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クラスごと異世界転移して好きな女の子と一緒に別行動していたら、魔王に遭遇したんですけど...  作者: がいとう
第4章 微妙にクラスメイト達と馴染めていない気がするんですけど…
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7話 才能と技術

 風舞




 地球の歴史において、モンゴルを始めとする騎馬民族はかなり強力な民族であった。

 その軍隊はそれまでの歩兵中心の軍隊をその速度をもって容易に凌駕し、圧倒的な功績を残している。


 だが、当時の戦場において最強と呼ばれた騎兵にも弱点や苦手な相手は存在する。


 その1つが長城など、馬では乗り越えられない壁などの障害物。

 その1つがファランクスなどと呼ばれる、密集した多数の歩兵によって盾と槍を構え正面から迎え撃つ密集陣形。

 その1つが古の日本が元という強大な国家の猛攻から耐え抜いた要因の1つとされる、騎兵が動き辛いフィールドである。



 さて、ここで今一度俺こと、高音風舞が置かれた状況を確認してみよう。


 現在、俺は得意の転移魔法をエルセーヌさんに左腕に枷をつけられた事で制限をされ、一定の範囲内でしか行動出来なくなっている。

 その状況で迫り来るは、圧倒的な数の翡翠馬を始めとする魔物の軍勢だ。

 魔物の軍勢の7割から8割は深緑色の角を生やした馬型の魔物なのだが、中にはコモドドラゴンをデッカくした様な臭そうな口のトカゲなど他の魔物の存在も確認できる。


 つい最近見た世界樹のスタンピードの様な光景だが、これだけの数の魔物が集まって来たのはエルセーヌさんが焚いた魔物寄せの香が原因だ。

 この香を消せば少なからず魔物の軍勢の血走った目をどうにか出来るのかもしれないが、既に俺という格好の獲物を見つけた魔物は一直線に向かって来ているし、香を消すよりもアイツらを迎え撃つ準備を進めた方が生産的だろう。



 と言うわけで、相手は騎兵ではないが機動力のある魔物の軍勢をどうにかするために、地球の先達の知恵を貸していただくとしよう。



 まずは……。



「コケろ!!」



 俺は魔物の軍勢の先頭集団を次々にその場に転移させる事で、全速力で走っていた魔物のベクトルを殺した。

 これにより、俺を目掛けて無警戒で走っていた魔物達が突然の状況に対応できず、その場で面白い様に転がり始める。

 中には周囲の様子から一瞬で状況を判断した魔物もいたが、後続の魔物に突っ込まれてそのまま倒れ伏していった。


 よし、これで即席ではあるが障害物は出来たはずだ。


 次は……。



「ボタンさんいつもありがとう! 石と水!!」



 俺は既にお馴染みとなりつつある巨石と水球をアイテムボックスから取り出し、巨石は自分の目の前に水流を防ぐための壁として転移させ、水球は地面に落ちて広がる前に魔物の軍勢の上に転移させた。



「草原だとすぐに広がるからあまり効果はないだろうけど、ちょっとでも地面がぬかるんでくれたらそれで良い」



 これで魔物の死体バリケードに加えてぬかるんだ地面によって魔物の進行スピードはそれなり落ちるだろう。

 だが………



『さて、ここからが本番ですよ』



 フレンダさんの言う様に、ここからが正念場だ。

 既にそこそこの数の魔物が互いに傷つけ合い負傷し、一部は死体に変わっていってはいるが、その死体を足場にして次々と魔物が俺の方に向かって来ている。



 巨石を降らせれば確かにかなりの数の魔物を一度に葬れるだろうが、俺が魔物の死体でバリケードを作ったために横に伸びた軍勢相手には処理能力に問題がある。

 こうなったら取れる策は……。



「無双するしか無いわな」



 俺はそう言いながらアイテムボックスから世界樹のスタンピード鎮圧に参加した報酬で貰ったオーキュペテークイーンの武器コレクションからボロボロの槍を二本取り出し、目の前の巨石を魔物の頭上に転移させてから腰を低くして構えた。



