23話 ロリコンの弱点
風舞
皆は合コンとかお見合いの経験はあるか?
俺にはないが聞いた話によると、あれは自己紹介を通して相手との相性を確認し、相性が良ければその仲を深めていくためのものらしい。
趣味について聞いてくる相手は自分と仲良くなりたい人の可能性があるそうだから覚えておくと良いと思うぞ。
さて、現実逃避はこのくらいにして俺の現在の状況を確認してみよう。
まず俺の隣に座る弱体化した魔王ローズ・スカーレットだが半べそで俺の腕に抱きついている。
これはもちろん戦力外。
次にローズの正面に座る女騎士シャーロットさんはローズに熱い視線を向けながら、俺の方をもの凄い顔で睨んでいる。
この人が今回の騒ぎの原因。
最後にそのシャーロットさんの隣にいる土御門舞は笑いを堪えて震えている。
こいつは愉快犯。
………味方がいないじゃねぇか。
マジでどうすんだよこの状況!!
◇◆◇
風舞
シャーロットさんが頼んだ飲み物が届いた後、ローズの気を俺が少しだけ直してなんとか再度乾杯をした。
ローズはもうべそをかいてはいないが、俺の腕を両手で掴んだままシャーロットさんに敵対心を剥き出しにしている。
「それで、なんでお主がこんなところにおるんじゃ!?」
「それはだねミレンたん。守衛の仕事が終わって食事をしにこの冒険者ギルドの酒場に来てみたら君を見つけたから愛を深めようと思ってここまで来たんだ」
そういえばシャーロットさんも冒険者登録していたんだっけか。
それなら安く食えるここまで来るのも頷ける。
そんな事を考えていた所でシャーロットさんから鋭い視線が飛んできた。
「ところで、そこのお前。名をなんと言ったか」
「フーマです」
「では糞虫。お前いつまでそこに座っているつもりだ? ミレンたんが穢れるだろう?」
あれ?
俺ちゃんと名乗ったよな?
フーマって言ったと思ったんだが。
「俺もそうしたいのはやまやまなんですが、見ての通りミレンが離してくれないんです」
「な、フーマ!? 妾を見捨てるのか? 妾を一人にせんでくれ!」
「貴様ァ! ミレンたんを毒牙にかけようというのか!!」
「どこをどう解釈したらそういう発想になるんだよ!!」
ガチのロリコンのシャーロットさん…もうシャーロットでいいか…は俺の話を一切聞かないどころか現実を捻じ曲げて解釈しているようだ。
こんなんどうしようもなくね?
「おい糞虫! ミレンたんを泣かせるとはどういうことだ!」
「お前のせいだよ!」
「ブフッゥ」
舞は飲みかけていた水を吹き出しながらも笑いを堪えている。
ああもう、凄い疲れる。
「なあフーマ。妾を見捨てないで欲しいのじゃ。どこにも行かないで欲しいのじゃ」
「ああ、わかったよ! どこも行かないから泣かないでくれ!」
「うむ。フーマが一緒なら妾は泣かぬ!」
そう言ってにっこりと笑うローズ。
あらやだこの娘、すごく可愛い。
俺の父性がこれまでになく刺激されている。
とても千歳を超える奴には見えない無邪気な笑顔だ。
「おい! 何度言えば解る! ミレンたんを穢すな!!」
シャーロットが青筋を浮かべて立ち上がり、俺の方を指差して怒鳴った。
余りにも大きな声のため周りの人が注目している。
ちょっと、恥ずかしいからそんなに騒がないでくれよ。
っていうか、誰か助けて。
と思って周囲を見回した時俺は一筋の希望の光、ウサミミを見つけた。
「おーい。ミレイユさーん! ちょっとこっちに来てくれ!!」
「あ、フーマさん。どうしました? 私は今日のお仕事もやっと終わったので帰ろうと思ってたんですけど」
俺の必死な呼びかけにミレイユさんが応じて来てくれた。
よし、これでなんとかこの窮地を脱せるかもしれない。
「疲れてるところすみません。それがちょっと困ったことになりまして…」
「困ったことですか?」
「はい。実はこのシャーロットとかいう女騎士が俺達が初心者冒険者なのをいいことにイビってくるんですよ」
「な!?」
ふふふ。どうだシャーロット。
ガチのロリコンのお前とて権力の前には敵わないだろう。
「え、本当ですか?」
「うむ。こやつ妾の事を連れ帰って食べてやると脅してきおった!」
ここぞとばかりに助長するローズ。
強くなったな。
お父さんちょっぴり嬉しい。
「ふむ。それが本当なら降格若しくは除名の処置を取らなくてはいけませんね」
「そ、そんな」
「まあ、とりあえずは貴女の上司であるゲルマンさんに今回の事を報告するのが先でしょうか」
そう言ってすごく冷たい目をシャーロットに向けるミレイユさん。
凄いな。
怒った時の舞と同レベルの怖さじゃないか?
