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クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...  作者: がいとう
第4章 微妙にクラスメイト達と馴染めていない気がするんですけど…
222/516

33話 月を見上げて…

 


 風舞




 人類には未だ解決できていない共通の問題というものが数多く存在する。


 例えば数学会で有名なミレニアム懸賞問題。

 これはあまりの難易度のため長い間未解決となっている問題であり、その答えを導き出せた場合には100万ドルを賞金としてもらえる事で有名な数学の問題だ。

 7つあるミレニアム懸賞問題のうち、1つはロシアの数学者によって解明されたが、残る6つは未だ解き明かされてはいない。

 つまり、このミレニアム懸賞問題は未だ多くの人類を悩ませる超問なのである。


 だが、そんなミレニアム懸賞問題にも決して引けを取る事のない問題はもちろん存在する。

 そう………



「何も着るものがねぇ……」



 デートに何を着て行くのか問題である。


 事の発端はローズやシルビアと三人仲良くダンジョンから帰って来てシャワーを浴びた後のことである。



「なぁ、シルビア。俺に一番似合う服ってなんだと思う?」

「フーマ様に似合う服ですか?」



 舞とのデートを控えて取り敢えず風呂上がりに着ていたラフな部屋着から、余所行きの格好に着替えようと思って、俺はいくつかの服をアイテムボックスから出しながらシルビアに聞いてみた。

 シルビアは年頃の女の子だし、きっと参考になると思っての判断である。



「ああ。ほら、シルビアともそれなりに長い付き合いになるし、一つぐらい俺に似合うなぁと思った服があるだろ?」



 俺に似合う服は存在しないと言われる事は流石にないはずだ。

 ていうか、シルビアにそんな事言われたらショックで立ち直れない。



「そうですね。では、これはどうでしょうか?」



 そう言ってシルビアが手に取ったのはソーディアで公爵さん達に謁見する時に着た礼服だった。

 ボタンさんが買ってくれたこれは確かに俺もお気に入りだし、仕立てもしっかりしているとは思うのだが…。



「うーん。これを着るにはちょっと暑いよなぁ」



 今は夏真っ盛り、いくら夕方になって気温が落ちてくるとは言っても流石にジャケットを着て外に出るには暑すぎる。

 折角選んでくれたシルビアには悪いが、これは着ていけないな。



「それもそうですね……。お役に立てず申し訳ございません」

「あぁ、ごめんごめん。これは俺もお気に入りだからシルビアが似合うって言ってくれてすごく嬉しいぞ。もう少し涼しくなったらちょっとお高い店に一緒に礼服を着て行こうな」

「はい。ありがとうございます」



 ふぅ、どうにかしょんぼりシルビアからいつものクールシルビアに戻ってくれた。

 とはいえ、デートに何を着て行くのか問題はまだ解決していない。



「ねぇ、フレンさん…」

『私に他の女とのデートの衣装の話を振らないでください』



 フレンダさんにも意見を聞いてみようと思ったら食い気味に質問するなと言われてしまった。

 ていうか、他の女ってなんやねん。

 舞の事はそれなりに知ってると思うんだけど……。



「あ、嫉妬か」

『人間ごときが図に乗らないでください。剥ぎ取りますよ?』

「何を!?」



 流石は恐るべき吸血鬼様だ。

 姿は見えないはずなのに、フレンダさんに正面から真っ赤な剣を向けられている幻視をしたぞ。

 あぁ、くわばらくわばら。


 しかし、これはフレンダさんには聞ける雰囲気じゃないな。

 ローズは俺のベッドの上でジュースを飲みながら夢中で本を読んでるし、自分で考えるしかないか。



「はぁ、まじでどうしよ」




 ◇◆◇




 舞




「というわけでミレニアム懸賞問題の様に人類には未だ解き明かせない大いなる謎が沢山あるのよ」

「そうですか。………つまり、どういうことですか?」



 風舞くんとのデートに備えて寮の自室にあるシャワールームで全身をくまなく洗った後、この前ソレイドで買っておいた勝負下着に身を包んだ私はベッドの上であぐらをかきながら頭を悩ませていた。

