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107話 それぞれの癒し

 風舞




 この牢屋に来るのはこれで2回目だ。

 1回目はトウカさんとエルフの里で演説をした時に謀反の罪を着せられた時だった。

 あの時は特に何の拷問もされずに牢屋から出してもらえたんだけど、流石に今回ばかりはなぁ。



「さぁ吐け! お前の他に仲間は後何人いる!!」

「じゃから、妾の仲間はフーマとマイムとトウカ達じゃと言っておるじゃろ!」

「トウカ様がお前の様な魔族と仲間な訳あるか!!」



 俺の向かいの牢屋でローズが女性のエルフに尋問というか拷問を受けている。

 先程から時々鞭が使われているし、温厚なエルフの皆さんでも魔族に対しては容赦無いみたいだ。



「おーい。あんまり叩くと可哀想だぞー」

「魔族に対してはこれぐらいで丁度良いのだ! 私だってこの様な事はしたく無いが、ここで吐かせねば魔族国家との戦争に負ける可能性がある」

「ほう、お主も一軍人として自分の仕事を全うしておる様じゃな」

「そう言う訳だ。だからさっさと目的と仲間について吐かないか!!」



 パシン!!



 エルフの女性が持っていた鞭でローズの体を叩く。

 その衝撃で、ローズの胸がたゆんと揺れた。

 今のローズはギフトの力で作り出した赤いドレスを着ているため上乳が露出していてかなりセクシーである。

 因みに、ギフトの身体強化は付与されていないためドレスはただのハリボテであるらしい。



「あぁ、もう少し下の方を叩いてくれぬか? 丁度脇腹のあたりが痒いんじゃが、拘束されている所為で自分で掻く事もできん」

「何故だ! 何故先程から叩いているのに全くダメージを受けない!」

「何故と言われてもお主と妾のステータスに差があるからなんじゃが、こればっかりはのう…」



 ローズが少しだけ申し訳なさそうな顔をしながらそう言った。

 今のローズのステータスはなんと全盛期の4分の1に近いらしく、防御力は4000ぐらいあるらしい。

 それじゃあ確かに一兵卒に過ぎないエルフのお姉さんじゃ傷一つつけられないよね。



「畜生! 魔法防御も嫌に高いし、これでは拷問にならないではないか!」

「それを妾に言ってどうするつもりなんじゃ」

「そんなに拷問がしたいのならファーシェルさんあたりでも連れて来たらどうだ? あの人なら多分傷をつけるぐらいは出来ると思うぞ」

「うるさい! お前は黙っていろ!!」



 エルフのお姉さんが俺の方をカッと睨みながらそう言う。

 俺はすでにソウルコネクトが切れて普段通りの黒髪黒目の人間に戻っているから、拷問は受けずに済んでいるのだ。

 まぁ、牢屋には閉じ込められているけど、その内出してもらえるだろう。



「じゃが、お主がこうしておっても何も変わらんぞ? 時間と体力の無駄ではないか?」

「しかし…」

「ファーシェルは出来る女じゃ。お主がしっかりと理由を説明すれば分かってくれるはずじゃ。エルフは長命なんじゃから、今回が駄目でも次回がある。諦めずに研鑽を続ければきっと妾に傷を作れる様になるじゃろうよ」



 ローズが途轍もないオーラを放ちながらエルフのお姉さんを丸め込もうとしている。

 すごいな。

 まるで濃縮されたカリスマそのものが話しているみたいだぞ。



「わ、分かった。だが、くれぐれも大人しくしているんだぞ! この地下牢の入り口は見張りも立っているから、何か物音がしたらすぐに駆けつけてくるからな! よく覚えておけ!」

「うむ。お主の言う通りにしよう」

「ふん!」



 こうして、少しだけ頰を赤く染めたエルフのお姉さんは「全くもう!」とかブツブツ言いながら地下牢から出て行った。

 これが魔王の力か。

 そんな事を考えながら感心しつつローズの方に目を戻すと、ローズが自分の手首につけられていた枷を外して足枷をカチャカチャといじっていた。



「っておい。大人しく待ってるんじゃなかったのか?」

「あんなの嘘に決まっておるじゃろう。ふむ。足枷の方も物理的な仕掛けのみじゃな」



 ガチャリ



 ローズの足についていた枷がものの数秒で外れた。

 えぇ、いくらなんでも簡単に外し過ぎじゃないか?



