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114話 風魔のギフト

 風舞



「おいフーマ。私達の世界に侵入者がいますよ」



 白い世界にて目を覚ますと、いつもの様にフレンダさんが俺の顔を覗きこみながらそう言ってきた。

 そんないつも通りのフレンダさんを見て微妙な安心感を感じつつ身体を起こすと、近くにカグヤさんとトウカさんの姿が確認できた。

 フレンダさんの言う侵入者とはこの2人の事なのだろう。



「いやいや。ここは俺の世界ですし、フレンダさんも侵入者じゃないですか」

「おい。私とフーマの長い付き合いでその言い草は酷くありませんか?」

「ははは。やっぱりフレンダさんと話してると和みますね」

「おい! 今の話のどこに和む要素があったのですか!」



 そんな事を言いながら騒ぐフレンダさんにいつもの様にコーラを渡して立ち上がると、カグヤさんとトウカさんがこちらに寄って来た。



「お二人も飲みますか?」

「はい。よろしくお願いします」

「フーマ様、それはなんですか?」

「これはコーラっていう俺の世界の飲み物です。ご存知ありませんか?」

「はい。よろしければ、私にも少しだけいただけませんか?」

「もちろんいただけますよ。どうぞ」

「ふん。フーマの優しさに感謝する事ですね」

「はい。勿論でございます」



 カグヤさんがそう言って微笑んだのを見て、フレンダさんがつまらなそうな顔をしながら赤い椅子を取り出して腰掛けた。

 ドンマイ、フレンダさん。

 俺はカグヤさんに突っかかったのに簡単に流されたフレンダさんを応援しているぞ。



「それで、俺の魂の件についてお話しがあるという事でしたけど」

「はい。そう言えばそうでしたね。あ、ありがとうございます」



 カグヤさんがそう言いながら俺の取り出したソファーに腰掛けた。

 トウカさんも同じ様に会釈をしてその隣に腰掛ける。



「もしかして、俺の魂に何かマズイ事でも起こってたりするんですか?」

「いいえ。フレンダ様の魂が少しだけ風舞様の魂に混ざっている以外は大した問題はありません。少なくとも今晩中にはフーマ様の魂は元どおりの健常な状態に戻るでしょう」

「それじゃあ、何故ここへ?」

「私が一度ここへ来て見たかったというのはありますが、1番はフーマ様のギフトについてお話ししておきたい事があったためです」

「俺のギフトですか?」



 フレンダさんが花弁を剥がしてその力の一端を使える様になった俺のギフトだが、未だにその全貌は俺自身もよく分かっていない。

 それについて教えてくれるというのはかなりありがたいな。



「まず、フーマ様はギフトについてどの程度ご存知ですか?」

「えぇっと。ギフトは産まれながらに限られた人が持っている才能で、その中でもごく僅かな人がギフトを開花させる事で強大な力を得るって事ですかね。あ、あと、ギフトは魂と深く結びついてるとも聞きました」

「どうやらギフトの概要については理解していらした様ですね。それでは二つ目の質問なのですが、フーマ様のギフトは今現在どうなっているかご存知ですか?」

「ええっと、フレンダさんが花弁を無理やり剥がしたって聞きました」

「その通りです。そこのガサツな吸血鬼がフーマ様のギフトの花弁を無理やり引き剥がしたために、フーマ様の魂が傷つき一時的に魔法を使えなくなっていました」

「おいカグヤ。何か聞き捨てならない事を聞いた気がするのですが」

「はいはい。俺はフレンダさんが無理やりにでもギフトを使える様にしてくれた事に感謝してるんですから、そんなに鼻息を荒くしないでください」

「荒くしていません!! 少しだけ不機嫌なだけです!」

「それで、ギフトの花弁が剥がされた事で俺の魂が傷ついたって話でしたけど、今はもう魔法を使えますし、トウカさんがその傷を治してくれたんですよね?」

「はい。フーマ様の魂についていた傷は既にほとんど治しましたし、後は残りの小さな傷を埋めていくだけです」

「それなら特に問題はないんじゃ無いですか?」

「確かに問題はありませんが、フーマ様のギフトは花弁の一部を剥がされただけで、未だ開花には至っていません」

「つまり……どういう事ですか?」

「はぁ、相変わらずフーマは愚鈍ですね。要はフーマのギフトは未だ本来の力を発揮できていないと言う事です」

「あぁ、なるほど」

「フレンダ様の言う様にフーマ様のギフトは本来の力を発揮できていません。つまり、フーマ様のギフトは花開(はなひら)いて行くにつれてより強力なものになって行くという訳です」

