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クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...  作者: がいとう
第4章 微妙にクラスメイト達と馴染めていない気がするんですけど…
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42話 恋する乙女

 


 風舞



 冒険者ギルドでの依頼を終えて無事にミレイユさんに報告を済ませた俺達は、クエスト達成の打ち上げがてら冒険者ギルドで夕食を食べていく事となった。

 舞達には帰りが遅くなるかもと伝えてあるし、あっちはあっちで夕食を済ませてくれるだろう。

 あれ? なんか今の飲み会に行く前の夫みたいじゃなかったか?

 まぁ、いいか。



「それじゃあ依頼おつかれ様! かんぱーい!」

「「「「「「乾杯!!」」」」」」



 そうして互いのジョッキを軽く交わした俺たちは円卓に並べられたボリュームたっぷりの料理に手をつけ始める。

 注文した料理は肉と炭水化物中心であるのだが、激しい運動をした後のためか女性陣も一心不乱に食べていた。

 まゆちゃん先生なんかは噛り付いた肉を酒で流し込んだりしちゃっている程である。

 ついさっきまではアンと同じで遠い目をしていたのに、酒を飲んだら復活って単純すぎるだろ。


 そんな事を考えながらまゆちゃん先生を呆れた顔で眺めていると、右隣に座っていた天満くんが話しかけてきた。



「おつかれさま高音くん。今日は冒険者の1日を知る良い機会になったよ」

「そうか。それなら帰り際に冒険者登録して行ったらどうだ? ミレイユさんに頼めば、正体は黙っててくれると思うぞ」

「うーん。魅力的な提案ではあるけれど、僕が次にソレイドに来れるのは早くても20日後だから、遠慮しておこうかな」

「おい、その計算だと俺は毎日クラスメイトのお守りをしてないか?」

「ははは。みんな高音くんと土御門さんの話をよくしているし、この機会に交流を深めたら良いと思うよ」

「はいはい。流石は主人公さんだな」



 天満くんは演技でも何でもなく心からみんなと仲良くしたら良いと言ってそうだから恐れ入る。

 きっと転移してきて間もない間も天満くんがいたからこそなんとかなってきたところもあるのだろう。



「そういえば、天満くん達はいつまで今と同じルーティンで訓練するんだ?」

「多分もうそろそろ個人やパーティーごとの訓練になると思うよ。ほら、篠崎さんも個人的に訓練しているでしょう?」

「でしょう? って言われても知らないけど、もうすぐ個人練なのか。天満くんはどんな事をやるつもりなんだ?」

「僕はひたすらダンジョンでレベル上げとスキルを体に馴染ませる訓練かな。やっぱり戦場に立ったら足がすくむと思うし、実力の10分の1の力しか出せないなら10倍は強くならないとダメだと思うんだよね」

「天満くんがビビッて動けなくなるところなんて想像できないけど、10倍は凄まじいな」



 俺はそんな適当な返事をしながら横に座っているアンの口にポテトを運んでやる。

 お、食べた食べた。



「ところで、そちらのアンさんは大丈夫なのかい?」

「フレンさんが言うには初めての戦闘で精神的に疲れているだけらしいし、こうして食欲もあるみたいだから大丈夫だろ」



 俺の横に座るアン (LV26)は1日でかなりステータスを伸ばした対価に遠く虚ろな目をする様になってしまった。

 20枚の看板を周る内に8回ほど魔物の襲撃に遭い、内6回はホブゴブリンで内2回は肉食獣っぽい魔物だったが、安全のためにアンはホブゴブリンとの戦闘にしか参加していなかったため、今日一日ホブゴブリンのみをひたすら討伐した事となる。