 私の頭を悩ませる疑問はもちろん…



「何を着て行けば良いのかわからないわ」



 全人類共通の問題である、デートに何を着て行けば良いのかわからない問題である。


 デート初心者の一般人は背伸びをせずに身の丈に合った服を着て行けば良いとか甘えた事を口を揃えて言うが、私は圧倒的な美と知性を兼ね備えた土御門舞である。

 デートという一世一代の舞台に着慣れた普段着で挑むなど、大衆が許しても私のプライドがそれを許さない。


 それに相手はあの風舞くんだ。

 きっと風舞くんの事だからとてもお洒落な衣装に身を纏い、さりげなくカッコ良いアクセサリーなんかもつけて来ちゃったりするのだろう。

 ここで手を抜いては風舞くんのソウルメイトにしてパートナーである私の名に傷がつきかねない。


 そう考えて私は真剣に悩んでいたのだが、トウカさんは呆れた顔をしながらこんな事を言った。



「マイ様は元が良いんですし、何を着てもお似合いになるのではないですか?」

「やれやれ。これだからずっとお家に引きこもっていたトウカさんはダメなのよね」

「何ですって?」

「風舞くんとのデートになんとなくで選んだ格好で挑むなんて考えられないって言ったのよ。風舞くんとのエッチな妄想を毎晩遅くまでしているのに、そんな事も分からないのかしら?」

「い、今はそれは関係ないでしょう! ねぇ、アン様!?」

「えぇぇ。私に聞かれても分かりませんよ。それより、マイ様はフーマ様とのデートに何を着て行くかで悩んでるの?」

「ええ。もしよければ何か意見をもらえないかしら」

「うーん。それじゃあこれなんてどう?」



 そう言ってアンちゃんは別で上に並べられた服から一枚を選び取る。



「これ、かしら?」

「うん。これならマイ様の魅力を存分に引き出せると思うよ」

「でも、これだと街に出ると目立つんじゃないかしら?」

「どうせその長い黒髪では人目を集めるでしょうし、構わないのではありませんか?」

「言われてみればそれもそうね。でも、うーん」

「何か気になる事でもあるの?」

「少しシンプル過ぎないかしら?」

「それじゃあ軽くアクセサリーを付ければ良いと思うよ。それに、こういうシンプルなデザインの方がフーマ様に大人っぽい印象を持ってもらえると思うよ。夜まで出かけるなら落ち着いた服装の方が良いでしょ?」

「なるほど。そう言われるとそんな気もしてきたわ。流石はアンちゃんね。とても頼りになるわ」

「フーマ様とデートだなんて羨ましいです」



 トウカさんが視界の端でブツブツ言っているが、これでコーディネートの方針もデートプランも決まったし、後は本番に挑むだけだ。

 ふふふ、風舞くんをメロメロにして朝まで………い、いえ。

 楽しいデートになると良いわね。




 ◇◆◇




 風舞



 時刻は夕方の5時半過ぎ。

 俺はラングレシア城の中庭で舞を待っていた。

 空はうっすらと赤く色づき始め、しばらくすれば綺麗な夕焼けが見れそうである。



「それじゃあよろしく頼む」

「オホホ。任務の結果は後ほどお伝えいたしますわ」

「ああ。ありがとな」

「オホホホ。それでは健闘をお祈りいたしますわ」



 俺のお使いを頼まれてくれたエルセーヌさんがいつもの様に空気中に溶ける様に姿を消した。

 俺はそんなエルセーヌさんの姿があった場所を数秒ほど見つめ、独り言をこぼす。



「はぁ、めちゃめちゃ緊張する」



 こういうセリフをはくと、いつもならフレンダさんが『フーマ如きが緊張だなんて100年早いです』とか言ってくれるのだが、先程着替えを済ませたあたりで無性に腹が立つから帰ると言って白い世界に戻ってしまった。

