59話 建前マシマシ
風舞
作戦会議を終え、洞窟というか魔物の巣穴から出てキングアクアエレメンタルウルフの元へ向かう。
先程のローズの言葉では川で水浴びをしているとのことだったが、俺たちが30分ぶりぐらいに戻ってもまだ川にいたらしい。
いたらしいと言うとまるで人に聞いたかの様に聞こえるが、事実俺はキングアクアエレメンタルウルフが川で水浴びをしているところなんて見ていないのだからそう言うのが正しいだろう。
「ちょ、ちょちょちょちょっと! 一撃目は舞とミレンとトウカさんで雷魔法を打ち込むんじゃなかったのかよ!?」
「言っても仕方ないでしょ! それよりこの後はどうすんだっけ!?」
「舞とミレンとトウカさんでキングのヘイトを稼いでもらって、俺たちは隙があれば出来る範囲で攻撃、眷属が出てきたらその駆除だ!」
『おいフーマ! 早速出番ですよ!』
フレンダさんのその声とともに、キングエレメンタルウルフの眷属が木々の間を縫うように走ってというか飛んでくる。
俺の横ではローズと舞とトウカさんがキングエレメンタルウルフの注意を引きながら森の中を縦横無尽に駆けまわっていた。
ローズと舞は持ち前のセンスで、トウカさんはエルフとしての才能で木々に囲まれたフィールドを自分にとって都合が良い領域であるかの様に地を蹴り木々を蹴り戦っている。
「すごいすごいとは思ってたけど、あの3人本当にすごいね」
「すごい以外にまゆちゃん先生のボキャブラリーがない事はよく分かりましたから、今は目の前の敵に集中してください! ファイアーランス!!」
「分かってるって! 光よ、かの者に祝福を! ホーリーライト!」
「ありがとうございます先生! ヘッドストライク!!」
「ウチも! ウインドボール!!」
俺の攻撃に続いてまゆちゃん先生の支援魔法そ受けた天満くんと明日香がそれぞれ眷属に攻撃する。
しかし…
「なっ!?」
「はやっ!?」
二人の攻撃は俺の火魔法同様に眷属の足を止める事なく、その隙をついて数匹の眷属が俺たちに左右から挟撃を仕掛けてきた。
『フーマ!!』
「させるかよ!!」
前衛に立っていた明日香と天満くんを転移魔法で真上に離脱させ、そばにいたまゆちゃん先生を抱き寄せてアイテムボックスからボロ槍を取り出して振り回す。
「ちょっと変なところ触んないでよ!」
「……先生って意外と良い胸してますね。ちょっと見直しました」
「この変態!!」
そんな事をまゆちゃん先生と話しつつも俺は空間断裂を付与した槍で水の狼の群れを牽制し、まゆちゃん先生はその間に俺に出来る限りのバフをかける。
おぉ、バフがかかるだけで空間断裂の威力がこんなにも変わるもんなのか。
「ちょっと風舞! あんたこんな時に何やってんの! ファイアーランス!!」
「やぁ、高音くん。助かったよ」
そうこうしているうちに前衛二人が上から降ってきて俺とまゆちゃん先生の攻防に加わる。
その様子を見た眷属たちはこのまま突っ込めば手痛い反撃をもらうと考えたのか、俺たち四人から距離をとって周囲を囲み始めた。
「ここまで戦ってどうだ?」
「魔法を撃ち込んでも効いてんのか効いてないのか分かんなくて結構ダルい」
「剣で切ってみた感触もそんな感じかな。なんだか硬いゼリーを斬りつけたみたいだったよ」