 俺も始めてホーンラビットを倒した時は色々考えてしまったし、アンも心の整理がつくまではこの調子なのだろう。

 ていうか、始めての戦闘でホブゴブリンはハードすぎたな。



「ほらアン。何か食べたいものはあるか?」

「ううん。大丈夫だよフーマ様。それより次は何回殺せば良いの?」

「………。もう依頼も終わってるから戦わなくて大丈夫だぞ」

「違うよフーマ様」

「違うって何がだ?」

「私は全然戦ってないよ。ただ殺しただけ…」

『あぁ、これは結構重症かもしれませんね』

「えぇ!? フレンさんが大丈夫って言ったからちょっと安心してたのに、重症なんですか!?」

「なんじゃ? 何を騒いでおるんじゃ?」

「なぁミレン。アンを元通りにするにはどうしたら良いんだ?」

「ふむ。アンが男なら娼館にでも行かせたんじゃが、どうしたものかの」



 娼館て…。

 確かに戦場で傷ついた戦士を癒すのは娼婦の務めって聞いた事あるけど、中学生ぐらいの見た目の女の子がパッと思いつくのがそれってどうなのよ。



「ちっ、ミレンは軍人気質過ぎて参考にならない。なぁシルビア。シルビアの純粋な心でアンを救ってくれ」

「なんじゃい。妾だって真剣に考えてやっているというのに」

「あぁ、フーマくんがミレン先生を悲しませてるー。これだから女ったらしの借金ヒモ高校生はダメなんだよなぁ」

「うるさいですよ。そういうヤジを飛ばしてくるなら口元のソースを拭いてからにしてください」



 俺の指摘に従いまゆちゃん先生がいそいそと口元を拭っている間に、シルビアがアンを抱き寄せつつ頭を撫で始める。

 おぉ、珍しくシルビアが見た目通りにクールでカッコいい事してる。



「おつかれ様アン。頑張ったね」

「ううん。私はシルちゃん達に比べたら何もしてないよ」

「そんな事ないよ。アンは頑張った。私はアンが頑張った事を分かってるから、もう力を抜いて良いんだよ」

「そっか、もう休んで良いんだ」

「うん。頑張ったね。お疲れ様」

「うん……うん。ありがとうシルちゃん。何体もゴブリンを殺して殺して殺してすごく辛かったけど、シルちゃんは私が病気の間頑張ってくれてたから私も頑張らなくちゃって…フーマ様がせっかく足手まといの私を連れて来てくれたんだから弱音を吐いちゃダメだって思ってたけど、もう良いんだね」

「へぇ、アンちゃんはフーマくんにプレッシャーかけられてたからこんなになっちゃったんだ」

「うっ、物凄く腹が立つのにアンに申し訳なさ過ぎて怒るに怒れない」

「ううん。フーマ様が申し訳なく思う必要なんて無いんだよ。いつもありがとうフーマ様」

「あぁ、弱ってる女の子に気を使わせてるー。さいてー」

「くそぅ。なぁ、アン。何か欲しい物とかないか? 今日一日頑張ったご褒美になんでも買ってやるぞ?」

「ううん。せっかく報奨金が入ったばっかりなんだから、ボタンさんに借金を返すために貯めておいて。私は気持ちだけで十分だよ」

『フーマの甲斐性では打つ手なしですね』



 ちきしょう。

 アンが復活した事は嬉しいはずなのに、自分の不甲斐なさを感じて素直に喜べない。

 ていうか、さっきから俺がアンの機嫌を取ろうとしているのを肴に酒を飲んでいるまゆちゃん先生に腹がたつ。



「はぁぁあぁぁ。なんでこんな甲斐性なしがこんなに可愛い子達にチヤホヤされるんだろうなぁ」

「まぁ、そう言うでない。あれにはあれで格好良いところもあるんじゃ」

「え? ミレンさんも高音くんの毒牙にかかってるんですか?」

「わ、妾を見くびるでないわい。フーマはあれじゃ、そう。妾の愛弟子なだけじゃ」

「で、ですよねー」

「オホホホ。ですがミレン様はご主人様がマイ様とデートしている間ずっとソワソワしていたではありませんの」

「よ、余計な事は言わんで良い! ほら、今日は妾が出してやるからお主は大人しく酒でも飲んどれ!」

「オホホ。それではご遠慮なく」

『まったく、お姉様にたかるとは仕方のない子ですね。おいフーマ、エリスはフーマの従魔なのですからしっかりと躾けておかないとダメではありませんか』

「俺は放任主義なんですよ。おかえりエルセーヌさん。どこ行ってたんだ?」

「オホホ。ボタン様のところで近況を報告し合ったりしていましたわ。ご主人様によろしくと言っていましたの」

「そっか。腹減ってたら遠慮せず食ってくれよ。マユちゃん先生が頼み過ぎて俺達だけじゃ食べきれなさそうだ」

「オホホホ。それではご馳走になりますわ」



 そんなこんなで俺達の夜は更けていき、全員の腹がパンパンに膨れたところでミレイユさんに軽く挨拶をしてラングレシア王国に戻った。

 天満くんやまゆちゃん先生と別れてから寮に戻ったら風呂上がりの舞に不貞を働いて来ていないか疑われもしたが、アンが仲裁に入ってくれたお陰で舞の追求を避ける事が出来た。


 そんな一幕があったその日の夜、自分の寮のベッドの上で眠りにつくのをゆっくりと待っていると、俺の部屋でシルビアと一緒に寝ていたアンがもそもそと俺のベッドに入り込んできた。

