23話 勇者とお姫様
舞
「よいしょっと。ここで良いのかしら?」
「うん。ありがと」
篠崎さんを連れて風舞くん達のいた講堂から医務室まで来ると、彼女はベッドに力なく腰かけた。
見たところ大きな外傷はなさそうなのだが、その目には覇気がない。
おそらく先程の戦闘で何か精神的なショックを受けたのだろう。
私は医務室にいたメイドさんに軽くお辞儀をして近場にあった椅子に腰かける。
メイドさんはそんな私を見ると、手元の書類に目を落として再び書類作業を始めた。
どうやら気を使ってくれたみたいね。
「改めてありがと…土御門さん」
「別に私は何もしていないわ。お礼なら風舞くんに言ってちょうだい」
「………うん。そうだね」
篠崎さんは複雑な顔でそう言うと、再び視線を落としてしまう。
な、なんだかやり辛いわね。
一発ギャグでもやって……いや、この前風舞くんとローズちゃんに見せたら不評だったしやめておいた方が良いかしら。
「それじゃあ、私はもう行って良いかしら?」
「あ、うん。大丈夫、ありがと」
「そう、それじゃあ行くわね」
そうして立ち上がって出ていこうとすると、案の定というかやはり、篠崎さんは私を呼び止めた。
「あ、ちょっと待って」
「……何かしら?」
「その、風舞とは仲良いの?」
「ええ。少なくとも私はそう思ってるわ」
「そ、そうなんだ」
……………。
何かしらね。
なんというか、最近は私の回りには何の遠慮もせずに話しかけてくる人ばっかりだったから、こうして途切れ途切れに話されると、かなりもどかしく感じるわ。
トウカさんみたいにとは言わないけれど、「土御門さんって、ゴリラみたいに力持ちなんだね」とか言ってくれないかしら。
………。
いや、やっぱりゴリラみたいは嫌だわ。
「はぁ…」
「土御門さん?」
「あぁいえ。なんでもないわ。それより、他に質問はないのかしら?」
「あぁ、ええっと……」
「別に何の遠慮もいらないわよ」
「それじゃあ、土御門さんって人間と戦ったことある?」
「ええ。元の世界でも私は武術をやっていたから、幼少から対人戦はやってきたわ」
「それじゃあ、実戦経験は?」
「もちろん、あるわよ」
「土御門さんは…怖くなかった?」
「怖いというのは相手がかしら?」
「それもそうだけど、人を斬るのが…かな」
あぁ、やっぱりそんな事で悩んでいたのね。
私も7歳ぐらいの頃に同じ事で悩んだ気がするわ。
「もちろん人を斬るのは怖いわよ。むしろ怖くない方がおかしいわ」
「そうなの?」
「当然よ。私はコレの力を身に染みて理解している。自分の力が分かっているからこそ怖いのだし、普通は強くなれば強くなるほど怖くなっていくものよ」
「強くなれば強くなるほど…」
幼い頃、お爺様は「刀を相手に向ける事は自分に向ける事だ」とよく私に説いていた。
果たして幼い頃の私がその事を真に理解していたのかは分からないが、今なら少しだけその意味が分かる気がする。
「それはもちろん風舞くんだって例外じゃないわ。彼の力は私なんかよりもずっと強いし、おそらくその恐怖もひとしおでしょうね」
「でも、風舞は普通に人を殺してたけど?」
「それは近くに貴女がいたからでしょう? 彼、基本的には戦うよりも逃げる事を優先するわよ?」
「そっか…ウチがいたからか」
「風舞くんは私が人を殺して傷つくのを心配して、普段から出来るだけそうならない様に立ち回っているのよ。まぁ、聞いても無自覚だから首を傾げるでしょけどね」
多分、風舞くんは出来るだけ私が日本にいた頃と同じ価値観で生活する事を望んでいる。
私としては風舞くんにもう少し信頼してもらいたいのだけれど、彼はきっと私が人を殺すところをあまり見たくないのだと思う。
風舞くんがジェイサット王国との戦争に全面的には協力しないと言っているのはその辺りの理由もあるのだろう。
「それじゃあ最後に一つだけ聞いても良い?」
「ええ。何でも聞いて良いわよ。あ、スリーサイズは秘密よ。最近測ってないもの」
「風舞と同じ事言ってんじゃん」
「あら、そうなの?」
「うん。なんか角が生えたおじさんとそんな話してた」
「へぇ、きっとその時の風舞くんはカッコよかったでしょうね。……それで、質問って何かしら?」
「あぁ、もう良いや。何となく分かったし」
篠崎さんはそう言うとベッドから立ち上がってググッと伸びをする。
まだ悩みが吹っ切れたわけでは無いが、一先ずは飲み込んで先に進む事にしたみたいだ。
