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クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...  作者: がいとう
第4章 微妙にクラスメイト達と馴染めていない気がするんですけど…
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16話 セイレール騎士団の来訪

 風舞




「おーい、俺達が悪かったからいい加減出て来てくれよー」



 俺と舞とシルビアとトウカさんでラングレシア王国に一時帰国した次の日、俺はローズの部屋の前で引きこもりになってしまったローズに謝罪し続けていた。

 昨夜は街をトボトボと歩いていたローズがシャーロットに見つかって騒ぎになっていたところを救出して帰って来たのだが、ローズはそのまま自分の部屋に閉じこもってしまいそれっきりである。



「ねぇフーマくん。私は引きこもりになった事が無いから分からないのだけれど、こういう時ってどうしたら良いのかしら?」

「俺も引きこもった事無いから知らねぇよ。ていうか、その格好…何?」

「え? これかしら?」



 舞がそう言いながら自分の衣服というか、衣装を摘まみ上げる。

 今の舞はどこぞの踊り子みたいな格好をしてるのだが、大道芸でも始めるのだろうか?

 俺的にはその露出でそこらをウロついて欲しく無いんだけど…。



「ああ。いくら暑いからって肌を出しすぎだろ。ほとんど下着じゃん」

「ち、違うわよ!? これはソレイドの踊り子さんの衣装であって下着じゃないわよ!?」

『踊り子とは言っても男性向けの店の…でしょうがね』



 あぁ、やっぱりそうか。

 ピュアな舞ちゃんは普通の踊り子の衣装がこれだと思って買って来ちゃったんだな。

そうかそうか。



「それで、なんでそんな格好してるんだ? 踊るのか?」

「ええ! やっぱり引きこもった女の子に出て来てもらうには天岩戸(あまのいわと)作戦が一番だわ!」

「へぇ。じゃあ頑張ってな。ミレン、昼飯はここに置いとくからちゃんと食べるんだぞー」



 そう言ってその場から立ち去ろうとしたのだが、勇者から踊り子にジョブチェンジした舞が俺の肩をガッと掴んで詰め寄って来る。

 ていうか、露出が凄くてドキドキするから近寄らないで欲しいな。

 以前のエロメイドさんよりも緊張する。



「おい、離してくれよ。俺は忙しいんだ」

「どうせ昼寝をするつもりなんでしょう? 私だけで踊るのは恥ずかしいから風舞くんも一緒に踊りましょうよ」

「恥ずかしいならやらなきゃ良いだろ。それにミレンは室内にいるんだからここで踊っても見えないだろうが」

「踊りながら歌うから問題ないわ!」

「はぁ、ちなみに選曲は?」

「津軽海峡冬げ…」

「結構ガチ目に渋い演歌じゃねぇか! ミレンがそんなんで元気になるか! はぁ、俺はもう行くからな」

「ちょ、ちょっと待ってちょうだい! 一緒に踊ってくれたら風舞くんの言うことを何でも1つだけ聞くわ!」

「何でも言うことを聞いてくれるなら今離してくれ! 舞の方がステータスが上だから肩がすごい痛い!」

「嫌よ! 離したら風舞くん逃げちゃうもの!」



 そんな感じでドタバタと舞と言い争っていると、シルビアが廊下の突き当たりから俺達の元へやって来た。

 小走りで来たし、至急の要件なのかもしれない。



「シルビア! 良いところに来た! さっきからこの痴女が襲って来るから助けてくれ!」

「痴女!? 私は痴女じゃないわよ! 何も(おろ)かなところなんてないわよ!」

「基本愚かなくせに何言ってるんだ!」

「酷いわ風舞くん! 私だって言われたら傷つく事もあるのよ!?」

「だったら現在進行形で傷ついてる俺の肩から手を離してくれ!」



 まったく、涙目になるぐらいならその奇行を控えれば良いのに。

 何でこの娘は思った事を全て行動に移しちゃうのだろうか。

 行動力がありすぎるとこうなるのか?

