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クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...  作者: がいとう
第4章 微妙にクラスメイト達と馴染めていない気がするんですけど…
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62話 特訓開始

 


 風舞



「起きるのじゃフウマ。特訓の時間じゃ!」

「あいだっ!?」



 ローズによって地獄の特訓が宣告された次の日の朝、俺は文字通りローズに叩き起こされて目を覚ました。

 まだ日が昇っておらず外は真っ暗なのだが、ローズは舞と共に俺を見下ろしている。



「30秒で支度せい! 出来なければ罰を与える!」

「はいはい。すぐに着替えますよ」



 アイテムボックスから着替えを取り出し、さっさと着替えて10秒ほど残ったからついでに顔も洗って来る。

 よし、ぴったり30秒だな。



「ふん。命拾いしたの。では早速行くぞ!」

「行くってどこに?」

「訓練場じゃ。まずは基礎訓練から行う」

「りょーかい。ふぁぁ、超眠い」

「高音風舞。師に向かってその態度は何かしら?」

「舞?」

「貴方はこれから教えを請う立場なのだから、師を尊びなさい。武人としてその程度も出来ない様では話にならないわ」



 横を歩いていた舞が真剣な顔で正面を見ながらそんな事を言う。

 近ごろの舞からは想像も出来ない様な、凛とした鋭い視線の土御門舞がそこにいた。



「返事は?」

「は、はい! よろしくお願いします!」

「よろしい」



 思わず舞に見とれて返事が遅れてしまった。

 今日の舞はすごくカッコ良いな。

 そんな事を考えながらチラチラっと舞を眺めているうちに、人気のない訓練場にたどり着く。

 早朝の訓練場はいつもの埃っぽい空気とは打って変わって空気が澄み渡っていた。

 ん? 一人だけ知った顔がいるな。



「あれ? こんな朝からどしたん?」

「今日からこやつの稽古をするんじゃ。邪魔はせんから隅の方を使わせてもらうぞ」

「別に良いけど、稽古って何すんの?」

「まずは素振り千回からじゃ」

「了解」



 そうして俺は話を続ける明日香とローズを横目に素振りを始めた。

 へぇ、明日香は毎日こんなに朝早くから稽古をしているのか。

 見た目はギャルなのに、意外と真面目な事をやってたんだな。



「高音風舞。よそ見をせずに集中しなさい。一振り目よりもより速い二振り目を、二振り目よりもより鋭い三振り目を心がけるの」

「分かりました!」



 舞の指示に従って一回一回の素振りを集中して行う。

 そうしてただひたすらに剣を振っているうちに、上手くいった時と失敗した時で片手剣の鳴る音に違いがある事に気がついた。

 なるほど、これを意識していけばより上手く剣を振れる様になるのか。



「そう。その調子。風舞く…高音風舞はこれまで死戦の中で何度も剣を振るってきたから、自分の中に無駄のない剣の振り方がなんとなく残っているはずよ。それを思い出して己の技へと昇華しなさい」