「む? フーマは何をのんびりしておるんじゃ?」

「いやいや、俺はお前と違ってピッキングとか出来ないから」

「この程度も出来ぬとはお主もまだまだじゃな。どれ、今回は妾が解いてやるとしよう」



 おいおい。

 牢屋の鉄格子を腕力だけ曲げちゃったよ。

 この格子の素材はかなり強固だって聞いてたんだけど、これで良いのか?

 なんて事を考えている間にローズが俺の手首と足首についた枷を外してその辺に放り投げた。



「で、この後はどうするんだ?」

「一先ずは身を隠すとしよう。この姿がいつまで保てるか分からぬし、元の姿に戻るのを見られるのは中々にマズい」



 確かに今のローズはちびっ子モードのローズと完全に別人だと思われてるし、元の姿に戻るまでどこかに身を隠していればもう追われる事も無くなるか。



「分かった。それじゃあ一度家に帰るか」

「魔力量は問題無いのかの?」

「ああ。帰りの分は無いけど、あっちで風呂にでも入ってのんびりしてれば回復するだろ」

「ふむ。それもそうじゃな」



 ローズが話をしている間に目の色を青く変えて吸血鬼の特徴を隠す。

 あ、エロフはここにいたのか。



「なんじゃ? そんなに妾の体に興味があるのか?」

「ああ。ありありだ」

「ほほう! では、家に戻ったら好きなだけ触らせてやるとしよう!! では行くぞ!」

「ふぁいふぉ」



 こうして、ローズの大きい胸に顔を埋められた俺はそのままソレイドの我が家に転移した。

 アンに無事に終わった事を伝えたいし、一度戻って来て正解だったな。



「あ、おかえりフーマ様と、だれ?」



 玄関に俺とローズが転移して来た事に気がついたアンがパタパタと小走りで俺の元へやって来た。

 それと同時に、かなり白い目をしている。

 っておい。ローズは楽しそうに俺の肩によじ登るんじゃない。

 今のお前はそこそこ大きいんだから、緊張するだろ。



「誰とは心外じゃな。妾じゃよ妾」

「いやいや。それじゃあ分かんないだろ」

「えぇっ! この匂い、ミレン様!?」

「分かるのかよ」



 流石獣人。

 匂いには敏感らしい。



「うむ。久しぶりじゃなアン。元気にしておったか?」

「う、うん。それより、ミレン様はどうしてそんなに大きくなったの?」

「毎日よく食べてよく寝てよく動いたからじゃ。アンもまだまだこれからじゃから案ずるでない」

「いやぁ、私が聞きたいのはそういう事じゃ無いんだけど。ま、いっか」

「随分とアッサリしてるのな」

「まぁ、フーマ様達が常識外れなのは分かってたし、大きくなるぐらいじゃそこまで驚かないよ。それより、今回もすぐ戻っちゃうの?」

「いや。もうやる事は終わったから夜になるまではこっちにいると思うぞ」

「そっか。それじゃあ先ずは、お風呂かな?」

「うむ! 大分汚れたし、汗を流したいからの。今から妾とフーマは風呂じゃ!!」

「えぇ、俺も一緒に入んのか?」

「なんじゃ? 嫌なのか?」



 ローズがそう言いながら俺の頭を太ももでグリグリと潰してくる。

 うーん。

 何となく今のローズと風呂に入るのは舞に悪い気がするんだけど、今のローズは夢にまで見たエロフだしなぁ。



「私はシルちゃんにもマイム様にも言ったりしないよ」

「よし、一緒に入るか」

「そう来なくてはな! そうじゃ、アンも一緒に入るかの? 妾はお主が一緒でも一向に構わんぞ?」

「う、ううん。私はご飯を作って待ってるから2人で入って来なよ。それに、フーマ様とはお願いを一つ聞いてもらえるって約束をしてるからね」

「そうか。では行くぞフーマ! 風呂に突撃じゃ!!」

「あいよ」



 やったよ母さん。

 俺はついにエロフときゃっきゃウフフ出来るんだ。


 俺はそんな事を考えながらローズを肩車したままスキップで風呂場へと向かった。




 ◇◆◇




 舞




 宮殿に戻って来た私達を出迎えてくれたのはエルフのメイドさん達だった。

 ファーシェルさんやエルフの軍隊のお偉いさんはまだ前線の方で指揮を執っているため、宮殿には偉い人はいないみたいである。

 私達は宮殿の戸を開けてくれたメイドさんに礼を言い、中に入った。



「さて、フーマくん達は連れ去られちゃったけど、私達はどうしましょうか」

