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クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...  作者: がいとう
第4章 微妙にクラスメイト達と馴染めていない気がするんですけど…
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32話 舞VS明日香と愉快な仲間達

 

 舞




 風舞くんの部屋で遅くまでみんなで遊んだ翌日の朝、寮の自室から出て部屋の前で伸びをしていると、ちょうど向かいの風舞くんの部屋からシルビアちゃんが出てきた。

 シルビアちゃんの顔はほんのりと赤く染まり、真面目な彼女にしては珍しく寝癖が立っている。



「おはようシルビアちゃん。昨日はどうだったかしら?」

「ま、まったく眠れませんでした」

「あら、そうなの?」

「はい。フーマ様が気を使ってくださって緊張しないようにお話ししてくださっていたのですが、フーマ様が寝てしまってからはその………」

「もしかして尻尾を抱きしめられでもしていたのかしら?」

「は、はい」



 シルビアちゃんがゴールデンレトリバーみたいな……いや、シルビアちゃんの尻尾は茶色いからアイリッシュセッターの方がそれっぽいかしら?

 ともかく、茶色くてフサフサな尻尾を左右に揺らしながら恥ずかしそうに返事をした。


 なんだか「美人な秘書が尊敬する社長さんとお楽しみだった次の日」みたいな光景ね。



「エッチだわ」

「はい?」

「あぁ、いえ。なんでもないわ。それより、今日も風舞くんとダンジョンに行くのでしょう? 私の部屋のベッドが空いてるから少しでも休んでおきなさい」

「しかし、フーマ様も既に目を覚ましておりますし、身の回りのお世話をしなくては……」

「もう、もしもシルビアちゃんが寝不足でダンジョンで怪我でもしたらフーマくんは悲しむわよ? 今はつべこべ言わずに休んでおきなさい。ほら、フーマくんには私から言っておいてあげるから」

「分かりました。それではお言葉に甘えさせていただきます」

「もう。シルビアちゃんは真面目ね。そんなんじゃ将来ハゲ…」

「禿げません!!」



 そうしてシルビアちゃんの説得を終えた私はシルビアちゃんをベッドに寝かしつけて、シルビアちゃんの様子を見ていると言ったアンちゃん以外の皆と共に風舞くんの部屋に向かった。



「風舞くん。入っても良いかしら?」



 そう言って私がノックしようとすると、トウカさんが何も言わずにドアを開けて中に入る。

 くっ、風舞くんの着替えシーンを見るために瞬時に行動に移すその判断力…我が従者ながらになかなかやるわね。



「おはようございますフーマ様。今日のお加減はいかがですか?」

「ああ。おはようございます。今日も元気ですよ」



 部屋の中では風舞くんがお気に入りの紅茶を飲みながら優雅に外を眺めていた。

 なんだ、もう着替えはとうに終わっていたのね。

 寝起きで気だるげな風舞くんも素敵だわ。



「シルビアちゃんは私の部屋で毛づくろいをしているわ。朝食はアンちゃんと食べるらしいから私達だけで食堂に向かいましょう」

「分かった。それじゃあそうするか」



 本当はシルビアちゃんは私の部屋で寝ていてアンちゃんはそれについているのだが、シルビアちゃんが自分が寝不足な事は黙っていて欲しいと言っていたし、こう言っておくのが無難だろう。

 相変わらずシルビアちゃんは健気で可愛いわね。



「さぁ、行きましょうフーマ様」

「え? なんで両手を広げているんですか?」

「最近はマイ様に付きっ切りでフーマ様とのお時間が少なくなっていましたので、食堂まで運んで差し上げようかと…」

「いや、結構です。で、ミレンは何で何も言わずに俺の肩に乗ろうとしてるんだ?」

「む? ダメなのかの?」

「別にダメではないけど………どうかしたか?」



 風舞くんが私の顔を見てそう尋ねて来た。

 え、えぇっと。

 どう返答したものかしら。

 正直に風舞くんの顔に見惚れていたって言うのも恥ずかしいし、かといって今日のデートの事で頭がいっぱいになっていたなんて言ったら風舞くんの顔を直視でき無くなりそうだし……。



「舞? 体調でも悪いのか?」

「い、いえ。そういう訳ではないわ」

「ん? あぁ、そういう事ですか。ごめんな舞。俺達は先に食堂に行ってるから自分のタイミングで大丈夫だぞ。あ、トウカさんは舞に付いていてあげてください。俺にはそこの辺りはよくわからないので」



 風舞くんがフレンダさんから何かを聞いたのか、優しい笑顔を浮かべながらテキパキと指示を出し始めた。

 もしかして、私が生理で体調が悪いとでも思ったのかしら?