 もともとシルビアとアンは俺の護衛という事ですぐそばに城の人が用意してくれた俺のとは別のベッドで寝ていたのだが、こうしてアンが俺のベッドに入って来るのは初めてな気がする。



「眠れないのか?」

「うん。シルちゃんが寝ちゃってちょっと心細くて」

「そっか。そういえばアンとも添い寝をする約束してたな」

「うん。だから今日だけ良いかな?」

「ああ。腹を冷やさない様にちゃんと毛布はかけとけよ」

「もう。私とフーマ様は一歳しか年齢が変わらないんだか、そんなに子供扱いしないでよ」



 アンは俺よりも一つ歳下だ。

 という事はアンは15歳で、大体高校一年生ぐらいか。

 あれ? そう考えるとなんか急にドキドキしてきた。



「あぁぁ。でも、急に女の子として見られても緊張しちゃうからほどほどで良いよ。ほどほどで」

「そ、そうか。なぁアン。試しに先輩って呼んでみてくれないか?」

「えぇ、まぁ良いけど……。フーマせんぱい?」

「うっ……」



 なんだこれ、胸がキュッとなった。

 これが萌えなのか?

 後輩萌えなのか!?



「ほら、ちゃんと毛布かけないと風邪ひいちゃうよ。まったく、しっかりしてよね」

「あ、ああ。もう大丈夫だ」



 アンに毛布をかけてもらってポンポンしてもらっている内に落ち着いてくる。

 なんだかこれ、母性を感じるな。



「バブい」

「はいはい。ほら、もう目を閉じて…ね?」

「はい」



 アンの小さい手で頭を撫でられている内にまた瞼が重くなってくる。

 アンはそんな俺を正面から見つつ、クスクスと笑っていた。



「どうしたんだ?」

「あぁ、ゴメンね。なんだかフーマ様がすごく可愛くって」

「アンの可愛さには敵わないぞ。ほら、もう撫でてくれなくても大丈夫からアンもそろそろ寝ろよ。俺ももう寝ちゃいそうだ」

「うん。ありがとうフーマ様。おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」



 そうして俺とアンはどちらからともなくゆっくりと眠りにつき、安らかな夜を過ごすのであった。




 ◇◆◇




 風舞




 所変わって白い世界にて、先にこちらに来ていたフレンダさんに遅れて姿を見せると、ちょうど美顔ローラーで顔をコロコロしているフレンダさんに出くわした。

 ここは魂だけの世界だから美顔ローラーをしようがキツいエクササイズをしようが肉体には何の影響も無いのに、フレンダさんの美意識はかなり高いらしい。



「ちゃっす。フレンダさんちゃっす」

「あぁ、フーマでしたか」

「いやいや。ここに俺以外が来たらかなりの一大事ですって」

「それもそうですね。ほら、座りなさい」



 そう言って美顔ローラーを片隅に置いたフレンダさんの正面に学校に机と椅子とジェ◯ガを置いて腰掛ける。

 近頃のフレンダさんはオセロよりも勝率が高いこのゲームにハマっている。

 まぁ、それでもフレンダさんの勝率は3割ぐらいなのだが…。



「なんですかその不敵な笑みは? また何か面白い遊びでも思いついたんですか?」

「いえ。それじゃあ今日はフレンダさんからどうぞ」

「? 相変わらずフーマの考えている事はよく分かりませんね」



 フレンダさんがそんな事を言いながら1本目の棒を引き抜いて上に重ねる。

 フレンダさんは手先が器用なため序盤はすんなり引いていくのだが、後半になると緊張のためか手が震えてしまうらしく、なかなか勝率が上がらない。

 まぁ、俺がしつこくヤジを飛ばしているから焦ってしまうのだと思うが、場外戦術も立派な作戦である。



「そういえば、フーマの母親は見たことがありますが、父親はどの様な人間なのですか?」

「なんですかいきなり?」

「いえ。フーマとフーマの母親があまりにも似ていないから気になっただけです。ほら、髪の色も違うではありませんか」

「まぁ、確かに」



 俺の母さんはユルフワな金髪だ。

 確かに(はた)から見たら日本人には見えないかもしれない。

 そういえば生まれを聞いてもいつもはぐらかされてたし、母さんの故郷について何も知らないんだよなぁ。



「どうかしましたか?」

「あぁ、いえ。俺の髪の色は父親譲りらしいんですけど、俺もどんな顔か覚えてないんですよね。写真も見たことありませんし」

「そういえばフーマの父親は幼い頃に死んでいたのですね」

「えぇ、普通そういう話ってもう少しこう…オブラートに包んだりしません?」

「ふっ。私がフーマに気を使うことなどありませんよ」

「いやいや。そんな良い笑顔で言われても反応しづらいですって。無い胸を張らないでくださいよ」