 そんな事を考えながら、ついに俺を組み伏せようとし始めた舞に押し倒されつつ必死の抵抗をしていると、シルビアが少しだけ困った顔をしながら話しかけてきた。



「あ、あのー。フーマ様とマイ様とミレン様にお客様です」

「お客さん? 誰が来たんだ?」

「セイレール騎士団という方達でどうやらトウカとは知り合いだった様ですが、取り込み中でしたらお引き取り願いますか?」

「いや、行く! ほら舞! ファルゴさん達が来たから早く着替えて来い!」

「誤魔化そうたってそうは行かないわよ!」

「じゃあこのまま玄関まで転移するぞ? こんな格好をファルゴさん達が見たらみんな口を揃えて舞は痴女だって言うだろうな!」

「の、望むところよ!」

「いや望むなよ! 後でいくらでも付き合ってやるから今は着替えて来い!」

「分かったわ! 約束よ!」



 そう言うや否や、俺からパッと離れてピューっと廊下を駆けて行く舞。

 はぁ、結局舞に押し切られてしまった。



『今までフーマが女性に勝てたところを見たことがない気がするのですが、気のせいでしょうか?』

「……多分気のせいです。おそらく…きっと」



 俺はそんな事を言いながら立ち上がり、舞に握りつぶされそうになっていた肩を軽く回してシルビアに向き直った。



「それじゃ、行くとするか」

「はい」

「あ、ミレンも出て来れそうなら顔ぐらいは出しに来いよ。ファイアー帝王を連れて来てくれたお礼もしないとだからな」



 部屋の中から返事はなかったが、中で動き出す気配がしたからきっと出て来てくれる事だろう。

 あの見た目で甘いもの好きだったりと若干幼く見える事もあるが千歳を超える吸血鬼だし、きっと自分の中で感情に折り合いをつける術は心得ているだろう。


 俺はそんな事を考えながらファルゴさん達セイレール騎士団の待つ玄関へと向かうのだった。



「お久しぶりですファルゴさん。それに団長さんとジャミーさんも」

「おう! 久しぶりだなフーマ! 元気にしてたか?」

「はい。ついさっき露出魔に襲われましたけど、基本的に元気です」

「露出魔?」

「あぁ、いや。何でもないです。さぁ、外は暑いですし中へどうぞ」

「おう、ありがとな」



 ローズの部屋の前で一悶着あった後、俺はファルゴさん達を家に招き入れてそのままリビングまで案内した。

 ファルゴさんや団長さんやジャミーさんは笑顔で俺に挨拶してくれたのだが、ネーシャさんは団長さんの影に隠れたまま俺と目を合わせてくれなかった。

 これも全部舞が余計な事を吹き込んだせいだな。


 そんな事を考えながらリビングでアンの出してくれたお茶に口をつけていると、出されたお茶を一気に飲み干したファルゴさんがリビングを見回しながら話しかけてくる。



「それにしても、随分とデカい家に住んでるんだな」

「はい。最近は俺も慣れて来ましたけど、最初の頃は夜にトイレに行くのが凄い怖くて」

「へぇ。それにこんなに可愛らしい子と美人なメイドまでいるなんて、まるで貴族の屋敷みたいだな」

「「ありがとうございます」」



 シルビアとアンがそう言って軽く会釈をする。

 2人とも容姿を褒められてまんざらでもなさそうだ。

 嬉しそうに揺れているあの尻尾をモフらせてもらいたい。

 そんな事を考えながら、目の前でファルゴさんのコップにお茶を注いでいるシルビアを眺めていると、今度は団長さんが話しかけて来た。


 なんか数日見ないうちに野性味が薄れて、大人の女性って感じになった気がする。

 気のせいか?



