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クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...  作者: がいとう
第4章 微妙にクラスメイト達と馴染めていない気がするんですけど…
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28話 主人と従者とパンケーキ

 風舞



 使用人の朝は早い。

 主人が目を覚ますよりも先に起きて、主人が心地の良い朝を迎えられる様に色々と準備をしなくてはならないからである。

 特に()の主人は比較的朝が早い方だから、私は日が昇るよりも先に起きてまず身支度を始める。


 使用人は主人の道具だ。

 道具には人の性格がよく映るため、そこを基準に人柄を判断する方も多い。

 ならば主人の道具である私は自分の容姿に細心の注意を払わなくてはならない。



「めっちゃ眠い」



 私は首元のネクタイをしっかりと締め、前髪をキチンと上げて鏡でおかしなところがないか確認する。

 使用人のネクタイが僅かに曲がっているだけでも主人の評価が下がってしまう可能は十二分にある。

 私にとって主人は何よりも…そう、自分の命よりも大事なお方だ。

 その様なお方に、私の所為で悪い噂など流させるわけにはいかない。



「これでいっか」



 私は鏡の前で自分の容姿を再度確認した後、主人の眠る寝室へと向かった。

 私の主人はベッドの上で自分の尻尾を抱きしめながら身を丸くしてすやすやと眠っている。

 あぁ、なんと麗しいお姿なのだろうか。


 だが、私は使用人。

 公私の分別をつけなくては一流とは言えない。



「おはようございますお嬢様」



 私はお嬢様の肩にそっとを手を置き、優しくゆする。

 お嬢様は寝覚めが比較的良い方なのか、すぐに体を起こして目をこすり始めた。



「おはようございますお嬢様。すでに朝食の手配はできております」

「あ、ありがとうございます………って、ふ、フーマ様!?」

「どうかなさいましたか? 私の顔に何かついていますでしょうか?」



 先程念入りに鏡の前で確認したはずだが、もしかして見落としが…?

 そう思い自分の顔を自分の手で触っていたところ、お嬢様の横で眠っていらしたアン様が目を覚まされた。



「んん……どうしたのシルちゃん?」

「あ、あぁぁぁ、アン! フーマ様が! フーマ様が!」

「ん〜? フーマ様がなんだって?」

「フーマ様がなんかおかしい!」

「ん? あぁ、そうだった。おはようフーマ。私の着替えは?」

「はっ。こちらに」

「うん。ありがとう。それじゃあ着替えさせてもらえるかな?」

「かしこまりました」



 私はお嬢様のご友人であるアン様の寝間着を手早く脱がし、軽く体を濡らしたタオルで拭いてから新しい洋服を着せる。

 よし、次はアン様の寝癖を……。

 そう思って櫛を取り出したその時、ベッドの上のお嬢様がアン様を目にも止まらぬ速さで持ち上げ、壁際に連れて行って上下に激しく振り始めた。



「ちょ、ちょっとアン!!? フーマ様に何してるの!!」

「ふ、フーマ様は今日一日シルちゃんの執事なんだよぉぉぉぉ」

「フーマ様が私の執事なわけないでしょ!!! いくらアンでもフーマ様に粗相を働くのは怒るよ!?」

「ふ、フーマ様が昨日の夜にやりたいって言ったのぉぉぉ」

「そうなのですか!?」

「私はシルビア様の従者でございます」

「ほら、言ったでしょ? だからそろそろおろし…お、おろ…オロロロロ」

「あぁぁぁ、アン!?」

「お嬢様。私にお任せ下さいませ」



 私はお嬢様からアン様をお預かりした後、アン様の介抱を手早く始めた。

 こうして、私…フーマの執事としての一日は幕を開けたのです。




 ◇◆◇




 風舞




 ウィッス、俺は高音風舞。

 ひょんな事から異世界に転移したどこにでもいる高校生…………いや、めちゃんこ可愛い女の子とかものすんごくセクシーなお姉さんとかに囲まれて暮らしている結構勝ち組な高校生だ。

 それに、俺はエルフの里を救った英雄の一人でもあったりするんだぜ!