「でも動きは目で追える範囲だし、隙を見せずに手堅くやれば勝てる気はするね」
「手堅くですか……」
「なに? 高音くん、文句でもあるの?」
「敵がこいつらだけなら無いんですけど、本命はあっちのデカブツです。正直な事を言うと、こうして俺たちが取り囲まれている時点で結構押されてるんですよね」
キングアクアエレメンタルウルフは眷属を出そうと思えばまだまだ出せるだろうし、現在あっちでキングを相手にしているローズ達がそれに囲まれたら俺たちの役割は失敗に相違ない。
俺たちはあくまであの3人のサポート役であって、眷属と戦っていればそれで良いという訳ではないのだ。
「ねぇ、さっきからシルビアさんの気配を全然感じないけど、本当に上手くいってんの?」
「あぁ? 俺のシルビアが信じられねぇのか?」
「そういうんじゃないし。ていうかなんで急にキレたし。こわ」
「ははは。シルビアさんは僕も目標にするぐらい強いから何の心配もいらないよ」
「さすが天満くん。分かってるぅ」
『やれやれ。フーマはシルビアのこととなるとやはり面倒ですね』
今回の作戦の要は間違いなくシルビアと言って良い。
初めは俺が自分でその役割を全うする予定だったのだが、珍しくシルビアが自らその役を買うと立候補してくれたのだ。
それならば主人として従者を信じて任せるほかにあるまい。
「さてと、とりあえずはこの包囲網を抜けて舞たちの援護に行くぞ」
「了解! 僕が敵を切り開くから任せておいて!」
「それじゃあウチは邪魔する奴をぶっ飛ばす」
「私はみんなを支援するね!」
『おや? これではフーマの役割が無いのではありませんか?』
「俺は………危なくなったら俺が何とかするから任せてくれ! それじゃあ行くぞ!」
「「「おう!!」」」
背中合わせに話していた俺たちはそうして一斉に走り始めた。
シルビア、俺はシルビアの事を信じているけれど、無事でいてくれよ!
頼むから怪我はしないでな!
◇◆◇
シルビア
「分かった。任せたぞシルビア。俺はお前ならやれば出来ると信じている。シルビアはいつだって…」
作戦会議の最中、私は今回の作戦の肝となるであろう部分をフーマ様に任せていただく事になった。
フーマ様は私をいたく信用してくださっているのか、アスカ様に叱られつつも私を信じているという旨を長く言葉にしてくださった。
「頑張らないと」
私は他の皆様の戦闘の気配を感じながら次のポイントに向かうべく移動を始める。
私がフーマ様に任せていただいた任務はフーマ様が空間魔法をお使いになるためのゲートの枠の設置だ。
元々は気配遮断を覚えているフーマ様がご自身でこれをなさるつもりだった様だが、ドラゴンの巣に気付かれずに潜り込んだ経験のある私が立候補したらこの大役を任せてくださった。
雨の降る渓谷は普段の様に鼻が聞かず周囲の気配をなかなか感じ取れないが、それでもフーマ様の位置は常にはっきりと分かる。
だから私は安心して己の任務に集中する事が出来た。
「よし、これで最後」
そうして無事にゲートの枠を高強度の糸で結んだ私は気配遮断を解き、皆様にそれが伝わる様にキングアクアエレメンタルウルフに火魔法を放った。
「ファイアーボール!!」
さぁ、フーマ様。
いつもの様にどうかカッコ良いところを見せてください!!