「はい!!」



 レベルが上がるにつれてステータスは上がっているが、それでも剣の重みはしっかりと感じるしずっと剣を振っていれば疲れてくる。

 ステータスはあくまで俺に付随する力であり、俺の力の本質はこの肉体と精神の二つだ。

 だからこそ肉体を鍛えて継戦能力と筋力を上げ、精神を鍛えて集中力と技を磨く。

 集中力を鍛えなくては無駄の多い動きになって余計に疲れてしまうし、肉体を鍛えなくては疲労によって早々に集中が乱れてしまう。

 舞の指導と実体験により、素振りはその両方を鍛えるものである事がよくわかった。



「やめ! そこまでじゃ。1分休憩して次の訓練に備えよ」

「はい! ありがとうございました!」



 気がつけば千回の素振りが終わっていて、俺の全身からは汗が吹き出していた。

 ふぅ、やっぱり千回も素振りをすると腕がパンパンだな。

 最近は魔法を使って戦ったり、転移魔法でサポートに回ってばっかりだからフレンダさんの言っていた様に俺の筋力はかなり落ちているみたいだ。


 いくらステータスが高くても、筋力が落ちていては戦闘中に疲れやすくなるし高いステータスに体がついていかなくなる。

 今のうちにこうやって気が付かせてくれた事が、かなりありがたい事に感じられた。



「ねぇ、アンタっていつもこうやってこの二人に鍛えてもらってんの?」

「ん? 最近はずっと鍛えてなかったからそんな事ないぞ? 多分2ヶ月ぶりぐらいじゃないか?」

「それであの剣筋………やっぱりアンタうざい」

「そうかよ。今はお前に構ってやれるほど暇じゃないんだから放っておいてくれ」

「言われなくてもそのつもりだし!」



 明日香がそう言って去って行き、俺たちから離れたところで素振りを始める。

 あぁ、あれじゃあダメだな。

 もっと心を落ち着けて全身で剣を振らないと……。

 そんな事を考えながら整い始めた呼吸に集中していると、ローズから休憩終わりの合図がかかった。



「さて、次は妾との模擬戦じゃ。今の素振りを思い返しながらしっかりと剣を振るのじゃぞ」

「はい! よろしくお願いします!」



 師匠二人の教え方が良いからか、少しずつ自分が強くなっているのを感じる。

 叔母様にも転移魔法にかまけていてはダメだと言われていたし、先送りにしていたことがこうして達成されていくのは何とも清々しかった。

 さぁ、もっと強くなるぞ。




 ◇◆◇




 舞




 風舞くんの訓練の終わったあと、そのまま訓練場で彼と別れた私とローズちゃんは訓練場の隅のベンチに腰掛けながら先程の訓練の振り返りをしていた。



「何というか、風舞くんすごい真剣だったわね」

「うむ。真剣であるに越したことはないんじゃが、何だかのぅ」



 風舞くんは真剣に訓練を行い、短い時間でありながらも幾らかの成果を上げていた。

 私としても大好きな風舞くんが強くなるのは嬉しいし、私達の訓練に真剣に取り組んでくれた事は大変喜ばしい事なのだが……。



「なんだか寂しいわ」

「うむ。あそこまで真剣にやられてしまうと、妾達も真面目にやるしかないではないか」

「え? それって良いことなんじゃね?」

「いい訳ないでしょう! (ないじゃろう!)」

「えぇぇ、わけわかめなんだけど」



 やれやれ、こんな簡単な事も分からないなんて明日香ちゃんはダメね。

 だって…



「私はもっと風舞くんとイチャイチャしたいのよ!」

「妾だってもっとフウマと遊びたいんじゃ!」

「えぇ、だったら訓練じゃなくて普通に遊びに行けば良いじゃん」

「それはそうだけど、そうじゃないのよ!」



 風舞くんはあれでなんだかんだ真面目だから、ただ遊んでいるだけだとクラスのみんなの特訓を優先してしまうし、お姫様に呼び出されたら直ぐに応じてしまう。

 私と風舞くんの距離が近すぎるあまりに、ただ遊んでいるだけでは風舞くんにとっての日常的な安らぎの一部になってしまうのだ。

 それならばと思って風舞くんと一緒にいる時間を作る口実として訓練なんてものを持ち出したのだが……。



「そうよ。ミレンちゃんがもっと緩い訓練を用意すれば良かったじゃない」

「そうは言うがフウマにはもっと力をつけてもらいたかったんじゃから仕方なかろう」

「むぅ。ミレンちゃんは良いわよね。風舞くんとあんなに楽しそうに模擬戦が出来たんですもの」