 なんて事をちょぴっとだけ思いながら悠々自適に生活をしていたせいか、昨日の晩のお説教は今までで一番きつかった。

 ちなみに、昨日の晩のお説教のダイジェストはこんな感じである。


 なんやかんやあってなんやかんや叱られた後……



「そんなんだからフーマ様はダメなんだよ! シルちゃんがどういう気持ちでフーマ様の従者になったか考えた事ある!?」



 と鬼の形相のアンに言われ、



「フーマ様は女性に対してだらし無さ過ぎるのです! いくらフーマ様が魅力的な殿方とは言っても、あまりにも酷いなら私達も愛想をつかしますよ!!」



 と俺の秘蔵のポスターを破りながら脚を組み直したトウカさんに脅され、



「私はどんな風舞くんでも大好きだけど、新しい女の子に手を出すなら私に確認を取ってからにしてちょうだい!!」



 と正座をする俺の肩の上に座る舞に言われた後、



「はぁ、夜もかなり更けてきたからそれまでにせい。そんなにフウマに女心とシルビアが従者として日々どう思っているのか考えて欲しいのなら、一日だけフウマをシルビアの従者にでもしたら良いじゃろう」

「「「賛成!!!」」」



 偉大なるローズの鶴の一声により昨晩はお開きとなった。

 ちなみに、泣き疲れて眠ってしまったシルビアはいつでも眠いフレイヤさんに寮の俺の部屋に運ばれて行き、先に寝てしまった。

 フレイヤさんはそのまま舞の部屋に行って寝ていたらしい。


 とまぁ、以上が昨日の晩にあった事の顛末である。

 そんなこんなでシルビアの従者となったその日の朝、俺は会談部屋にてアンや舞やトウカさんやローズにこき使われていた。



「ねぇフーマくん。肩がこったわ」

「はい。ただいま!」

「フーマ様。この紅茶温いですよ」

「今淹れ直します!」

「ねぇ、フーマ様。シルちゃんの尻尾をブラッシングしてくれない?」

「はい。喜んで!!」



 昨日の晩はシルビアとアンに俺の寮のベッドを取られたため、俺はローズと一緒にソレイドに戻って自分の部屋のベッドで短い仮眠をとった。

 昨日…というか今日の朝方まで続いたお説教のせいで俺の睡眠時間は2時間ぐらいしかなかったため、すごく眠い。

 シルビア…朝早すぎだよ。



「お待たせいたしましたシルビア様。どうかお嬢様の尻尾のブラッシングをさせてください」

「おやめくださいフーマ様。私はフーマ様にお仕えする事が何よりの喜びなのです」

「ダメだよシルちゃん。これはフーマ様のためなんだから」

「でもぉ」

「それに、今ならシルちゃんのどんなお願いでもフーマ様が聞いてくれるんだよ?」

「ど、どんなお願いでも?」

「うん。どんなお願いでも。でしょ、フーマ様?」

「はい。私はシルビア様の願いとあればどの様なものでも叶えてみせましょう」

「それじゃあはいはい! 私、風舞くんに膝枕してもらいたいわ!」

「お主はいつからシルビアになったんじゃ」

「えぇぇ。良いなぁ、シルビアちゃんばっかり羨ましいわ」



 舞が視界の端でブーブー言っている。

 流石に舞のお願いを全部叶えてたら身がもたないから勘弁してくれ。



「ねぇ、シルちゃん。お願いあるでしょ?」

「で、でも…良いのかな?」

「何の遠慮も要りませんよお嬢様。お嬢様の思うがままに私をお使いください」

「そ、それじゃあ……」



 そうして、シルビアお嬢様が今日初めて私に指示をくださったのだった。




 ◇◆◇




 風舞




 というわけで所変わってラングレシア王国の訓練場にて、俺は天満くんと笑顔で握手していた。

 俺の頭の中でフレンダさんが腹を抱えながら笑っている。



『ふふっ。ふ、フーマが爽やかな笑顔で顔を合わせ辛かった学友の手を握っています! ぷぷっ!!』



 ちきしょう。

 この前大見得を切ったくせにクラスメイト達の前でシルビアにコテンパンにされたりなんかしちゃったから、クラスメイト達には会いたくなかったのに、シルビアのお願いが他の勇者達と仲良くして欲しいだなんて………。



「君の方から来てくれるなんて、嬉しいよ高音君!」

「俺もみんなと一緒に強くなりたくてね。少しでもみんなに追いつける様に頑張るからよろしく!!」

『ブフッ! あのフーマがよろしく! ですって…。あぁ、シルビアも中々面白い見世物を考えますね』



 あぁ、もうマジで辛い。

 天満くん以外のクラスメイト達は俺の変わり様に若干引いているし、今日は近接系の生徒だけじゃなくて遠距離系の生徒もここにいる。

 つまり、ここには明日香とまゆちゃん先生もいるのだ。



「あ、あいつ。ついに頭がおかしくなったんかな」



 おい明日香。

 普通に聞こえてるぞ。

 ていうか、ついにってなんだよ。

 俺が将来的におかしくなると思ってたのか?