「おいフーマ。次私の胸の話をしたらお前の胸をこそぎ取りますよ?」

「はいはい。ほら、フレンダさんの番ですよ」



 そうしてフレンダさんがフーマは尊敬の心が足りないだの、デリカシーが無いだのブツブツ言いながら次の棒を引き抜き始める。

 最近はフレンダさんとずっと一緒にいるせいかこの小言にも慣れてきたな。



「そういえば、フレンダさんの両親ってどんな吸血鬼なんですか?」

「知りません。物心ついた頃には叔母上様のところにいましたからね」

「あ、なんかすみません」

「何も謝る事などありませんよ。お姉様は私達の両親に対して記憶もあるそうですが、私には何の思い出もありませんから」

「そ、そうですか」

「そんな事より、フーマはどうなのですか?」

「どうとは?」

「この世界に来て両親に会えなくても心配無いと言っていましたが、実際のところどうなんです?」

「母さんに心配かけてるのはあれですけど、別にどうもこうもありませんよ。なんかこの質問、ローズにもされた気がします」

「それでは仮に元の世界に帰る方法が見つかったら?」

「なんか今日はやけに聞いてきますね。もしかして俺が帰ったら寂しいんですか?」

「茶化さずに答えなさい。これは大事な話ですよ」

「………分かりません」

「ですから…」

「分からないんです。確かに母さんに会いたいって気持ちはありますけど、こっちにも大切な人が沢山います。そのどっちかを選ぶなんて俺には出来ませんし、どうせ今は帰る方法なんて分からないんですから、考えろと言われても実感が湧きません」

「………はぁ、分かりました。意地の悪い質問をしましたね」

「いえ。帰る方法も探さずにこの世界で好き勝手生きていて良いのかって考えなくもないですから、こうやって気にかけてもらえるのは素直に嬉しいです」

「まぁ、実際のところ私でも召喚された勇者を送還する方法なんて検討もつきませんからね。フーマが必死に足掻いたところで元の世界に帰る方法の片鱗も掴めないでしょう」

「えぇぇ、慰めてるのか貶されてるのか分かんないです」

「第一、この世界には火の国という召喚された勇者が多く住む国があるのですから、元の世界に帰れないというのはあの国の勇者達が800年以上証明しています」

「あ、慰めてはいませんね。いつも通りのフレンダさんで安心しました」

「そもそも思い返してみれば、私がフーマの事を気にかけているのだって側に置いておけば道化として面白いからですし、勝手に帰られては困ります」

「はいはい。フレンダさんが俺の事大好きでこの世界にいる理由を与えてくれたのはよく分かりましたから、フレンダさんの番ですよ」

「ち、違います!! フーマの癖に生意気……あ」

「よし、今日も勝った」



 フレンダさんがいきなり立ち上がった振動で倒れたジェ◯ガを見て呆然としている。

 おぉ、フレンダさんのこういう顔はかなり珍しいな。



「それじゃあ罰ゲームタイムですね」

「さ、再戦を希望します!」

「えぇぇ。でも、フレンダさんって弱すぎて相手にならないからなぁ」

「〜〜っっっ!! なんですか! フーマが元の世界に帰れなくて心を痛めていないか気にかけてやったのにこの仕打ちですか!! 良いですよもう! 煮るなり焼くなり脱がすなり着せるなり好きになさい!!」

「それじゃあ遠慮なく……」

「遠慮なさい!!」



 そんなこんなで俺とフレンダさんの楽しい夜は更けていき、フレンダさんのに幼稚園生の格好をさせてハッピージャムジャムさせていた辺りで朝が来たためそこでお開きとなった。

 今夜はフレンダさんの優しさと思いやりと羞恥をたっぷり味わえたし、結構幸せだったな。




 ◇◆◇




 舞



 ど、どうしましょう。


 風舞くん達がソレイドに出かけた次の日の事です。

 私はなんとなくいつもの調子で風舞くんに朝の挨拶をして一緒に朝食を食べて、そのまま幸せな気持ちで思わずこんな事を言ってしまいました。



「今日は風舞くんとずっと一緒にいたいわ」

「別に良いぞ」



 どうしましょう。

 別にこんな事言うつもりはなかったのに、何となくお腹空いたしお寿司食べたいって言ったらそれが叶ってしまったみたいなこんな感覚。

 棚ぼたすぎて、何か裏があるんじゃないかと疑ってしまうわ。



「舞? 頭を抱えてどうしたんだ? 封印された力が疼くのか?」

「いいえ。どちらかというと第二形態になりそうだわ」

「へぇ、相変わらず舞はヤバイなぁ」



 あぁ、何でもない会話なのに風舞くんの笑顔が眩しいわ。

 そう、これがきっと恋なのね。

 いいえ、恋なのよ!