「そう言うお主だってフウマが素振りをしている間穴が空くほどフウマを見つめておったじゃろう」

「そ、それを言うならミレンちゃんだってそうでしょう!?」

「ねぇ、ウチお腹空いたからもう行って良い?」

「ダメよ!」「ダメじゃ!」

「もう、相談があるって言うから付き合ってんのに、いきなりケンカとかしないでよぉ〜」



 明日香ちゃんが心底うんざりした顔で訓練場の天井を眺めながら足を投げ出す。

 仕方ない。明日香ちゃんの言うことにも一理あるし話を進めましょう。



「相談というのは風舞くんの事よ」

「でしょーね。で、ウチに何の用?」

「訓練を言い訳に風舞くんとイチャイチャしようと思ったけれど上手くいかないの。どうすれば良い?」

「そんなん適当に訓練って言って乳繰り合えば良いんじゃないの?」

「それはダメじゃ! お主だってあの真剣なフウマを見たじゃろう! フウマを裏切る事など出来ぬ!」

「だったらもっと緩い雰囲気でやれば良いっしょ? 二人とも訓練中一切笑わなかったじゃん。あれならフウマも嫌でも真剣になるって」

「確かにマイはフウマの呼び方も変えておったし、あれでは緊張させてしまったかもしれんな」

「そう言えば気になってたんだけど、何で呼び方変えたん?」

「だって、最初から風舞くんに訓練が口実だってバレたら駄目だからと思って真剣な雰囲気にしようと思ったのだけれど、風舞くんって呼ぶとどうしても顔の力が抜けちゃって、だから仕方なく…」

「仕方なくそのままだったって事ね」

「あぁ、どうしましょう! あんな無愛想な態度を取ったら風舞くんに不快な思いをさせちゃったわよね!?」

「わ、妾も訓練と称して少しやりすぎたかもしれぬ。あんなに何度も痛めつけて、フウマに嫌われてしまったのでは……」

「ねぇ。やっぱりウチ、もう行って良い? なんか知らないけど、二人の話聞いてると微妙にイラッと来るんだけど」

「はっ!? もしかして私達を置いて風舞くんを慰めに行こうとしているのね! 弱っている風舞くんにつけ込もうだなんてそうはさせないわよ!」

「なんじゃと!? お主、そういう魂胆じゃったのか!」

「はぁ。何でそうなるかなぁ」



 まったく、これだから幼馴染キャラは油断出来ないのよね!

 安心してちょうだい風舞くん!

 幼馴染キャラの毒牙からはこの私とミレンちゃんがなんとしても守り通してあげるわ!!




 ◇◆◇




 風舞




 ローズと舞による武術の修行を終えて朝食を食べた後、トウカさんとエルセーヌさんによる座学が始まった。

 今回はこの大陸に住む人族と魔族に関する授業をしてくれるらしい。



「オホホ。それではお疲れの事とは思いますが早速授業を始めますの」

「はい。よろしくお願いします」

「それではまず最初に、フーマ様は人族と魔族の違いがどこにあるか知っていますか?」

「肉体的には大した違いはなく、魔族は人族よりも魔物に近い見た目や特性を持っていると認識しています」

「よく出来ましたね。それではご褒美のキスを…」



 トウカさんがそう言って机に座ってノートを広げている俺に顔を近づけて来る。

 このエルフのお姉さん、密室だからって随分と自由だな。



「と、トウカさん。俺は真剣に勉強したいんで勘弁してください。また昨日みたいに俺がアホなせいで迷惑をかけたくないんです」

「ふふ。それでは授業を再開しましょう」



 そう言って俺から離れたトウカさんが黒板の前に歩いて行って、共通語で板書を始める。

 よし、集中だぞ俺。



「では今日の授業は魔族の中でも最も数の多い鬼についてからです」

「鬼ですか…」

「オホホホ。ご主人様は鬼についてどの程度知っていますの?」

「鬼は頭に白い角を生やした種族だって事ぐらいだな。見た目も力もほとんど人間と同じはずだ」

「それでは、何故鬼が人族ではなく魔族に分類されていると思いますか?」



 鬼が魔族に分類されている理由か。

 魔族は魔物に近い見た目や特性を持っているんだから、鬼にも魔物に近い()()を持っているはずだ。

 その()()が内面的なものとして有名な種族は他の人族や魔族から血を吸う吸血鬼で、その()()が外面によく出ているのが獣の姿をしたセリアン・スロープなのだが、鬼はどっちだろうか。