「うーん。僕はトウカ姉さんを探そうかな。宮殿には来てるみたいだし、すぐに見つかると思うよ」

「それじゃあ、私とマイムは先にお風呂行こうよ。この後は大浴場がどんどん混むだろうし、今の内に行っちゃお」

「あら、それじゃあ皆には悪いけれどそうさせてもらおうかしら」

「良いんじゃないかな。マイムもター姉もかなり汚れてるし、そうすると良いよ。それじゃあ、僕はこっちに行くね」



 ユーリアさんはそう言うと、廊下の角を曲がって中庭の方に歩いて行った。

 ユーリアさんは感知能力がかなり高いし、すでにトウカさんの居場所に検討が付いているのだろう。



「本当はシェリーも一緒に入りたかったんだけど、仕方ないか」

「門の所にいた兵隊さんによると、シェリーさん達もエルフの里に引き返して来てるらしいし、その内会えるわよ」

「それもそっか。じゃあ、私達は大浴場にレッツゴー!!」



 こうして私とターニャちゃんは銭湯で汚れた身体を清めるために風呂場に向かった。

 むぅ、なんとなく風舞くんとのラッキーイベントを逃した気がするわ。

 それが私の唯一の気がかりだった。




 ◇◆◇





 ユーリア




 マイムやター姉と別れた後、僕は来た道を引き返して救護室へ向かっていた。

 トウカ姉さんは僕の見立て通りに中庭の隅にいたんだけど、その前に少しだけ用事を済ませておきたかったのである。



「やれやれ。まだ寝たままだなんて、ター姉も随分と強く殴ったんだね」



 僕はそんな事を言いながら長い廊下を歩く。

 時々すれ違うメイド達が深々と頭を下げてくれるのが微妙に気恥ずかしい。



「これで旅をする理由もなくなったし、当分は姉さん達の手伝いかなぁ」



 元々僕が旅に出ていたのはハシウスに里を追放されたからだし、トウカ姉さんが巫を続けなくて済む様になった今は僕が旅に出る理由もなくなる。

 いくらハシウスが血縁上里長に一番ふさわしいとは言っても、スタンピードの間ベッドの上にいたのでは失脚は免れないだろう。

 おそらくター姉が少し早めの代替わりで里長になると思う。



「ター姉も大変だね。まだまだ政治の勉強も済んでいないだろうに」

「そうですね。あの子は政治よりも軍事に興味があるみたいです」

「うん。やっぱり子は親によく似るんだね……って、え?」



 僕の1人言に自然に返す声に振り返ってみるとそこには……



「久しぶりですねユーリア。元気にしていましたか?」

「へぇ、髪を切ったとは聞いていたけど、随分と男らしくなったね。父として誇らしいよ」



 僕の父さんと母さんが微笑みながら立っていた。

 随分と痩せてしまってはいるみたいだが、この感覚は間違うはずもない。

 正しく僕の両親だ。



「なん…で」

「何故とは何を指して言っているのですか?」

「どうして…もう死んでると思っていたのに」

「こらこら、あまり男の子が泣くもんじゃないよ。ユーリアには僕達がアンデットか何かに見えるのかい?」



 父さんと母さんが泣きじゃくる僕の頭を優しく撫でながらそう言った。

 あぁ、こうやって頭を撫でられるのも何年ぶりだろうか。



「そうだね。おかえり母さん、父さん。また会えて嬉しいよ」

「はい。ただいまユーリア。今までよく頑張りましたね」

「ただいまユーリア。父として我が子の成長がとても嬉しい」

「ありがとう。父さんと母さんには沢山話したい事があるんだ。この後の用事を済ませたら少しだけ時間をもらっても良いかな?」

「私達もハシウスに用がありますから、一緒に行きましょう。それと、お話はこれ以降いくらでも出来ますから、少しだけなどと悲しい事を言わないでください。母は常に子と話をしたいものなのですよ」

「うん! それじゃあ行こう、母さん! 父さん!」

「ふふふ。ユーリアはいくつになっても可愛いですね」

「やれやれ。宮殿のメイド達に物凄く人気なのに、まだまだ子供らしいところは変わらないな」



 こうして、僕は両親の暖かさをしっかりと感じながら宮殿の廊下を歩いたのだった。


以降、私用により2日に1話更新とさせていただきます。

すみません


次回は8月17日予定です

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