「き、気持ち悪い」



 まゆちゃん先生の感想はストレートすぎだろ。

 空の彼方にテレポートしたろうか。

 そんな事を考えながらまゆちゃん先生を睨もうとしたその時……



「ねぇ、シルちゃん。フーマ様にはまゆちゃんとも仲良くしてもらいたいよね?」

「うん。やっぱりフーマ様には皆様と良い交友関係を持っていただきたいです」

「だってさ、フーマ様?」



 もうやだ。

 今度から絶対にアンだけは怒らせない様しよう。

 舞やトウカさんと違って罰が自分の欲望にストレートじゃないからすごくキツイ。



『ほらフーマ。さっさとマユに話しかけに行きなさい』

「はぁぁぁ。しゃあなしか」



 俺は小さくそう呟いた後、まゆちゃん先生の方にツカツカと歩いて行き、爽やかに挨拶した。



「おはようございます先生。 昨日はお世話になりました!」

「え? あ、あぁ…うん。どういたしまして?」



 この女、さては周囲にクラスメイト達の目があるから話を合わせるつもりだな。

 よし、これは憂さ晴らしに使えそうだな。



「いやぁ。それにしても、先生の魔法は大変素晴らしいですね! あんなに痛かった傷も…ほら、見てください! 跡すらも残っていませんよ!」

「あ、ありがとう。あははは」

「俺みたいなダメなやつにも目をかけて個別に指導してくださってありがとうございました!」

「わ、私は別に何も…」

「聞いてくれみんな! 俺はみんなと上手く馴染めずにいた事を先生に相談したら、とても親身になって話を聞いてくれたあまりか、自分の授業の時間を割いてまで俺にここ数ヶ月で習った事を分かりやすく教えくれたんだ!」

