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105話 姉と妹と姉と弟

 舞




「マイもよく頑張ったの」

「え、ええ。ありがとうございます」



 オーキュペテークイーンの咆哮を受けて身動きがとれなくなっていた風舞くんを助けてくれた金髪の女性が、私も空中で受け止めてくれながら優し気に微笑んだ。

 魔力がほとんど尽きて気絶しかけていた私を助けてくれたのは有難いのだけれど、どうもこの女性に微笑みかけられていると無性にドキドキする。


 そんな事を考えながら金髪の女性を見上げていると、私を手近な枝に下ろして私の頭を撫でながら口を開いた。



「なんじゃ? 妾に敬語なぞ使わずとも良いのじゃぞ?」

「は、はい。ありがとうございます」

「む? もしかして気が付いておらぬのか?」

「気が付く、ですか?」



 綺麗な金髪で深紅の眼をした女性が少しだけ困った顔をしながら私の顔を覗き込んでいる。

 うーん。

 どこかで会った事あったかしら?


 そう思いながら質問を投げかけてみたその時、金髪の女性が真剣な顔でオーキュペテークイーンの方を向いた。



「妙じゃな。何故妾達を襲ってこない。……まさか!」



 金髪の女性はそう言うと、片手で抱きかかえていた風舞くんを私に渡して、勢いよく枝を蹴って私達の下にいるであろうオーキュペテークイーンの方へ向かった。



「一体誰だったのかしら」



 私はそんな事を言いながら、腕の中で気絶している風舞くんの顔を覗き込んだ。

 出来る事なら回復魔法で風舞くんの治療をしたいのだけれど、魔力が残り僅かしかない今の私では何の魔法も使う事が出来ない。

 微妙な手持ち無沙汰を感じて風舞くんの頰をつついていると、風舞くんの瞼がゆっくりと開いた。



「あれ? ローズが舞になってる」

「私はローズちゃんじゃないわよ?」



 自力で目を覚ました風舞くんが目をうっすらと開きながら訳の分からない事を言った。

 どうやら先程の金髪の女性が風舞くんに回復魔法をかけておいてくれたらしい。



「良かった。舞も無事だったんだな」

「ええ。綺麗な金髪の女性が助けてくれたのよ」

「ああ。ローズの事か」

「ローズちゃん? 誰が?」

「誰って、その綺麗な金髪の女性が?」

「え?」

「え? だってさっき大声で妾はローズ・スカーレットって言ってただろ?」

「そうなの? 軽く意識が飛びかけてたから覚えがないわ」

「あぁ、そうだったのか。あのエルフ耳で金髪で紅い目で赤いドレスの女性はローズだぞ」

「でも、私よりも身長が高そうだったわよ? それに、胸だって私と同じくらいあったわ」

「だから、大きくなったんだろ?」

「えぇ!? 吸血鬼ってそんなに簡単に大きくなるものなの!?」

「まぁ、あり得なくはないだろうな」



 風舞くんがそう言いながらゆっくりと立ち上がった。

 今の風舞くんはかなりキツそうな顔をしているが、それでもまだ戦意は全く衰えていない。

 やっぱり風舞くんはカッコ良いわね。



「で、オーキュペテークイーンはどうなったんだ?」

「今ローズちゃ…さんが追って、ってあれ? 戻って来たわね」



 世界樹の枝から顔を出して下を覗き込んだら、風魔法で飛びながら私達の元へ戻って来るローズさんの姿が見えた。

 心なしか切羽詰まった顔をしている気がする。



「フウマも目が覚めた様じゃな。少し…いや、かなりマズい事になったかもしれぬ」

「マズいってもしかして…」

「うむ。おそらくフウマの考えておる事で間違いないじゃろう。オーキュペテークイーンが世界樹から出てエルフの里の方へ向かっておる。まだ妾達が生きている状態でエルフの里に向かうはずが無いんじゃが、何か心当たりは無いかの?」