 私は比較的軽い方だから少し食欲が落ちる程度だし、今日はその日でもないのだけれど……。



「舞様? もしかして本当に体調が悪いのですか? 今朝から異様に大人しいですし、なんだかおかしいですよ?」

「いいえ。本当に何でもないの」

「それでは何か悩み事でも?」

「それも違うわ。今の私はすこぶる快調だし幸せよ」

「それなら良いけど、何かあったら相談しろよ? 舞が倒れでもしたら一大事だからな」

「………しゅき」

「は?」

「い、いえ。何でもないわ。さぁ、食堂に向かいましょう。お腹が空いたわ」



 あ、危なかった。

 まさか風舞くんに少し心配してもらっただけで想いが溢れてしまうとは想定外だ。

 落ち着きなさい土御門舞。

 私は比肩する者の少ない優秀な才女、千年に一人の逸材と呼ばれた神童なのよ。

 自分の思いぐらい飲み込んで周囲に悟られないようにしなさい。


 そんな事を考えながら深呼吸しつつ食堂へ向かって先頭を歩いていると、後ろから風舞くんの話し声が聞こえてきた。



「うるせぇですよ」

「む? またフレンが何か言っておるのかの?」

「ああ。全く、フレンさんはゴシッピーすぎるんですよね」



 どうやらフレンダさんとお話ししながら歩いているらしい。

 むぅ、どんな時でも風舞くんと一緒だなんてフレンダさんが羨ましいわ。

 一体風舞くんとフレンダさんは普段どんな話をしているのかしら?