 もしかするとフレンダさんなりに気を効かせてくれたのかもしれない。



「座ってるか」



 どうにも落ち着かず中庭の中をグルグルと歩きまわっていたのだが、あまり汗をかくのもどうかと思った俺は廊下の入口の前にあるベンチに座って舞を待つことにした。

 ここのベンチなら廊下から空調の冷気が流れてくるし、汗をかかずに待っていることができる。



「あぁぁ、ポチョムキン」



 三半規管が狂った感覚を鎮めるためにふと思いついたロシアの軍人の名前を口にしてみる。



「ぬおぉぉぉ。緊張するよぉぉぉ」



 しかし効果は全くなく、俺はベンチの上で横になって頭を抱えながら空を見上げた。



「あ、富士山っぽい」



 全く脳内細胞を使わずに導き出した感想を口にしたその時、俺の魔力感知が待ち人の反応を捉えた。

 俺は体を起こしてベンチにまっすぐと座り、前髪をいじりながら舞が来るのを待つ。


 舞も魔力感知を使って俺の位置を把握しているのか、廊下を真っ直ぐにこちらへ進んできた。

 そして俺まで後5メートルといったところで、気配をフッと消した。


 そんな舞の読めない行動に疑問を覚えつつも正面を向いていると、後ろから俺の視界が封じられた。



「だーれだ」

「………」



 舞の澄んだ声を突然耳元に感じて返事を返す事が出来ない。

 舞はそんな俺の様子を知ってか知らずか、一度目に(ささや)いた方とは反対の耳元でもう一度声を発した。



「お待たせ風舞くん」

「あ、ああ。別にそんな待ってないぞ」



 折角舞が来たら「今来たところだ」って定番のセリフを言うつもりだったのに、緊張のあまりにそれが叶わなかった。



「ふふ。それじゃあもう一回。だーれだ」

「舞。土御門舞だ」

「ふふっ、正解よ。流石は風舞くんね」

「舞の声を聞き間違えるわけないだろ」



 そう言いながらベンチから立ち上がって後ろを振り返ると、真っ白なワンピースに身を包んだ舞が僅かに頰を赤くしながら立っていた。

 舞の耳につけられた小さなイヤリングがキラキラと輝いている。



「最高かよ」



 舞が来るまでの間に舞が着てくるであろう衣装を想像して何パターンか感想を用意しておいたのだが、今日の舞の格好は俺の想像を軽く飛び越えていた。

 どうしよう、顔がカッと熱くなっていくのを感じる。



「今日の風舞くんはいつもより凄くかっこいいわね。惚れ直したわ」



 舞が自分の耳に髪をかけながら俺の格好を褒めてくれる。


 シルビアと長い間話し合った結果、俺は舞とのデートに際して清潔感を保ちつつも爽やかな印象を与えるために、礼服のブラウスを軽く着崩し下は夏向けの細めのパンツを合わせ、いやらしくならない程度の銀のブレスレットとウサギのマークが特徴的なネクタイを緩めに結ぶ事となった。