「おぉ、それはかなり嬉しいですね」



 強くなれるならそれに越した事はないし、今でも好きな魔法が何でも使えるっていうかなり便利なものだから、完全に花開いた時が楽しみである。

 そう考えて口角を上げていたその時、俺の正面に座っていた親娘が呆れた顔をしている事に気がついた。



「はぁ、やはり気づいていませんでしたか」

「え? 気づいてないって何がですか?」

「フーマ様は現在のご自身のギフトがどの様なものか把握していますか?」

「好きな魔法を何でも使えるって能力(ちから)ですよね?」

「それだけではないでしょう? 私の前でギフトを使って倒れてしまった事を忘れたとは言わせませんよ?」

「あぁ、はい。その節はどうも」

「まったく。フーマ様は困ったお方ですね」



 トウカさんがそう言って微笑を浮かべた。

 つい最近までギフトの使いすぎで体調を悪くしていたトウカさんに言われたくないが、ギフトの代償で身体が破壊されて俺が倒れたのも事実だし素直に反省しておこう。

 そんな事を考えていると、瓶コーラ一本を飲みきったカグヤさんがサイドテーブルに空き瓶を置いて再び口を開いた。



「フーマ様のギフトが今後どの様な真価を発揮するかは分かりませんが、現在のものよりも強力になっていく事は間違いありません。その結果としてもしかすると代償なく自由に魔法を使える様になるかもしれませんが、魔法を超える力を行使するためにより大きな代償を払わなくてはならなくなる可能性もあります」

「えぇっと。それじゃあギフトはあんまり使わない様にした方が良いって事ですか?」

「いいえ。むしろ日常的に使う様にしてください。フーマ様のギフトがどのぐらいのスピードで開花して行くかは分かりませんが、どうせ今後もここぞという時には使うのでしょう?」



 カグヤさんにどうせって言われちゃったよ。

 まぁ、使うなって言われてたギフトを今回も使っちゃたし、その通りなんだろうけどさ。



「なるほど。つまり日常的にギフトを使う様にして成長の度合いを肌で感じておけという事ですか」

「はい。フーマ様ではそこの辺りがアバウトになると思うので、フレンダ様がしっかりとフーマ様のギフトを管理してあげてください」

「カグヤに言われるまでもありませんが、貴女の言う通りにしておきましょう」



 あれ?

 なんか俺の評価低くないか?