 フレンダさんはローズちゃんの妹でスカーレット帝国では参謀的な立ち位置だったらしいし、きっと冷静で知的で清楚な人なのよね。

 くっ、少しだけ私とキャラが被っている気がするわ。



「苦虫を噛み潰した様な顔をしてどうしたのですか?」

「はっ、そう言えばトウカさんも冷静で知的なキャラだったわ。トウカさん。貴女は今から3歳児よ! それ相応の話し方をしなさい!」

「いまいち話が見えないのですが」

「良いからやりなさい! 主人命令よ!」

「はぁ、分かりました。……………ゴホン。わたしトウカ! 3歳です! 好きなのはフーマ様で、嫌いなのは無茶振りをしてくるマイ様です!」

「むぅ、意外にも可愛らしくてこれではキャラ被りよりも問題になりそうね。もうやめても良いわよ」

「フーマ様! トウカはお腹が空きました! あと、フーマ様に抱っこしてもらいたいです!」

「は? どうしたんすか? またマイに無茶振りされたんですか?」

「フーマ様抱っこ!」



 少し目を離した隙にトウカさんが風舞くんの元へ走って行って好き放題やり始めてしまった。

 ちっ、我が従者ながら油断も隙もないわね。



「ちょっとトウカさん! もうやめて良いって言ったでしょ! 私の命令を免罪符に自分の欲望をここぞとばかりに消化するのはやめなさい!」

「フーマ様、トウカはいつもマイ様の命令を一生懸命聞いてるのです」

「は、はぁ。そうですね?」

「だから良い子良い子して?」

「はいはい。良い子良い子ー」

「ふふふふふ」

「だからやめなさいと言ってるでしょ! それ以上やる様なら例のエッチなポエムをここで暴露するわよ!」

「え!? なにそれ聞きたい!」

「ゴホン。おはようございます風舞様。おや、肩に埃がついていますよ」

「あの、エッチなポエムってなんですか?」

「ふふふ。さぁ、朝食に向かうといたしましょう」

「あのー、エッチなポエムってなんですか? おーい」



 風舞くんが心底気になるのかスタスタと歩き始めたトウカさんの後を追い始める。

 まったく、やっぱり油断も隙もあったもんじゃないわ。



「まぁ、私は風舞くんが()()だらけなのだけれど………」



 ……………何を言っているのかしら私。

 自分で言っておいて恥ずかしくなってしまったわ。

 はぁ、やっぱりなんだか普段通りにいかないわね。




 ◇◆◇




 風舞




 昨日に引き続きラングレシアのダンジョンの攻略に来た俺とシルビアとローズは第1階層の魔法陣の前に立っていた。

 昨日は第20階層まで攻略したため、今日はその続きの階層からの攻略である。

 ここのダンジョンは迷路のある区画以外は基本的に一本道らしくマッピングの必要がないため、魔物に足止めされなければそれなりにサクサクと進む事ができる。

 まぁ、お城の人からダンジョンに入る前に地図の写しをもらってるから、仮に一本道じゃなくてもマッピングは要らないんだけどな。



「さて、それじゃあそろそろ行くか」

「うむ。妾はいつでも行けるぞ」

「私も準備は出来ております」

「今日の目標は第40階層の迷宮王の討伐だ。昨日に引き続き魔物の討伐よりも攻略スピードを重視するからそのつもりで頼む」

「はい。かしこまりました」

「む? お主、なんだか楽しそうじゃな」

「以前ソレイドのダンジョンでもフーマ様と同じ様な事をした事があるので、その時の事を思い出していたのです」



 シルビアが言っているのは俺とシルビアが出会ったばかりの話しだろう。

 あの時のシルビアは自分をアンと名乗って、態度もツンケンしてて大変だったなぁ。



「シルビアも丸くなったな」

「確かに以前に比べれば肉付きが良くなったかもしれんの」

「え!? 私、太りましたか!?」

「そうではない。健全な身体になったと言ったのじゃ。では、後ろから誰かが来たみたいだしそろそろ行くとするかの」

「ああ。ほらシルビア、俺は少しぐらい肉付きが良い方が好きだから何の心配もいらないぞ」

「それってやっぱり太ったって事ですか!?」



 そんな感じで、俺とローズとシルビアはガヤガヤと話しつつダンジョンの中に入って行った。

 へぇ、俺たちが転移魔法陣で転移する直前に第1階層にやって来た人達はみんなローブを目深に被ってるのか。

 なんだか今日はシルビアとの初めての出会いを思い出す日だな。




 ◇◆◇




 風舞




 第25階層の無駄に長い詠唱の魔法を使ってくるスケルトンの迷宮王を倒してさらに2階層ほど潜った後、俺はとあるトラップの真ん前にシルビアの盾を借りて立っていた。



「これフウマよ。どうせ持ち帰れないんじゃからそろそろ先に進むぞ」

「も、もうちょっとだけ待ってくれ。今のところフルコンボなんだ」

「ずっと同じテンポで出ておるんじゃから当然じゃろう」

「いやいや、意外とこれ難しいんだぞ」



 俺はそう言いながら壁の穴から飛んできた矢を盾で受け止め、そのまま下に落ちる矢を足に当ててアイテムボックスに収納していく。

 ダンジョンにあるものは魔物の素材や宝箱に入っている物しか持ち出せないのだが、ダンジョンの中で使う分には持っておいても問題はないだろう。



「フーマ様。もしよろしければ盾をお持ちしましょうか?」

「いや、そろそろアイテムボックスに入れておくのも辛くなって来たから先に進もう」



 これはソレイドのダンジョンで知った事なのだが、ダンジョンの構造物を無理にアイテムボックスに入れると、元に戻ろうとする力が働いているのか気をぬくと勝手にアイテムボックスから出て来てしまう。

