20話 成長したシルビア
風舞
クラスメイト達に連れられて城内を歩く事しばらく、俺とシルビアとアンとエルセーヌさんは城の訓練場へとやって来ていた。
この訓練場はどうやら軍隊の中でも近衛騎士のみが使う場所だったらしく、エルフの里で見た訓練場に比べるとかなり狭い。
大体学校の体育館と同じぐらいか、それよりも少し大きいくらいの施設だ。
「みんなはここで素振りとか模擬戦とかやってるのか」
「ああ。ここでは騎士団の人に型を教えてもらったり、対人戦の稽古をつけてもらったりしている」
「そういえば、高音くんは対人戦の経験はあんの?」
「一応何回かは…」
「ふーん、これは意外と良い試合が観れるかもな。おーい! 高音を連れて来たぞー!!」
メガネの男子生徒がそう言いながらブンブンと手を振る。
それに気がついたクラスメイト達がすぐに俺を取り囲んだ。
「おお! 本当に高音だ!」
「今までどこに行ってたんだよ!」
「怪我とかはしてない?」
「ていうか、その後ろの人達は誰?」
「土御門さんと一緒じゃないの?」
「武器は何も持ってないの?」
クラスメイト達が口々に質問を投げかけてくる。
どうやら明日香みたいに俺を疎ましく思っている存在はかなり少ないらしく、皆俺に好意的に話しかけて来てくれた。
なんとなく皆のテンションが高くてやり辛いが、悪く思われてはいないみたいでホッとした。
そんな事を考えつつクラスメイト達の圧に微妙に押されていると、人の波の中から天満勇気が現れた。
「やぁ、約束通り来てくれたんだね」
「あ、ああ。一応な」
「ん? 周囲を見回してどうしたんだい?」
「ここにいるだけで全員か?」
「いや、この時間ここにいるのは近接系の人だけだよ。魔法特化の人達は別の場所で授業を受けているんだ」
「へぇ、そう」
明日香の姿が見えないから気になって聞いてみたが、どうやらそういう事らしい。
宮廷の人から魔法を教われるなんて贅沢だな。
まぁ、俺の師匠は元魔王様だからもっと贅沢かもしれないけど…。
「オホホ。それで、試合はいつ始めるのですの?」
「僕はいつでも構わないよ」
「それじゃあ今すぐやろう。話すよりも戦う方が気楽だ」
「了解! それじゃあサーディンさん。審判をお願いできますか?」
「おう。ルールはどうするんだ?」
へぇ、この騎士さんはサーディンさんって言うのか。
ファルゴさんのガタイをもっと良くして、知性を注入した様な人だな。
いや、サーディンさんは獣人みたいだし人間のファルゴさんと比べるのは無理があるか。
あの耳はタヌキか熊あたりか?
「高音くんは対人戦の経験があるんだよね?」
「ああ。舞とはよく真剣で勝負するから、実戦形式の方が慣れてるな」
「へぇ、真剣で対人戦をよくやるなんてすごいね」
すごいのか?
むしろ木刀とかで訓練した事は一度もないぞ?
基本的にはローズも舞も訓練になると容赦ないし…。
そんな事を考えながら首を傾げていると、その様子を見ていたサーディンさんがいきなり殺気を飛ばして来た。
え? 何? 怖っ!?
