神様になったんじゃないかしら?」
「それならあり得るかもしれんが、一介の吸血鬼が神になれるとは思えんの。ほれ、妾は磨き終わったぞ」
「あ、俺も終わった」
「はぁ。まぁ、いずれ叔母さんに会った時に分かる事よね。さて、それじゃあ早速着てみるわね」
そう言って立ち上がった舞が鼻歌を歌いながら鎧を身につけ始める。
そういえばこの鎧、妖刀星穿ちと同じ作者の作品だから呪いの武具かもって話があったんだけど、大丈夫だろうか。
まぁ、ついさっきまで俺もベタベタ触ってたわけだし、何の心配もいらな……
「ぐっ、ぐあああぁぁぁぁぁ!!」
「お、おい舞! しっかりしろ! おい!」
漆黒の鎧を身に纏った舞が頭を抑えて悶えている。
クソっ、何でこんな時に限って俺の予想は的中するんだよ!
「フウマ! 舞から鎧を脱がせるぞ! 妾が押さえ込むからお主が脱がせてくれ!」
「おう!」
「多少手荒になるが文句は言うでないぞ!」
ローズが舞の足を払いのけ、そのまま転んだ舞に馬乗りになって押さえつける。
よし、まずは腕の部分からだ。
「あぁ、風舞くんに無理矢理脱がされそうになっているわ。私、どうなってしまうのかしら」
「大丈夫だ舞! 何があっても俺達が助けるからな!」
「ふふ。風舞くんは相変わらずカッコ良いわねぇ。やっぱり風舞くんと恋人になれて良かったわ」
「そんな今際の際みたいな事言うな! 俺達はまだ付き合い始めたばかり………っておい」
なんか嫌に舞が大人しいなと思ったら、ニヤニヤと笑みを浮かべながらこちらを見ている。
俺よりも先にその事に気がついていたローズはスッと立ち上がり、地面に横たわっている舞を足蹴にし始めた。
「のうマイよ。これは何の冗談じゃ?」
「じょ、冗談じゃないのよ? 今も呪いの影響は受けているし、抑え込むので必死だわ」
「信じられない」
「い、嫌ねぇ風舞くん。私は今まで風舞くんに嘘をついた事ないじゃない。呪いは本当にあるのよ?」
「へぇ、どんな呪いなんだ?」
「なんだか気分が乗らなくて、何もしたくなくなるわね。それと、なんとなく世界が憎い気がするわ」
「そんな引きこもりの心情みたいな呪いがあるか!」
「ほ、本当よ! 呪いは本当にあるのよ! だって着た瞬間に頭の中を虫が這いずるみたいな感覚があったもん!」
「ほう。それは大変じゃな。で、お主は妾達を心配させた罪をどう償うつもりなんじゃ?」
「つ、罪と言われても私は何も悪くないわけだし………」
「どの口がそれを言うんじゃ! もしもの時はお主の命を奪わなくてはならぬかもしれぬと考えた妾に責任を取れ!」
「そ、そんな事言われたって…」
「そうだぞローズ。舞だって悪気がなくて本当に呪いを受けたのかもしれないし、ここは赦してやろう」
「風舞くん!」
おお、舞がキラキラした目で俺を見ている。
そんなに感動したのか。そうか。
「そういえば話は変わるんだけどさ、舞のこの新しい鎧ってどのぐらい頑丈なんだろうな?」
「ふ、風舞くん? なんでそんなに悪い顔をしているのかしら?」
「おお、そういえばそうじゃったな。どれ、妾が直々に耐久力検査をしてやろう」
「あ、あのーローズちゃん? ほら、このまま魔法を撃ち込まれたら流石に避けられないんですけど…」
「避けてしまっては耐久力検査にならぬではないか」
「じょ、冗談よね? 流石にこの距離でサンダーランスを撃ち込まれたら私もただじゃ済まないっていうか…」
「冗談じゃないぞ? 本当に呪いがあるならその対価として強力なバフがかかっているかもだし、念のため舞が着ている状態でテストしような」
「ふっ。私の考えそうな言い訳を先回りして潰すなんて流石は風舞くんね! 愛してるわ!」