 普段は結構カジュアルというかラフな格好をしている事が多いため、こういう綺麗めな格好はどうにも落ち着かないが、舞が褒めてくれたのだから自信を持って良いのだろう。



「ありがとう。それじゃあ行こうか」

「え、ええ。よろしくお願いするわ」



 舞が顔を赤くしながら俺の差し出した手を掴んでくれる。

 ふぅ、ようやく事前に決めておいた通りの行動が出来たな。



「今日は誘ってくれてありがとな」

「いいえ。私はいつだって自分のやりたい様に生きているのだから風舞くんがお礼を言う必要はないわ。でも、風舞くんも今日のデートを楽しんでくれると……その、嬉しいわ」

「ぷっ」

「もう、何も笑う事ないじゃない」

「あぁ、ごめんな。なんか舞がしおらしいから、おかしかったんだ」

「むぅ。それじゃあもう遠慮してあげないわよ」



 俺の横に並んで歩いていた舞がそう言って一息に距離を詰め、俺の腕に抱きついてくる。

 舞の柔らかな胸の感触に俺の右腕が包まれた。



「………なぁ、舞さんや」

「当ててんのよ」

「まだ何も言ってないぞ?」

「ふふ。風舞くんたら顔を真っ赤にしちゃって可愛いわね」

「…………舞の可愛さにはかなわねぇよ」



 仕返しとばかりにそう言ってみたが、舞は嬉しそうな笑みを浮かべるだけで全くこたえた様子はなかった。

 舞がこんなにすぐそばにいて嬉しいはずなのに、なんだか負けた気分である。


 あぁ、もう。

 いつまで俺のほっぺを突いてるんだよ。




 ◇◆◇




 舞




 風舞くんと腕を組んで城の裏門から外に出た後、私達は人目を避けつつ路地を進み、目当てのお店までたどり着いた。

 この小さな喫茶店は昨日のうちに城のメイドさん達から聞いた隠れた名店で、昨日の内に城を抜け出して予約を入れてある。



「こんばんは。予約を入れていたマイムよ」

「あぁ、いらっしゃい。そこの窓側の席だ」



 優しげな雰囲気のお爺さんがカウンターから指差して私達の席を示す。

 お爺さんの指定した席には軽く夕日が差し込み、薄暗い店内の中でスポットライトに照らされたステージの様に輝いていた。



「予約までしてくれてたのか」

「ええ。折角の風舞くんとのデートですもの、当然でしょう?」



 風舞くんとそんな話をしながらテーブルを間に挟んで向かい合った木の椅子に2人揃って腰掛ける。

 風舞くんは興味深そうに店内を軽く見渡していた。

 ふふ、どうやら気に入ってくれたみたいね。



「注文はどうする? ちなみにここはチョコレートケーキが美味しいらしいわよ」

「それじゃあそれにするか。あと飲み物は……コーヒーがあればコーヒーが良いな」

「どうやらそれもあるみたいね。私もチョコレートケーキとコーヒーにするわ」



 お爺さんがちょうどコーヒーミルを回しているし、きっとコーヒーもあるだろう。

 そうして後ろの方にあるカウンターを確認してから風舞くんの方に視線を戻すと、彼がお爺さんを呼んでくれた。



「すみません。注文をお願いします」

「あいよ。それじゃあご注文をどうぞ」



 お爺さんがメモとペンを手にカウンターから出てきてそう言った。

 風舞くんはそんなお爺さんに軽く微笑みながら注文を始める。



「チョコレートケーキとコーヒーを二つずつお願いします」

「コーヒーにミルクと砂糖は入れるか?」

「俺はミルクだけで、舞はどうする?」

「私も風舞くんと同じものをお願いするわ」

「それじゃあチョコレートケーキ二つとカフェラテ二つだな。今用意するから少し待っててくれ」



 お爺さんはそう言うと、またカウンターの方へと戻って行った。

 風舞くんはそんなお爺さんを見送ったあと、ふと窓の外を眺め始める。



「ねぇ、風舞くん」

「ん? どうした?」

「私は風舞くんを風舞くんって呼ぶけれど、こうやって呼ばれると嬉しいみたいな呼び方はある?」

「いや、特にないな。急にどうしたんだ?」

「ほら、例えば私と風舞くんが2人ともヨボヨボの老人になったとするじゃない?」

「また随分と先の話だな」

「それじゃあ私と風舞くんが完全に大人になった時の話でも良いわ」

「わかった。それで、俺の呼び名の話だよな?」

「ええ。私は今風舞くんを風舞くんって呼ぶけれど、もう少し大人になったら風舞さんとか大人っぽい呼び方になるかもしれないでしょう?」

「まぁ、なるかもな」

「でも、風舞さんだと少し他人行儀な感じがするじゃない」

「まぁ、するかもな」

「そうすると、私は風舞くんをどう呼べば良いのかしら?」

「別に何でも良いんじゃないか?」

「むぅ。私は真剣に聞いてるのよ?」



 そう言ってわざとらしく唇を尖らして見せると、風舞くんがいつもの様に優しい笑みを浮かべながら話を続けた。



「ごめんごめん。でも、俺は舞に名前を呼んでもらえるだけで幸せだから呼び方はなんでも良いんだぞ?」

「それじゃあ色々試してみて風舞くんの反応が一番良い呼び方にするわ。呼ばれたら返事をするのよ?」

「ああ、わかった」

「それじゃあまずは、フーマ」

「はい」

「風舞」

「はい」

「高音くん」

「はい」

「あなた」

「………はい」

「ダーリン」

「は、はい」

「愛しの君」

「なぁ、もう良いか?」

「ちゃんと返事をしてちょうだい。返事をしてくれないと正確なデータが取れないわ」

「はぁ、わかった」

「ふふ。それじゃあもう一度……大好きよ、風舞くん」

「…………………ずる」



 風舞くんが口元を押さえて窓の外に目を向けながら顔を真っ赤にしてそう言った。

 ふふ、何かしらこの気持ち。

 以前から風舞くんは照れると可愛いと思っていたけれど、こうして意識的に攻めてみると無性にゾクゾクするわね。



「なるほど。結局風舞くんって呼ばれるのが一番好きなのね」

「これはズルすぎるだろ」

「ふふ。それじゃあお詫びにいっぱい名前を呼んであげるわ。風舞くん。ふうまくん。ふ、う、ま、くん」

「か、勘弁してくれ」



 最後には顔を真っ赤にしてテーブルに突っ伏してしまった。

 私はそんな風舞くんの頭を撫でながらカウンターの方から漂ってきたコーヒーの香りを静かに楽しむ。

 あぁ、とても幸せな時間だわ。




 ◇◆◇




 風舞




 お洒落な喫茶店で舞に散々からかわれながらケーキとコーヒーを楽しんだ後、俺と舞はメインストリートから一つ外れた道でひっそりと開いていたアクセサリーショップを覗いていた。