「ふむ。この程度の殺気ではビクともしないか。勇気、彼は随分と実戦経験が豊富なようだ」
「サーディンさんが言うとなると相当ですね。これは僕も本気を出さないとダメかな」
「ああ。危なくなったら俺が止めるが、彼の胸を借りるつもりでやった方が良い」
えぇ、なんか天満くんとサーディンさんが俺を強者認定しちゃったんですけど。
俺が殺気に耐性があるのは身近に元魔王様とか、それすらもビビらせる修羅がいるからであって、実戦経験はそこまで豊富じゃない事を分かってもらいたい。
「なぁ、やっぱりルールを決めてやらないか? 例えば相手に触れれば勝ちとか…」
「え? 実戦形式の方がやり易いんじゃ無いのかい?」
「え、えぇっとほら。俺は見ての通り何の防具もつけてないし、この後お姫様との会談があるから怪我したくないんだ」
「それじゃあ仕方ないか。じゃあ、相手の頭か胸に手か足か武器で触れたら勝ちっていうのはどう?」
「ああ。それで頼む」
ふぅ、これならボコボコにされる心配は無さそうだな。
むしろ俺には転移魔法があるし有利とすら言えるかもしれない。
『相変わらずフーマは卑怯ですね。そんな条件でフーマが負けるわけないではありませんか』
「そんな事ないですよ。だって相手は大国で英才教育を受けた勇者なんですから」
『はぁ、この条件でやるならここにいる勇者全員を一度に相手しなさい。あまり自分を過小評価するのは相手にも失礼です』
「えぇ、流石に全員を相手にする方が馬鹿にしてませんか?」
『相手は勇者なのですから自分の力量ぐらいは把握させてやるべきです。フーマがやらないと言うのならエリスにでもやらせなさい』
フレンダさんの口調はいつになく真剣で俺に有無を言わせない感じだ。
もともと軍人を含む様々な人を束ねる位置にあったフレンダさんからすると、目の前の勇者達に何か思うところでもあるのかもしれない。
あのフレンダさんが人間相手にここまで関心を持つのは珍しいし、言う通りにしておくか。
それがきっと俺やクラスメイト達のためになるのだろう。
「ごめん天満くん。ルールに一つだけ追加しても良いか?」
「うん、もちろん良いけど……誰と話していたんだい?」
「俺の師匠みたいな人と連絡をとっただけだ。それで追加ルールなんだけど、ここにいる全員を一度に相手させて欲しい」
「え? 正気かい?」
「ああ。俺は転移魔法が使えるし、そうでもしないとフェアじゃないと思う」
「でも、僕達は皆レベルが50を超えてるし勇者だから元のステータスもかなり高いよ?」
「それなら心配ないぞ。俺も一応勇者だし、レベルは98だからな」
「ほ、本当かい!?」
「ああ。だから図々しいとは思うけど、全員を一度に相手させてくれないか?」
「僕は良いけど……」
「おい高音。お前、多少強いからって俺達を舐めすぎじゃないか?」
「そうだね。私達だって今日まで毎日訓練してきたんだから、流石に全員を相手にするっていうのは無理だと思うんだけど?」
「ご、ごめん。でも、これは俺の師匠の命令でもあって…」
『おいフーマ。何も謝る事はありませんよ。つべこべ言ってないでかかって来いと言ってやりなさい』
そんな事言えるわけ無いだろうが。
すでに皆かなり頭にきているみたいなのに、これ以上火に油を注いだら間違いなく俺は嫌われる。
折角クラスメイト達に無事に再会できたのに、俺はハブられるなんて嫌だからな。
「ふむ。それでは一度彼の実力を勇者様以外と戦う事で見せてもらったらどうだ?」
「そうだね。僕もそれが良いと思うよ!」
天満くんが少しだけ声を張り上げて、興奮していたクラスメイト達を纏めてくれた。
ありがとう天満くん。
君は心優しいイケメンだったんだな!