 俺が一番知っている鬼はエルセーヌさんの腕を落としたあのおっさんだが、外見に魔物に似た特徴は無かった。

 強いて言えば額に生えた白い角だが、ケモミミや尻尾の生えている獣人に比べれば魔族に分類されるほどの魔物よりの見た目ではないと思う。

 ともすればその人間によく似た肉体の内側に魔物に近い性質があるのかもしれないが、今までそんな話は聞いた事もないし、あのおっさんもそれらしい動きは一度も見せていない。


 え? なんで鬼は魔族に分類されてるんだよ。



「オホホホ。お手上げですの?」

「いや、もうちょっと待ってくれ」



 一度考え方を変えてみよう。


 この世界には人族と魔族という対立構造があるが、言い換えればそれは人種問題とも表現できる。

 人種問題は俺の世界にもあったように、人が生きる上でかなりの確率で生じる人の習性の一つだ。


 人種問題が生じる理由には数多くあるが、そのほとんどがコミュニティとコミュニティの対立によって生まれる。

 たとえば白人と黒人の対立、たとえば宗教と宗教の対立、例えば貧民と富裕層の対立など様々である。


 そしてその様な対立の人種問題が中々解決しないのは、人が歴史の上に生きる生物だからだ。

 人は対立の中で自分が受けた損害を忘れないし、その損害は親から子に、子から孫に言い伝えられる。

 つまり人種問題にとっての強大な敵は歴史とも言えるだろう。



「あぁ、そういう事か」

「答えが出ましたか?」

「はい。なんとなくですけど、一応考えはまとまりました」

「オホホホ。それでは早速聞かせてくださいまし」

「ああ。鬼が魔族に分類される理由は、そういう歴史があるからだ」

「オホホ。それでは答えになっていませんわよ?」

「そうだな。正直なところ、俺はなんで鬼が魔族に分類されているのかは分かってない。でも、鬼が魔族に分類されたのはその肉体や生態に魔族としての何かがあるからじゃなくて、人族と対立しているから魔族なんじゃないか?」

「もう少し詳しくお聞かせくださいませんか?」

「はい。まず最初に鬼の個体そのものに魔物っぽい何かがあるんじゃないかと思って考えてみたんですけど、そんな話は一度も聞いた事がないし、俺が会った事のある鬼にもそんな箇所は見当たらなくて、だったら鬼という個体がではなく鬼という種族が魔物に近い存在なんじゃないかと思ったんです。つまり、俺が知らないかなり昔に鬼が人族で一番多い人間と派手な戦争をしたんじゃないかって思ったんですよ。ほら、そしたら人間にとって鬼は自分達を襲って来る他の魔族と同じ存在になるじゃないですか」

「なるほど。しかし、人族の中でも人間と獣人の戦争や、人間と龍人の戦争も起こっていますよ? フーマ様の考えだと鬼だけが魔族に分類される理由がないのではありませんか?」

「言われてみればそうですね」

「オホホ。今度こそお手上げですわね?」



 エルセーヌさんがわざわざ結界を張って普段は見せない赤い瞳をのぞかせてまでニヤニヤと笑みを浮かべる。

 だが、俺は何もそこまで考えが及んでいないわけではなく、まだ言葉にしていなかっただけなのだ。



「いいや。数々の人種間の戦争の中で鬼だけが魔族に分類されている理由は、鬼だけが他の魔族と手を組んだからじゃないか? いや、この際魔族じゃなくても良いな。もしかすると悪魔だったり、それなりの知能を持っている魔物かもしれない」

「お、オホホホ。根拠は何かありますの?」

「確固とした根拠は無いんだけど、鬼は魔族の中で一番人口が多いんだろ? 当時がどうだったかは分からないけど、元からいた魔族からすると人口の多い鬼からの共闘の誘いは喜ばしい事なんじゃないのか? だったら少なくとも魔族側からは鬼が魔族に加わる事を拒む意見はあまり出ないはずだ」

「なるほど。フーマ様のおっしゃった事は一応筋が通っていますね」

「ち、違いますか?」



 教壇に立つトウカさんがじっと俺の顔を見つめてくる。

 こ、これはどっちなんだ?