◇◆◇
舞
「ファイアーボール!!」
シルビアちゃんのよく通る声と共に、暗い木々の間からキングアクアエレメンタルウルフに炎の球が勢い良く迫る。
気配遮断を解きながらの即席の魔法であるためキングアクアエレメンタルウルフにとって威力は大したことないはずなのだが、完全に予想外の位置から自身に向かって魔法が放たれたためか必要以上に大きな反応を示してしまった。
「隙ありじゃあぁ!!」
そんな大きな隙をローズちゃんが見逃すはずもなく、彼女のギフト吸血鬼の顎門によって生み出された大剣がその首を斬りあげる。
キングアクアエレメンタルウルフに声帯は無いため叫び声こそあげはしなかったが、それでも命を脅かされた生き物の断末魔に似た気配は感じ取れた。
「トウカさん! 私達も続くわよ!」
「言わずもがなです!」
私とトウカさんは風舞くんの準備が完了するまでの時間を稼ぐためにキングアクアエレメンタルウルフに追撃をかけ、少しでもシルビアちゃんや風舞くん達から敵の意識をこちらに釘付けにする。
そうしてキングアクアエレメンタルウルフの意識をこちらに向けられたのはほんの数秒ほどの事だったのだが、風舞くん達の準備は既に完了していた。
「「ファイアーボール!!」」
先程シルビアちゃんが魔法を撃った位置から少しズレた位置で風舞くんとシルビアちゃんが魔法を放つ。
風舞くんはそれと同時にいつぞや私に見せてくれた魔力の手を自身の周りに蠢かせてキングエレメンタルウルフの意識を集めていた。
一方のキングエレメンタルウルフはそれを挑戦と受け取ったのか風舞くん達に向かって水魔法を放とうとするが、私達はそれを許すほど甘くはない。
「ブラディーリーパー!!」
「真・果断!!」
「ウォーターランス!!」
私達の分かりやすく高火力な攻撃をキングアクアエレメンタルウルフは避け、飛び込む様に風舞くん達の元へひた走った。
風舞くんとシルビアちゃんはろくに武器も構えてなく見るからに隙だらけだが、その前にはシルビアちゃんの糸によって生み出された枠がある。
「ゲート!!」
風舞くんはキングアクアエレメンタルウルフが枠を超え始めるぴったりのタイミングでゲートを発動させ、魔法を放つ準備をしながら走っていたキングアクアエレメンタルウルフを強制的に転移させた。
その転移先は風舞くん達の真後ろ、一つ目の枠から僅か1メートルほど後ろの位置である。
一見無駄にしか思えないこの空間魔法ではあるが、これはあくまで下ごしらえでメインはこの後に控えている。
「テレポーテーション!!」
風舞くんのその声と共にキングアクアエレメンタルウルフの姿が彼と共に消え失せ、渓谷の中に一瞬の静寂が訪れた。
「どうやら上手くいった様じゃな」
「ええ。まさか転移魔法にあんな弱点があったとは意外でしたが、上手くいって何よりです」
「そうね。ひとまずはあっちで眷属を抑えている明日香ちゃん達に合流しましょう」
「うむ」「はい」
私達はそうして森の中を走り、明日香ちゃん達の加勢にまわった。
今回の作戦を立てるにあたりキングアクアエレメンタルウルフの眷属の生み出し方をローズちゃんが補足説明している間に、風舞くんから転移魔法と空間魔法の弱点の説明を受けた。
転移魔法と空間魔法は転移させた相手のスキルや魔法を強制的に解除する効果が付随しているが、その効果はあくまで転移魔法と空間魔法の仕様による副次的なものである。
より詳しく説明するのなら、転移魔法や空間魔法よりも強力な攻撃魔法や攻撃系のスキルを展開していた場合には、スキルや魔法の解除が仕切れずに転移が失敗し、魔法そのものが発動しないとの事であった。
そのために常に魔法を展開し続けその存在そのものが魔法的な存在であるキングアクアエレメンタルウルフを相手にする今回は、一度魔力をつぎ込みやすい空間魔法でスキルや魔法を強制的に転移させた後に、風舞くんお得意の転移魔法を使う必要があった。
そしてそもそものこの魔物を転移させた理由だが、それはキングアクアエレメンタルウルフの眷属を増やす方法にあった。