「おお! 流石は真弓先生だ!」



 よし、天満くんが釣れた。

 もう一押しだな。



「俺は先生のおかげでみんなと力を合わせて頑張ろうと思えた。だから、こんな俺でも良かったら受け入れて欲しい」

「ああ。よろしくな高音!」

「何か分からない事とか、困っている事があったらなんでも聞いてね!」

「ああ。ありがとうみんな! 俺もみんなと一緒に頑張るよ! ありがとうございます先生! 先生のおかげでみんなと上手くやっていけそうです!」

「流石はまゆちゃん先生! 私達の知らない間に高音くんの相談を受けてたんだね!」

「あ、あはははー。まーねー」

「よっ、俺たちの頼りになるお姉さん!」

「まゆちゃん先生さいこー!!」

「も、もー。やめてよー」



 どうだ。

 これでクラスメイト達は俺がこうして爽やかキャラになったのはまゆちゃん先生のお陰だと思ったはずだ。

 だが、あの主体性がなく自分が落ちこぼれだと思っているまゆちゃんはそれを否定する事も出来ず、やってもいない事で多大なる評価を受ける。

 プレッシャーに弱いまゆちゃん先生みたいなタイプにはこういうのが一番効くだろう。



「くくく。ざまぁみやがれ」

『情けない男が情けない女をいじめて喜んでいます』



 ………。

 さて、これでシルビアのお願いは叶えた事になるだろうし、そろそろ立ち去るとしよう。

 ていうか、そろそろ給仕の格好でいる事をクラスメイト達に突っ込まれそうな気がする。



「なぁ。そういえば、なんで高音は執事の格好をしてるんだ?」



 ちっ、遅かったか。

 やっぱりノリとテンションだけで乗り切るのは無理があったな。

 まぁ、正直に話せば良いか。



「俺は今日一日あそこにいるシルビア様の執事なんだ」

「は? なんだそれ?」

「さぁ? なんだろうな?」



 クラスメイトの男子とそんな話をしていると、シルビアとアンが近づいて来る。



「フーマ様。ちゃんと仲良くなれた?」

「はい。見ての通りバッチリです」

「そっか。それじゃあそろそろ次に行こうか」

「かしこまりました」



 胸に手を当ててアンとシルビアにお辞儀する俺。

 そして、その様子を訳もわからずに見守るクラスメイト達。

 これ、マジで精神的にくるな。

 なんでクラスでそこまで目立ってなかった地味な俺が、みんなの前で執事ごっこなんてぶっ飛んだ事をしないといけないんだよ。



「ほらシルちゃん。次のお願いはないの?」

「そ、それでは、お料理を教えていただけませんか?」

「私には大した物は作れませんが、それでも良いのでしたら…」

「ぜひ、ぜひお願いします!」



 シルビアが嬉しそうな顔で尻尾を振っている。

 あぁ、シルビアがこんなに嬉しそうな顔をしてくれるなら執事プレイも悪くないな。

 そんな事を考えて思わず笑顔になっていたその時、俺の後ろの方でまゆちゃん先生と明日香が数名の女子と一緒に日本語で話しているのが聞こえた。



「ねぇ、どんな話してるの?」

「えぇっと。高音くんがシルビアさんの………おへそを舐めさせてくれないかお願いしたみたい」

「うわ、キモ。マジでキモい」

「でも、シルビアさん…なんか嬉しそうじゃない?」

「多分高音くんに調教されてるんだよ」

「うわぁ、マジで気持ち悪い」



 明日香を含む数名の女子の蔑む視線の中で薄ら笑いを浮かべるまゆちゃん先生。

 あの女、俺だけならまだしもシルビアまで巻き込みやがって!

 シルビアは性知識にかなり乏しい純粋で優しい女の子なんだぞ!



「お嬢様。それでは早速移動いたしましょう。ここにいては良くない虫がついてしまいます」

「虫…ですか?」

「さぁ、参りましょう」



 これ以上ここにいてはあらぬ噂を立てられまくりそうだと思った俺はさっさと退散する事にした。

 去り際に天満くんが「今日は訓練に参加しないのかい?」とか言っていた気がするが、多分気のせいだろう。

 はぁぁ、まだ午前中すらも終わってないのにこの疲労感って、今日一日保つのか?




 ◇◆◇




 風舞




 シルビアに料理を教えるためにソレイドまで戻って来た俺たちは台所に立って今日のお昼ご飯の献立の確認をしていた。



「はい。というわけで今日は誰でも簡単に作れるパンケーキの作り方を……って、なんで舞とトウカさんもいるんだ?」

「後学のためです。あと、トウカ様とお呼びください」

「風舞くんの胃袋を握り潰すためよ! あと、私は舞お嬢様でお願いするわ!」

「あぁ、はい。そうっすか」



 この二人に触れると面倒だし、もう良いや。

 ていうか、舞は俺の胃袋を握り潰すつもりなのか?

 お、恐ろしい娘だ。



「え、えぇっと。それじゃあまずは食材の説明からしようと思います」

「はい。よろしくお願いします」



 シルビアは真面目で可愛いなぁ。

 よし、シルビアの前には一番美味しそうな卵を置いてやろう。



「今回作るのはパンケーキなので、小麦粉、卵、牛乳、砂糖、重曹、バターを使います。牛乳は少し少ないぐらいの方がふんわり仕上がるので、自分の直感に従って調節してください」

「いきなり感覚的な話になったわ」

「これは、中々厳しい戦いになりそうですね」



 なんか舞とトウカさんが額の汗をぬぐいながらブツブツ言っている。

 まだ材料の確認をしただけだぞ?



