【番外編】クラスごと異世界転移して付きな女の子と一緒に別行動していたら、ナイチチの吸血鬼と貧乳のエルフと正月を迎えたんですけど…
風舞
白い世界とは俺の魂を表す世界らしく、ざっくり言えば俺の精神世界である。
そんな純真無垢な俺の心の内を表した白い世界にはフレンダ・スカーレットというスカーレット帝国の魔王の妹にしてナイチチの吸血鬼さんが居候しているのだが、とある日にそんな彼女からこんな事を言われた。
「おいフーマ。正月がやりたいです」
「はい?」
「ですから、正月がやりたいです」
「はぁ……?」
俺の耳がおかしくなったのか翻訳スキルがおかしくなったのか疑いもしたが、どうやら聞き間違いではないらしい。
ランバルディア共通語というスキルはエルフの里でスキルや魔法を封じる手枷をつけられた時でも無効にはなっていなかったし、そう簡単にはバグらない様だ。
「ってそうじゃなくて、なんで正月?」
「はぁ、相変わらずフーマは愚鈍ですね。私がフーマの世界の風習に興味を持つとしたらお前の記憶を追体験した以外の理由などないでしょうに」
「つまり正月の俺の記憶を見て興味を持ったと?」
「はい。最近はフーマに負けっぱなしでストレスがたまっていましたし、たまにはこういった趣向も良いかと思ったのです」
「さいですか」
そりゃあフレンダさんも負け続きだとストレスも溜まるよな。
まぁ、だからと言って手加減しようとは思わないけれど。
「それで正月をやってくれるのですか?」
「はいはい。フレンダさんにはお世話になってますし付き合いますよ」
「おい。それだと私が駄々をこねて仕方なくフーマがそれに付き合っているみたいではないですか」
「事実そうでしょう?」
「………うるさいですよ」
自分でもそう思ってしまったのか、フレンダさんがそっぽを向きながらボソッとそう言う。
やれやれ、相変わらず素直じゃない吸血鬼さんだ。
「それじゃあ年が明ける30分ぐらい前からで良いですか?」
「はい。それでお願いします」
かくして、俺とフレンダさんの年末年始が始まった。
俺の記憶を見てきただけあって正月が何なのかはざっくり理解しているみたいだし、適当に色々こなしていけばフレンダさんも満足してくれるだろう。
「さてフレンダさん。昨年はどうでしたか?」
「どうとは?」
「だから何かやり残したこととか何か心配したこととか、逆に嬉しかったこととか楽しかったこととかないですか?」
「そう言われても特には浮かびませんね」
「えぇ…例えば世界地図を作り終わらなかったとか、話数が多すぎてキャラクター紹介が書き終わらなかったとか、夏頃にやったキャラクター人気投票の結果が絵を描くのがスランプになったせいで未だに発表できてないとか色々あるでしょう?」
「訳が分かりません。世界地図だとかなんだとか、何の話ですか?」
「ちなみにフレンダさんはトップスリーに入ってたそうですよ。良かったですね」
「だから何の話ですか。これ、本当に正しい正月なのですか?」
「ええ。年末には一年を振り返って来年の目標を立てたりするんです。例えば俺だったらフレンダさんの体を来年こそは取り戻したいとか…」
「ほう。フーマにしては良い心がけではありませんか。では、今年の私はフーマを躾しきれなかったので、来年こそはフーマをいっぱしの男にしてみせましょう」
「なるほどなるほど。フレンダさんは来年こそはおっぱいを大きくしたいんですね。先の見えない目標だとは思いますけど頑張ってください」
「おい。私のおっぱいは大きくなります。これは確定事項です」
「は、はい。そうっすね」
何もそんなに真剣な顔で言わなくても良いじゃないですか。
もしかしておっぱいが必ず大きくなるって自分に暗示でもかけてるのか?