彼女も私と風舞くんがそうである様にこの世界で大きく成長してきたのだろう。
「ねぇ、私からも一つだけ聞いて良いかしら?」
「ん? 別に良いけど?」
「風舞くんとどういう関係なの? もしかして彼女……じゃないわね。と言うことは元カノ? というより、何で風舞くんとそんなに親しげなの?」
「えぇぇ、何か目が血走って怖いんだけど」
「そんなことよりどうなの!?」
「そんなの風舞に聞いてみれば良いじゃん。ウチが風舞をどう思ってるかより、風舞の気持ちの方が大事っしょ?」
「ふむ…それもそうね。それじゃあ行くわよ!」
「は!? ウチも行くの!?」
「お礼を言うんでしょ? ほら、自分で走らないならまた抱っこするわよ!」
こうして、私は篠崎さんと共にドタバタと医務室から出て行った。
日本にいた頃に篠崎さんとはあまり話した事がなかったけど、何となく彼女とは仲良くなれそうな気がするわ。
そう思うと、自然と上がってしまう口角を抑えることはもうできなかった。
◇◆◇
風舞
返り血で汚れた顔やら手やらを洗った後、俺は再度ローズやお姫様がいる部屋まで戻って来ていた。
現在はヒルデさんと共に事の顛末の説明中である。
「てな具合で黒ずくめの奴らを倒しました」
「そうでしたか。この度はお力をお貸しいただきありがとうございました。ただ…」
「大丈夫ですよ。俺の従者は冴えないおっさんに負けるほど弱く無いですし、この距離なら多分4、5日で戻ってきます」
「そう…ですよね。黒い貴婦人様が簡単に負けてしまうはずありません!」
お姫様はそう言いながら両手で握り拳を作ると、フンスと鼻息を荒くして力強く笑った。
今の可愛いな。
今度うちのアンにもやらせてみよう。
「嫌だよ?」
あ、さいですか。
やってくれないんすか。
アンとのそんなやりとりを終えて紅茶を飲んでいると、部屋のドアが勢いよく開いて舞が誰かを担いで走り込んできた。
なんかこの光景見覚えがあるんだけど、気のせいか?
「風舞くん! この女と一体どういう関係なの!」
「この女って誰だよ。俺には尻で人を見分ける特技はねぇよ」
「この女よ、これ!」
舞はそう言いながら上半身をクルッと回して担いでいた人物の顔を俺に見せる。
明日香がかなり嫌そうな顔で担がれていた。
「何やってんだ。お前?」
「ウチが聞きたいんだけど…」
「ちょっと、今は私が風舞くんと話す番よ!」
「あ、はい。ごめん」
「それでどうなのかしら!?」
「幼馴染」
「え?」
「だから、明日香は幼馴染」
「あらそうなの? それなら良かったわぁ」
「何で良かったの?」
「だって黒髪正統派ヒロインが茶髪幼馴染ギャルに負けるはずないじゃ無い?」
「なにそれ? ドユコト?」
「え? 黒髪正統派ヒロインって誰だ?」
「あら? ほら、ここにいるじゃない。ここよここ!」
「とんちでも仕掛けてきたのか? 仮に自分自身が正統派ヒロインだって言いたいなら、まずは肩のそれを下ろして猫をかぶり直した方が良いぞ」
「むぅ。仕方ないわね」
舞は不満げにそう言うと、肩の上に乗せていた明日香を下ろして肩を回す。
明日香はそんな舞の横で腰に両手を当てて伸びをしていた。
そんな明日香の元へお姫様が寄って行き、心配そうに声をかけた。
「元気がないみたいだとお聞きしていましたが、大丈夫ですか?」
「あぁ、うん。心配かけちゃってみたいでごめんね。でもほら、ウチは全然大丈夫だよ」
「そうでしたか。それをお聞きして安心しました」
お姫様は心底安心した風にホッと胸を撫で下ろしている。
やっぱりこうしてると年下の素直な女の子にしか見えないな。
ウチのアンは年齢と身長の割にかなり大人びてるから、こういう小さくて素直な女の子は新鮮に感じる。
「さてと、それじゃあそろそろみんなを回収して来ますかね」
「うむ。あまりあやつに迷惑もかけられんし、それが良いじゃろうな」
先程の報告では一応ボタンさんの名前は伏せておいたのだが、クラスメイト達を転移させてしまった今となっては、それもあまり意味がなかった気がする。
まぁ、ボタンさんならそこの辺りの心配はいらないか。
「それじゃあお姫様。ちょっと行って来て良いですか?」
「はい。お手数をおかけしてしまい申し訳ございません」
「いえ。元はと言えば俺がやった事ですから、最後までやる事はやりますよ」
そう言ってから最後に一口だけお茶を口に含んで立ち上がると、お姫様との話を終えた明日香が話しかけてきた。
かなり真剣な顔だし、もしかして大事な話なのか?