「そしたら次に粉っぽいやつを全部いい感じに混ぜてください」

「良い感じってどのくらいかしら?」

「どうせ後で卵とか入れた時に混ぜるから適当で良いですよ」

「くっ、あくまで自分で感じ取れって事なのね」



 なんで料理してるだけで片膝つくんだよ。

 トウカさんも料理中に回復魔法は要らないと思うぞ。



『おぉ、アンはなかなか様になってますね』

「確かに、流石は元パン屋なだけはありますね」

「そうかな? このぐらいなんでも無いと思うけど…」

「謙遜する事はございませんよ。とても良い手つきだと思います」

「えへへ。ありがとうフーマ様。でも、シルちゃんも私と同じぐらい上手だよ?」



 そう言うアンの視線の先ではシルビアがかなり真剣な顔で小麦粉やらを混ぜている。

 確かに、かなり手際が良いな。



「お見事ですお嬢様」

「あ、ありがとうございます」

「それでは次の段階に進みましょうか」

「お待ちくださいフーマ様。私はまだ混ぜ足りない気がします」

「えぇぇ、もう十分混ざってると思いますよ。ていうか、トウカ様は混ぜすぎです」

「そ、そんな……。まさかこの段階で失敗してしまうなんて」



 粉を混ぜあわせるだけで失敗もクソも無いだろと思いもしたが、なんだか面倒だから放って置くことにした。

 だってトウカさんは四つ足をついてるし、舞はなぜか修羅モードになってるんだもん。

 あれは絶対触れちゃダメだろ。



「えぇ……それでは、次はさっきと別のボウルで卵を割りほぐして牛乳を混ぜてください」



 俺の指示に従い、アンとシルビアは自分のボウルに卵と牛乳を入れて混ぜ始める。

 よしよし、流石は二人とも元々パン屋で生計を立てていただけあって、メシマズヒロインみたいな展開にはならなそうだな。

 舞とトウカさんは後ろでどったんばったんやってるけど、もう視界に入れない様にしよう。

 ついでにとんでもない魔力をビリビリ感じるから、魔力感知も切っておくか。


 そんな感じで生地を作ったり、フライパンをあっためたりバターを溶かしたり、何だかんだした後、俺たちは完成したパンケーキを食堂に持って行って3人で食卓を囲んだ。

 シルビアとアンが完成した頃合いになっても舞とトウカさんは卵を解いてたんだけど、パンケーキに時間かけすぎじゃないか?

 ま、いっか。



「それじゃあいただきます」

「「いただきます」」



 シルビアとアンが作ってくれたパンケーキにナイフを入れて両方とも食べてみる。

 うん。普通に美味しいな。



「二人ともとても良く出来ていますね。もうお教えする事は何もございません」

「ありがとうございますフーマ様。このシルビア…本日教えていただいた事を生涯の宝といたします!」

「あはは。シルちゃんは大袈裟だなぁ。でも、フーマ様が作ってたこのクリームも凄く美味しいね」



 作ったとは言っても買ってきたクリームを泡だてて砂糖を入れただけなのだが、どうやらアンお嬢様のお気に召したらしい。

 この世界のクリームは異常なぐらい高かったけど、買っといて正解だったな。



「あぁ、フーマ様に教えていただいたパンケーキにフーマ様に作っていただいたクリームを乗せて食べられるとは……生きていて良かった」

「お嬢様。食後のお飲み物はいかがいたしますか?」

「あ、それじゃあ紅茶で」

「私も同じ物が良いかな」

「かしこまりました」



 俺はシルビアとアンにうやうやしく頭を下げた後、食堂を後にして再度台所へと向かった。

 さて、舞達はそろそろ完成しているのかね。



「ねぇ、ミレンちゃん! これとこっちだったらどっちの方が美味しいかしら!?」

「分からぬ。どっちも同じではないか?」

「では、こちらとこちらではどちらの方が柔らかいですか?」

「どちらも柔らかいぞ」



 なんか、舞とトウカさんが積み上げられたパンケーキをローズの口に放り込み続けている。

 新手の拷問か?

 そう思っていたら、ローズと目があってしまった。



「おぉ、フウマ! 良いところに来た! 部屋の掃除が終わったからキッチンに来てみたらこやつらが作った料理の味見をしてくれとうるさいんじゃ! お主も評価してやってくれ!」

「ま、待ってミレンちゃん! こんな料理じゃまだフーマくんには食べさせられないわ!」

「そうですミレン様! フーマ様に食べていただくためにミレン様に味見していただいているのではありませんか!」

「じゃが、流石にもう飽きたんじゃが」



 ローズが一口サイズに切り分けられたパンケーキをウンザリした顔で見ながらそう言う。

 ローズは基本的に甘いものなら無限に食べ続けるのに、あんなに嫌そうな顔をするなんて珍しいな。



『おいフーマ。今のフーマは執事なのですから、偉大なるお姉様を優雅に助け出して見せなさい』



 またフレンダさんは難しい事をおっしゃるな。

 まぁ、やるにはやってみるけどさ。



「舞お嬢様、トウカ様。もしよろしければ私にお嬢様方の作った料理を食べさせていただけませんか?」

「で、でも…風舞くんの作った物に比べるとまだまだだし…」

「いいえ舞お嬢様。人にはそれぞれ味の好みという物がございます。光栄にも舞お嬢様とトウカ様は私めの料理を絶賛してくださいますが、私から致しますとお二方の料理の方が大変好ましい物なのです」