まぁ、フレンダさんのおっぱいが大きくなろうとなるまいとどっちでも面白そうだから良いんだけどさ。
「さてフレンダさん。そろそろ年越しです。ここからが正月ですよ」
「おお、ようやくですか」
「はい。あ、たった今年が開けました。あけましておめでとうございます。昨年中は多大なる御厚情を賜りありがとう存じます。本年もどうぞよろしくお願いいたします」
「は、はい。あけましておめでとうございます。こちらこそどうぞよろしくお願いします」
正座をして頭を下げた俺を見てフレンダさんも後に続く。
さて、新年の挨拶をしたら次は……。
「それじゃあフレンダさん。お年玉をください」
「…? お年玉とはなんですか?」
「いつの俺を見たのかは知りませんが、このぐらいの封筒みたいな袋をもらっていたでしょう? あれにはお金が入っているんです。まぁ、ざっくり言うと新年に大人が子供にあげる年に一回の特別なお小遣いですかね」
「なるほど。しかし私は金銭の類は持っていないのですが…」
「ああいうのは気持ちが大事なんですよ。ポチ袋のポチはこれっぽっちしかないけど、どうぞ気持ちだけでものぽっちから来てるって話もありますからね」
「でしたら…」
「しかし、子供は大人をよく見ているものでお年玉次第でその年のその大人に対する態度が変わります。雑にハンカチなんか渡された年には一年間口をきいてもらえないかもですね」
「うっ、それは困ります」
ドレスの中からハンカチを取り出そうとしていたフレンダさんがふと思い止まり動きを止める。
さて、フレンダさんは一体何をくれるのかね。
「お、おいフーマ。非常に申し訳ないのですが、お年玉はまたの機会にしてくれませんか?」
「えぇぇ。お年玉欲しいんですけど。今すぐ欲しいんですけど。お年玉でポケ◯ンの新作買うつもりだったから友達に冬休みが終わったらポ◯モンバトルしようぜって言っちゃったんですけど」
「ポ◯モンとはなんですか?」
「いや、こっちの話です。それより、何かないんですか?」
「私もフーマに何かあげたいのですが、あいにく私の所持品はこのドレスとハンカチと指輪とピアスとネックレスしかありませんし」
「その中からハンカチを渡そうとしたフレンダさんはかなりケチぃと思いますけど、そう言うなら勝手にもらいます。そりゃ」
「え? 一体何を………ぬあっ!?」
おぉ、やった事無かったけどやってみれば出来るもんだな。
まぁ、この白い世界ではフレンダさんのスキルとか魔法とかを奪えるんだから身につけているものを奪うなんて簡単か。
今日もフレンダさんのおパンツは美しい。
「お、おいっ!! いきなり何をするのですか!!」
「そんなに慌てなくてもストッキング履いてるんだからいいじゃないですか」
「良い訳ありますか!! 今すぐ返しなさい!」
「えぇぇ。でも、このパンツをくれるんなんら今年一年フレンダさんの言うことは何でも聞いちゃう気がするんだけどなぁ。パンツ欲しいなぁ」
「な、何でも……いえ! やっぱり返してください! それは今の今まで私が履いていたものですよ! 汚いですよ!?」
「ふふふ。フレンダさんに汚いところなんてありませんよ」
「そ、そういう歯の浮くセリフは私に言うものではないでしょう! 良いですから早く…」
「はいはい。そう言うなら、ほいっと。これで良いですか?」
「良い訳……この服はなんですか?」
「着物ですよ。日本人は新年をその格好で過ごします」
「それは分かりましたが、とりあえず下着を返してください」
「え? 着物を着るときは下着のラインが出るから履かないんですよ? まさかフレンダさんともあろうお方がご存知でない?」
「ご、ご存知に決まっているでしょう! やれやれ、見くびってもらっては困ります」
チョロすぎるよフレンダさん。
今時は下着のラインが気になるならTバッグとかを履くし、ガチで和服を着るときも湯文字っていう下着を裾除けの下に着るもんなんだよ。
まぁ、湯文字はパンティみたいにクロッチがないからフレンダさんにとっては下着を履いてないのと変わらないんだろうけどさ…。
「それじゃあ次は初詣に行きます」
「はつもうでとは何ですか?」
「神社に行って今年もよろしくって神に挨拶に行くおもしろイベントです」
「フーマの世界の神は随分と身近な存在なのですね」
「まぁ、そうですね。日本の神社の数はコンビニよりも多いなんて話も聞いたことありますし、意外と身近っちゃ身近だと思います」
「おい、今日のフーマはなんだかうんちくを話しすぎではありませんか?」
「今年の俺はインテリ路線でいこうかと思いまして」
「ぷっ。今のはかなり面白かったですよ。あのフーマがインテリですか、ぷぷっ!」
この吸血鬼、マジで笑ってるよ。
失礼な吸血鬼だな。
「ほら、ちょうど神社も建て終わったんで早く行きますよ。まずは鳥居の前で一礼です」
「なぜ私が礼をしなくてはいけないのですか?」
「相手は神様ですからね。頭を下げて当然です」
「私は神に対して基本的に良い感情を持っていませんし、私が頭を下げる相手はお姉様だけです」
「あぁもう! 話が進まないんでさっさと下げてください。はい、一礼!」
「ぬわっ!?」
フレンダさんの体を無理やり操って腰を九十度に曲げさせる。
やれやれ。この調子で無事にお参りできるのか?