出来るだけ明日香とは真剣な話をしたくないんだけど…。
なんか怖いし。
「ねぇ風舞」
「なんだ?」
「助けてくれてありがと」
「あ、ああ」
『おいフーマ。なんだかこの小娘を見てるとムカッ腹が立ちます。助けてやった報酬でもぶんどってやりなさい』
別に俺はフレンダさんほど性格がねじ曲がっていないので、助けた報酬をぶん捕ろうとは思わない。
だが、あまりにも明日香がしおらしくて気まずいから、取り敢えずはフレンダさんの言う通りにする事にした。
だってこいつ、この前会った時はずっと睨んできたのに、今はそっぽを向いて毛先をクルクルさせちゃってるんだぞ?
ほら、舞だってそんな明日香を見て同じポーズで毛先をクルクルし始めちゃったじゃん。
「なぁ明日香。助けてやったんだから、何かあっても良いんじゃないか?」
「だからお礼を言ったでしょ」
「そんなんじゃなくて、こう実態のあるものでなんかさぁ」
「はぁ? なんでウチが風舞にそんな事しなくちゃいけないの?」
「あ、すみません。調子に乗りました」
そういえば俺は基本的に明日香に敵わないんだった。
小さい頃に距離が出来てから、ずっと明日香を避けてきた俺がいきなり明日香に対してオラつける訳無いじゃん。
ど、どうしよう。明日香が凄く睨んでくる。
「大丈夫よ風舞くん。もしも篠崎さんにいじめられても私が守ってあげるわ」
「ありがとう舞。今回ばっかりは凄く心強い」
「はぁ。なんか土御門さんがしばらく見ないうちにおかしくなってるんだけど、これってアンタのせい?」
「い、いえ。舞は元からおかしいです」
「あっそ。それよりいつまでそこで突っ立ってんの? みんなを迎えに行くんじゃないの?」
「あ、はい。行かせていただきます。すみません」
『フーマの意気地なし』
こうして、俺は明日香とフレンダさんにボロクソ言われながらラングレシア王国からソレイドへ向かうのであった。
なんか精神的に結構疲れたからボタンさんに癒してもらおっと。
ボタンさんやーい。
◇◆◇
風舞
雲龍の近くの路地に転移して顔を出してみると、クラスメイト達が店先の屋台の近くで野菜の漬物をかじっていた。
男子生徒はそれぞれで集まりながら日陰で駄弁り、ボタンさんとキキョウとシルビアは女生徒達に囲まれて楽しそうに会話している。
そんなクラスメイト達の様子を眺めながらボタンさんに近づいて行くと、俺に気がついて話しかけてくれた。
「あらあら、思ったより早かったんやね」
「ああ。いきなり迷惑かけて悪かったな」
「うちとフーマはんの仲なんやし、気にしいひんでええんよ。それに皆はんの食事代はつけておいたからなぁ」
ボタンさんがそう言いながら持っていた帳簿を俺にピラピラと見せつける。
え? こいつらが食ってる野菜、俺持ちなのか?
『良いように使われて少し腹を立てているのかもしれませんね』
「えぇ、今度埋め合わせするから許してくれよ」
「フーマはんはいつもそればっかりで全然会いに来てくれへんやん」
「うっ。それじゃあ今晩…絶対、会いに来るから…」
「本当なん?」
「ああ。約束する」
「あらあらあら。フーマはんがそう言うなら断る訳にはいかんなぁ」
「そりゃどうも」
今日も今日とてボタンさんには頭が上がらずにそう言って溜息をつくと、クラスの女子達が俺の顔を揃って見つめている事に気がついた。
教室ではこんなに注目される事なかったから、凄く恥ずかしい。
「本当だったんだ」
「は?」
「高音くんとボタンさんって本当にそういう関係だったんだ」
「は? 何を言ったんだ?」
「うちは実際にあった事をそのまま話しただけやよ。若い子は想像力が豊かでかなわんわぁ」
「あじゃば」
もう謎の奇声を発することしか出来なかった。
女子高生にその手の話をしたらいけないって小さい頃に習わなかったのか?