 既に100本近くの壁から飛び出す矢を収納しているため、アイテムボックスから出ようとする矢を押さえ込んでおくのもそれなりに大変だ。



『おいフーマ。こんなに矢を集めてどうするのですか? 弓が無いと矢を飛ばせないではありませんか』

「何かに役立つと思って集めてみたんですけど、弓が欲しいですね」

「おいフウマ。無駄話は後じゃ。また魔物が来たみたいじゃぞ」



 そう言うローズの見る方向を見てみると、しょっちゅう出てくるレア度の低そうなスケルトンとゾンビ、それと…



「スケルトンの上位個体が二体いますね。片方はロングソード持ち、もう片方は……弓ですね」

「超ついてるじゃん! その弓寄越せやオラ!」

『魔物相手に恐喝するとは呆れた男ですね』



 フレンダさんにそんな事を言われつつもローズやシルビアと共にバッタバッタと魔物を倒し、俺はスケルトンの弓を手に入れた。

 弓は何かの骨で出来ていて、見るだけでスケルトンの落し物だとわかるデザインである。



「えぇっと、こんな感じか?」



 適当に矢をつがえて弦を引いてみる。

 へぇ、以外と弓を引くのって力がいるんだな。



「これ、それでは真っ直ぐ飛ばぬぞ。腕を伸ばさんか」

「こうか?」

「矢は親指の上に乗せた方が安定するかと」

「こうか?」

「ふむ。それで一度射ってみよ」



 矢を持っていた手を離すと弓が真っ直ぐ飛んでいく。

 だが、俺の放った矢は狙っていた柱のマークとは見当違いの方向に飛んでしまった。



「あれ? 全然当たんない」

「お主、何を狙っておったんじゃ?」

「あの柱のマークのとこ」

「ふむ。貸してみよ」



 ローズが俺から弓矢を受け取って適当に射った。

 ろくに的も見ていなかったけど当たるのか?



「当たんのかい」

「ふむ。魔物の落とした物にしてはあまり歪みがないの。シルビアもやってみたらどうじゃ?」

「それでは折角ですし」



 シルビアも弓矢を構えて的を狙ってみる。

 ローズよりは長く構えたが、それでもスマートに矢をつがえて綺麗なフォームで矢を放った。



「あ、当たりました」

「それじゃあ俺ももう一回」



 そうしてもう一度弓矢を構えて的を狙って射ったのだが……。



「当たらん」

『この距離で外すとはセンスがありませんね』

「ちっ、もう一回……クソ、またダメか」

「のうフウマ。弓などを使う事などまず無いじゃろうからそろそろ先に進まんか?」

「…………でも」

「はぁ。のうシルビア…ごにょごにょごにょ」

「え? あ、はい。分かりました」



 シルビアとローズが何かを話し込んでいる。

 俺はその間にもう一回弓矢を構えて的を狙ってみた………が、またもや外れてしまった。



『絶望的なセンスの無さですね。全く上達する未来が見えません』

「ちくしょう!」

「フーマ様。少しよろしいですか?」

「ん? どうかしたか?」



 弓を下ろしてシルビアの方を向くと、シルビアが俺の右手を両手で掴みながら笑顔で話しかけてきた。

 な、なんだ?