「おいフーマ! いきなり何をするのです!」
「ほら、騒いでないで次は手水をとってください」
「今度は何をしろと?」
「そこで手を洗って口をすすぐんですよ」
「ここで私に手を洗って口をすすげと? 私が手を洗うのは…」
「それさっきも聞きました。ほら、左手、右手、口、左手。これでばっちいフレンダさんも綺麗になりましたね」
「ですからいきなり私の体を操らないでください!!」
「正月がやりたいって言ったのはフレンダさんでしょう? ほら、そんなに慌てて走ると転びますよ? 着物は小股で慎ましくです」
「くっ。まさか正月がこんなにも面倒なものだとは思いませんでした」
「正月の楽しいところはこれからですよ。ほら、次は本殿でお参りです」
「また面倒な作法があるのですか?」
「大丈夫ですよ。心配しなくても俺がフレンダさんを操ってあげますから」
「いえ。今度こそ自分でやります。フーマとの楽しい正月のためならこの程度の苦行にも耐えてみせましょう」
「別に苦行ってほどではないんですけど…。とりあえず階段を上って軽く頭を下げてお賽銭です」
「おさいせんとはなんですか?」
「神様に対する供物ですね。これも気持ちの問題なのでいくらでも良いんですけど、今回は特別にフレンダさんの分も出しておいてあげます」
「フーマの癖に気が利くではありませんか」
「そりゃどうも。ほら、これをそこの箱に入れてください」
「これは何ですか?」
「何って、バニーフレンダさんの8分の1スケールフィギュアですけど?」
「なんでそんな物を神への供物にするのですか!!」
えぇぇ。だってすごく出来が良いんだよ?
神様だって五円玉よりもこっちの方が嬉しいんじゃないか?
「まぁまぁ。今回はあくまで体験なんで気にしなくて良いじゃないですか。それより、まずは二礼です」
「はぁ、分かりました。二礼ですね」
フレンダさんがそう言って二度頭を下げる。
よかった。流石に二本の光線を出すほどぶっ飛んではいなかったらしい。
「そしたら次は胸の前で手を合わせて、右手を少し手前に引いて二拍手」
「はい」
「その次はいよいよお祈りですね。好きな人と恋仲になれます様にとか、無病息災とか、フレンダさんだったらおっぱいが大きくなりますようにとか願います」
「何故私が胸が大きくなる様に願うのかわかりませんが、取り敢えず祈るとしましょう」
フレンダさんはそう言うと、かなりの気迫とともにお祈りを始めた。
ん? 何かブツブツ言っている気がする。
「今年こそは胸が大きくなりますように。お姉様ほどとは言いませんから、せめてトウカよりは大きくなりますように」
……が、頑張れフレンダさん。
俺もフレンダさんの胸が大きくなる様に願っておこう。
「ふぅ。ありがとうございましたフーマ。なんだか気持ちが引き締まった気がします」
「そ、それは良かったです。それじゃあ最後におみくじを引きましょうか」
「おみくじですか。それは聞いたことがありますね」
「それじゃあこっちへどうぞ」
よし、おみくじの中身は俺がいじり放題だし、フレンダさんにはなんとしても大吉を引いてもらおう。
そう思って俺の地元の神社の通りにおみくじの売っている建物までやって来たのだが……。
「ようこそいらっしゃいました」
「おいフーマ。何故ここにトウカがいるのですか?」
「いや、俺にも分からないです」
何故かおみくじの販売位置にトウカさんがいた。
もしかしてまた俺に夜這いをかけて来たのか?