キングアクアエレメンタルウルフの眷属を増やす方法は二つあり、一つ目は自身の身体を構成する水をそのまま使って眷属を産み出す方法。
そして二つ目が周囲の水を使って眷属を産み出す方法だ。
一つ目の方法も二つ目の方法もキングアクアエレメンタルウルフの力を株分けすることに変わりはないのだが、二つ目の方法は一つ目の方法と異なってキングアクアエレメンタルウルフの身体を消費する事は無い。
そしてミレンちゃんが言うには周囲の水を使って眷属を作る方がキングアクアエレメンタルウルフの力の消費も少ないそうだ。
だからこそキングアクアエレメンタルウルフの生息域は水の豊富な場所になるのだが……
「お待たせ。ちゃんとソレイドから離れた草原に置いて来たぞ」
キングアクアエレメンタルウルフを十分な水のないソレイド近郊の森に転移して来た風舞くんがそう言って帰って来た。
つまりキングアクアエレメンタルウルフを水場から遠ざけるだけで、眷属に関する点についてはかなりの弱体が見込めるのである。
「おかえりなさい。無事で何よりだわ」
「ああ。ちょっと反撃をくらいそうになったけどなんとかな。こっちの方は大丈夫だったか?」
「ええ。ちょうど今終わったところよ」
「おかえり高音くん。高音くんがキングを転移させてから眷属の動きがかなり鈍ったからこっちは余裕だったよ」
「そっか。それじゃあその調子でキングの方も頼むぞ」
「うん。任せておいてよ」
「それと…………シルビア、服はどうしたんだ?」
風舞くんがローブのみを羽織って何も着ていないシルビアちゃんを見てそう言う。
そう言えばシルビアちゃん、さっきファイアーボールを撃った時からずっと裸だったわね。
「そ、その…ボタンさんからいただいた姿と匂いを消す魔道具が裸にならないと使えないものでして……」
「なっ……」
あら、風舞くんが口をあんぐり開けて驚いた顔をしているわ。
でも姿と匂いを消すために服を脱がなくちゃいけない魔道具だなんて、なんだか女スパイものに登場しそうなアイテムね。
それにシルビアちゃんは結構クールな見た目だし、くっころが似合いそうではあるのよねぇ。
「シルビア。次からその魔道具を使う時は俺の許可をとってからにしてくれ。それと、俺以外の男がいるところでは絶対ダメだ」
「わ、分かりました」
シルビアちゃんが真剣な顔をした風舞くんに両肩をがっしり掴まれながら顔を赤くして謝っている。
ふふ、どうやら風舞くんも私と同じことを考えていたみたいね!
そんな事を考えながら次の戦闘に備えて肩をほぐしていると、トウカさんがスススっと私のところへやって来てぼそりと呟いた。
「シルビア様の魔道具をお借りすれば、フーマ様のベッドに忍びこみ放題ですね」
「……今夜さっそくシルビアちゃんに詳しい話を聞いてみましょう」
「御意」
ふふふふ。
近いうちに温めに温めておいた夜這い作戦を決行する事になりそうだわ。
「さて、無駄話はここまでにしてそろそろ移動するかの。お主らも準備は良いな?」
「はい。私はいつでも行けます!」
「僕も準備は出来たよ!」
「ウチも行けるっしょ」
「良いかシルビア。男は獣なんだ。シルビアみたいな可愛子ちゃんはいつも狙われてるんだからな」
「か、可愛子……」
「そうだ。シルビアはすごく可愛いんだか…あいだっ!?」
あら、風舞くんがシルビアちゃんにお説教してたらローズちゃんにお尻を蹴られちゃったわ。
「のうフーマ? 今はその様なままごとをしている場合ではないじゃろう?」
「ままごとじゃ……いや、ままごとです。今すぐ転移します」
「うむ。ほれ、シルビアもいつまでも呆けていないで早く着替えを済ませぬか」
「は、はい! …………終わりました!」
「うむ。それでは今度こそ出発するぞ。皆のもの、準備は良いな!?」
「「「「おう!」」」」「ええ!」「「はい!」」
あら、風舞くん達はみんな返事が同じなのね。
私も次からは「おう!」にしようかしら?