「なぁ、マイムとミレンはいないのか?」

「いえ、多分そろそろ来ると思いますよ。あぁ、ちょうど来たみたいですね」



 俺がそう言うと同時に舞がドアを開けて入ってくる。

 よしよし、ちゃんとまともな格好をして来たな。



「こんにちは。みんな久しぶりね。無事にソレイドまで着いたみたいで安心したわ」

「おう、マイムも元気そうだな」

「ええ。私はいつだって元気よ! それより、お祭りは見てまわったのかしら?」

「いや、ついさっきソレイドに着いたばっかりで、まだ冒険者ギルドにユーリアを送りに行っただけだな」

「ユーリアくんも来てるんですか?」

「ああ。ユーリアさんはエルフの使者としてここらの村に魔物の大発生が収まったって報告してまわってるんだ」

「へぇ、そうだったんですか」

「それじゃあ風舞くんは冒険者ギルドに行って来たらどうかしら? 久しぶりにユーリアさんにも会いたいでしょう?」

「それはそうだけど、舞はどうするんだ?」

「私はシェリーさんとミーシャさんとトウカさんとで一緒にお祭りを見て回ってくるわ!」

「それじゃあ俺とジャミーはフーマと一緒に行動するわ。シェリーもそれで良いか?」

「ああ。私はそれで構わないぞ」



 こうして、俺とファルゴさんとジャミーさんは冒険者ギルドへ、舞とネーシャさんと団長さんは討伐祭の散策へ出向く事になった。

 ちなみに、アンとシルビアは留守番をしてくれるらしい。

 まったく本当によくできた従者達である。


 そんな事を考えながら俺と舞とトウカさんとセイレール騎士団の面々で家を出たその時、ローズが俺たちの後に続いて玄関から出て来た。



「もう大丈夫か?」

「うむ。いつまでも部屋にこもっておっては気が滅入るからの。妾もフーマ達に付いて行く」

「あら、私達と一緒に来ないのかしら?」

「妾もユーリアと話したいことがあるからこっちで良い。お主達は若い娘同士で楽しんでくると良い」



 俺と舞とローズのやり取りをセイレール騎士団の皆さんはただ黙って見守っている。

 というより、ローズの目が泣き腫らして真っ赤になっている事に驚いて声も出ない様だった。

 まぁ、普通ローズが泣く姿なんて想像できないよな。



「それじゃあ、そろそろ行きますか」

「あ、ああ」

「ほら、ミレンも行くぞ」

「うむ」



 ローズはそう言うと、俺の横に並んで歩き始める。

 ファルゴさんとジャミーさんはそんな俺達の後を少しだけ離れて歩き始めた。


 何故かは分からないがなんだがその時のローズの横顔が凄く綺麗で、無性にドキッとしてしまう昼下がりの俺であった。




 ◇◆◇




 風舞




 冒険者ギルドにてユーリアくんと再会した後、俺達は5人揃ってローズのオススメだという静かな料理店に来ていた。

 なんでも以前舞と2人で来た時にここで食べたケーキがかなり美味しかったらしい。

 ガンビルドさんも凄く来たそうにしていたし、それだけここの料理は美味しいのだろう。



「いやぁ、それにしても暑いねぇ」



 ユーリアくんが服の胸元を軽く緩めながらそう言う。

 ユーリアくんはエルフの代表として各村を回っているためそれなりにキッチリ格好をしているため、薄着の俺達よりも暑そうである。

 ちっ、相変わらず可愛い顔してるな。



「そうだなぁ。もうちょっと日差しが弱くなってくれれば良いんだけどなぁ」

「うむ。確かにここ最近はますます暑くなっておるし、討伐祭が終わる頃には外を出歩く者はかなり減るじゃろうな」

「あ、ああ。そうだな」

「なんじゃファルゴ。久しぶりとはいえまだ一ヶ月も経ってないんじゃからそんなに緊張する事なかろう?」

「いや、それはそうなんだけど…。なぁジャミー?」

「ああ。別に緊張している訳ではないんだが…触れても良い事なのか?」

「なんじゃ? 何か気になる事でもあるのかの?」

「多分だけど、ミレンさんの目が腫れてる事が気になるんじゃないのかな。フーマあたりに泣かされたの?」

「あぁ、その事か。実は昨夜フーマに酷い仕打ちを受けての」

「えぇ、俺のせいなのか?」

「違うのかの?」

「いや、違わなくはないけどさ…」

『おいフーマ。自分の罪はしっかりと認めるべきですよ。昨夜の説教をもう忘れたのですか?』



 もちろん忘れる訳がない。

 何せ朝方まで白い世界でローズの素晴らしさとそれを穢す罪の深さを延々とフレンダさんから聞き続けたんだし、忘れたくても忘れる事は出来なさそうである。

 そんな事を考えながら手元のケーキをフォークで切り分けていると、向かいに座っていたファルゴさんとジャミーさんが心底驚いたという感じで俺をガン見している事に気がついた。



