55話 叔母様
風舞
セレスティーナ第一王女のお母さんは女王様であり、その上神様でもあるらしい。
そういえばいつだったかにローズは神の一柱と知り合いだと言っていたし、このソフィアさんもその神と似た様な存在なのかもしれない。
何をもって神と定義するのかはかなり疑問だが、超常の存在という点においては疑う余地もないだろう。
だってものすっごくエロいし。
「あらあらぁ。そんなに熱い視線を向けられたら火傷しちゃいそぉ」
「す、すみません」
「何も謝る事はないわぁ。それでセレスちゃん。私は何を話せば良いのかしらぁ?」
「とりあえずはお母様は何も語らなくて結構です。私にはお母様にお話を聞くだけの対価を払えませんし…」
話を聞くのに対価がいるのか?
親子なのに?
「そう。それは残念だわぁ。久し振りに私にも出来る事があると思ったのだけれど、そう言うのなら仕方ないわねぇ」
ソフィアさんがそう言ってベッドの上で横になり、お姫様はその間にいつからそこにあったのか分からない椅子に腰掛ける。
「タカネ様もまずはお座りください」
「え? あ、はい。どうも」
気づけば俺のすぐそばにも椅子があったから、軽く会釈をして腰かけた。
何というか、この部屋に招待されてからずっと狐につつまれている気分である。
いや、俺の知り合いの狐さんはもっと暖かい雰囲気だし、少し違うか。
「さて、先程から疑問が尽きない事と思いますが、まずはここ数日の間に起こったジェイサットの手の者による勇者様方への襲撃と、スタンピードに関しての報告をしたいと思います」
「その感じだと、俺達が今日何のために出かけていたのかも知っているみたいですね」
「はい。詳細までは把握していませんが、ある程度なら」
お姫様が軽く頷き、言葉を返す。
俺達の動きは別に隠していた訳ではないのでこのお姫様が概要ぐらいは知っていても不思議ではないのだが、それでも少しだけ気味の悪さは感じた。
まさか発信機とか仕掛けられてたりしないよな?
「ふぅん。なるほどねぇ。それで私のところに来たのかぁ」
「お母様、話が進みませんので少し黙っていてください」
「えぇぇ。折角のお客さんなのに、そんな話を聞かされていても退屈だわぁ。てっとり早くジェイサットと悪魔は手を組んでいた。今回の諸々は勇者達を暗殺若しくは誘拐をするために仕組まれた敵の罠である。私が無能なあまりにスタンピードや城下町でのいくつかの問題に踊らされて後手に回ってしまってすみませんでしたぁ…って言えば良いじゃなぁい」
「それは…」
この親子、実は仲が悪かったりするのか?
あのお姫様が黙ってくださいなんて言うところは初めて見たし、ソフィアさんの口ぶりもどこか棘がある気がする。
今日はこれ以上親子喧嘩に巻き込まれたくないし、話を進めてさっさと用事を済ませるとするか。
「その、俺は今日エルバハム商会の扱う香油の流通に不審な点を感じてその確認に行ってたんですけど、それは陽動だったって事ですか?」
「はい。おそらくそうだと思います。ジェイサットは悪魔と手を組み、スタンピードの対処やエルバハム商会での夜会への参列にために城の警備が薄くなった今夜に勇者様方を襲撃しに来ました」
「それだけじゃあ不充分でしょう? 正確には今日は城下町での犯罪率が高かったはずよぉ?」
「そうなんですか?」
「…はい。その対処のために城に常駐していた近衛までもが事件の解決に出向いたほどです」
「それも敵の作戦の一部だったって事ですか」
「事件を起こした者の中には呪術に操られていた者もいたそうなので、おそらくは」
夜会なら事前に日取りを知る事も出来そうだし、軽犯罪ならすぐにでも実行に移せる。
今回の夜会には俺達が調査のために出向いたが、もしかするとお姫様がエルバハム商会の内部調査のために使者を手配する可能性も十分にあった。
そう考えると、ジェイサットは末端の兵士からある程度上位の者までを城から遠ざけようとしていたのか。
「ん? でもそうなると、スタンピードの一件はどうなるんですか? 神殿にいた兵士が殺されたのって5日前でしたよね?」
「先程シャリアスから報告を受けましたが、敵は最終階層の迷宮王の部屋に立て籠もっていたそうです」
「そんな事できるんですか?」
「迷宮王が常に襲って来ますが、その対処が出来るのであれば不可能ではありません」
「それじゃあジェイサットの魔族は迷宮王の相手をしながら五日間も軍の人が来るのを待っていたって訳ですか。随分と面倒というか、大変な事をしましたね」
「ジェイサットの者としては今日の時点までに我々の軍が来ても来なくてもどちらでも良かったのでしょう。スタンピードを起こす前に最終階層に我々の兵が辿り着いてもそのまま閉じ籠っていれば良いだけですし、仮に我々の兵が来なくてもスタンピードさえ起こしてしまえば、城内に一定の混乱と兵の配置の偏りを起こす事は出来ます」
「なるほど」
もう少し楽で効率的な方法もあったのではないかとも思うが、やりたい事は理解できるし一応論理的でもある。
しかしジェイサットの魔族がそこまで大掛かりな作戦で勇者を暗殺したかったとは少し意外だな。
城内に侵入できたのなら勇者の強さと成長スピードはある程度分かるだろうし、ぶっちゃけ数年やそこらでジェイサットを脅かす様な存在にはならないと思うんだが…。
「質問があるのならご遠慮なさらずにどうぞ」
「それじゃあ、敵の目的は結局なんだったんですか? 殿下は先程悪魔が勇者を誘拐か暗殺に来たと言いましたけど、俺達勇者にはそれなりの犠牲者を出してまでここまで大掛かりな作戦を実行するだけの利益なんて無いと思うんですけど…」
「ふふふ。若いわねぇ。ジェイサットの敵は私達だけではないのよぉ。もっと多角的に物事を見ないといけないわぁ」
この人、最初は何も喋らないのかと思ったけど、意外とおしゃべりなんだな。
もしかして人との付き合いに飢えてるのか?