私はそんな事を考えつつ風舞くんと手を繋ぎ、キングアクアエレメンタルウルフの元へ転移した。
◇◆◇
風舞
ソレイドの草原に転移した後のキングアクアエレメンタルウルフとの戦闘は正直ただの消化試合だった。
周囲に水場が無いから雷魔法も使い放題だし、キングアクアエレメンタルウルフは自分の身体そのものが削れるために眷属を出すのを渋る。
そんな条件の中で俺達が負ける理由もなく、最後の方は俺とシルビアと明日香と天満くんとまゆちゃん先生の5人でキングアクアエレメンタルウルフの相手をすることになったほどである。
「はぁ、ものすんごく疲れた」
「言うてもあんたは転移魔法でちょっかい出してただけじゃん」
「でも高音くんがいてくれるだけですごく楽に戦えたよ?」
「はい。流石はフーマ様です」
「そうね。風舞くんの状況判断能力はかなりのものだわ」
「えぇぇ。なんかウチが悪者みたいになってんだけど…」
「大丈夫だよ篠崎さん。私は戦闘中に胸を弄られた事忘れてないから」
明日香とまゆちゃん先生が二人で俺を悪者に仕立て上げようとある事ある事を語っている。
ちょ、ちょっとそれ以上は舞とかローズに怒られるからやめてくれませんかね?
そう考えた俺はそばにいたローズを連れて今回の戦利品についての話を始めた。
「今回の魔封結晶はどうだった?」
「今まで集めたものの中では最大じゃな。これでほとんどのスキルがLV4まで使えるはずじゃ」
「おぉ、やったなローズ。ちなみに身長の方は?」
「おそらくじゃがこのぐらいは伸びるじゃろう」
ローズが少しだけ背伸びして胸を張る。
俺はそんな可愛らしい格好のローズの頭のなんとなく手をおいて、考えていた事を話してみた。
「なぁ、これ以上成長したらロリババアって言えなくなるんじゃね?」
『おいフーマ。お姉様にババアとはどういう了見ですか』
「ロリババアはともかくとしても、それ以上成長したらローズの正体に気がつく奴もいるんじゃないか?」
「それはそうかもしれぬが、妾は早く元の美貌を取り戻したいんじゃが…」
「俺は今のローズも結構可愛いと思うけど、ダメなのか?」
「ダメではないんじゃが、この姿ではフウマが相手をしてくれぬじゃろうし…」
ローズが指をツンツンしながらブツブツ言っている。
俺が相手をしなくなるって、そんな事ないだろ。
「俺は今の姿のローズでも相手してるだろ? この前も一緒に夕飯食べに行ったじゃん」
「そういうのではないんじゃ!」
「お、おう。いきなり大声出すからビックリした」
「す、すまぬ。じゃが、妾はお主と………ぬぉぉぉぉん」
『おいフーマ! お姉様が頭を抱えてねじれてしまったではありませんか!! なんとかなさい!!』
「んな事言っても俺にどうしろと…」
『お姉様を抱きしめなさい!』
「………それはフレンダさんの願望でしょう」
『そうだとしても構いません!』
「俺が構うんです!」
そんな事をフレンダさんのガヤガヤ言い合っていると、俺たちの騒ぎを聞きつけて舞がやって来た。
「何かあったのかしら?」
「なんかいきなりローズが捻れた」
「あぁ、なるほど。これなら風舞くんが抱きしめてあげればすぐに治るわね」
「え!? 舞まで同じこと言うのか!?」
「ええ。だってミレンちゃんは風舞くんの事が…しゅばべらっ!!?」
舞がローズの回し蹴りを受けて地面と平行に吹っ飛んで行く。
おぉ、久しぶりにローズの回し蹴りを見たけどやっぱり鮮やかだな。
ってそうじゃなくて、なんで舞は蹴り飛ばされたんだ?