 喫茶店を出たあたりで舞が初デートの記念に何かを買って帰ろうと言った為である。



「へぇ、アクセサリーにも色々あるんだな」

「そうね。つけるとしたら指輪かネックレスかしら? あ、こういう細めのアンクレットなんかも良いかもしれないわね」

「悩ましいな。戦闘で壊れたら嫌だし、小さめの方が良いのか?」

「壊れたらまた買いに来れば良いのだし、今は2人とも気に入った物を選びましょう?」



 舞が何かの宝石が嵌め込まれた指輪を眺めながらそう言った。

 この店の店主の話によるとここに並べられた宝石はどれも安価なものらしく、平民の間では日頃の感謝を伝える時によく送り合う物らしい。

 なんでも王都の近くの洞窟に宝石みたいな甲羅に身を包んだ蟹の魔物が出るらしく、ここのアクセサリーはそれを加工する時に出た端材を使って作っているらしい。



「それじゃあ俺はネックレスが欲しいな」

「あら、奇遇ね。ちなみにこの中だとどれが好きかしら?」

「その青い石がついたやつ」

「それじゃあこれにしましょう」



 舞はそう言って俺の指差したネックレスを二つ手に取ると片方を自分の首にかけ、もう片方を俺の首に正面からかけ始めた。

 俺は近すぎる舞の顔に緊張しながらも、平静を装って舞に声をかける。



「舞はこれで良いのか?」

「ええ。実のところ私は風舞くんとお揃いならなんでも良かったの」

「そうなのか?」

「最近ミレンちゃんとお揃いの印を肩に入れているでしょう? それがすごく羨ましかったのよ」

「あぁ、そういう事か」

「でも、こうして風舞くんとお揃いのものを身につけてみると純粋に嬉しいとしか感じないわね。はい、できたわよ」

「ああ。ありがとう」



 舞は俺のお礼を聞いて微笑みを浮かべると、俺に背中を向けて店主の方へ支払いをするために歩いて行った。

 鈍感系主人公ではない俺には舞の耳が赤くなっている事が普通にわかる。

 なんだよこれ、からかわれるよりも舞が照れてる方が俺が恥ずかしくなんのかよ。



「はぁ、幸せすぎて辛い」



 そんな事を言いながら会計をしつつ店主にからかわれて恥ずかしがりながらも胸を張る舞を眺めていると、後頭部に飛んできた何かが当たった。

 俺はその当たったもの…小さな銀の筒を拾い上げて、中身を確認してみる。



 ◇◆◇


 デートに浮かれてだらしのない顔のご主人様へ


 予定通り第一目標のポイントを確保できましたわ。

 向かいの部屋も朝まで人が来ない様にしておきましたの。

 マイ様とめくるめく激しい夜をお過ごしくださいな。


 ご主人様に他の女とのデートの手伝いをさせられる可哀想な女エルセーヌより



 ◇◆◇



「ありがとな」



 そう言ってエルセーヌさんからの作戦成功の報告書を筒に戻そうとしたその時、銀の筒の中にもう一枚手紙が入っている事に気がついた。

 念のためそちらも確認してみる。



 ◇◆◇



 追伸



 さっさとマイ様と初夜を済ませて私にもお情けをくださいな。

 もうこれ以上焦らされるのは我慢できませんの。



 ◇◆◇



「うるせぇやい」



 俺はそう言って手紙と銀の筒をズボンのポケットに突っ込み、舞の元へ向かった。