「多分、トウカさんが狙われてる。俺達が咆哮をくらってる時にオーキュペテークイーンが一瞬動きを止めたんだけど、あれはトウカさんがギフトで俺達を助けてくれたんだと思う」

「ふむ。だとすると、妾達を倒す前にまた邪魔が入るのを防ぐつもりなんじゃろうな」

「ああ。俺も多分そうだと思う。ローズは迷宮王の領域を超える方法を何か知らないか?」

「あの見えない壁の事か。世界樹の一部を破壊するのなら難なく出来るじゃろうが、あの見えない壁はかなり堅そうじゃ。転移魔法でも超えられぬ様じゃし、これでは妾も手出し出来ぬ」

「それじゃあ、一度世界樹の中に戻って抜け道を探すか?」

「確かにここで指を咥えておっても仕方ないし、一縷の望みにかけてそうするしか無いじゃろうな」

「ああ。舞もそれで良いか? 舞?」



 風舞くんが私の顔を覗き込みながら怪訝な顔をしている。

 あら、いつの間にかローズさんに見惚れしまってた様ね。



「大丈夫よ。世界樹の中を探索するのでしょう?」

「ああ。話は聞いてたんだな。それじゃあ準備は良いか?」

「ええ。私はいつでも行けるわ」

「マイは魔力量が残り少ない様じゃが、大丈夫かの?」

「は、はい。大丈夫です。ありがとうございます」



 しまった。

 いきなりローズさ…ちゃんに話しかけられたからつい敬語で答えてしまった。

 今のローズちゃんは凛としていてとても綺麗だから、こうして向かい合ってると凄い緊張するのよね。

 ……風舞くんはなんで普段通りに話を出来るのかしら?



「のうフウマ。なんだかマイがよそよそしい気がするんじゃが」

「気のせいだろ? それよりも、早く行くぞ」



 必死な顔をした風舞くんがそう言って世界樹の中に戻り為に転移しようとしたその時、私達の元にカグヤさんとサラムさんが現れた。



「状況は概ね理解しています。お困りの様ですね」

「はい。今すぐトウカさんの元に向かわないとなんですけど、どこか抜け道を知りませんか?」

「抜け道は知りませんが、作る事は出来ます」



 カグヤさんはそう言うと、エルフの里の方を向いて錫杖を構えた。

 カグヤさんと錫杖が淡い光に包まれ始める。

 そんな幻想的な光景を見ていると、私の近くにサラムさんがやって来て耳打ちを始めた。



「今、カグヤはギフトによって世界樹に干渉しているけど、これ以上はカグヤの身体がもたない。オーキュペテークイーンの弱体化は多分出来ないと思うけど、何とかなりそうかい?」

「ええ。何とかするわ」

「こんな事は言いたくないんだけど、トウカを助けるにはあの人間の力が多分必要だと思う。彼の事をよろしく頼むよ」

「それこそ言われるまでも無いわ。私は風舞くんのパートナーだから、守り通して当然よ」



 私がそう言いながら刀を抜くと、軽く微笑んだサラムさんが私から離れてカグヤさんの元へ向かった。



「さて、もう直ぐ抜け道が開くよ。準備は良いね?」

「風舞くん、何としてもトウカさんを助けるわよ!」

「おう!」



 そんなやり取りをする私達をローズちゃんが優し気な顔で見つめている。

 あぁ、この雰囲気はやっぱりローズちゃんなのね。



「開きました! トウカを、私達の娘をお願いします!」

「分かりました! テレポーテーション!」



 こうして、私と風舞くんとローズちゃんは命の恩人であるトウカさんを助けるために彼女の元に向かった。




 ◇◆◇




 トウカ




 ガギャアァァァ!!!