「え、えぇっと。大丈夫か?」
「妾が大丈夫に見えるのかの?」
「い、いえ。全然だいじょばないです」
ローズが鋭い視線を向けて来るために思わず敬語で返事をしてしまった。
だって耳まで真っ赤にしている上に、若干の涙目になってるんだもん。
下手に否定できるわけないじゃんね。
「だあぁぁぁぁ、もう! 妾はどうすれば良いんじゃ!!」
「し、知らねぇよ。そもそも何をそんなに悩んでるんだよ」
「知らないじゃと!? お主のせいではないか!!」
「え、えぇぇぇ。ごめんなさい」
「謝るでないわ!!」
「す、すみません」
「だから謝るでない!」
もうどうしろと言うのだろうか。
って、舞はまたパンツ丸出しでぶっ倒れてるし。
『おいフーマ。早くお姉様をどうにかなさい』
「どうにかって言ってもどうすりゃいいんですか」
「なんじゃ? またお主はフレンダと仲良く話しておるのか? マイという恋人がありながら妾の妹に手を出すとは良いご身分じゃな!」
「お、おいローズ。本当にどうしたんだ? 俺でよければ何でも相談に乗るからとりあえず何をそんなに悩んでるのか教えてくれよ」
「あぁぁ! だからそういうところじゃ! 妾に優しくするな! 心配するな!!」
「そんな事言ったってローズは俺にとっても大切な存在だし、出来る事なら力になりたいんだけど…」
「あぁ、もう! 分かった! そこまで言うのなら分かった! やれやれ、お主がどうしても妾の言うことを聞きたいと言うのであれば仕方ない。お主はいつもわがままじゃからな。そのわがままを聞いてやるのがお主の保護者としての妾の役目じゃ! まったく、お主もいつまでもそんなに子供ではダメじゃぞ? じゃが、妾は大人じゃから仕方なく、いやいやお主の願いを聞いてやるとするかの」
ローズがとてつもない早口でそんな事をくどくどと語る。
そんなに長いセリフ、よく噛まずに言い切ったな。
「なぁローズ。そんなに俺が嫌なら舞に変わってもらおうか?」
「な、何じゃと!? ここまで妾をたぶらかしておいてお主はそんな事を言うのか……?」
『おいフーマ! お姉様を泣かすとは何事ですか!!』
「あぁ、ごめん。ごめんローズ。あぁ、ローズの力になりたいなぁ。ローズのために何かさせて欲しいなぁ」
「もう、なんじゃい。てっきりお主が妾の頼みを聞くのが本当は嫌なのではないかと思ってしまったではないか。やれやれ、お主は相変わらず素直じゃないのぉ」
「は、ははは。そうだな」
もう面倒くせぇ。
早く本題に入ってくれないだろうか。
「それで、ローズは俺に何をして欲しいんだ?」
「やれやれ、お主がどうしても妾の力になり…」
「それをもう一回言ったら俺はローズの頼みを聞かない。いいから早く本題に入ってくれ」
「む、むぅ。そう言うのであれば仕方ない。そ、その……妾ともデー……いや! やっぱり無理じゃ!!」
「デー? …………もしかしてデートか?」
「な、ななな…何を言う!」
「違うのか?」
「うっ………違わぬ」
「はぁ。分かった。分かったよ。ローズ、俺とデートをしてくれないか?」
「う、うむ! もちろんじゃ!!」
あぁ、もう。
そんなに嬉しそうな顔するんじゃないよ。
でもこうなってしまっては仕方ない。
精一杯ローズとのデートを楽しむ方法を考えますかね。
俺はそんな事を考えながら両手を挙げて喜ぶローズをため息をしながら横目で眺めつつ、内心ではちょっぴりガッツポーズをするのであった。
年末でいろいろごたついていたために遅くなりました。
すみません。
次回更新は大晦日で、二話投稿予定です。
本年ももう少しお付き合いください!