「なぁ勇気、それじゃあ誰が高音と戦うんだ? 流石にサーディンさんじゃ相手にならないだろ?」
「別に俺が戦っても良いのだが、そこの獣人の女性と戦ってもらえば良いのではないか? 見たところそれなりに出来るみたいだぞ」
サーディンさんがそう言うと同時に、俺の後ろで澄まし顔をしていたシルビアに視線が集まる。
日本語分からないのに、いかにも話を聞いていましたって雰囲気を出すシルビア可愛い。
「え? な、何ですか?」
「俺と戦ってるところを見せて欲しいらしい」
「私がフーマ様と戦うところをですか!?」
「ああ。嫌か?」
「嫌ではありませんが、私ではフーマ様の相手にならないのでは…」
「オホホホ。もしもシルビア様がご主人様に勝てたら一晩添い寝してくれるそうですわよ」
「やります! なんとしてでもフーマ様を倒してみせます!」
「あ、そう。じゃあもうそれで良いや」
「どうやら話は纏まったみたいだな」
「はい。それじゃあまずはシルビアと戦わせてもらいます」
「ああ。ちなみにその彼女のレベルはどのくらいなんだ?」
「シルビア、レベルいくつ?」
「218です」
「え? マジで? ちなみにステータスってどんぐらいなんだ?」
「そうですね…平均すると500ぐらいでしょうか」
「マジかよ。強すぎだろシルビア」
「あ、ありがとうございます。その、フーマ様がお留守の間にドラゴンの巣に行きましたので…」
「あ、そう」
シルビアめちゃくちゃ強くなってんじゃん。
俺と初めて会った時はちょっとしかレベル差がなかったのに、いつの間にかドラゴンを倒したとか言ってるし、魔力と知能特化の俺に比べると他のステータスは俺の倍近くある。
ソレイドのダンジョンを制覇したって聞いてたから高くても100ぐらいだと思ってたのに、218かぁ。
俺よりもかなり強いなぁシルビア……。
そんな事を思っている間に、サーディンさんが俺達の会話を要約して日本語で話し始めた。
「こちらの女性はレベル218、おそらく勇者様方と同じくらいのステータスだ。だが、彼女はドラゴンを相手にしたこともあるらしく、おそらく技量では勇者様よりも数段上だろう。皆彼女の動きをよく見ておくように」
「「「「「はい!!」」」」」
わお、なんか体育会系の部活みたいだな。
いや、実際は戦闘訓練をする集団だから部活よりも厳しかったりするのか?
「頑張ってね高音くん、シルビアさん。良い試合を期待しているよ」
「あぁ、ありがとう」
俺がそう言うと、天満くん達クラスメイトは俺とシルビアから離れて訓練場の壁際に移動した。
あ、アンとエルセーヌさんもいつの間にかあっちに混じってる。
………二人とも一瞬で人気者になったな。
「フーマ様、ルールは如何いたしますか?」
「シルビアが相手ならバーリートゥード、何でもありのガチンコ勝負で大丈夫だろ」
「分かりました。勝利条件は相手を戦闘不能に追い込むか降参させたらという事でよろしいでしょうか?」
「ああ。それじゃあそうしよう」
俺はそう言いながらアイテムボックスから片手剣と炎の魔剣を取り出す。
鎧はステータス差的にどうせ一撃でももらえばダウンするから着なくて良いか。
やっぱり鎧がない方が動きやすいし。
「よし、二人とも準備は良いか?」
「ちょっと待ってください。シルビアは剣だけで良いのか?」
「はい。フーマ様がお相手では盾は何の意味もなさないでしょうし」
『まぁ、フーマには空間魔法がありますから当然といえば当然ですかね』
となるとシルビアは片手剣オンリーか。
特に鎧も着ていないし、条件はほとんど俺と同じだな。
「それでは双方準備が出来た様だし早速始めるとしよう。ルールは相手を戦闘不能にするか降参させれば勝ちの実戦形式。また、ここは陛下のおわす城内であるため相手の命を奪う行為も禁止とする」
「分かりました」
「かしこまりました」
「よろしい。それでは双方構え!」
シルビアが戦う姿を見るのは久しぶりだな。
俺が最後にシルビアが戦っている姿を見たのは冒険者ギルドで悪魔の叡智を相手にした時以来か?