『おや、あの詐欺師の様な戦い方しかしないフーマがついに正面切って戦う時が来ましたか』

「まぁ。ぶっちゃけ万策尽きました。こうなったら片っ端から武器をぶっ刺して、武器ごと海に放り込みます」

『相手はざっと3千。一方フーマがの武器はリーチの短い物を含めても2千前後。途中で武器のストックが切れると思うのですが、どうするつもりですか?』

「そうなる前に空間魔法を上げて空間断裂を覚えられる事を願いますよ。さて、フルコンボ目指して頑張りますかね」



 こうしておよそ3千の魔物軍勢を相手にした、俺のなんたら無双が始まった。

 後で絶対エルセーヌさんに海の中に沈んだ武器を全部回収させに行こ。


 俺はそんな事を考えながら槍を構え、正面の翡翠馬二匹に突き刺したのだった。




 ◇◆◇




 シルビア




 どうしよう。

 とても大変な事になってしまった。



「お、落ち着いてください我が主。きっとフーマ様にも事情があったのです」

「事情? 私を置いて修行に出ると書き置きをして出て行った挙句、朝になっても帰って来ないあまりか、キャバクラに入って行ったという目撃情報が多数ある事の事情とは何かしら?」

「な、何でしょう?」



 トウカがそう言いながら、鋭い視線を向けるマイ様から目を背けてしまった。


 昨夜、私とアンとトウカとマイ様でフーマ様やマイ様の故郷についての話をした後、ミレン様がフーマ様の部屋で書き置きを見つけたと言ってリビングにやって来た所から全てが始まった。

 その書き置きには短く…



『帰りが遅くなる。修行に出る。明日には戻る』



 と書いてあったのだが、そこからのマイ様の荒れようは凄まじかった。


 まず始めに私を置いて行くとは何事だと言い始め、

 次に今すぐにフーマ様を探しに行くと暴れ出し、

「フウマにも1人でいたい時があるんじゃろうよ」と言いながら髪の毛をいじるミレン様に「ズルいズルい」と言いながら迫り、

 宥めようとしたトウカの胸をまさぐって失神させ、

 呆然と成り行きを見守っていた私に「一緒にフーマくんを探しに行くわよ!」とすっかり夜も更けているにもかかわらずお誘いを投げかけて来た。


 昨晩は機転を利かせたアンが「フーマ様がいない今日ならフーマ様の良い匂いがするベッドで寝れるんじゃない?」と言った事で、なんとかマイ様の暴走を止められたのだが、日が明けた次の日が大変だった。



「ねぇアン。フーマ様の匂いを辿れない?」

「シルちゃんも気づいてるでしょ? ここに入って行ったのは間違いないけど、匂いは何処にも続いていない。多分転移魔法でどこかに移動したんだろうね」



 アンの言う様に、ここまで目撃情報や匂いを辿りにフーマ様の足跡を辿って来たが、それがこのお店に入ったところでプツリと途絶えてしまっている。

 足跡を追えなくなったのが街中の裏路地とかならまだ良かったのだが、よりにもよってフーマ様の匂いは繁華街一の高級な女郎屋の最上階で消えてしまっていた。


 この部屋のベッドからするフーマ様以外の2人の女性の匂いの(ぬし)達ならフーマ様の行き先を知っているとは思うのだけれど、この状態のマイ様には口が裂けてもこの情報を漏らす訳にはいかない気がする。



「のうマイムよ。お主、今日からドライアドとの試合があるのじゃろう? 行かなくて良いのかの?」

「今はドラちゃんよりもフーマくんよ! フーマくんは行方不明なのよ!? こんな状態でお祭りを楽しめる訳ないでしょう!!?」

「そ、それはそうじゃが、フーマの事じゃから問題ないのではないか?」

「確かにフーマくんは凄く強いけど、それでもやっぱり心配なのよ!」

「心配しておる様な雰囲気は微塵も感じないのじゃが」



 ミレン様がとても小さな声でそう言った。

 確かに今のマイ様は真っ黒なオーラを垂れ流し、まるで恐ろしい魔王の様な顔をしている。

 先程から私の後ろに隠れているアンが息苦しそうにしているし、あの真っ黒な物質はオーラではなく瘴気なのかもしれない。



「あのー、マイム様。フーマ様の行き先ですが…」

「何か分かったのかしら!?」

「い、いえ。そうではなく、ダンジョンに向かったのではありませんか?」

「ダンジョンへ? 何故そう思うのかしら?」

「フーマ様は明日のブラックオーガとの試合に向けて準備をするつもりの様でした。ですので、もしかするとダンジョンでレベル上げに勤しんでいるのでは無いかと思ったのです」

「なるほど。それも一理あるわね。よし、それじゃあダンジョンへ向かうわよ!」

「お待ちください我が主! ダンジョンに向かって仮にフーマ様がそこにいなかった場合無駄足になりますし、まずは冒険者ギルドに向かってはどうでしょうか?」

「ふむ。それもそうね。それじゃあ先に冒険者ギルドに向かいましょうか」



 ふぅ、これで一先ずはこの女郎屋から移動できそうかな。

 未だマイ様は気づいていないみたいだけど、この部屋からはフーマ様の他にエルセーヌとボタンさんの匂いもするし、仮にそれがバレたらボタンさんとマイ様が街中で大規模な戦闘を繰り広げるといった最悪の事態になり兼ねない。