「ターニャ! 私が水魔法で壁を作ります! ターニャはそれを使って氷の壁を生み出してください!」

「分かった!」

「それでは行きます! ウォーターウォール!!」

「アイスエイジ!!」



 空を飛ぶ黒い大きな魔物が私達の作り出した大きな氷の壁に向かって勢いよく飛んで来ました。

 黒い魔物は途轍もない量の魔力を練りながら飛翔しているし、出来るだけ私達に近づいたタイミングで魔法を放つつもりなのでしょう。


 今からどこかに逃げ出す様な時間は無さそうですし、ここであの魔物の攻撃を防がなくてはなりません。

 私もターニャも出来うる限りの魔法を使って分厚い壁を作り出してはいますが、おそらくこの程度の魔法ではあの魔物の攻撃を防ぐことは出来ないと思います。



「ターニャ」

「何!? 今集中してるから話しかけないで!」

「あの魔物の狙いはおそらく私です。私が囮になりますから、貴女は逃げなさい」

「そんな事出来るわけないでしょ!」

「貴女は次期里長です! 貴女さえ生きていれば私の様な巫をこれ以上産まなくて済みます!!」

「そんなの関係ない! 私はトウカが死ぬなんて嫌だ!」



 ターニャがそう言いながら全力で氷の壁に魔力を注ぎ込み続けて壁の強度を上げていきます。



 ズガァァァン!!



 そんな私とターニャが生み出した氷の壁に黒い魔物が魔法を放ちながら突撃してきました。

 私とトウカは氷の壁を補強する事でそれを何とか防ぎ続けます。



「この様な時まで我儘を言わないでください!!」

「うるさい! 今度は私がトウカを守る番なんだ! 私がお姉ちゃんを守るんだ!!」



 あぁ、どうしてこの子は私の言う事を聞いてくれないのでしょうか。

 幼い頃は私の言う事をしっかりと聞いてくれる良い子でしたのに、それが今や我儘放題で私の話を碌に聞いてくれません。


 私はただ、ターニャを守りたい。

 ターニャにはいつも笑って元気に生きてほしい。

 ただそれだけを願っていたのに、いつの間にかターニャとの仲が悪くなってしまっていました。



「私はお姉ちゃんが好き! お姉ちゃんが死んじゃうなんて嫌だ! またお姉ちゃんと一緒に遊びたいし、お姉ちゃんと一緒にピクニックにも行きたい! それなのに、こんな所でお姉ちゃんを失ってたまるか!!」



 私だってターニャともっと一緒に遊びたいです。

 私だってターニャと以前の様に仲良く遊びたいです。

 でも、私達はもう大人なのですから、そんな我儘を言って良い訳がないでは無いですか。



「お姉ちゃんが何を考えているのか私には分からないけど、どうせ大人だからとかしきたりだからとかお堅い事考えてるんでしょ! それじゃあ、私が次期里長としてトウカに命令する! 私に大人しく助けられてよ!! もっと私と遊んでよ! ずっと私と一緒にいてよ!!」

「私だって、私だってターニャと共に暮らしたいに決まってるじゃないですか! でも、それだけではどうにもならない事もあるのです!」



 私はそう叫びながら氷の壁に広がっていくヒビを埋めていきますが、黒い魔物の攻撃は全く衰える様子を見せず、壁の修復が追いつきません。

 このままでは壁が崩壊するのも時間の問題でしょう。



「そんなの知らない! 師匠だってこういう時だったら絶対私と同じ事言うもん! お姉ちゃんはもっと自分のやりたい事を言ってよ!」

「ターニャ!」



 氷の壁に大きな亀裂が入ってこれ以上修復が無理だと判断したターニャが壁を勢いよく乗り越えて直接攻撃を仕掛けようとしましたが、壁の向こう側では途轍もない暴風が吹き荒れていたためターニャの氷魔法の一撃は魔物に当たる事すらなく、身体は簡単に吹き飛ばされてしまいました。

 私は落ちて来たターニャをしっかりと受け止め、彼女を強く抱きしめます。


 ターニャの渾身の一撃が失敗してしまった今となっては崩壊寸前の壁の修復はもう出来ませんし、私にはターニャの身体を自分の身体で守る事しか出来ません。



 ズガアァァァン!!!