「お世辞はおやめくださいフーマ様。事実、フーマ様のお料理はエルフの里でも大人気だったではないですか。フーマ様の料理は其れ程までに素晴らしいものなのです」

「しかしトウカ様。私はやはりトウカ様と舞お嬢様のお作りになった料理を好ましく思いますよ。お二方が私のために作った料理が美味しく無い訳がないではありませんか」



 爽やかスマイルを浮かべながらそう言った後、舞とトウカさんの持っていたパンケーキを順に口に運ぶ。



「あぁ、なんと素晴らしいパンケーキでしょうか。この様な素晴らしい料理を作れるお方が私のためにその腕を振るってくださった事を光栄に思います」



 最後に舞とトウカさんの前で膝をついて軽く微笑んで見せた。

 なんかこれ、意外と楽しいな。

 もしかすると俺、執事向いてるかもしれない。



「も、もう。褒めすぎよ風舞くん」

「そ、そうですよフーマ様。調子の良い事ばかり言っても絆されませんからね」



 めっちゃ上手くいったな。

 どうですかフレンダさん。

 ざっとこんなもんですよ。



『何やら良い気になっている様ですが、間が悪かったですね』

「え? どういう事ですか……って、やべ」



 凍える様な気配を感じて振り返ったら台所の入り口にアンとシルビアが立っていた。

 シルビアはいつも通りの凛々しい顔なのだが、アンの顔は表情こそ笑っていても怒っているのがよく分かる。

 おっかねぇ。



「ねぇ、フーマ様。今日一日、フーマ様がシルちゃんの従者になってるのってなんでだっけ?」

「シルビア様が普段どの様なお気持ちで私に仕えているのか知るためと、女性の気持ちを理解できる様になるためでございます」

「それじゃあ今、何をやっていたのかな?」

「ま、舞様とトウカ様のお料理を味見して…」

「味見して口説いてたんだね。そっかぁ、フーマ様はシルちゃんの従者のはずなのにマイ様とトウカ様を口説いてたんだぁ」

「く、口説かれてないわよ!」

「そ、そうですよ! ただ料理を褒めていただいただけですよ!」

「二人ともニヤケ面のまま言い訳をしても説得力がないかな。それよりフーマ様」

「な、なんでしょう?」

「今日はシルちゃんの従者になって日頃の行いを省みる日なのに、マイ様とトウカ様を良い気にさせて遊んでたなんて……最低だね」



 アンが心底蔑んだ様な目を俺に向けてくる。

 お、終わった。

 アンにあんな目を向けられるなんて、俺…もう生きていけない。



「行こシルちゃん。折角フーマ様が紅茶を淹れるのを手伝ってあげようと思って来たけど、フーマ様はマイ様達と遊ぶので忙しいみたい」

「あ、アン……」



 台所を立ち去ろうとするアンに手を伸ばすが、アンは俺に目を合わせてくれない。

 もう、ダメなのか?

 俺はもう、アンの主人ではいられないのか?


 そう思って伸ばしていた右手から力が抜けかけたその時、シルビアが優しく俺の右手を両手で掴んでくれた。



「ご安心くださいフーマ様。私はフーマ様の筆頭従者です。いついかなる時でも貴方様をお支えし、フーマ様を信じております」



 あぁ、そうか。

 シルビアはいつも俺を一番に考え、支えていてくれたのか。



「う、ううっ……。ごめんなシルビア」

「頭をお上げくださいフーマ様。フーマ様が謝る事など何もございません。私はフーマ様にお仕えできる事が至上の喜びなのです」

「あ、ありがどぉぉぉ」

「ふ、フーマ様!?」



 シルビアが俺に抱きしめられて驚いた様な声を上げる。

 あぁ、俺の従者はなんて良い子なんだ。

 今度こそ、シルビアの主人として相応しい男になろう。

 俺はそう決意した。



「アンも、ごめんな。それと、いつもありがとう」

「はぁ、反省してくれたのならそれで良いよ」

「ありがとうシルビア、アン。これからもよろしく頼む」

「はい。誠心誠意お支えさせていただきます!」

「もう、私達の主人(あるじ)様はフーマ様しかいないんだから、しっかりしてよね」

「ああ、ありがとう」



 そうして、俺とシルビアとアンは固い主従の絆で結ばれたのだった。



「ううっ、グスっ…。良い話ね」

「なんだかダシに使われた気がするのは気のせいでしょうか?」

「言うでない。たまにはそういう日もあるじゃろうよ」

『なんだか酷い茶番を見せられた気分です』



 さて、そろそろもう一人の俺の従者も戻って来る頃合いだろうし、ラングレシア王国に戻るとするか。

 帰って来たらあいつにも日頃の感謝を伝えよう。

 俺はそう思いながら涙を拭き、立ち上がった。



次回、28日予定です

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