 かなり緊張する。


 そんな張り詰める様な緊張感に鼓動を早めていたその時…



『おはようございますフーマ。真面目に勉学に励んでいますか?』



 昼前になってようやくフレンダさんがやって来た。

 い、いきなり声をかけられたからビックリしたぞ。



『ん? 何の授業をしていたのですか?』

「鬼がなんで魔族なのかって授業です」

『あぁ…それでは鬼人戦争の話でもしていたのですか?』

「はぁ…折角今からその話をしようと思っていたのに、フレン様は本当に間が悪いですね」



 そう言ってトウカさんがわざとらしく頰を膨らませる。

 おぉ、こういう子供っぽいトウカさんはなんだかかなりグッとくるな。

 普段が大人しくて上品なお姉さんって感じだからかかなり可愛らしい。



『ん? 何の話ですか?』

「何でも無いですよ。フレンさんはそのままマイペースでいてください」

『おい、フーマまでその様な態度をとるのですか?』

「オホホホ。なんだか気が抜けてしまいましたわね」

「そうですね。さて、先程のフーマ様の仮説ですが、ほぼ正解です。私やミレン様が産まれるよりもはるか昔に人間と鬼の間にかなり大規模な戦争があったと言われています。その際に鬼が他の魔族に協力を要請したというのも同様に有名な話ですね。ちなみにこれは補足ですが、エルフの里はその当時でも世界樹の周りに篭りっきりだったそうですよ」

「そうだったんですか。良かったぁ。あんだけ自信満々に話してて見当違いだったらどうしようかと思いましたよ」

「オホホホ。ご主人様が見当違いな事をおっしゃたら最後まで聞いた後に間違いを指摘して笑いモノにしてあげようと思っていましたのに、残念ですわ」

「マジでやめてくれよ。途中で鬼には角が生えてて悪魔っぽいから魔族なんじゃないかとも思ってたからかなり危なかったぞ」

「それも鬼が魔族に分類される理由の一つで間違いありませんよ。まぁ、その理由は鬼が魔族に分類された後に付けられた理由であると私は考えていますがね」

「へぇ、鬼が魔族に分類される理由が角だけじゃ弱すぎるかと思ってたんですけど、そういう話もあるんですね。ためになりました」

『ちなみに鬼人戦争は魔族の間での名称で、人族の間では人鬼戦争と呼ばれています』

「そっすか」

『おい! 私とトウカへの態度に違いがありすぎませんか!?』



 だって正直フレンダさんの話はトウカさんの説明に比べるとどうでも良かったんだもん。

 そりゃあ態度にも違いが出るってもんですよ。



「しかし、フーマ様はやはり賢いですね。まさかこれだけのヒントを頼りに正解を導き出せるとは思いませんでした」

「あんまり褒めないでくださいよ。俺としては昨日の醜態はそれなりに気にしてるんですから、褒められても素直に喜べません」

「いいえ。何もお世辞で褒めているわけではありませんよ。昨夜フーマ様が理解をするのに時間がかかったのはあまりやる気が無かったという点もありますが、一番は情報が、知識が足りなかったためだと私は思います。特に国と国との争いは経済や地理、果ては思想や歴史や文化にまで目を向けなくてはなりませんし、特にフーマ様は兵法はからきしですから、答えを導き出せないのも無理はありません」

「それは、そうかもしれないですけど…」

「ですが、だからこそ私達がいるのです。何もそう落ち込まなくとも、私達が時間をかけてゆっくりとフーマ様に私達の知識を授けます。フーマ様はその上で自分が最上だと思う答えを導き出せば良いのです。そして仮にそれでも答えが見つからない場合は、どうか私達にもフーマ様の答えを探すお手伝いをさせてください。それが私達年長者の義務であり、喜びでもあるのですから…」