「フーマ様」



 氷の壁が崩れた直後、私の漏らした言葉は私の一番好きな人の名前でした。


 すみませんフーマ様。

 フーマ様はこんな私にまだ見た事のない世界を見せてくれると言ってくださったのに、どうやら私の命はここまでの様です。

 あぁ、こんな事なら私の想いをフーマ様に伝えておけば良かった。


 そんな後悔をしながらぎゅっと目を閉じてターニャを抱きしめながら自分の死を覚悟したその時、私の愛する人の声が聞こえました。



「お待たせしましたトウカさん。怪我は無いですか?」

「フウマ、……様? どうしてここに?」

「トウカさんは何としても守り通すって約束したじゃないですか」



 フーマ様がそう言って微笑みながら、光の壁の中にいる私達の元へ近づいてきます。

 私とターニャはそんなフーマ様の姿をただただ見つめながら、その場に座り込んでいました。



「良かった。無事だったみたいですね」

「はい。ありがとうございます」

「別にお礼なんてしなくても大丈夫ですよ」

「フーマ様! 私は、私はフーマ様の事が……」

「すみませんフレンダさん。ちょっともう駄目みたいです」



 私がフーマ様に心の内で暴れるこの思いを伝え様としたその時、フーマ様がバタリと倒れてしまいました。




 ◇◆◇




 風舞




「あそこじゃ! 既にオーキュペテークイーンが攻撃を仕掛けておる!」



 迷宮王の領域から抜け出してエルフの里の方に転移すると、氷の壁に向かって風魔法を放つオーキュペテークイーンを見つけた。

 どうやらトウカさんとターニャさんの二人で氷の壁を作り出して維持しているようである。



「これじゃあ後ろからオーキュペテークイーンを攻撃しても、風魔法を直接防がないとトウカさん達が危ないわ!」

「ローズならあの風魔法を止められるか?」

「妾一人なら耐えられぬ事は無いが、後ろに人がいるとなると話は別じゃ」



 確かにローズも舞も攻撃は防ぐよりも避けるという戦闘スタイルだし、誰かを守る魔法は専門外か。

 守る魔法?