 流石に自分のギフトの成長具合は自分で分かると思うぞ。



「ふふ。私もフーマ様のギフトの訓練にお付き合い致しますので、安心してくださいね」

「あ、はい。ありがとうございます」



 まぁ、トウカさんがギフトの訓練に付き合ってくれるならギフトの代償で身体が悲鳴をあげても直ぐに治してもらえるだろうし良いか。

 フレンダさんだけじゃ何となく不安だったけど、これなら何の問題もないだろう。

 そんな事を考えながら微笑むトウカさんと頬杖をついて暇そうにしているフレンダさんを眺めていると、フレンダさんがスッと立ち上がって口を開いた。



「さて、話も済んだ様ですし貴女達はとっとと帰ってください」

「おや、私ならフレンダ様の魂を元の肉体に戻せると思うのですが、その様な事を言って良いのですか?」

「ど、どう言う事ですか」

「別に深い意味はありませんよ。私はここにいるトウカよりもギフトの扱いに長けていますし、フレンダ様の肉体が側にあれば魂を移すぐらい造作もありません」

「ぐっ。仕方ありません。おいフーマ、この女にもう一本コーラをやりなさい」

「はいはい」



 フレンダさんの小物感が上限突破しているが、何はともあれ元の身体に戻る目処が立ったのだから良かったと思う。

 カグヤさんがフレンダさんを元の身体に戻す代わりに何を要求するかは分からないが、その時は俺も出来るだけフレンダさんの力になるとしよう。

 そんな事を考えながらカグヤさんにコーラを手渡すと、カグヤさんがお礼を言って2本目に口をつけた。



「はぁ、フーマ。私はもう疲れたので早くオセロをやりましょう。今の私には癒しが必要です」

「えぇ、折角4人いるので違うゲームやりましょうよ。麻雀とか」

「まーじゃんですか?」

「はい。スリル満点の素晴らしいゲームです。点数と順位が付くので面白いですよ」

「ほう。それならばカグヤ。最下位になった場合はフーマにコスプレさせられるというのはどうですか?」

「ふふふ。私は別に構いませんよ?」

「それでは、フーマ様が最下位になった場合は私の望む衣装を着てくださるのですか?」

「まぁ、別にそれは構いませんけど、トウカさんが最下位になったら俺の着せ替え人形になってもらいますよ?」

「はい。望むところです!」



 こうして、俺たち4人はコスプレをかけた麻雀大会を開催する事となった。

 3人とも俺が口頭で役などのルールを説明しただけで一発で全て暗記したのだが、ルールを覚えただけでは勝ち上がるのは厳しかったのか俺が3人に負ける事は無かった。



「おい! 何故私だけこんなに布が少ないのですか!」

「こ、これは中々恥ずかしいですね」

「ふふ。よくお似合いですよお母様」



 因みに、時間的に2戦しか出来なかったが、カグヤさんとフレンダさんが1回ずつ最下位になったため、カグヤさんには普通のバニーになってもらって、フレンダさんにはビキニバニーになってもらった。

 ………。

 今夜も楽しかったです。




 ◇◆◇





 風舞達がエルフの里に初めて足を踏み入れた頃、ラングレシア王国が首都ソルグレイシャのとある酒場にて、紫色の髪をした幼女と凛々しい顔をした金髪の女性が声を潜めながら話をしていた。

 2人は外套のフードを目深にかぶったまま、声を潜めて話をしている。

 どうやら他の客や店員に聞かれてはマズイ会話をしているらしい。



「おいシャーロット。お前、調査結果をどう思う?」

「ここまで調べても何ら後ろ暗い事が出てこないのだから、第1王女は間違いなくシロだろう」

「だよな!? オバサン獣人にはセレスティーナ王女が何か悪い事をしてないか調べて来いって言われたけど、何も悪い事してなかったからもう帰っても良いよな!? これで帰っても怒られないよな!?」

「お、落ち着けキキョウたん。流石にそんなに大声で話してはいくら周りが騒がしくても目立ってしまう」

「わ、分かった」



 変態ロリコン女騎士シャーロットの注意を受け、悪魔の幼女キキョウが興奮を鎮め椅子に座り直す。

 2人の周囲に座っていた客はつい今しがたのこの2人の会話を気にした様子はなく、大声で騒ぎながら酒を飲んでいた。

 シャーロットはその様子を見てホッと胸を撫で下ろしつつ、再び声を潜めてキキョウに話しかけた。



「しかし、第1王女や他の王族が悪事を働いている様子は無いにしても、戦時中だというのは間違いなさそうだな」

「そうだな。兵舎には武器が沢山あったし、城の倉庫にはいっぱい食べ物が運び込まれていた。これは近々おっきい戦争が始まりそうだぞ」



 キキョウがそう言いながらニイッと口角を上げる。


 風舞達がクラス全員で召喚されたラングレシア王国と、魔族国家であるジェイサット王国は全面戦争に向けて着々と準備を進めていた。

 ラングレシア王国は領土最北端にあるグルーブニル砦を落とされた事を受け、全面戦争を半年後と仮定して大戦の準備を進めている。

 その準備には風舞達のクラスメイトである勇者達の育成も当然ながら含まれていた。



「しかし、まさかあんなにも沢山の勇者が召喚されていたとはな」



 キキョウの笑顔に見惚れていたシャーロットがハッとした様子でそう言った。



「けど、あんなに弱っちい奴らが本当に勇者なのか? あんな雑魚ばっかりだったら私1人でも全員殺せるぞ」

「まぁそう言ってやるな。いくら勇者とは言っても召喚されてからあまり日は経っていないし、まだまだ成長段階なのだろう」

「ふーん。それなら今の内にあいつらを殺しといたら魔族の奴らは簡単に勝てそうだな」

「………そうだな」



 シャーロットがキキョウの恐ろしいながらも的を射ている意見に対し、言葉に詰まりながらも肯定した。

 ラングレシア王国が勇者を召喚した事は今のところ公には公開されていない情報だが、それでも街中には既に王族によって勇者が召喚された事は噂として広がっている。

 城の中に直接潜入して来たシャーロットからすると、自分が潜入できる様な警備の城に、ジェイサット王国の魔王への切り札となり得るだろう未だ成長段階の勇者がいる事が不安なのかもしれない。