「その、フーマ様は剣をお持ちの方が素敵ですよ」

「…………」

「ふ、フーマ様?」

「よし、いつまでも遊んでいないで先に行くぞ! 俺の華麗な剣技を見せてやろう!」

『引くぐらい単純な男ですね』



 フレンダさんが何か言っている気がするが、今はそれよりも俺の剣だ。

 ふっ、俺の片手剣が魔物の血を求めて疼いているぜ。




 ◇◆◇




 舞




 風舞くんがシルビアちゃんとローズちゃんと共にダンジョンへ向かった後、なんとなく暇になってしまった私とトウカさんとアンちゃんは城の訓練場を訪れていた。

 ドラちゃんは廊下を歩いていたらたまたま遭遇したエス少年とどこかへ行ってしまったため、今は私の元にはいない。

 まぁ、城内にいる限り所在地はなんとなくわかるし、そこまで問題はないわよね。



「さて、なんとなく訓練場に来てみたけれどどうしたものかしらね」

「訓練場なんだし、訓練したら良いんじゃない?」

「うーん。それでも良いのだけれど、トウカさんと訓練するとついつい本気になっちゃうから今日はやめておきたいのよね」

「ふーん。ちなみに、マイ様とトウカ様ってどっちの方が強いの?」

「新しい技を生み出した直後なら短期決戦で絶対勝てるけど、長期戦になると燃費の悪い私の方が不利ね」

「マイ様は基本的に自分の限界を超える技を多用しますので、それさえ凌いでしまえば後は自滅するのを待てば勝てます」

「へぇ、私はトウカさんが戦っているところを見た事がないからちょっと気になるなぁ」

「トウカさんはミスを誘ってそこに付け込む様な陰険な戦い方をするから見てても面白くないわよ」

「論理的かつ戦略的な戦い方をすると言ってください。マイ様の戦い方が野生的すぎるだけです」

「ははは。それじゃあ二人揃えばどんな敵でもやっつけられそうだね」



 優しいアンちゃんのセリフにトウカさんと二人揃ってほっこりする。

 風舞くんの従者は二人とも本当に良い子ね。

 そんな事を考えながら腰に差した妖刀星穿ちの柄を撫でていると、不敵な笑みを浮かべたエルセーヌが数人のクラスメイト達を連れて私の元へやって来た。



「オホホホホ。ご機嫌いかがですの?」

「すこぶる元気よ。それより、篠崎さん達を連れてどうしたのかしら?」



 エルセーヌの後ろには篠崎さんを筆頭に完全武装した5人のクラスメイト達が立っている。

 見たところ五人組のパーティーってところかしら。

 前衛が二人に後衛が二人、それで篠崎さんが前後衛をこなす司令塔かしらね。

 普通にバランスの良さそうなパーティーだわ。



「オホホ。本日はマイ様に折り入ってお願いがございますの」

「お願い?」

「ありがとうエルセーヌさん。こっからはウチの口から話すよ」



 篠崎さんがそう言って私の前に出てくる。

 別に篠崎さんは喧嘩腰ってわけではないのだけれど、彼女に見つめられると少しだけ緊張するのよね。

 もしかしてギャルの特性なのかしら?



「ねぇ、土御門さんって風舞よりも強いの?」

「そんな事ないわよ。風舞くんと戦ったら私は間違いなく負けるわ」

「オホホ。それではルールありの勝負でしたらどうですの?」

「そのルールにもよるけれど、スポーツとしての戦いだったら私の方が強いわね」

「それじゃあウチ達よりも強い?」

「仮にそうだった場合、私は何をさせられるのかしら? 先に言っておくけれど、私は誰かに教育ができる様な上等な戦士ではないわよ?」

「ほら、あーちゃん。みんなで話して決めたんだから素直にお願いしようよ」



 篠崎さんの後ろにいた黒髪ツインテールのギャル二号さんが篠崎さんの後ろからそう言った。

 私がキョトンとした顔でその様子を見ていると、篠崎さんが気まずそうに頰をかいた後で何かを決心したのか、バッと私に頭を下げた。



「お願いします! ウチ達と模擬戦をしてください!」

「え? 嫌よ。私今日は風舞くんとデートする約束してるから怪我したくないもの」

「え? デート?」



 ギャル二号さんが首を傾げながらそう言った。



「そうよ。風舞くんがダンジョンから帰って来たら一緒に城下町に出かけるの」

「あれ? 今日って城下町に出かけられる日だったか?」



 今度はメガネのオタクっぽい男子が質問をしてくる。



「私と風舞くんには特に行動の制限は設けられていないのよ」

「あ、あの。それじゃあやっぱり土御門さんと高音くんはお付き合いしているのですか?」



 次は小柄なおかっぱの女の子からだ。



「いいえ。まだ付き合ってないわね」

「「「あ、そうなんだ」」」



 ギャル二号さんとメガネオタクくんとおかっぱちゃんが口を揃えてそう言った。

 一体なんなのかしら?

 というか、一番背が高い男子は一言も話さないのね。

 そんな事を考えながらコショコショと内緒話を始めた4人を眺めていると、フリーズしていた篠崎さんが再び動き始めた。



「なんでよ!!」

「い、いきなり大声を出さないでちょうだい。ビックリしたわ」

「あ、ごめん。ってそうじゃなくて、なんでなの?」

「だから今日はデートだから…」

「そうじゃなくて、いや、そうだけど! そうじゃないの!」

「落ち着いてちょうだい。何を言っているのかわからないわ」

「オホホホ。マイ様。どうかこのお方達と一度で良いので戦ってくださいませんか?」

「なんでエルセーヌはこの子達に肩入れするのよ」

「オホホ。新しいお友達を作る為ですわ。私、新しいお友達の為なら悩みの一つや二つ解決いたしますの」

「それなら貴女が戦ってあげれば良いでしょう。別に私じゃなくても良いじゃない」

「オホホホ。私の戦い方は特殊すぎて参考になりませんわ」

「それを言うなら私の戦い方も野生的すぎるらしいわよ?」

「オホホ。こうなったら仕方ありませんわね………。もしも篠崎様達と模擬戦をしてくださったら、以前ご主人様がボタン様とお話ししている時にお聞きしたご主人様のグッとくる女性の仕草をお教えいたしますわ」