 舞はちょうど会計が終わったところなのか、近付いてきた俺の腕を抱きしめて店主に自慢げに言った。



「ほら、これで分かったでしょう!? 私と風舞くんはこういう関係なの!」

「そう言われても信じられないなぁ」



 丸メガネをかけた40半ばぐらいの女店主がニヤニヤと笑みを浮かべながらそう言う。



「一体なんの話だ?」

「この人が私と風舞くんは兄弟なんじゃないかって言うのよ!」

「ちなみにどっちが上なんですか?」

「お兄さんが上でそっちが妹さんだろう?」

「はい。実はそうなんですよ」

「ちょっと風舞くん!?」

「あぁ、やっぱりそうだったのかい。二人とも大きいのに仲が良いんだねぇ。ウチにも同じぐらいの息子と娘がいるんだけど、毎日喧嘩ばっかりで凄い大変でねぇ」

「ははは。それは大変そうですね」

「ねぇ、風舞くん。私達が姉弟だと言うのならまだしも、私が妹ってどういう事かしら?」

「あぁ、はいはい。舞の方が誕生日が先だったな」

「おや、本当はお兄さんが弟だったのかい? お姉さんとは違って随分しっかりしてるんだねぇ」

「だから私達は兄弟じゃないと何度言えば……」

「ほらお姉ちゃん。日も落ちたしそろそろ行こう」

「………弟が疲れちゃったみたいだからもう行くわね。良い品をありがとう。大切にするわ」

「ああ。いつまでも姉弟仲良くねぇ」



 そうして俺と舞は女店主に見送られてアクセサリー店を後にした。

 店の外はすっかり日も落ちて建物の間から青い大きな月が見える。


 そんな月を眺めながら振り返っても女店主が見えない位置まで来ると、俺と腕を組んでいた舞が足を止めて正面を向いたまま呟いた。



「私達、(はた)から見ると姉弟に見えるのかしら」

「日本人の顔が見慣れないからそう見えるだけだろ?」

「むぅ。そうなのかもしれないけど、なんだか釈然としないわね」

「俺は舞みたいな姉ちゃんがいたら楽しそうだとは思うけどな」

「私みたいなお姉ちゃんがいたら私の新鮮味が薄れちゃうからダメよ」



 舞がそんな独自の理論を語りながら城に向かって俺の先を歩き始める。

 さて、そろそろ覚悟を決めるとするか。



「なぁ、舞。この後時間って空いてるか?」

「え、ええ。空いてるわよ」



 舞が背中を向けたままそう呟く。

 舞の向いている方向からはメインストリートの光と喧騒が届いているのだが、下を向いている舞にはそのどちらも届いていないみたいだった。



「それじゃあ、行きたい所があるから付き合ってもらえないか?」

「ええ。もちろん構わないわよ」

「それじゃあ、目を閉じてくれ」

「え、ええ」



 舞の正面に回って舞の様子を確認してみると、舞はキュッと目を瞑って胸の前で両方の手を握りしめていた。

 何これ、めちゃくちゃ可愛いな。



「よ、よし。それじゃあこのまま転移するから目を閉じておいてくれよ」

「ええ」



 握りしめている舞の手に触れてそのまま転移する。

 転移先は俺と舞にとって意味のある場所………ラングレシア王城のバルコニーだ。


 以前ソレイドの草原で舞から告白をされた時に返事は城のバルコニーでもらいたいと言われていたが、今夜は良く晴れて綺麗な月や星々が見えるし、今日このタイミングで舞に想いを伝えるのがベストだろう。