「のうフウマ。なんだかマイの様子がおかしい気がするんじゃが、気のせいかの?」

「さぁ? いつもこんな感じなんじゃないか? ほら、いきなり逆立ちしてるし」

「あはは。マイ様は朝から元気だねぇ」



 おっと、どうやら私達以外に誰か来たみたいだし、頭に血を回して脳を活性化させる作業はこのぐらいにしておきましょう。

 そういえば今朝からアンちゃんの風舞くんを見る目が昨日までの母親みたいな視線から、何か別の視線に変わった気がするのだけれど、気のせいかしら。

 そんな事を考えながら手についた訓練場の土を落としていると、10人ぐらいのクラスメイト達が姿を見せた。



「おや、マユミ様もいらしゃったみたいですよ」

「あぁ。二日酔いで辛いけど、同じパーティーのメンバーに迷惑をかけまいと頑張って笑顔を維持している顔してますね」

「そうでしたか。では、私が魔法で酒精の解毒を…」

「いや、面白そうなんで放っておきましょう」



 風舞くんとトウカさんがそんな話をしている間にマユミ先生達のパーティーともう一組のパーティーが私達に気がついて近づいて来る。



「こんにちは土御門さん。土御門さん達も訓練?」

「ええ。風舞くんが新しい魔法を覚えたらしいから、その慣らしがてらね」

「ほぉぉ。今日もラブラブだねぇ」

「ええ。風舞くんとは仲良くさせていただいているわ」



 そんな私のセリフとともにクラスメイト達からヒューヒューと囃し立てる声が上がり、風舞くんは男子生徒達に羨ましがれている。

 ふふ、私の愛情は風舞くんだけのモノだからもっと誇っても良いのよ?



「そういえばさ、土御門さんっていつから高音くんが好きなの?」

「いつからって言われると難しいけれど、去年の冬休みの最終日の出来事がきっかけね」

「え?」

「あれ? 高音くんは心当たりがないみたいだよ?」

「ふふ。風舞くんは嘘つきさんだからとぼけているだけよ。だってあんなに刺激的で素敵な出来事があったんですもの。忘れているわけがないわよ。ね、風舞くん?」

「あ、あぁっと。ごめん、マジで思い出せない」

「え? じょ、冗談よね? だって一日中私と色んなところに行って、沢山一緒に遊んで、それで私を救ってくれたじゃない」

「ちょ、ちょっと待ってな。去年の冬休みの最終日だろ? えぇっと、確かその日は夜遅くに特殊部隊みたいな人達がいきなり襲って来て、母さんがそれをウフフアハハって追っ払って、次の日に血まみれのベッドで目を覚ましたら朝方に家の前が荒地になってて」

「も、もしかして本当に覚えてないの?」

「いや、それよりもその日の夜にフウマの家に何があったのかの方が気になるんじゃが。それとフウマの母親は何者なんじゃ?」

「ミレンちゃんは静かにしてて!」

「す、すまぬ。なんか妾、最近こういうの多い気がする」

「そ、それでどう? 何か思い出せた?」

「ご、ごめん。なんか学校で舞が泣いてたのはうっすら覚えてるんだけど、その先はあんまり…」



 う、うそぉん。

 あの日があったから私は自分を受け入れてこうして風舞くんに恋をしたのに、なんで風舞くんは覚えていないの?



「……さい」

「え? なんだって?」

「おぉ、マイ様がこうなるのは久しぶりですね」

「構えなさい風舞くん。その脳天をカチ割って私との熱烈な記憶を呼び覚ましてあげるわ!!」



 私は無意識に修羅の型を発動させ風雷を纏い、風舞くんに星穿ちの切っ先を向けながらそう叫んだ。

 風舞くんはそんな私を見て一瞬驚いた顔をしたが、私が本気だと分かると瞬時にいつもの片手剣と炎の魔剣を構えて重心を落とす。

 相変わらず隙だらけで碌に型も無いのに、攻め込み辛いったらありゃしないわ。

 でもそんなところも好き!



「覚悟しなさい風舞くん! 今日という今日は泣いて謝るまで許してあげないわ!!」

「ちょ、ちょっと待って。今涙出すからちょっと待って」

「問答無用! 剣姫 土御門舞、参る!!」



 ふふふ。

 今日の私は名乗りをあげられるくらいには冷静よ。

 さぁ、風舞くんの本気を見せてちょうだい!!

次回26日予定です

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