「ほら貴女達、何をしているの? 早く準備してちょうだい」



 私はそう言いながら訓練場の中心に向かって歩いて行く。

 デートを直前にして風舞くんの弱点に関する情報で取引しようだなんて、エルセーヌもなかなかやるわね。



「え? 模擬戦やってくれるの?」

「ええ。一瞬で全員倒してあげるから覚悟なさい」

「あのー、エルセーヌさん。土御門さんってどのぐらい強いんですか?」

「皆様が最近5人で力を合わせて倒したというモールドラゴンを一撃で屠るぐらいの実力はお持ちですわ」

「ま、マジかよ」

「ねぇあーちゃん。これ、ちょっと考え直した方が良くない?」

「いや、ここまで舐められたらやらないわけにはいかないっしょ。シャカリキ頑張れば多分勝てるって」



 シャカリキだなんて久し振りに聞いたわね。

 今時のギャルはシャカリキだなんて死語も復活させて使うのかしら。

 とてもチョベリグだわ。



「なんでも良いけれど、刀は抜かないであげるから早く準備してちょうだい」

「オホホ。皆様、マイ様は素手で人間の体を爆散させる技を習得していますので、お気をつけくださいまし」

「ば、爆散…」

「あ、あーちゃん、指揮は任せたよ!」

「オッケー。土御門さん、爆散だかなんだか知らないけれど、ウチらの事舐めてっとマジポコパンにするから覚悟しなよ!」

「ポコパンって……まぁ、良いわ。私も真剣にやるからいつでもかかってきなさい」



 私がそう言って拳を構えつつ殺気を飛ばすと、篠崎さん達は全員自分の武器を構えて雰囲気を切り替えた。

 どうやら真面目に訓練をしてきたというのは戯言ではないみたいね。



「オホホ。それでは双方準備が出来た様なので僭越ながら私が開始の合図を出させていただきますわ」



 エルセーヌはそう言うとわざわざ空中を歩いて私達の間にやって来て手をあげる。

 そういえば以前風舞くんがエルセーヌは演出家だなんて事を言っていたわね。

 さて、あまり油断していると私も足をすくわれかねないし、集中するとしましょうか。



「修羅の型 発動」



 私は小さくそう呟いて腰に差したままの星穿ちの力を少しだけ引き出して全身を黒いオーラで包む。

 刀を抜いている時に比べたら大した事はないのだけれど、それでも修羅の型を維持している間のバフは馬鹿には出来ないのよね。



「うわぁ、大人気ないですね」



 鋭敏化された私の耳がトウカさんのそんなセリフを拾った。

 大人気ないって…、私は篠崎さんと同い年なんだからこのぐらいやっても良いじゃない。

 そんな事を考えながら拳を握り直して重心を下ろしたその時、エルセーヌが上げていた手を振り下ろした。



「オホホホホ。始めですわ!!」



 私は合図とともに縮地と風魔法を使ってトップスピードに乗り、前衛の二人に視界を遮られて私の姿を一瞬見失ったおかっぱちゃんの側面に回った。

 そしてそのまま彼女の腰に手を触れてゼロレンジコンバットで吹き飛ばす。



「まずは一人」



 いち早く私の奇襲に気がついた篠崎さんが私の姿を捉えてロングソードを振るうが、冷静さを欠くと同時に正確さも欠いた攻撃など見なくても避けられる。



「甘いわ」



 私はそう言いながら足から吹き出していた風魔法を周囲の地面にぶつけて砂塵を巻き起こして前衛の二人の視界を潰す。



「ちっ、オサムちんは火魔法で牽制! さっちゃんはけーくんのフォロー! けーくんはとりま落ち着いて!」



 篠崎さんが的確な指示を出しながら私が後衛のオタクくんを攻撃しないように足止めをしてくる。

 無理をすれば押し通れなくはなさそうだけれど、ここは大人しく攻撃を避けておいた方が良いかしらね。


 そう考えた私は篠崎さんの攻撃が大振りになった隙に身を翻し、仲間の一人をやられた上に視界を潰されて慌てる背の高い男子の正面に回り込んだ。

