109話 従者との再会
風舞
ローズとのキャッキャウフフな混浴でダウンした後、そのまま白い世界に向かうとフレンダさんが紅い椅子に座って寛いでいた。
最近はフレンダさんの力を取り上げていなかったため、彼女はギフトを自由に使えるのである。
「おや、思ったよりも早い帰りですね」
「はい。ちょっとはしゃぎ過ぎました」
「はしゃぎ過ぎ? 一体どういう事ですか?」
「実はですね……」
俺はつい先程風呂場であった事をフレンダさんにこと細かに説明した。
特に如何にローズが可愛かったかについては俺の持つ語彙力総てを導引して説明した。
「…で、俺はここに来ました」
「おいフーマ。お姉様を抱こうとした挙句、抱かなかったとはどういう事ですか?」
フレンダさんが頬杖をつきながら低い声でそう言った。
どういう事って言われても困るんですけど…。
「ですから、あの時の俺は普段通りじゃなかったからまた別の機会にって事になったんですよ」
「それはフーマの都合でしょう。精一杯の勇気を振り絞ってフーマに初めてをやろうとしたお姉様の気持ちはどうなるのですか」
「それは…そうですけど。でも、最終的に俺を離脱させたのはローズですよ? それとも、フレンダさんは俺がローズを抱いていた方が良かったと思うんですか?」
「いえ。仮にそのような事態になっていたらフーマを殺していました」
「じゃあどうしろと」
「私にも分かりません! フーマならお姉様の初めての相手でも良いかと思いましたが、やっぱり嫌です!」
フレンダさんが椅子から勢いよく立ち上がりながらそう言った。
俺がローズを抱いていてもいなくても嫌だなんて、俺はどうすりゃ良いんだよ。
「で、でも、今回は何も無かった訳ですし現状維持って事で良いんじゃ無いですかね」
「しかし……、折角断腸の想いでフーマの血をお姉様に飲んでいただいたのに、何も無かったというのは」
「それなんですけど、もしかして吸血鬼が血を飲むと性欲が高まったりするんですか?」
「言ってませんでしたか? 血を飲むと吸血鬼はその血液の持ち主に愛情を感じ、飲まれた側は例え牙を突き立てられていなくても吸血鬼に対して少しだけ興奮を覚えます」
「えぇ、それって結構大事な事じゃないですか」
そうか。
ローズは俺の血を飲んだからああしてエッチなお姉さんになってたのか。
はぁ、吸血による衝動なのか。
そっかぁ。
なんだか微妙にショック。
「確かに話していなかったのは悪いと思いますけど、そこまで落ち込む事ですか?」
「あぁいや、何でもないです」
俺はそんな事を言いながら学校の安っぽい椅子を取り出し、ドサリと座った。
全身の力を抜いて完全に手足を投げ出している。
そんな見るからに落ち込んでいる俺を見て申し訳なくなったのか、フレンダさんが椅子から立ち上がって俺の方へ歩いて来ながら笑顔で話しかけてきた。
「そういえば、フーマにオーキュペテークイーンを倒したご褒美をあげる約束をしていましたね! 何か欲しい物はありますか?」
「いいえ。オーキュペテークイーンに勝てたのはフレンダさんが力を貸してくれたおかげですし、何かをもらう事なんて出来ませんよ。第一、フレンダさんは今何も持って無いじゃないですか」
「で、では、何か私にして欲しい事はありますか? そ、その、少しぐらいなら破廉恥なお願いでも構いませんよ?」
フレンダさんが破廉恥なお願いを聞いてくれるか。
確かに普段の俺なら喜んでお願いするけど、今はローズの感触が残ってるからなぁ。
「はぁ」
「おい! 今どこを見てため息をついたんですか!? おい!」
「気にしすぎですよ」
「はぁ、先程トウカと同じサイズと言ってくれましたしもう良いです。それより、何かお願いは無いんですか?」
「そうですね。特にパッと思いつくのは無いです。俺はこうしてフレンダさんがいてくれるだけで幸せですよ」
「そういうセリフを吐くならもう少し姿勢を正してからにしてください。今の様にスライムの様な格好で言われてもあまり嬉しく無いです」
フレンダさんが呆れた顔でそう言いながら俺の頭に片手を置いて左右に揺さぶり始めた。
俺はフレンダさんにされるがままに頭を揺らす。
そのままフレンダさんの操り人形になっていると、俺の頭から頰に手をズラして頰をグニグニと弄り始めた。
俺は抵抗する事もなくフレンダさんにほっぺたをムニムニされる。