「ふふふ。何やら楽しそうな事をなさっている様でしたので、私も混ぜていただこうかと思いまして」
「ダメです。帰りなさいトウカ」
「まぁまぁ。正月なんですからそうカリカリしないでくださいよ」
「はぁ、仕方ありませんね。フーマ、トウカも着替えさせてやりなさい」
「うっす。ほいっと」
「ありがとうございますフレンダ様、フーマ様。こんなに素晴らしいお着物を着たのは初めてです」
おぉ、フレンダさんもそうだけど、トウカさんもスレンダーだから着物がよく似合うな。
ってあれ? ちゃっかりトウカさんのおパンツも奪ったのに何の反応もしないな。
「さてと、それじゃあおみくじを引きますかね」
「そうですね。ではフレンダ様。まずそちらから数字のついた棒を一本引いてください」
「これですか?」
「はい。あぁ、そうそうフーマ様。私はズルは嫌いですからね?」
「はぁ、分かりましたよ。ちゃんとバランスよく入れておきます」
「ん? 何の話ですか」
「なんでもないですよ。ほらフレンダさん。さっさと引いてください」
「はいはい。分かりましたから急かさないでください」
フレンダさんがそう言ってガラガラと箱を流しながら数字の書かれた棒を引き、俺とフレンダさんがその後に続きいて、それぞれの番号の引き出しからおみくじを取り出す。
さて、おみくじの結果はどうかねー。
「あ、大吉」
「やりましたねフーマ様。私は中吉でした」
「おお。フレンダさんはどうですか?」
「読めません。これは何と書いてあるのですか?」
そう言ってフレンダさんが持って来たおみくじには、凶と書いてあった。
あちゃあ、凶は1パーセントしか入れてないけどよりにもよってそれを引いちゃったのか。
なんだかさっきフレンダさんが真剣にお祈りしていたのを見たからおみくじの結果を伝え辛い。
「おい、どうかしましたか?」
「えぇっと。末吉ですね。良くはないけど悪くはないです」
「フーマ様。嘘はよろしくないですよ。フレンダ様が引いたのは凶です。どうやらこの一年はフレンダ様にとってあまり良くない年になりそうですね」
「そうですか」
「え、ええっと。これはあくまでおみくじで占いなんで凶でも大丈夫ですよ! それにほら、俺は大吉ですからフレンダさんが凶でもここにいたらきっと大丈夫です!」
「ふふ。ありがとうございますフーマ。そうですね。私にはフーマがついているから大丈夫です」
フレンダさんがそう言って優しげな表情で笑う。
どうやら気を使わせてしまったみたいだが、一先ずは笑顔になってくれて良かった。
「まぁ、フーマ様が気になさらずともフレンダ様は凶悪な吸血鬼ですから何の問題もありませんよ」
「おや? トウカも私を慰めてくださるのですか?」
「いいえ。ただ私はフーマ様の味方なだけです」
「そりゃどうも。ほら、初詣も済みましたしそろそろコタツに入りますよ」
「今度はコタツですか?」
「はい。正月はおせちをつつきながらコタツでのんびり。やっぱりこれが一番です」
「ふふ。愚鈍なフーマらしい生産性のない過ごし方ですが、今日はフーマの言う通りにするとしましょう」
「そうですね。たまには勝負せずにゆっくり過ごすのも良いかもしれません」
そうしてフレンダさんの思いつきから始まった正月はゆっくりと過ぎていき、かなり和やかな時間を過ごせた。
おお、フレンダさんのおパンツもトウカさんのおパンツも素晴らしい手触りだな。
「ふふふ。もしフーマ様がお望みでしたらあちらでも差し上げますよ?」
「え、遠慮しておきます」
「ん? 何の話をしているのですか?」
「ふふ。そうですね…強いて言えばお年玉の話でしょうか」
「お年玉? そうでした! おいフーマ! 私の下着を返しなさい!!」
「ぬわっ!? いきなりコタツの中から蹴らないでください!」
「ふふふ。相変わらずフーマ様は可愛らしいお方ですね」
トウカさんがそう言っていつも通りに笑みを浮かべ、俺はフレンダさんに小言を言われながら口を回し続ける。
きっとこれからも白い世界はこんな感じでガヤガヤといくのだろう。
俺はフレンダさんのおパンツとトウカさんのおパンツを両手にそんな事を思った。
今年最後の投稿です。
一年間ありがとうございました。
2020年もクラまおをよろしくお願いします。
次回投稿は元日です!