シルビアがどのぐらい強くなったか楽しみになってきた。
『おや? 随分とやる気ではないですか』
「そりゃあ俺の可愛い従者と戦えるんですからやる気も出るってもんですよ」
『気概があるのは良い事ですが、従者だからと気心は加えてはなりませんよ。相手はあのボタンの指導を受けた一流の戦士である事をしっかりと意識しなさい』
「了解です」
そう言って炎の魔剣を燈らせたところでサーディンさんが手をスッと上げ…
「始め!」
そのまま振り下ろした。
先ずは小手調べ。
「ファイアーボール!!」
俺とシルビアの距離はおよそ10メートル。
真面目なシルビアに合わせて試合開始の合図が出た後で魔法を練ったが、俺は魔力の循環速度が人よりも早いから、この距離ならシルビアに魔法を相殺される心配はない。
おそらくシルビアは俺のファイアーボールを回避する筈だ。
そこを転移魔法で一気に間合いを詰めればそれなりに有効な攻撃になるはず………。
そう思っていたのだが、シルビアは俺のファイアーボールを回避しようとはせずに、そのままファイアーボールを剣で弾いた。
それと同時にシルビアを中心に爆炎と爆煙が周囲に広がる。
「なっ!?」
確かに俺の魔法攻撃力ではシルビアのステータスを考慮すると大したダメージにはならないだろうが、まさか剣で弾かれるとは思わなかった。
それにこの爆煙……。
少なくとも俺のファイアーボールだけではここまで大量の煙が生じるはずはない。
おそらくシルビアが何らかの方法で煙幕を生じさせたのだろう。
となると次は……
「はぁっ!!」
煙幕の中からシルビアが物凄いスピードで迫って鋭い一撃を放ってくる。
直感や心眼のお陰でシルビアの攻撃を何とか躱す事は出来たが、煙幕の拡散の際に目を腕で守っていたためカウンターを打ち込む事は出来ない。
シルビアはその隙に再び煙幕の中に姿を隠し、瞬時に気配を消した。
「ちっ」
俺の感知系統のスキルは基本的に相手の攻撃や敵意に対するものであるため、こうしてヒットアンドアウェイを繰り返されては防戦一方になってしまう。
獣人であるシルビアは臭いで俺の居場所を特定できる様だが、ただの人間でしかない俺には煙幕の中で動き回るシルビアの位置を特定するのはかなり難しい。
「逃げるか」
煙幕の中では間違いなくシルビアに勝ち目がないと思った俺は、二度目のシルビアの攻撃が来る前に転移魔法で訓練場から中庭に転移した。
「ふぅ。まさかシルビアが目くらましを使ってくるとは思わなかった」
『そうですね。しかし、安心するにはまだ早い様ですよ』
「え?」
フレンダさんの言葉に首を傾げた瞬間、俺の感知系スキルが警鐘を鳴らした。
俺は瞬時に首を横に振る事で後ろから迫っていた投げナイフを躱す。
「もしかして転移魔法覚えたのか?」
「いえ。一度覚えようとした事もありましたが、私には難易度が高すぎました」
俺が投げナイフを躱す隙に肉薄して俺の首筋に後ろから片手剣を当てていたシルビアがそう言う。
本来ならば転移魔法でこの状況から逃げ出すところなのだが、一度転移した先にシルビアが現れてしまった手前、その手品のタネを解き明かすまでは迂闊に転移はできない。
「勝負ありましたか?」
「いや、まだまだここからだな」
そう言うと同時にアイテムボックスから槍を取り出して背中越しにシルビアの首筋に突きつける。
下手な動きをすれば首の頚動脈を切られて俺の負けになっていたが、アイテムボックスから槍を出すだけならシルビアが俺の首を切るよりも先に実行できる。
この状態に持ち込めさえすれば、後は空間断裂の使える俺の方が先に致命傷を負わせる事が出来るのは言うまでもない。
「勝てたと思ったのですが、この状態から持ち直しますか」
「あんまりアッサリ負けたら主人としての面目が立たないからな」
「流石はフーマ様です」
シルビアはそう言うと俺の首筋に当てていた片手剣をパッと離して俺の後ろから姿を消した。
「はぁ、冷やっとした」
『シルビアが玉砕覚悟で攻撃して来なくて良かったですね』
「はい。仮にシルビアが俺の首筋に刃を当てるんじゃなくて傷を付けてたら俺の負けでした」
『おそらく次からはシルビアも遠慮なく攻撃してくると思いますが、手は考えましたか?』
「まぁ、ボチボチですかね」