「ぐ、ぐぐぐ。お、覚えてろよ糞虫!! それとまた会いに来るからねミレンたーーん!!」
そう言って分が悪くなったシャーロットは走り去って行った。
三下みたいな捨て台詞だったな。
「二度と来んな!!」
「いやぁ、本当に助かりましたミレイユさん」
「うむ。お主は妾の命の恩人じゃ」
「いえいえ、私は皆さんの専属なんですからどんどん頼ってくださいね!」
そう言ってにっこりと微笑むミレイユさん。
凄い頼りになる姉みを感じる。
「そうじゃ、夕食がまだなら奢らせてくれ!」
「そんな、悪いですよぉ」
「妾はお主に礼がしたいのじゃ!」
「うーん。それじゃあ、お言葉に甘えますね」
「うむ!どんどん注文するがよいぞ」
そうしてシャーロットが座っていた席にミレイユさんが座って夕食を再開した。
「なあ、ところで舞」
俺の声に俯いていた舞がビクッとする。
「な、何かしらフーマくん」
「お前、よくも面倒な状況にしてくれたなぁ」
「わ、私、今日は疲れたから先に帰ってるわね」
「まあ待つのじゃマイム。妾達ともう少し話そうではないか。どうせ明日は休みなんじゃ。構わんじゃろう?」
ローズがそうニッコリとした顔で言って立ち去ろうとした舞を再度座らせる。
俺はローズに頼まれて脇に置いてあったリュックからロープを取り出し舞を縛りあげると、そのロープにローズが強化魔法をかけた。
「ふふふ。無限ウサミミ耐久の刑じゃ」
「や、やめてちょうだい!」
「え? 私ですか?」
舞が顔をさーっと青くし、注文をしていたミレイユさんがキョトンとした顔をした。
◇◆◇
風舞
「えいっ。えいっ! こんな感じですか?」
「うむ。いい感じじゃ。その調子で頼むぞ」
ミレイユさんがローズに頼まれてウサミミを交互に舞の顔の前で揺らす。
舞はそのウサミミをモフりたいがロープに縛られているため動けない。
「こんな、こんなのあんまりよ! 人間がする事じゃないわ!」
「ふん。妾は人間じゃないからの」
モフリストの矜持でミレイユさんの耳をモフることを禁じていた舞には、この目の前で揺れる届かない誘惑は結構堪えるらしい。
「お願い。私が悪かったわ! だからモフらせて! モフらせてよぉぉぉぉぉ!!」
懇願する舞を眺めながら俺達は楽しい夕食の時間を過ごした。
悪は絶対栄えない。
それが証明されたいい夜だった。
「あのー。私はいつまで耳を振ればいいんでしょうか?」
「うむ。悪いがもう少しだけ頼むぞ」
「ふえぇ。お腹空きましたよう」
マジすんませんミレイユさん。
…3月4日分 2話目