「そんな事ないわよぉ。ただ私が貴方を気に入ってるだぁけ」
「ど、どうもです」
「ふふふ。あぁぁ、早く食べたいわぁ」
ソフィアさんがそう言って舌舐めずりをする。
もう! 全ての行動がエッチだな!!
「お気を確かにお持ちくださいタカネ様。貴方にはツチミカド様やその他の皆様がいらっしゃるはずです」
「は、はい。大丈夫です」
はっはぁん。なんとなく分かってきた気がする。
要するにソフィアさんは俺を誘惑して手篭めにしようとしていて、お姫様はそれを防ごうとしてくれている。
任せてくれお姫様!
俺の愛情は性欲なんかに負けないぞ!
「あら、下着の紐がほどけちゃったぁ」
「ぶっっ!!?」
「お母様!」
く、危うく女王様のベッドにルパンダイブしてしまうところだった。
落ち着け俺。
俺には俺の事を好きと言ってくれた舞がいる。
舞の笑顔を思い出すんだ。
ふっ、ちゃんと可愛いじゃねぇか。
「タカネ様。そろそろお話を進めてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。すみません。それでジェイサットにはラングレシア王国以外にも敵がいるとの事でしたけど、今言いたいのは他の魔族国家って訳ではないんですよね?」
「はい。確かな事は未だ分かっていませんが、おそらくはその通りかと…」
「となると残るは、悪魔ですか」
「何でそう思うのかしらぁ?」
「一番の理由は他に登場人物がいなかったっていうのがありますけど、悪魔とジェイサットが協力関係にあったとはいえそれぞれの思惑が別の所にあると考えると色々と納得がいく事があるんですよね」
「例えばぁ?」
「そうですね、今日俺達が行ったエルバハム商会で魔族と悪魔に遭遇したんですけど、その二人は別行動でジェイサットの方はともかく悪魔の行動の理由は分かりませんでした」
あの悪魔はハーバードさんを殺そうとしていた。
たまたま俺とエルセーヌさんがそこにいたから彼を助ける事が出来たが、あのままだと失血死は免れなかった筈だ。
ジェイサットの目的が王都にいる兵士を城から遠ざける事なら人質をとって籠城すれば良いのだし、わざわざハーバードさんが一人になったタイミングで殺そうとする必要はなかったと思う。
あの悪魔が何の目的もなくハーバードさんを殺そうとした可能性もあるが、そこには何かしら悪意がある気がするのだ。
「あぁ…それと、この前の魔族の襲撃もそうです。今日こうやって大々的な作戦を起こすのなら、その前に襲撃をかけるのはかなりの悪手だと思うんですよ。でもジェイサットの魔族はそれをやった。それはそうですね……ジェイサットと悪魔で勇者をどう扱うかのか方針に違いがあったんじゃないかなって…」
「驚いたわぁ。ほぼ正解よぉ〜」
「あ、ありがとうございます」
「私もタカネ様と同じ様に考えています。それでも何故ジェイサットが悪魔と手を組むのかは未だに掴みかねていますが、おそらくそう考えて問題ないでしょう」
「あぁ、それなんですけど、ジェイサットの方は悪魔の技術目当てだと思いますよ。ほら、悪魔って気味の悪い謎の道具を使うじゃないですか。今回の一件ではスタンピードを起こすための何かと、転移魔法陣の技術を悪魔からもらったんだと思います」
「転移魔法陣ですか?」
「はい。城内に悪魔とか魔族が出入りしている方法がそれだと思ってるんですけど、違いますか?」
「……………」
あれ? お姫様が考え込んでしまった。
てっきりこのお姫様の事だから今晩悪魔の襲撃を受ける前のタイミングで侵入経路を特定していたと思ったんだけど違うのか?