「ねぇねぇ。ボタンさんと一緒にお酒を飲んで、その後同じホテルに泊まったって本当!?」
「ま、まぁ、そうだな」
「それじゃあ、ボタンさんの経営するお店で一緒のベッドで寝たって言うのは!?」
「まぁ、そんな事もあったな」
「その着物ってボタンさんがあげたってやつだよね?」
「ありがたいな」
「高音くんにとってボタンさんってどういう人なの!?」
「頼りになる優しいお姉さん?」
「あらあら、嬉しいわぁ」
「これってどうなの? あーちゃんに勝ち目なくない?」
「うん。こんなに美人で大人っぽくて素敵なお姉さんが身近にいると、あーちゃんにはちょっと厳しいかも…」
「でもほら、あーちゃんって結構家庭的じゃん? やっぱり同郷だと安心感があるんじゃない?」
「でも、高音くんと土御門さんって仲が良いんですよね?」
「あちゃー。確かに土御門さんはこれぞ大和撫子って感じだし、これは厳しいかぁ」
おい、そういう話は女子だけで俺がいないところでやってくれよ。
周りの男子達だって聞いてるんだぞ。
俺が男子にはぶられたらどうすんだよ。
そんな事を考えていると、今朝俺を中庭から訓練場まで案内してくれたメガネの男子が話しかけてきた。
確かオサムだっけ。
「なぁ高音。ぶっちゃけ、お前の中で誰が一番なんだ?」
「………………。もう良いから帰れ」
もう面倒だから転移してやった。
それと同時にブーイングが巻き起こる。
「あぁぁぁ! 誤魔化したー!」
「そりゃそうだろ! こんなところで言うわけあるか! ほら、転移転移!」
次々とうるさい女子やら男子をラングレシア王国に跳ばしていく。
みんなぶつくさ言いながらも特に何の抵抗もせずに転移されてくれた。
中にはしっかりとボタンさんにお礼を言っていく者もいたり、俺のクラスメイト達は結構良いやつが多いらしい。
「はぁ、疲れた」
「お疲れ様でしたフーマ様」
「ああ。あいつらの相手をするの大変だったろ? シルビアも本当にありがとうな」
「いえ、お役に立てた様で幸いです」
「あらあら、フーマはんは随分と優秀な従者がいて羨ましいわぁ」
「だろ? 俺の自慢の従者だ」
「じ、自慢の…」
あ、シルビアがフリーズしちゃった。
まぁ、今はほっといても良いか。
「ボタンさんもありがとな。凄く助かったわ」
「そんなにウチに気ぃ使わんでもええんよ。ウチは優しくて頼りになるお姉さんやからなぁ」
「ああ。本当、いつも頼りにしてるよ」
俺はそう言いながら右手を差し出す。
これは俺の本心からの言葉である事を伝えたいと思ったら、自然と体が動いていた。
ボタンさんはそんな俺を見て柔らかく微笑むと俺の右手をそっと尻尾で触れる。
「今晩…うちの尻尾の毛繕いを手伝ってくれへん?」
「ああ。そんなことで良ければいくらでも手伝うぞ」
「嬉しいわぁ。そしたら、特別にうちがフーマはんの髪を切ってあげるんよ。そろそろ前髪以外も切るつもりやったんやろ?」
「ああ。この前自分でやった時はかなりキツかったから、そうしてくれると助かるわ。またボタンさんにお世話になっちゃうな」
「最近暑くなってきたから、キキョウの髪も切ってやろうと思うてたし、ただのついでやよ。つ、い、で」
「ふーん。悪魔も普通に髪伸びるんだな」
「おい人間。お前、今私の事を馬鹿にしたか?」
「ちゃんと好き嫌いせずに食べて大きくなるんだぞ」
「やっぱり馬鹿にしてるだろ! ちょっと転移魔法が使えてチヤホヤされてるからって調子に乗るなよ! お前ごとき指一本で殺せるんだからな!」
「こらキキョウ。そういう物騒な事は言ったらあかんて教えたやろ?」
「うっ…でも!」
「でももデーモンもあらへん。悪い事をしたら?」
「ご、ごめんなさい」
「言う相手はうちじゃないやろ?」
「ごめんフーマ」
「あ、ああ。俺が転移魔法ぐらいしか取り柄がないのは本当だし、気にしなくて良いぞ」
あのキキョウがボタンさんの言う事をちゃんと聞いている。
ボタンさんの躾がしっかりと功を奏しているのだろう。
それにしても……。
『ボタンはかなり良い母親なのですね』
「そうっすね」
「あらあら。うちは母親なんて大層なもんやあらへんよ。ほらキキョウ。疲れたやろうから少し休憩して来てええよ。お手伝いありがとうなぁ」