 ボタンさんはいつも冷静で穏やかだけど時々自分の娯楽の為に大胆な行動に出ることがあるし、何があってもマイ様とボタンさんを引き合わせる訳にはいかないだろう。



「はぁ、後でフーマ様には庇ってあげたお礼をしてもらわないとだね」

「うん。確かに今回は私も何かしてもらいたいかな」



 私とアンはズンズンと廊下に出て行くマイ様の背中を見ながら、ため息をつきつつそんな事を言った。




 ◇◆◇




 風舞




「あぁ、もう! まだレベルは上がんねぇのか!」



 引き続き魔物の軍勢との戦闘中。

 アイテムボックスに入っていた武器を全て出し切った俺は、サビすぎて使い物にならない短剣を放り投げながらそう言った。



『あと1つレベルが上がれば空間魔法をLV6にするために必要なステータスポイントが貯まるのですが、なかなか上がりませんね』



 フレンダさんの言う様に、戦闘中にステータスカードを使って空間魔法をLV5まで上げた俺は、もう少しで空間断裂を習得できるだけのステータスポイントが貯まりそうなのだが、レベルが90を超えたあたりから急にレベルが上がらなくなっていた。


 今現在の俺のレベルは96。

 既にフレンダさんのステータスポイントが100程度あれば空間魔法のLVを6まで上げられるという予想を超えてはいるのだが、空間断裂はかなり習得が難しいのかLV5からLV6に上げるのにステータスポイントを72も必要としている。



「はぁ、この調子じゃ空間魔法を覚える前に魔力が切れそうなんすけど」

『残り魔力は…300を切りましたか。相手はまだ500はいますし、確かに厳しいですね』

「空間断裂って、範囲攻撃は出来ないんですよね?」

『一応剣で凪いだ範囲は切れますが、そこまで広範囲は不可能でしょうね』

「ちっ。こうなったら仕方ないですね。エルセーヌさん! ちょっとだけ手伝ってくれ!」

「オホホホ。何をお望みですの?」

「長くて丈夫な棒を用意してくれ」

「オホホ。如何程の長さの棒でしょう?」

「翡翠馬40頭分ぐらい」

「オホホホ。承知いたしましたわ」



 そう返事をしたエルセーヌさんが戦闘を続ける俺の後ろで土魔法を使い始めた。

 その間にもう何頭目になるかわからない翡翠馬を倒してようやく目標分のステータスポイントが溜まった俺は片手でステータスカードを操作して空間断裂を習得する。



 空間魔法 LV6 自分の届く範囲の空間を切断できる。



 概ねフレンダさんの言っていた説明で間違いなさそうだな。

 出来れば実戦登用する前に検証しておきたかったのだが、今はそんな時間はない。



「エルセーヌさん!」

「オホホホ。お待たせいたしましたわ」



 そうして俺はエルセーヌさんが用意していた直径1メートルほどの長さ80メートル程の棒を両腕で掴み、空間断裂を発動させながら棒…というか柱を倒す様にして斜めに振り下ろした。