 トウカさんがそう言って優しげな表情で微笑みを浮かべる。

 この人はいつもこうだ。

 いつも俺や舞を少し後ろから見守ってくれていて、困っていればいつでも俺達を支えてくれる。

 礼を言っても俺に助けてもらった恩返しをしているだけだと彼女は言うが、俺にとってはトウカさんにもらったものの方が遥かに大きなものである様に感じられた。



「よし、それじゃあ授業の続きをお願いします。エルセーヌさんもよろしく頼むな」

「オホホホ。ご主人様のお望みのままに」

『ふん。どうせ私はいつも除け者ですよ』



 やれやれ、構ってやらないとすぐに拗ねるんだから面倒な吸血鬼さんだな。



「フレンさんも頼りにしていますよ。元参謀さんの叡智を分けてくれたら嬉しいです」

『ほ、ほう。フーマの癖に私の叡智を授かろうとは生意気ですが良いでしょう。特別にこの私、大魔帝の妹にしてスカーレット帝国序列2位が直々に世界の深淵を覗かせてやりましょう!』

「はいはい。よろしくお願いします」

「ふふふ。それでは授業を再開しましょう。先程人鬼戦争という言葉が出ましたが……」



 こうして俺の地獄の特訓の二つ目の項目がゆっくりと、しかし着実に進んでいった。

 いつかこのお礼に先生達の望む景色のあるところへ俺の転移魔法で連れて行ってあげれたら良いな。

 そんな事を思った。




 ◇◆◇



 トウカ



 フーマ様への座学を終えて昼食を共にした後、マイ様の部屋に戻ると部屋の隅で眠るフレイヤにちょっかいを出そうとしていたマイ様を見つけました。

 おや? ローズ様もいらっしゃる様ですが、お二人とも元気がありませんね。



「ミレン様、何かあったのですか?」

「おお、トウカか。お主はどうじゃった?」

「どうとは?」

「決まっておろう、フウマの事じゃ」

「フーマ様ですか? 非常に積極的に授業に取り組んでいましたし、大変良い傾向だと思いますよ?」

「やはりか」



 ローズ様はそう言うと顎に手を当てて考え事を始めてしまいました。

 邪魔してしまっても申し訳ないですし、続きはマイ様にお聞きする事にしましょう。



「マイ様方はどうでしたか? 訓練は上手くいきましたか?」

「ええ。上手くいったわ。むしろ上手くいきすぎたわね」

「というと?」

「風舞くんたら、ものすごく真剣に訓練に取り組んでてほとんど私に構ってくれなかったの。構ってもらおうにも邪魔したら申し訳無いし、かなりフラストレーションが溜まったわ」

「そうですか。それは大変でしたね」

「そう言うトウカさんはどうなのかしら?」

「私達の方もフーマ様はかなり真剣でしたが、私はフーマ様のお力になれればそれで満足ですのでマイ様の様に欲求不満にはなっていません」

「嘘おっしゃい。あんなエロポエムを書く貴女が欲求不満にならないわけがないわ! 本当はエルセーヌと一緒に風舞くんと組んず解れつしたんじゃないの!?」

「いいえ。近頃私はフーマ様と疎遠でしたので、共に時間を過ごせただけでとても満たされました。確かにフーマ様と組んず解れつしたいという願望はありますし、フーマ様をからかうのは好きですが、私はいつの日かフーマ様の方からあれやこれやしていただきたいのです。ですのでマイ様の様に積極的に詰め寄りたいとは考えておりません」

「ぬぅぅぅぅ。トウカさんのむっつりスケベ! 大人の女!! 包容力の塊!!」

「それ、褒めているのですか?」

「褒めてないわよ!」



 やれやれ。やはり我が主人もまだまだ子供ですね。

 ですが、それでも彼女の真っ直ぐなところは大変好ましく思います。


 さて、ここからはフーマ様のやる気が切れるのが先か、マイ様とローズ様の我慢の限界が訪れるのが先か楽しみながらフーマ様の授業に幸福を感じつつその時を待つとしましょう。

 そしてあわよくば訓練かマイ様に疲れたフーマ様を誘い出してあれやこれやを……。


 ふふふ。

 その時までは私も忍耐ですね!

次回5日予定です

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