「ま、この国が滅びても私には関係ないし、さっさと帰るか」

「あぁ…そうだな」



 残りのミルクを一気に飲み干したキキョウが席を立ったのを見てシャーロットがそう言いながら立ち上がった。

 人族であるシャーロットがラングレシア王国の行く末を案じて暗い顔をしていた事に気がついたのか、キキョウが少しだけ気を使った言葉をシャーロットに投げかける。

 どうやら2人だけで旅をしていたためか、この2人の間はそれなりに縮まっているらしい。



「ま、まぁ。もしも魔族がちょっかい出してきたらお前は私が守ってやるから安心しろよ」

「き、キキョウたん!! そうだな! 私とキキョウたんはいつまでも一緒だ!!」

「おい! 私はそこまで言ってないぞ!! おい! 離れろこの変態女!!」

「あぁ、キキョウたん!! 私の剣は既に君のためにある。いつでも私を好きに使ってくれ!!」

「それじゃあ今すぐ離れろ! おい!! 聞いてるのか!!?」



 変態女騎士シャーロットと悪魔の幼女キキョウはそうして大勢の人目に付きながらも酒場を出て、日が暮れる前にソルグレイシャを発った。


 彼女達が掴んだ情報をソレイドで待つボタンの元へ持ち帰る頃には、風舞達もソレイドに帰還している事だろう。

 果たしてこの情報を聞いた風舞達がどう動くのか。

 それはいくつかの人族の国と魔族の国の命運を左右する分水嶺に他ならないのである。




 ◇◆◇




 風舞




「おはようフーマくん。昨晩はお楽しみでしたね」

「やぁ人間。僕の愛する妻と娘に手を出すとはいい度胸だね」



 白い世界で麻雀大会をした翌朝というか翌昼、トウカさんとカグヤさんに頭を撫でられながら目を覚ました俺が朝の挨拶をしてから、カグヤさんの部屋から出ようと思いドアを開けると、部屋の前で腕を組みながら仁王立ちをする舞とサラムさんに遭遇した。


 あちゃあ。ついにこの2人が手を組んじゃったか。

 これは絶対に敵わなそうだな。


 そう考えた俺はそのままドアを閉めて部屋の中へ向き直った。



「すみませんカグヤさん。貴女の夫が血走った目で部屋の前にいるので助けてくれませんか?」

「ふふふ。元はと言えばフーマ様が嫌がる私にあんな事をしたのが悪いのでは無いですか?」

「えぇ。元はと言えばカグヤさん達が提案した事なんですから、俺に文句を言わないでくださいよ」



 昨晩のバニー衣装の一件は正々堂々と勝負した結果なのだから俺のせいにしないで欲しい。

 まぁ、バニーガールの格好をしたカグヤさんにあんな事やこんな事をさせたのは俺だけど、それも罰ゲームの一環なのだから俺は悪くないはずだ。

 そんな事を考えながら舞とサラムさんから逃げる算段を立てていると、カグヤさんがドアの方へ向かって話し始めた。



「ふふふ。安心してくださいサラム。例えこの身が汚されようとも私の心は貴女だけのものです。…………ありがとうございます。私もサラムを愛していますよ」



 え?

 一体何を話してるんだ?

 何で急にドアの外から物凄い魔力を感じるんだ?



「フーマ様。お父様は私が食い止めます。ですから、どうか今の内にお逃げください!」

「で、でもそれじゃあトウカさんが…」

「大丈夫ですよフーマ様。お父様は私がキモいクサいウザいのどれかを言えば一発で倒せますし、マイム様も今の私なら当分は抑え込めるはずです」



 う、うわぁ。

 トウカさんはサラムさんに対して容赦ないな。

 キモいクサいウザいは父親が娘に言われたら傷つくセリフトップ3だぞ。

 目的のためなら手段を選ばないとは、恐ろしい女である。



「ごめんトウカさん。それじゃあよろしお願いします!」

「はい! お任せください!」



 俺はそう言って微笑むトウカさんと、布団の上で態と着物をはだけさせ始めたカグヤさんに見送られて転移魔法で脱出した。

 やれやれ。

 今日も大変な1日になりそうだな。




これにて第3章完結です。

間に後日譚兼SSを少し挟んだ後で第4章戦争編に突入します。

今後とも当作を読んで頂ければ幸いです。


次回投稿は9月2日予定です。

SSを複数話纏めて投稿いたしますので、しばらくお待ちください。



また、キャラクター人気投票の結果は9月中には発表する予定です。

大変お待たせしてしまい申し訳ございませんが、今しばらくお待ち頂ければと思います。

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