「きっつ」



 80メートルもある柱の軌跡を空間断裂の範囲に指定したためか、300近くあった俺の魔力が一気にゼロに近づき、俺は思わずその場に倒れこむ。



『お疲れ様ですフーマ。今の攻撃で残りの魔物も殆ど倒し終わりましたよ』

「し、死ぬほど辛かった」

「オホホホ。ご主人様が撃ち漏らした魔物は私が倒しておいて差し上げますので、ご主人様はそのままお休みください」



 エルセーヌさんがそう言って、仰向けに倒れている俺の視界から消えていった。

 俺はその間に周囲に警戒しつつ、ゆっくりと息を整えていく。



「はぁ、まさか海に落とす作戦にあんな盲点があったとは」

『そうですね。翡翠馬が絶命するまでに予想よりも時間がかかってしまいました』

「まぁ、今回はなんとかなったんで良しとしましょう。それに、まだレベルが上がるかもと思えばあまり悪くありません」

『もしかすると、LV100の大台に乗るかもしれませんね』

「だと良いんすけどね。はぁ、早く家に帰ってゆっくり休みたい」



 今頃ソレイドではお祭りが始まって、皆活気付いた街を楽しく廻っているはずだ。

 明日はおそらくデモンストレーションのために1日潰れる気がするから、今日は屋台や出し物などを出来るだけ楽しみたい。

 折角の祭りなんだし、舞達とも遊びたいな。


 そんな事を考えながら手庇(てびさし)を作って日光に目を細めていると、俺が取りこぼした魔物を片付けて来たらしいエルセーヌさんがスタスタとやって来た。

 エルセーヌさんが俺の腕につけられていた拘束具を消しながら話しかけてくる。



「オホホホ。お疲れのところ申し訳ございませんが、そろそろ移動いたしましょう」

「ん? 何かあったのか?」

「オホホ。ジェイサットの手の者が魔物の動きを不審に思ったのか、こちらに近付いて来ていますわ」

「マジか」

「オホホホホ。というわけですのでポーションを差し上げますから、ソレイドまで転移魔法をよろしくお願いいたしますの」

「分かった」



 俺はそう言ってもらえて体を起こし、エルセーヌさんにもらったポーションを一気に飲み干した。

 味はまんま只の水だが、微量ながら魔力が回復するのを感じる。



「あ、そういえばエルセーヌさん」

「オホホ。どうしましたの?」

「今夜までに俺の武器全部集めいといてな。じゃ、テレポーテーション」

「オホホ。マジかいな」



 こうして俺はエルセーヌさんをジェイサット王国の魔族さん達が迫り来るというだだっ広い草原に残し、1人ソレイドの我が家へと転移した。

 さてと、まずは風呂に入って昼ぐらいまで休みますかね。




 ◇◆◇




 風舞




 軽く風呂で汗を流し自分の部屋のベッドで1時間ほど仮眠をした後、俺は空調の効いた部屋のベッドの上で枕に顔を埋めながら深呼吸をしていた。



「すぅぅぅぅ…はぁぁぁぁ。超良い匂いする」



 仮眠をとる前はあまりの疲労により自分のベッドが居心地の良いものに感じただけなのだが、すっかり魔力も回復して頭がスッキリした今は確かにベッドから途轍もなく素敵なパヒュームを感じる。

 特に、この枕は一番強い匂いを発している気がするのだ。



「すぅぅぅぅ。あぁぁぁぁぁ。まるで心が洗われていく様だ。もしかして、アンあたりが俺が留守の間に洗濯でもしてくれたのか?」



 このベッドで寝ているだけで、美しい女性にそっと抱きしめられているかの様な感覚までも感じてくる。

 そういえば、以前ソレイドの草原で舞を抱きしめた時も同じ香りがしたっけ。


 もしかすると、流行りの香水か何かの香りなのかもしれない。

 それを誰かが俺の男臭いベッドにファブ○ーズ感覚でシュッシュしたとか。



 そんなとりとめもない事を考えながら、俺が疲れていたために席を外しているフレンダさんが感覚を共有してくるのを待っていると、誰かが帰って来た音が聞こえた。

 家の中には誰もいなかったけど、もしかしてみんな帰って来たのか?


 そう思って枕から顔を上げてなんとなく自分の部屋のドアの方に目を向けると、舞が勢いよくドアを開けて俺の部屋に飛び込んで来た。



「よう。おかえり」

「ええ。ただいま。……ってそうじゃなくて!! 今までどこに行ってたのよ!」

「どこって…書き置きがあったろ?」



 確かエルセーヌさんが修行に行くとか適当な事を書き置きをしたと言っていたはずだ。



「確かにあったけど、行き先は書いてなかったわよ!? もしかして、どこかの娼婦と遊んで来たんじゃないでしょうね!?」

「娼婦? そんな訳ないだろ」

「それじゃあ何であんなお店に行ったって目撃情報がいっぱいあるのよ!!」



 あぁ、そういえば周囲に人の目があった事を忘れてた。

 いくら修行に行くと書き置きがあっても、キャバクラにいたという情報があれば不審に思うか。



「それは……」

「それは!?」

「舞と一緒にお祭りを回るのに、どこがオススメなのかボタンさんに聞きに行ってたんだ」



 あれ?

 なんかすんなり言い訳が出てきた。

 もしかして、昨夜のボタンさんとエルセーヌさんによるキャバクラでの修行が効いているのか?