「な、なんすか?」

「前々から分かっていた事だが、フーマはヤベェな」

「ああ。まさかあのミレンを泣かしてしまうとは、一体何をしたんだ?」

「それは…とてもこんな所では言えぬ」

「そ、そうか。フーマにはマイムという良い相手がいるのに…」

「そういえばそれも気になってたんだ! フーマはいつの間にマイムを愛称で呼ぶようになったんだ?」

「愛称?」

「おいおい、今更何とぼけてんだよ。さっきマイムの事をマイって呼んでただろ?」

「あぁ、マイは舞の本名ですよ」

「何? そうなのか?」

「はい。正確には土御門舞って名前です」

「おいおい。そんな適当な嘘で誤魔化される訳無いだろ?」

「別に嘘じゃないんですけど、もうそれで良いです。あ、イチゴもらいますね」

「っておい! 最後の楽しみにとって置いたのに、なんて事するんだ!」

「へぇ、ファルゴさんにも可愛いところがあるんですね」

「見ましたユーリアさん!? こいつ今、俺の顔を見て鼻で笑いましたよ! フンって、フンって!」

「ははは。ファルゴとフーマは相変わらずだね」

「おいファルゴ。他の客の迷惑になるからあまり騒ぐな」

「でもよぉ〜」

「はぁ、俺の分を少しだけ分けてやるから静かにしろ」

「よっしゃあ! 流石ジャミー、分かってるな!」

「はぁ、お主はまだまだ子供じゃの」



 ローズがそう言ってクスクスと笑う。

 どうやら昨日の件は完全に吹っ切れたみたいだな。

 これで後でもう一度しっかりと謝罪をすればもう大丈夫だろう。

 ふぅ、ローズが大泣きするなんて昨日はどうなる事かと思ったけど、なんとか無事に済みそうで良かった。




◇◆◇




 篠崎明日香




「あぁ、もう! ムカつく!」



 風舞がこの城に姿を現した翌日、ウチは訓練所で一人素振りをしていた。

 今日はダンジョンに行く予定はなく久方ぶりの休養日のため、訓練所にいるのはこの国の兵士の人達がほとんどで、クラスメイトはかなり少ない。



「はぁ、ダメだ。全然集中できない」



 これも全部風舞のせいだ。

 折角ウチが心配しておいてやったのに、あいつはあろう事か土御門さんのヒモになって、その上で凄く美人な二人を従者にしていた。

 きっとあの美人なお姉さん二人が風舞の身の回りの世話をしているのだろう。



「次来たときにはウチがぼこぼこにして性根を叩き直してやる」



 きっと風舞はこの世界でだらだらしていただけでろくにレベル上げもしていないはず。

 そう思って少しだけ黒い笑みを浮かべながら剣を納めたその時、後ろから声をかけられた。

 この優しくて賢そうな声は振り向かなくても誰だか分かる。



「少し宜しいですか明日香様」

「うん。ちょうど休憩しようと思ってたところ。どうしたのお姫ちん?」

「実は明日香様に折り入ってお願いがありまして」

「私に? どうしたの?」

「はい。高音風舞様に関していくつか質問をさせていただいてもよろしいですか?」

「風舞について? なんで?」



 まさかお姫ちんまでもがあの甲斐性無しの毒牙に!?

 そう思って少しだけ身構えてしまったが、真剣な顔をしているしどうやらそういう訳ではないらしい。



「我が国はジェイサット魔王国との戦争に向けて着実に準備を進めておりますが、やはり戦力は多いに越した事はありません。非常に不躾な事を言っていると我ながらに思うのですが、高音様や土御門様にも我が国にお力を貸していただきたいのです」

「でも、土御門さんはともかく風舞はろくにレベル上げもしてないから大した戦力にならないと思うよ?」

「いいえ。私が求めている力は何も戦う力に限ったものだけではありません。高音様は転移魔法を使える様ですし、実際に戦争に参加していただけなくとも運搬や伝令をお願い出来るだけでも、かなり有利に戦を進める事が出来るかと」