 背の高い男子の近くではツインテールのギャル二号さんが魔力感知を使って周囲の様子を探っていたが、魔力の流れを抑えて移動した私の姿は彼女には捕らえられない。



「これで二人」



 背の高い男子の鳩尾に鋭く拳を入れ、一撃で意識を刈り取る。

 それを見ていた篠崎さんはギャル二号さんを守るために私に向かって一直線に走って来たが、オタクくんの魔法の射線上に立ってしまっているため、オタクくんは杖を構えたまま魔法を撃つことができない。



「サンダーランス。三人」



 オタクくんを篠崎さんを掠める様に撃ったサンダーランスで無力化した後、私はようやく私の元にたどり着いた篠崎さんの攻撃を避け、そのままギャル二号さんの顎を回し蹴りで擦って意識を飛ばした。



「ふぅ。後は篠崎さんだけね」



 私はここまで意識的に行っていた呼吸の力を抜き、剣を構えて冷や汗を垂らす篠崎さんと向かい合った。



「ねぇ、土御門さんってレベル幾つだっけ?」

「72よ」

「ウチ達よりも20ぐらい上か。ねぇ、もしもウチ達が同じレベルになったら土御門さんに勝てると思う?」

「おそらく無理でしょうね」

「なんで?」

「経験と実力の差よ」

「それじゃあどうしたらウチらは強くなれる?」

「まず、後衛の二人は自分の視界に頼り過ぎて魔力感知が疎かになっていたわ。常日頃から魔力感知を発動させて無意識にでも使える様に訓練した方が良いわね。それと、杖を使った魔法の行使に慣れすぎるのは良くないわ。杖を使えば確かに魔法の威力は上がるから知能の低い魔物相手なら効果的でしょうけど、魔法が杖から出ると分かっていれば射線を誘導して魔法を撃てなくするぐらい簡単にできるもの」

「そっか。じゃあ前衛は?」

「前衛はまずは精神を鍛えるべきね。仲間の一人がやられたぐらいで動転していてはパーティーが全滅しかねないし、メンタルトレーニングは小手先の技を身につける前にやらなくてはいけない事よ。それと、視界を封じられた時に魔力感知以外の方法でも周囲の敵を感知できる様になるともう少し楽に戦える様になると思うわ」

「そんな事できんの?」

「少なくともこの世界なら私達のいた世界よりも簡単に出来ると思うわよ」

「へぇ、そうなんだ」

「最後に篠崎さん。貴女は他の4人よりも数段は強いわ。ただ、そのせいで他の4人が貴女に甘えてしまっている。一度貴女抜きで他の4人をダンジョンにでも行かせると良いと思うわ」



 私はそう言いながら刀を抜き、修羅の型を一段階上の天の型に移行させる。

 これはドラちゃんと戦った時以来使っていなかったのだが、何故か篠崎さんにはこの状態の私を見せておきたくなったのだ。



「さて、覚悟は良いかしら?」

「うん。無茶を聞いてくれてありがと。でも、次は負けないから」

「ええ。楽しみにしているわ」



 そうして、私VS篠崎さん達のパーティーの戦いは私の圧勝で呆気なく幕を閉じた。



「オホホ。おつかれ様ですわマイ様」

「私、こういう偉そうな事をするのは苦手だから次からは勘弁してちょうだいね」

「オホホホ。承知いたしましたわ」

「ふぅ、慣れない事はするもんじゃないわね。おかげさまで風舞くんに頭を撫でてもらいたくなったわ」

「オホホ。ちなみにご主人様のグッとくる女性の仕草ですが、ご主人様は女性に甘やかされる行為の全般がお好きだそうですの」

「………やっぱり風舞くんの頭を撫でたくなったわ」



 さてと、それなりに暇は潰せたしそろそろデートの準備でも始めるとしましょうかね。

 私はそんな事を考えつつ、模擬戦の様子を見守ってくれていたトウカさんとアンちゃんの元へ向かうのだった。

次回、11月6日予定です。

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