「今回は本当によく頑張りましたね。いや、私がフーマと感覚共有をしたのが最近だからそう感じるだけで、フーマは以前から頑張っていましたね」
「ほうへふふぁね」
「はい。フーマの1番近くにいる私が言うんですから間違いありません」
俺は椅子に座り直してフレンダさんの穏やかな顔を見上げながら口を開く。
「それなら間違い無さそうですね。なんせフレンダさんは俺の体の隅々まで把握している訳ですし」
「はぁ、折角私が褒めてやってるんですから、その様な野暮な事は言わないでください。お風呂の時は席を外してやっているんですから別に良いでしょう?」
「まぁ、俺だってフレンダさんの体の隅々まで知っているんですから言いっこなしでしたね」
「はぁ。私はそういう訳で言ったのでは無いですが、今日は機嫌が良いので許してあげましょう」
「フレンダさん」
「どうしましたか?」
「身体、早く取り戻せると良いですね」
「そうですね」
「俺、もっと強くなって出来るだけ早くフレンダさんの身体を助けに行くんで、これからもよろしくお願いします」
「ふふっ、あまり期待せずに待っています」
フレンダさんが口元を隠しながら上品に笑った。
俺はそんなフレンダさんを横目に椅子から立ち上がり、背骨を伸ばしながらフレンダさんに背を向けて歩き始める。
「おっぱいもっと大っきくなったら良いですね」
「はい。私もそうおも……おい、今何と言いましたか?」
「さて、それじゃあ俺はそろそろ戻ります。それと、さっきからこの世界の権限でフレンダさんのおっぱいを大きくしようとしてたんですけど、何故か出来ませんでした。力になれずすみません」
「おい! そこで謝らないでください!! 私が真面目な話をしていたのにフーマはそんな事をしていたのですか!? …っておい! 待ちなさい!! おい!」
こうして、俺は顔を真っ赤にして迫って来るフレンダさんから逃れる様に白い世界から元の現実世界へと戻った。
どうせまた今晩にでもフレンダさんには会う事になるのだから、その時にまた改めてお礼でも言おう。
俺はそんな事を考えながら現実世界のベッドの上で目を覚ました。
ベッドの横ではアンが椅子に腰掛けて俺の顔を見下ろしている
「あ、おはようフーマ様。調子はどう?」
「ああ。若干倦怠感があるけど特に問題は無いぞ。世話になったな」
「ううん。別にこのぐらい何でもないよ。それより、ついさっきシルちゃんが戻って来たんだけど、どうする?」
「どうって会うに決まってるだろ? ダメなのか?」
「ダメじゃないんだけど、シルちゃんフーマ様に会うのを凄い楽しみにしてたから会ったら何されるか分かんないよ?」
「えぇ、何じゃそりゃ」
「まぁ、私も一緒に行くから多分大丈夫だと思うけど、一応警戒しといてね」
えぇ、何で従者に会うのに警戒しなくちゃいけないんだよ。
なんて事を思いもしたが、久し振りにシルビアに会いたかった俺はベッドから起き上がって裸足のまま私室の出口に向かった。
服は俺が寝ている間にTシャツと短パンを履かせてくれたみたいだし、このまま向かっても大丈夫だろう。
「そういえば、ミレンはどこ行ったんだ?」
「ミレン様ならフーマ様の体を拭いたり服を着せたりした後でボタンさんの所に行ってくるって出てったよ。顔を真っ赤にしてたけど、何かあったの?」
「いや、別に何でもない。それで、シルビアはどこにいるんだ?」
「おめかしをしてリビングにいると思うよ。ここ最近ボタンさんに色々鍛えてもらってシルちゃんは凄い綺麗になったから凄いビックリすると思う思うよ」
「へぇ、それは楽しみだな」
俺はそんな事を言いながらアンと一緒に廊下を歩いてリビングに向かった。
シルビアとはかれこれ1ヶ月以上会っていないからか何となく鼓動が早まるのを感じる。
そんな事を考えながら歩いている内にリビングの前にたどり着いた俺はドアの前に立って一度深呼吸をした。
「何でフーマ様まで緊張してるの?」
「アンが凄い綺麗になったとか言うからだろ」
「えぇ、でも、本当に綺麗になったんだよ?」
「それってどんくらい?」
「うーん、女神様が地上に舞い降りたくらい?」
「流石にそれは言い過ぎだろ。言ってもソレイド1くらいじゃないのか?」
「それは低すぎだよ。最低でも大陸1ぐらいではあるね」
「あぁ、それぐらいならありえるかも。シルビアは元々かなり美人だしなぁ」
「でしょ? シルちゃんは私の自慢の友達だからそのぐらい当然だよ!」