そう言った俺はアイテムボックスに持っていた片手剣と炎の魔剣をしまい、両手を上に向けて体内で魔力を練る。
「我が雷は汝を貫く必中の槍。我が雷槍は敵を討ち滅ぼすが為に悉くを焦がし追い続ける」
もちろん雷魔法を覚えていない俺にはそんな魔法が使える訳がない。
だからこれは適当に考えたブラフの詠唱。
俺には姿を消したシルビアの位置を特定することは出来ないが、「必中の槍」とか「追い続ける」とか適当な事を言っておけばシルビアの方からあからさまに詠唱中で隙だらけな俺に攻撃を仕掛けて来てくれる筈だ。
よし、来たな。
「出でよ! ただの壁!」
「なっ!?」
俺の作戦にまんまとハマったシルビアが突如目の前に現れた石の壁に驚いてバックステップを踏む。
さて、これで逃げ切れるかね。
「ふぅ、今度は付いてきてないみたいだな」
再び訓練場に転移して戻って来たが、見渡す限りシルビアの姿は確認できない。
おそらくシルビアは中庭に残されたままなのだろう。
『シルビアがどうやってフーマについて来たのか分かりましたか?』
「多分、細い糸かなんかを一撃目の時に俺につけておいたんでしょうね。それがさっきの巨石で断ち切られたからシルビアは付いて来られなかったんだと思います」
『ふむ。それでこの後はどうするのですか?』
「今度は俺から攻めます」
俺はそう言ってアイテムボックスから巨石をいくつか取り出し、いくつかの巨石を重ねて配置する事で下の巨石を退かせば上の巨石が降ってくる様な原始的なトラップを複数組用意した。
流石にこれで仕留められるとは思っていないが、こういう仕掛けはしておいても損はしないだろう。
そうこうしている内に、両手にナイフを持ったシルビアが訓練場まで戻って来た。
「よう、おかえり」
「まさかあんな簡単な手で糸を切られるとは思いもしませんでした」
「俺もシルビアが暗器使いになったなんて知らなかったぞ」
「フーマ様のお話を日頃からマイ様に聞いていたので、どうすればフーマ様に追いつけるか日々考えて練習していたのです」
「シルビアは真面目だな」
なるほど。
やけに俺が苦手な戦い方をすると思っていたが、どうやって俺を倒すか日々考えていたのか。
これは……かなりキツいかもな。
「ふぅぅぅ。準備は良いか?」
「はい。いつでも行けます」
シルビアがそう言いながら両手のナイフを構えて重心を落とす。
今のところ分かっているシルビアの攻撃方法はナイフと糸の2つ。
もしかすると糸は攻撃に使えないのかもしれないが、今は攻撃に使ってくる可能性も考えて動いた方が良い筈だ。
「ファイアーボール!」
初手と同じ様にファイアーボールを放ち、その直後にシルビアの背後に転移する。
俺が真後ろに転移して来た事に気がついたシルビアは、振り向く事なく背面に蹴りを放った。
「マジか」
てっきり横に避けるものだと思っていたが、攻撃をしてくる事も一応考慮には入れていた。
俺はシルビアの蹴りを両手で防ぎながらシルビアごと転移し、ナイフでの二撃目のベクトルを殺しながら自分で放ったファイアーボールを回避する。
「はぁぁっ!」
一方のシルビアは俺がそうすることを分かっていたかの様に、投げやすい位置に残しておいた左腕を振ってナイフを放ってきた。
「ここ!」
だが、俺はそれが肌に食い込む瞬間にアイテムボックスにしまい、そばにあったトラップを発動させて転移魔法で距離を取る。
ズズンッ!!!
シルビアのいた位置に巨石が落ちる。
だが、シルビアならこれで終わる訳がない。
ズズンッ!! ズズンッ!! ズズンッ!!
予めシルビアの回避先を予想して設置して置いたトラップを次々に発動させ、最後にシルビアが出てくるであろう位置に渾身の魔法を撃ち込む。
「ファイアーランス!!」
これでシルビアに有効打を入れられたと思うのだが、何となく倒した様な実感がない。
そう思った俺はアイテムボックスから片手剣を取り出し、周囲の気配に探りを入れた。
そうしてシルビアの気配を感知するのに集中をしたちょうどその時、警戒範囲内にシルビアの姿を見つける。
「は?」
俺は思わずそう言いながら、頭上から迫っていたシルビアの攻撃をギリギリのところでなんとか躱した。
だが、シルビアはそのまま間髪入れずに魔法を放つ。
「ファイアーボール!!」
どうする?