だから俺とエルセーヌさんが転移して来た時に勇者を一箇所に固めていたんだと思ってたんだけど…。
そう考えながら、顎に手を当てて考え込むお姫様に驚いていると、ソフィアさんが話を進めた。
「正解。ダンジョンの転移魔法陣とは違うけれど、ジェイサットの魔族はそれを使って城に入り込んでいたわぁ。ふふっ、セレスちゃんの負けねぇ」
「……私とタカネ様は固い絆で結ばれた仲間なので私の負けではありません」
お姫様はよっぽど負けと言われたのが悔しかったのか、少しだけ頬を膨らませている。
こうしていると年相応の親子っぽいな。
ソフィアさんもかなり若々しいし。
「あらあらぁ。嬉しいわねねぇ。こう見えて私、貴女の身請けしている吸血鬼の10倍ぐらいは生きているのよぉ〜?」
「は? 10倍!?」
ローズが千年以上生きているから、この女王様は低く見積もっても1万歳。
そら、神様って名乗っても何もおかしくないわ。
「って、それよりさっきから俺の心を読んでませんか?」
「ただの年の功よぉ。これだけ長く生きれば10代の男の子の考えている事なんて顔を見なくても簡単に分かるわぁ。もちろん貴方がまだ女を知らないって事もねぇ」
「お母様、下品ですよ」
「そんな事ないわよぉ。それにもうセレスちゃんの話は済んだのだから私が高音風舞くんをどうしようと勝手でしょう? 契約通りスタンピードは止めてあげるから、セレスちゃんは城の中にある魔法陣を探して来ると良いわぁ」
「ですが!」
お姫様が俺を庇って声を荒げる。
しかっし、女王様ってスタンピードを止めることが出来るのか。
まぁ、この女王様が神様だって名乗った時点で神殿と何か関わりがあると思ってたからそこまで意外でも無いんだけどな。
「それともなぁに? セレスちゃんは私に高音風舞くんには手を出さないでくれってお願いするのぉ? あらあらぁ、私は高音風舞くんをそれなりに気に入っているから、対価は高く付くわよぉ〜?」
「それは……」
おや? なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ。
美人親子が俺を巡って争っている。
正直なところ俺の好みは言うまでもなく女王ソフィアさんだが、なんだかお姫様が気の毒だしこっちの味方をしてやるか。
「あのー。色々盛り上がっているみたいですけど、俺、この後従者と約束があるんでそろそろ帰っても良いですか?」
「もちろん駄目よぉ〜。私は狙った男の子は自分のものになるまで決して逃がさないのぉ。ちなみにセレスちゃんもそうして私に襲われたセイレネードとの間に出来た子供なのよぉ〜」
「お母様!!」
あぁ、なるほど。
お姫様は自分の母親が雑に言うとビッチなのが嫌なのか。
ましてやそんな自分の生まれをこうして大して親密でもない男の前で暴露されるのはかなり恥ずかしいのだろう。
「殿下、ここで聞いた事は全て内密にいたします」
「あ、ありがとうございますタカネ様。タカネ様は必ず無事にお帰ししますので、どうかご安心くださいね」
そう言って俺に優しい笑みを向けるお姫様。
この子、本当に良い子やなぁ。
そんな事を考えながら少しだけほっこりしていたその時、俺の体が女性の肉体特有の柔らかさを知覚した。
「だから帰さないと言ったでしょう? さぁ、高音風舞くん、私に貴方を味わわせてちょうだぁい」
いつの間にか俺を抱き寄せていた女王様が俺を押し倒して、唇を奪おうと顔を寄せてくる。
あぁ、こんなにエッチで美人な人になら初めての相手に選んでも良さそうだなぁなんて思いもしたが、寸でのところで舞の顔がチラついた。
「すみません。やっぱり嫌です」
「ふふふ。そう言う事は分かっていたわぁ。でもだぁめ。絶対逃がさない」
「ちょ、ちょっとマジっすか? って、力強っ!? それに体柔らかっ!?」
女王様を押しのけようとするが、彼女の力が強すぎてビクともしない。
それに彼女を押しのけるために触った体が魅力的すぎて反抗する気力がジリジリと溶かされていく。
「お母様!! それ以上はおやめください!! 私に支払えるモノならなんでも差し上げます! ですから!」
「駄目よぉ〜。今の貴女には高音風舞くんを諦めさせるほどの対価は支払えないわぁ」
「そんなっ!」
お姫様が女王様を止めようと動くがそれも叶わない。
クソっ、ごめん舞。
俺はどうやらここまでの様だ…………。
そうして俺は絶望感に苛まれながら少しでも抵抗しようと目と口を強く閉じて迫り来る強烈な快楽に怯えていたのだが………
『やめろ淫売。それは儂の姪達のもの、つまり儂のものでもある。それ以上は儂への宣戦布告とみなすぞ』
どこからともなく女性の声が聞こえてきた。
その声は空気そのものを震わせている様に方向感はなく、頭の中に直接響いている様にも感じる。
そしてその声に、俺は確かな聞き覚えを感じていた。
「あらあらぁ、紅血が私の趣味に口を出してくださるなんて光栄だわぁ」
『御託は良い。儂はそれ以上はやめろと言った。すぐにそれの上からどけ』
「はぁい。紅血と争うなんてごめんだし、仕方ないわねぇ。でも高音風舞くん? 私に遊んで欲しかったらいつでもここにいらっしゃい。いつでも相手してあげるわぁぁ」
女王様はそう言い残し、光の胞子になって一瞬で姿を消した。
助かった…のか?