「シルビアとアンは俺の自慢の従者と従者候補だから言われてみればそうだな」
なんて事をわざとらしくアンと話していると、リビングの中から尻尾でソファを叩く様な音が聴こえてきた。
どうやらシルビアが俺たちの話を聞いて恥ずかしがっている様である。
そんなシルビアがどんな顔をしているのか気になった俺はシルビアが表情を変える間を与えないためにリビングの中に転移した。
「フウマ様!!!」
「ぬおっ!?」
リビングの中に転移した直後、シルビアが俺に勢いよく抱きついて来て俺はそのまま押し倒された。
シルビアが俺の胸元に顔を埋めて匂いを嗅ぎながら尻尾をブンブン振っている。
まるで大型犬みたいだ。
「よう、久しぶり。元気にしてたか?」
「はい! アンやボタンさんやミレイユさんのお陰で元気にやって来れました! フウマ様はお変わりありませんか?」
「ああ。こっちもやる事は済んだし、マイ達も元気にやってるぞ」
「そうでしたか。お勤めご苦労様でございます!」
「ああ。ありがとな。それにしても、ちょっと会わない内に本当に綺麗になったな」
「そ、そうでしょうか?」
「ああ。もう完全に顔色も良くなったみたいだし、髪にもツヤが出てる。正直見違えたぞ」
「あ、ありがとうございます!!」
シルビアがぱぁっと顔を明るくさせながらそう言った。
初めて会った時は死にそうな顔をしていたのに、もう完全に回復したみたいで安心した。
俺の従者がこんなに美人だなんて、凄く嬉しい。
そんな事を考えながらシルビアに押し倒されている俺の元へアンがテコテコとやって来ながらニヤついた顔で話しかけてきた。
「ねぇ2人とも。久し振りに会えたのが嬉しいのは分かるけど、いつまでそうしてるの?」
「俺はずっとこのままでも良いと思うぞ」
「す、すみませんフウマ様!! 今すぐにどきます!!」
シルビアがそう言いながらパッと俺から離れる。
あぁ、折角シルビアの良い香りとモフモフの尻尾を堪能していたのに。
「シルビアとアンならいつでも抱きついて来て良いぞ」
「え? そうなの? それじゃあ…」
アンがそう言いながらテコテコと歩いて来てカーペットの上であぐらをかいていた俺にポスリと抱きついて来た。
おお、冗談で言ったのにまさか本当に来てくれるとは。
アンは小型犬みたいで愛嬌があるな。
「耳、触っても良いか?」
「うん。フーマ様なら良いよ」
「それじゃあ…おお、これは中々」
「でしょ? 私もボタンさんに毛繕いの仕方を教わったんだー」
「へぇ、確かにこれはかなり手入れされてそうだな」
「シルちゃんの耳も触ってあげて? ほら、シルちゃんもそんな所で立ってないでこっちにおいでよ」
「よろしいのですか?」
「ああ。シルビアにはこの家を空けている間色々迷惑をかけたからな。大抵のお願いなら聞いてやるぞ」
「で、では、失礼します」
そう言ったシルビアが俺の正面にチョコンと座って頭を向けてきた。
俺はそんなシルビアの頭を撫でてやりながらアンの頭も撫でてやる。
「ふわぁぁぁ、幸せです」
「うん。やっぱりフーマ様に仕える事にして正解だったよ」
「そりゃどうも。あぁ、そう言えば後で聞こうと思ってたんだけど、2人ともこの後暇か?」
「はい。特に用事はありませんが」
「うん。私も特に何も無いよ」
「それじゃあこの後エルフの里に行くぞ。多分戦勝パーティー的なのが開かれると思うから一緒に行こうぜ」
「良いのですか?」
「まぁ、俺は一応これでも勇者だし、従者2人を同行させるぐらいの我儘は聞いてくれるだろ」
「あぁ、やっぱりフーマ様は勇者なんだねぇ」
「あれ? 言ってなかったか?」
「うん。でもまぁ、バレバレだったし別に良いよー」
「そっか。それで、2人とも行けるって事で良いのか?」
「はい。フウマ様が誘ってくださった事を私が断る訳がありません」
「私も行くー。エルフの里がどんな所か気になるし、ターニャさんってエルフさんにもお礼が言いたいしねぇ」
「じゃあ、ミレンが帰って来たら早速行くか」
「はっ、フウマ様の仰せのままに」
「仰せのままにー」
そうしてシルビアとアンの了承を得た後、俺はローズが帰ってくるまでの間、2人のモフモフを堪能して穏やかな時間を過ごした。
舞にモフらせたらシルビアとアンがミレイユさんみたいに舞の虜になりそうだし、このモフモフはあのモフリストには触らせられないな。
俺はそんな事を考えながら大事な従者2人を撫で続けた。
次回は8月21日予定です。