「そうか。俺も愛してるぞ」
「それじゃあ……」
「やれ、ローズ」
「うむ。食らうが良い! これが妾達の心配の心じゃ!」
「ちょ、ちょっと待って! 流石に魔力を込めすぎ! 込めすぎだからぁぁぁぁ!!」
その後、数十分ほど経った後にひと昔前の感電スタイルである黒焦げのアフロになった舞が目を覚ました事で、鎧の耐久力はかなりのものである事が証明された。
結局呪いがあるのかないのかは分からなかったが舞は新しい鎧を気に入ったみたいだし、舞自身がこの鎧が欲しいと言っているのだから問題はないのであろう。
◇◆
舞が俺達のお仕置きから目を覚ました後、俺達はリリエルさんにお茶をご馳走になっていた。
紅茶にしては発酵が進んでいないし、多分中国茶的なお茶だと思う。
「というわけで舞はこの鎧を気に入ったみたいなんですけど、本当にもらっても良いんですか?」
「良いですよー。私は鎧なんて着ませんしね!」
「しかし、この鎧はかなりの性能なのだし妾達に何か礼をさせて欲しいのだが…」
「お礼ですかー……それじゃあ、あの吸血鬼の姉妹に私をもうイジメない様にお願いして来てください!」
この女神、よっぽどローズとフレンダさんがトラウマなんだな。
そういえば俺も始めてローズに遭った時はものすごい殺気を向けられたし、フレンダさんにも恫喝されたっけ。
そんな事を考えていると、舞とローズが声を潜めて話を始めた。
「ねぇ、ミレンちゃん。用も済んだのだし、さっさと正体を明かして謝った方が早くないかしら?」
「それはそうなんじゃがこやつは曲がりなりも女神じゃし、混乱していきなり妾達を襲ってくるかもしれぬぞ?」
「リリエルさんってそんなにすごい女神なのか?」
「え? 私が何ですか?」
「いや、なんでもないです。引き続きお茶をどうぞ」
「あ、ありがとうございますー。はぁ、あったまりますねぇ」
やっぱり凄そうには見えないんだよなぁ。
威厳とか一切感じないし。
「おそらくじゃが、外の砂嵐はこやつの仕業じゃ」
「リリエルさんが? あの砂嵐、かなり強力だったわよ?」
「疑うのなら聞いてみれば良いじゃろ」
「それもそうね。ねぇ、リリエルさん。外の砂嵐ってリリエルさんが起こしているの?」
「砂嵐? あぁ、そうですよ! あの吸血鬼の姉妹に見つからないためのカモフラージュです!」
「カモフラージュ? 防御壁ではなくて?」
「あんな砂嵐じゃあの姉妹を止められませんってー。マイさんっておかしな人だなー」
「そ、そうね」
お、珍しく舞が押されている。
確かにリリエルさんって会話のテンポが読みづらいよな。
よく分かるぞ。
「リリエルさんにとってあれはただのカモフラージュらしいし、やっぱり黙っといた方が良さそうだな」
「そうみたいね。それじゃあ…リリエルさん、私達じゃその吸血鬼の姉妹にお願い出来なさそうだから、他に何かないかしら?」
「他にですか? ああ。それじゃあ、最近ここの近くにおっきい虫の魔物が住み着いたんで追い払ってください」
「それはリリエルさんじゃ追い払えない魔物なんですか?」
「そうですねー。私じゃ無理ですー」
あのとんでもない砂嵐を起こせるリリエルさんでも追い払えないほどの魔物か。
そんな強敵に俺達が敵うのか?
「その、魔物はそんなに手強いのかの?」
「いいえ。手強くはないですけど、気持ち悪いんですよねー。私、虫嫌いですし。ほら、思い出しただけで鳥肌が立ちました!」
「あぁ、そういう………」
要は害虫駆除を俺達にしろという事か。
女神様から伝説の鎧を貰うには何かしら試練があるものだし、多少気持ち悪い魔物と戦うぐらい我慢するとしよう。
はぁ、俺も虫は苦手なんだけどなー。
次回13日予定です。