「タカネ様! ご無事ですか!?」
「はい、どうも……。ってそれより、叔母様ですよね!? 助けてくださってありがとうございました!」
『…………』
あれ? 返事がない。
もしかしてもう帰っちゃったのか?
「叔母様のボケ老人!!」
『誰がボケ老人だ誰が!!』
「なんだ、やっぱりまだいたんじゃないですか」
『お前、初対面の、それも恩人に対して失礼だな』
「嫌だなぁ、俺と叔母様の仲じゃないですか」
『どの仲だ。まったく、ローズとフレンダはこんなのを気に入ったのか?』
「ちょっと叔母様。それは…」
『安心しろ。その淫売の娘には儂の声は届けていない。まぁ、ローズの正体に察しはついているから気にする必要も無いだろうがな』
「そうですか…」
このお姫様、ローズの正体に気がついているのか。
後ろから刺されない様に注意しないと。
「それより、さっきはありがとうございました」
『気にするな。お前は儂の元で料理を作る予定があるのだから、その前に腑抜けてもらっては困るだけだ』
流石はあの二人の叔母様だ。
口が少々悪くてもその底には確かな優しさを感じる。
「そうだ。どうせならあの二人とも話して行きませんか? 多分久しぶりに話したいと思うんですけど…」
『いや、今は儂の領域と淫売の領域を無理矢理繋げているだけで、そう長くは保たない。保って後数十秒といったところか』
「よくわかんないですけど、それじゃあ伝言とかありますか?」
『元気でやれ。それだけだ』
「そうですか。まだちょっと時間ありますよね?」
『あるにはあるが、どうした?』
「名前、教えてくれませんか?」
『そんなものフレンダあたりに聞けば良いだろう。折角なんだからその大陸の悪魔の目的を教えてやっても良いんだぞ?』
「いやいや。なんとなくそれを神様に聞いたら後に何を取られるかわかったもんじゃないんで、遠慮しておきます」
『儂は別に神ではないのだが、そう言うのならもう良い。それよりも儂の名だったか?』
「はい。是非教えてください」
『良いだろう。儂の名は……あぁ!? 別に下着ぐらい履かなくても良いだろう! え? 今日という今日は許さないだと!? しかしお前の選ぶものはどれも地味で………いや、分かった! 分かったからそれだけはやめ……やめろぉぉぉーーー!!! ブツンッ!』
「おーい。叔母様ー。おーい」
あれ? もしかしてもう切れちゃったのか?
折角叔母様の名前を教えてもらおうと思ったのに、その前に切れてしまうなんて……
すごくローズとフレンダさんの血縁者っぽいな。
「あのタカネ様? もうお話は終わったのですか?」
「あ、はい。すみませんでした」
「いえ、何も謝る事などございません。むしろお詫びするのは私の方です。まさかこの様な事になるとは…」
「いやいや。あの女王様が相手なら仕方ないですよ。それより、そろそろ外に出ましょう。ヒルデさんも心配してると思いますよ? 俺もこの後に約束があるんで、もう部屋に戻りたいです」
「ありがとうございますタカネ様。そうですね、今日は色々ありましたし、早めに休むとしましょう」
「はい。そんでまた明日から頑張りましょう」
「はい!!」
こうして、エッチで恐ろしい女王様への謁見はお姫様の可愛らしい笑顔で幕を閉じた。
色々と衝撃的すぎてかなり疲れたが、きっとエルセーヌさんが待ってくれているだろうし、早く戻るとしよう。
…………しかし、叔母様はノーパンの吸血鬼さんなのか。
これはいつか出会う日がますます楽しみになってきたな!
次回23日予定です