「ふーん。そのあたりの難しい事はよく分からないけど、風舞の力が欲しいっていうのは分かったよ」

「それでは…」

「うん。私に答えられる事なら何でも教えてあげる。でもその代わり、風舞………と土御門さんを無理矢理戦争に参加させる様な事はしないって約束して」

「はい。それはもちろん心得ております。私は皆様の人生を奪った大罪人。いついかなる時であろうともその罪を忘れる事はございません」



 お姫ちんが私の顔を真っ直ぐと見つめながら真剣な表情でそう言う。

 お姫ちんの言葉が決して嘘偽りなく心からの物だと分かった私には、お姫ちんのその覚悟があまりにも重すぎて、思わず言葉を失ってしまった。



「……そっか。そ、それじゃあ安心だね!」

「ありがとうございます…明日香様」

「もう、お礼なんて良いって。それより、風舞について聞きたいことがあるんでしょ? ほら、ここじゃなんだし移動しよ!」



 風舞の事は確かにムカつく。

 けど、私よりも弱いであろう風舞が傷つくのはもっとムカつく気がする。


 はぁ、なんで風舞達は今になって城に戻って来たんだろ。

 その時の私の心の中にはそんな取り留めもない考えがグルグルと回っていたのだった。




 ◇◆◇




 セレスティーナ第1王女




「ふぅ、こんな所ですかね」



 明日香様に高音風舞様について性格や好きな食べ物や生い立ちなど様々な事をお聞きした後、私は自分の執務室で今後の方針を練っていました。

 グルーブニル砦が落とされて早一ヶ月強、ジェイサット魔王国は既に砦の周りにまで陣を張っている様ですし、残された時間はあまり多くありません。



「やはり高音様には我が国に力を貸していただきたいですね。そうすれば次に攻め込まれるであろうダンダール大橋の防衛戦に勝利する目処が立つのですが…」



 我が国には他国にも負けず劣らない優秀な戦士が多くいますが、やはり政治的戦略で長い間平穏な暮らしを守って来た我が国の軍は、日々血で血を洗う魔族に比べるといささか経験不足である点は否めません。

 既に要所要所には優秀な指揮官や兵士を配備しておりますが、やはり此度の戦の肝となるのは勇者様方のお力でしょう。


 昨日の暗殺未遂事件で高音様方のお力をお借りして捕縛する事の出来たジェイサットの密偵からは大した情報は得られませんでしたが、一応計画通りに城内に潜入していたジェイサットの密偵を全て捕縛する事が出来ました。


 後は……



「そちらはどうでしたか?」

「申し訳ございません姫様。やはりかの者からは何の情報も得られませんでした」

「そうですか。昨日の結界の解析は?」

「そちらも現在我々の総力を挙げて解析しておりますがまだ…」

「やはり一筋縄では行きませんか」



 高音様の配下と思しきエルフの諜報員に我が国の結社の者を接触させてはみたのですが、やはり望んでいた情報は手に入らなかった様です。

 高音様も土御門様もかなり頭がキレる様ですし、私などにはそう易々と隙を見せてはくれないのでしょう。



「となると、やはり私の体で…」

「おやめください姫様。姫様は確かに美しく聡明でらっしゃいますが、すぐに自分の身体を売ろうとするのは良くない癖かと」

「しかし、私の様な大罪人が高音様や土御門様に捧げられるものなどもうこの身体ぐらいしか…」

「仮にそうだとしても、高音様が姫様の貧相な身体で満足なさるとは思えません」

「ひんそっ!?」



 確かに私はまだ14ですし成長もまだまだですが、流石に貧相というのは言い過ぎな気がします。

 ま、まぁ…土御門様や共にいらした獣人やエルフの方に比べれば背も低いでしょうが…。



「いいえ姫様。姫様に足りないのは身長ではなく色香です。少なくともその残念な胸ではダメでしょうね」

「ヒルデ!! いくら貴女でもこれ以上は怒りますよ!」

「これは出すぎた真似を」



 普段はメイド長と私の護衛を兼任し、結社の幹部でもあるヒルデがわざとらしく自分の豊満な胸を撫でながら軽く頭を下げました。

 まったく、ヒルデはかなり優秀な上に私に確かな忠誠を誓ってくれてはいますが、いつも私の身体をからかってきて困ってしまいます。



「姫様。そろそろ大臣との会談のお時間です」

「………。それでは我が国の平和のために今日も頑張るといたしましょう」



 私だって好きで小さい身体な訳ではないのに…。

 はぁ、どこかに私と同じ様に慎ましい胸を誰かに揶揄されいる同士(おかた)はいないのでしょうか。

 私はそんな事を考えながらも笑顔を崩さないようにしつつ、次のお仕事へ向かうのでした。

次回10月5日予定です。

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