「うむ! それじゃあ私は少し出かけて来る!」
キキョウはそう言って来ていたエプロンを脱ぎ捨てると、ズダダっと走り去って行った。
ボタンさんはキキョウの捨てて行ったエプロンを「あらあらぁ」とか言いながら拾ってたたみ始める。
「めちゃ母親じゃん」
「なんだかそう言われると照れるわぁ」
珍しくボタンさんが両手を頰に当てて本気で恥ずかしそうにしている。
なんだこの人。
めちゃくちゃ可愛いぞ。
『おいフーマ。そろそろ戻らなくて良いのですか?』
「あぁ、そうだった。ごめんボタンさん。それじゃあまた今晩」
「そ、そうやね。そしたら、また」
「ああ。またな」
こうして、俺は未だ放心状態のシルビアを連れて雲龍からラングレシア王国へと戻って行った。
さてと、しっかりと気持ちを切り替えて今はやるべき事をやるとするかね。
◇◆◇
風舞
「ただ今戻りました」
「おかえりなさい風舞くん。みんな風舞くんによろしくって言ってたわよ」
お姫様や舞の待つ部屋へ戻って来ると、みんなソファーに座るなり側に控えるなりして話し合いをしていた。
明日香を含めクラスメイト達はすでにこの部屋を去ったみたいで、ここには俺たちとお姫様とヒルデさん、それにエスと呼ばれていた白髪の少年しかいない。
「そうか。それで、何の話をしていたんだ?」
「今後の方針について簡単な説明を受けておったんじゃ」
「なるほど。で、どこまで話は進んだんだ?」
「後は私達の意思を伝えるだけよ。お願いしても良いかしら?」
舞がそう言ってソファーから立ち上がり、俺の横に並ぶ。
シルビアやアンやトウカさんやフレイヤさんは俺と舞の後ろに並び、ローズは一番最後に俺の横に並んだ。
お姫様はそんな俺達の正面に立ち、綺麗な姿勢のまま口を開く。
「それでは、高音様や土御門様が我が国にお力をお貸しいただけるか。そのお答えを聞いてもよろしいでしょうか?」
お姫様の視線は俺や舞よりも大分低く、体格もかなり華奢な方ではあるのだが、その纏うオーラからか大人を相手にしているかの様に錯覚する。
だが、俺には心強い仲間達がいるのだし、怯むことなく自分の考えを伝えよう。
「俺たちは自分達の都合を第一に優先して良いと殿下がおっしゃるのでしたら、部分的にラングレシア王国にお力をお貸しいたします」
「部分的にとは?」
「俺達が力をお貸しするのは勝てる可能性の高い戦の裏方に限ります。それ以外の場合につきましては、状況を考慮した上でその都度検討させていただきます」
「なるほど。では最後に一つだけ…」
お姫様はそう言うと歩みを進めて俺の真正面に立つ。
お姫様の顔は俺の顔から1メートルも無い距離にあり、これから彼女が発する言葉は俺だけに向けられたものである事がありありと伺えた。
「貴方は私が助けを求めた場合に助けてくださいますか?」
「俺は基本的に臆病ではありますが、それでも勇者です。自分の目の届く範囲で、仲の良い人が困っていれば手を差し伸べましょう」
「ふむ。貴方はその様なお方なのですね」
お姫様はそう言うと俺から離れて元の位置に戻り、スカートの裾を摘んで優雅にお辞儀する。
「ラングレシア王国が第一王女セレスティーナ・ラングレシアは、高音風舞様及び土御門舞様の意思を第一に尊重した上で、我が国の平和のために勇者様のお力をお貸しいただきたく思います。今再び、そのお答えをお聞かせ願いませんか?」
舞の方をチラリと見てみる。
舞は柔らかく笑みを浮かべて軽く頷いた。
ローズの方も向いてみる。
ローズは俺の背を軽く押して笑みを浮かべた。
あぁ、そうだな。
「お顔をお上げください殿下。俺達は殿下のためこの国のために、この力を振るうことを約束いたしましょう」
「あぁ、ありがとうございます高音様、土御門様!」
お姫様はそう言うとパッと花が咲く様な笑みを浮かべた。
俺の横の舞とローズは力強い笑みを浮かべ、アンとトウカさんは清々しい笑みを浮かべ、フレイヤさんはあくびをし、シルビアに至っては号泣している。
きっとこれは俺達にとって良い契約となったのであろう。
こうして今日この時、俺達一行はラングレシア王国の戦役に参加する事となったのであった。
次回19日予定です