このままではシルビアの攻撃を食らう事になるが、ここまでシルビアに近づかれては先程の様に糸を使って転移魔法に付いて来られてしまうかもしれない。
だが、眼前のファイアーボールを避けるには転移魔法を使うしかない。
「こなクソっ!!」
結局、俺はそう言いながらシルビアの背面に転移魔法で回り込む事でファイアーボールを避けた。
シルビアはファイアーボールを俺に撃つために両手を前に出していたため、この距離ならシルビアが身体を動かすよりも俺の一撃の方が速いはずだ。
そう考えた俺は渾身の一撃をシルビアの背中に向かって思いっきり放つ。
「ソニックスラッシュ!」
しかし……
「ファイアーウォール!!」
俺の攻撃はシルビアが自分を巻き込みながら瞬時に発動させた炎の壁によってシルビアに届く事はなかった。
『っつ……勝負ありましたね』
高温の炎で全身をモロに焼かれて気絶する直前、フレンダさんのそんな声が聞こえた。
◇◆◇
風舞
「あぁぁぁぁ、恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!」
シルビアに身体を焼かれて気を失った後、白い世界にやって来た俺はフレンダさんの前で頭を抱えて叫び続けていた。
理由は言うまでもない。
クラスメイトを全員相手にするとか大見得を切っておいて、小手調べのシルビアとの戦闘で負けてしまったためである。
「おいフーマ。肉体は既に治っているのですから早く目を覚ましなさい。というよりうるさいです」
「今更のこのこと戻って行ってどんな顔をすれば良いんですか! もう嫌だ。俺はここで一生フレンダさんで面白おかしく暮らしていくんだぁ」
「おい、今私でと言いましたか?」
「あぁぁぁぁ、シルビアがあんなに強かったなんて聞いてないぞ」
「あぁ、無視ですか。そうですか」
途中までは割と良い線をいっていたと思っていたのだが、今になって思い返してみるとシルビアは安全マージンを俺よりも薄くとる事で、戦闘の選択肢を俺よりも多く用意していたみたいだし、終始シルビアが戦闘の主導権を握っていた気がする。
極め付けは最後のトドメの一撃だ。
「まさか俺よりも魔法防御が上だからって、自分ごと炎で焼くとはなぁ」
「自分のステータスで出来ることをしっかりと把握していたからこそ出来た芸当ですね。私達がエルフの里に行っている間に随分と訓練を積んだのがわかります」
「あぁぁぁ、俺の従者が強くて美人で可愛くて辛い」
「どんな感情なんですか、それ?」
フレンダさんがそう言いながら横に伏して悶えている俺を呆れた様な顔で見下ろしてくる。
自分の従者がすっかり強くなっていた事は素直に嬉しいのだが、クラスメイト達の前で気を失ってしまった事が恥ずかしい。
あと、俺の従者が可愛い。
そんな感情である。
「はぁぁぁぁ。あ、パンツ見えた」
「なるほど。どうやら本当に死にたい様ですね」
「あぁ、すみません。でも、前見た時と同じやつ履いてるんですか?」
「ここには着替えがないので当然でしょう。それより、シルビアやアンが心配していると思うのですが、戻らないのですか?」
「えぇぇぇ、でもぉぉぉ」
「気持ち悪い声を出さないでください。フーマが気絶してからそれなりに時間も経っていますし、もう周りに他の勇者はいないかもしれませんよ?」
「そうですかね?」
「はい。仮にいたとしても転移魔法で逃げれば良いではありませんか」
「それはどうかと思いますけど、フレンダさんがそこまで言うなら戻ってあげましょう。あぁ、フレンダさんはワガママだなぁ」
「はぁ、折角励ましてやったのにこの仕打ちですか。良いから早く戻りなさい」
「はーい。………あ、痛い思いをさせちゃって済みませんでした。今後はなるべく怪我しない様にします」
「はいはい。期待せずに応援してますよ」
こうして、俺は投げやりながらも笑みを浮かべるフレンダさんに見送られて白い世界を後にした。
さてと、全力で戦って負けた俺はしっかりとシルビアを称賛しますかね。
多分真面目なシルビアの事だから、俺が倒れてアワアワしてるだろうし……。
次回は10月13日予定です。