 俺はそんな事を考えながらバルコニーの中心に立つ舞から数歩下がり、大きな月を眺めながら舞の正面に立った。



「もう目を開けて良いぞ」

「そ、それじゃあ開けるわよ」

「ああ」



 舞が恐る恐る目を開けて正面に立つ俺と目を合わせる。

 俺はそんな舞の様子を見て笑顔を浮かべながら予め決めておいたセリフを口にした。



「どうだ? 舞の望み通りのロケーションだろう?」

「ええ…ええ! すごい、すごいわ! 私の想像以上よ!」



 良かった。

 どうやら舞はこの絶景を気に入ってくれたみたいだ。


 空には青く気高く輝く月が浮かび、その下に広がる街からはオレンジ色の温かな光が溢れ出ている。

 やっぱり舞の理想のシチュエーションっていうのは俺とほとんど同じだったんだな。



「なぁ、舞。舞はこの世界に来てますます可愛くなったよな」

「……そうかしら?」

「ああ、そうだぞ」



 俺は舞が告白してくれた日のセリフをなぞりながら舞に話しかける。

 舞もその事にすぐに気がついたのか、次のセリフを口にしてくれた。



「風舞くんもこの世界に来てますますカッコ良くなったわね」

「ありがとう舞。凄く嬉しい」

「ふふ。風舞くん」

「なんだ?」

「好きよ」

「ま、舞はいつもすごいな」

「そうかしら?」

「ああ、いつも驚かされてばっかりだ」



 あ、危ねぇ。

 もうちょっとで舞の勢いに飲まれる所だった。

 だが、まだだ。

 もう少しだけこのまま頑張らないと…。



「なぁ、舞。俺は舞とこの世界で一緒に居られる事が凄く嬉しい」

「あら、そうだったの?」

「ああ。舞がいつもそばに居てくれるだけで俺は凄く幸せだ」

「そうだったのね」

「そ、それでだな。俺はどうしても舞に言いたい事があるんだ」

「ふふ。何かしら?」



 舞が自分のセリフを口にするたびに笑顔で一歩ずつ近づいてくる。



「俺は舞とずっと一緒にいたい。そのためならどんなに強大な敵とでも戦えるし、どんなに辛酸を舐めてもどんな艱難辛苦が道を塞いでもその度に立ち上がる事ができる」

「抱きしめても良いかしら?」

「………もう少しだけ待ってくれ」

「むぅ、仕方ないわね」

「俺は舞と一緒にいたい。だからどんな時でも舞が困っていたら力になるし、ピンチの時はどこにいても助けに行く」



 俺は舞が好きだ。

 この世界に来る前から好きだったが、この世界で一緒に暮らしているうちにもっと好きになった。

 だからこそ、舞には俺のこの想いをしっかりと伝えたい。



「それでだ。俺はどうすれば舞にこの決意をしっかりと分かってもらえるか考えた」



 俺はそう言ってから一歩ずつ近付いて来ていた舞の目の前に立って舞の顔を見つめた。

 きっと今の俺の顔は今までになく赤く染まっている事だろう。



「ええ」

「ここからは俺自身のセリフ(言葉)だ。俺は舞みたいに多くを語る事は出来ないけれど、だからこそ俺はこの想いを強く感じながら舞に伝えたいと思う。聞いてくれるか?」

「ええ。私はいつだって風舞くんの声を待っているわ」



 俺はそう言って微笑む舞を見てから一度目を閉じて深呼吸を始める。

 城下街の喧騒がここまで届き、穏やかな夜風が俺の肌を撫でる。

 俺はそんな気持ちの良い風を感じながら目を開き、目の前の舞をしっかりと見つめながら積み重なっていた俺の想いを舞に伝える。



「舞」

「何かしら?」

「愛してる。俺は…舞が誰よりも好きだ」

「〜〜〜っっ!! 私も好きよ! 大好きだわ!!」



 舞が俺を力いっぱい抱きしめてくる。

 俺はそんな舞をしっかりと受け止めて舞を抱きしめかえした。


 やっとだ。

 やっと舞に俺の想いを伝える事が出来た。



「なぁ、舞。俺は舞が好きだ」

「私もよ! 私も風舞くんが大好き!!」

「それじゃあ、ちょっとだけ良いか?」



 俺は今日の最後の目標を達成するために抱きしめていた舞に少しだけ離れてもらう。



「どうしたのかし……むぅっっ!!?」

「どうだ。参ったか」



 舞の唇にキスをした俺はそう言いながら目を白黒させる舞を見つめてニッと笑った。



「ま、参ったわ。今晩は私が風舞くんをメロメロにしようと思っていたのに……こ、これは……ズルいわよ」

「喫茶店で散々俺をからかった仕返しだ」

「ど、どうしよう。どうしても顔がニヤけてしまうわ。悔しくて仕方ない筈なのに、風舞くんが愛おしすぎて我慢できないわ」