 いつもだったらこのまま舞に殴られていたはずなのに、今はどうすれば誤魔化せるのかなんとなく分かる気がする。



「そう。でも、ボタンさんに会うのになんでキャバクラに行く必要があるのかしら?」

「あそこはボタンさんの経営する店でな。雲龍に行ったらボタンさんがいなかったからエルセーヌさんにどこにいるか知らないか聞いたら居場所を教えてくれたんだ」

「そう。それじゃあ、修行だなんて嘘をついたのは何故かしら?」

「修行には行って来たぞ。ほら」



 俺はそう言いながら、今日だけでレベルが30以上も上がっているステータスカードを舞に手渡した。

 流石の舞もこれを見れば俺が修行をしてないとは言えまい。



「れ、レベル98。いつの間に私のレベルを超えていたのね」

「ああ。本当は帰って来て直ぐにでも舞と討伐祭を見て回りたかったんだけど、流石に疲れすぎてたから少し休んでたんだ。折角舞と遊べるなら万全の状態で楽しみたいからな」

「そこまで私の事を考えていてくれたのね! ごめんなさい風舞くん! てっきり沢山のエッチな女の子を侍らせて遊び呆けていると思っていたのだけれど、私の勘違いだったわ!」



 まぁ今朝方まではボタンさんやエルセーヌさんというエッチなお姉さん2人と遊び呆けていたのだけれど、舞が俺の都合のいい様に解釈してくれたから訂正しなくて良いだろう。


 これがボタンさんとエルセーヌさんが俺に授けてくれた女性の扱い方か。

 便利で強力な技だが、あまり使いすぎては誠実な男から離れていきそうな気がするし、使う場面は気をつけるとしよう。


 未だ男子高校生の俺は、女性との誠実なお付き合いに憧れているのである。

 だから、部屋の入り口で俺の事を疑わしげな目で見ている皆さんは余計な事は言わないでね。



「それで、皆はこの後用事はあるのか?」

「はい。私と我が主はドライアドとの戦闘に向かいます。先程冒険者ギルドへ足を運んだ際にミレイユ様に開始時刻を遅らせていただきましたが、流石にこれ以上はお待たせ出来ません」

「妾は特に予定はないの。どうせ暇じゃし、マイの試合でも見に行こうと思っておったところじゃ」

「私とアンはフーマ様の指示に従うつもりです」

「そうだねー。でも、特に指示がないなら私もマイ様の試合を見に行こうかな」

「そっか。それじゃあ、俺も舞の試合を見に行くかな」

「え!? 風舞くんも見に来るのかしら!?」

「行かない方が良いか?」

「いいえ。是非とも来てちょうだい! ここ数日でパワーアップした私の実力を披露してあげるわ!」



 舞がそう言いながら、ムンと自信満々に胸を張る。

 そんな舞を枕を抱えたまま微笑ましい気持ちで眺めていると、俺の様子をじっと見ていたトウカさんが俺に話しかけてきた。



「あのー、フーマ様。1つお尋ねしてもよろしいですか?」

「なんですか?」

「何故先程から枕を抱いているのでしょう?」

「あぁ。なんかベッドとか枕から良い匂いがして落ち着くんですよね。もしかして、トウカさんが香水か何かかけてくれたんですか?」

「いえ。私では…無いですね」

「それじゃあ、アンか?」

「いやぁ、私でも無いかな」

「シルビアは?」

「すみません。私でも無いです」



 3人とも揃って俺から視線を外しながら、微妙に言葉を濁しつつそう言う。

 んん? それじゃあ俺の勘違いか何かか?

 そう思っていたその時、俺のベッドの側に立っていた舞が顔を赤くしている事に気がついた。



「舞?」

「な、何かしら?」

「顔…真っ赤だけど大丈夫か?」

「え、ええ。問題ないわ」

「もしかして、舞が俺のベッドを良い匂いにしてくれたのか?」

「ま、まぁ。結果的にそうなったって感じかしら」

「そっか。よく分かんないけどありがとな。お陰でちょっとしか寝てないのにすごい疲れが取れた」

「そう。それなら良かったわ」

「ああ。出来れば週一ぐらいでやってくれると嬉しいな。この匂い、結構好きだわ」

「そ、そう。か、考えておくわ。それじゃあ、私は少し準備があるから先に行ってるわね」



 舞は矢継ぎ早にそう言うと、さっさと俺の部屋から出て行ってしまった。

 一体なんだったんだ?



「はぁ。やはりフウマは恐ろしい男じゃな」

「そうですね。一晩見ないうちに意図的に女性を操る術を身につけた様です」

「それに、今までの無自覚な攻撃も未だ衰える事がないから余計にタチが悪いですよ」

「こらアン。フーマ様にそんな事言っちゃダメでしょ。私は我が主人がより一層逞しくなって嬉しく思いますよ」

「あ、ああ。ありがとう?」



 なんとなく皆が俺に対して呆れた様な顔をしている気がするが、一体なんだと言うのだろうか。


 俺の事をいつも信じてくれているのはシルビアだけだな。

 よし、今日はおじちゃんがシルビアの好きな物をなんでも買ってあげよう。


 俺はそんな事を考えながらベッドから降りて、出かける準備をするために部屋の外へと向かったのであった。

次回、9月17日予定です

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