「なぁ、舞」

「な、何かしら?」

「好きだ」

「ぬぅぅぅ」

「愛してる」

「ぬおぉぉぉ」

「なんだそれ?」

「ふ、風舞くんが好きで幸せすぎて死んでしまうのを堪える音よ」



 舞が俺の胸に顔を押し付けながらもごもごとそう言った。

 あぁ、きっと今日見た月を俺は生涯忘れる事はないだろう。

 自然とそう思えてしまうぐらい俺達の上に浮かぶ月が綺麗で、それ以上に舞が可愛かった。




 ◇◆◇




 風舞




 舞の腰が砕けるまで何回も告白をして舞が復活するまで頭を撫でた後、すっかり夜も更けてお腹が空いてきた俺と舞はバルコニーから室内に入った。

 部屋の中には食べ物の美味しそうな匂いが広がり、大きなテーブルの上には豪華な料理がまるで出来立ての様に湯気を上げている。

 エルセーヌさんのやつ、中々憎い事をするじゃないか。



「はぁぁ。なんだか幸せ疲れしたわ」

「ごめんごめん。まさか舞があそこまでフニャフニャになるとは予想外だった」



 俺と舞はぴったりと肩を寄せ合いながらそう言ってテーブルの前のソファーに座る。



「さて、折角用意してくれたんだし、遠慮なく食べようぜ」

「そうね。私ももうペコペコよ。あら、何かしらこれ?」



 そう言って首を傾げる舞の手には銀の筒と小さな紙が乗っていた。

 どうやらソファーに座ったタイミングで俺のポケットからこぼれ落ちたらしい。


 や、やべ。

 そう思った時には舞は銀の筒の中に入っていた紙ともう一枚の紙を両方広げて目を通していた。



「えぇっと何々………。ねぇ、風舞くん。少し聞きたい事があるのだけれど、良いかしら?」

「あぁ、喉が乾いたな。ちょっと水を汲んでくるわ」



 そう言いながら部屋の隅に転移して舞から逃げようとしたのだが、舞は動き辛いヒールを履いているにも関わらず一瞬で俺の目の前に姿を現した。



「ねぇ、風舞くん。エルセーヌを焦らすってどういう事かしら?」

「エルセーヌさんのいつもの冗談だろ?」

「ねぇ、風舞くん。私は風舞くんが大好きよ。でも、だからこそ嘘をつかれると傷つくって分かるわよね?」

「こ、この前エルセーヌさんと添い寝しました」

「もしかしてその時…」

「し、してない! 二人とも裸だったけど指1本触れてないから!」

「そう。それじゃあ次の質問よ」

「ヒィっ!?」



 舞が壁ドンをして俺の逃げ道を塞ぐ。

 別に触れられているわけではないので転移魔法で逃げようと思えば逃げられるのだが、舞の気迫がそれを許さなかった。



「今まで私以外の女性とその…そういう事をした事ある?」

「な、ないです。あ…」

「何かしら?」

「そ、その。トウカさんとキスした事あります」

「そう。それじゃあ……」

「ムグっっ!!?」



 舞に壁ドンをされたまま顎に手を当ててキスをされる。

 先程俺からした時とは違い、舞は俺の唇に自分の唇を当てたまましばらくの間動かなかった。


 そうして数秒か数分か数時間か経った後で舞とのキスから解放された俺はその場に座り込んでしまう。

 む、胸が苦しくて顔が熱い。



「他には?」

「は、はい?」

「風舞くんの事だから他にもあるのでしょう?」

「い、いや。他には何も……」

「今のうちに白状した方が自分のためだと思うわよ?」

「ぼ、ボタンさんとエルセーヌさんに全身くまなく洗われました」

「そう。それじゃあお風呂に行くわよ」

「ちょ、ちょっと待って! 流石にそれは待ってくれ!」

「い、や、よ」



 舞が俺をお姫様抱っこして持ち上げたまま深い笑みを浮かべつつそう言う。

 あ、ダメだこりゃ。

 舞さん完全に目が座ってんじゃん。



「や、優しくしてね?」

「ふふふ。楽しい夜になりそうね」



 そうして俺はお風呂場へとえっさほいさと運ばれ、服を剥ぎ取られて舞にピカピカにされ、一緒に湯船に浸かって後ろから抱きしめられ続けるのであった。

 う、嬉しいけど、なんか思ってたのと違う!

次回、11月8日予定です

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[一言] 最後はいつも通りだったが… 間は口から砂糖が出そうな勢いでしたわww そりゃコーヒーに砂糖は要りませんわなww
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