「フレンダさん。今の俺って結界魔法を使えるんですよね?」

『確かにソウルコネクトによって私の結界魔法の一部をフーマにも使えますが、使えてLV1程度です。とてもあの強力な魔法を防げる程ではありません』

「あの風魔法を防ぐにはどのくらいのLVが要るんですか?」

『おそらくLV5の魔法障壁が使えれば防ぐことが出来るでしょうが、……まさか!』

「舞、ローズ。後はよろしく頼む!」

「うむ。それでこそフウマじゃ! オーキュペテークイーンは妾とマイで確実に討伐するから、お主は自分のやりたいことをすると良い」

「そうね! トウカさん達の事は頼んだわよ!」

「ありがとう二人とも! この恩は必ず返す!」



 俺は舞とローズに手早く礼を言ってトウカさんとターニャさんの傍に転移した。

 二人とも互いの身体をしっかりと抱きしめて目を閉じているため、俺が転移して来た事にはまだ気が付いていない。



『はぁ、くれぐれも死なないでくださいよ』

「分かってますよ。俺の仲間を守れ! 魔力障壁展開!!」



 ギフトで底上げをした俺の結界魔法によって俺とトウカさん達を包み込む様に光の壁が一瞬で展開される。

 おぉ、かなり強力な魔法だったのに防げるのか。

 結界魔法って凄いんだな。

 俺はそんな事を考えながらゆっくりと振り向き、トウカさんに話しかけた。



「お待たせしましたトウカさん。怪我は無いですか?」

「フーマ、……様? どうしてここに?」

「トウカさんは何としても守り通すって約束したじゃないですか」



 俺は出来るだけトウカさん達を心配させない様に笑みを浮かべながらそう言った。

 正直何故自分が立っていられるのか分からないが、あんまりトウカさん達に迷惑をかけたくない。



『おいフーマ! 大丈夫ですか!? フーマ!』



 フレンダさんがそう言いながら慌てているのを感じる。

 あぁ、今回は本当にフレンダさんの世話になりっ放しだなぁ。



「すみませんフレンダさん。ちょっともう駄目みたいです」



 俺はここまで一緒に戦ってくれたフレンダさんに謝りながら、気を失った。




 ◇◆◇




 トウカ




「フーマ様? フーマ様!!」



 黒い魔物によって追い詰められていた私とターニャを助けてくれたフーマ様が倒れてしまいました。

 脈はまだありますがかなり弱く、呼吸はしていません。



「お姉ちゃん! マイム達があの魔物を抑えてくれている間に師匠を連れて早く逃げないと!」



 ターニャが何かを言っている気がしましたが、私にはターニャが何を言っているのか分かりませんでした。


 私がもっと強ければフーマ様がこうならずに済んだ。

 私が助けて欲しいだなんて願わなければフーマ様が傷つく事は無かった。

 私が、私さえいなければ……。



『……カ! トウカ!! 聞こえ…すか!?」

「フレン様?」

『今のフーマはギフトの使用により全身がボロボロで魂にも重度の損傷を受けています! そこの娘に回復魔法をかける様に命じて貴女はギフトでフーマの魂を治してください!』

「ですが、私のせいでフーマ様が…」

『そう思うのならフーマの命を救う為に尽力なさい! 私ではせいぜいフーマの魂の崩壊を防ぐのが精一杯です!』

「私には出来ません! 私さえいなければフーマ様が傷つく事は無かったのです!」

『何を馬鹿な事を言っているのですか!! フーマは貴女を守るために自分の命を燃やしたのですよ!? それを自分がいなければフーマが傷つかなかったですって!? 貴方はフーマの覚悟を貶めるつもりですか!!!』

「フレン様に私の何が分かると言うのですか!!」

『貴女の事など興味もありません!! ツベコベ言っている暇があったらフーマを助けてください!! マイもお姉様もフーマが死にかけている事が分かってなお戦い続けているというのに、どうして貴女はメソメソしているんですか! この引き篭もりド田舎娘!!』

「フーマ様に寄生しているフレン様に言われたくありません! ナイチチのくせに私に指図しないでください!!」

『な、何故貴女がそれを知っているのですか!!』

「フーマ様の魂の治療をした際に少しだけ記憶を覗かせていただいたのです。あの悪名高いフレンダ様がナイチチだなんて笑いものですね!!」

『貴女だって似た様なものでしょう!! むしろ少しだけ膨らんでいる方が虚しさを感じます!!』

「全く無いよりは断然マシです!!」


「お、お姉ちゃん? 一体誰と話をしてるの? あと、ナイチチって何?」


『わ、私にだって少しはあります!!』

「でしたら、後で直々に確認しに行きますから待っていてください!! 精々豊胸マッサージでもしている事ですね!!」

『ほ、豊胸マッサージ!? それは一体どのような…』



 そこまででナイチチ吸血鬼との会話を切り上げた私はギフトの力を一度切って顔をあげました。

 ターニャがいきなり顔を上げた私を見て驚いた顔をしています。



「ターニャ! お願いがあります!」

「な、何?」

「今から私はフーマ様の命を救うためにギフトを使います。その間は私は動くことが出来ませんから、ターニャは私とフーマ様を守りつつフーマ様に回復魔法をかけてください」

「わ、分かった」

「これはターニャにしか頼めません。頼りにしていますよ」

「う、うん! 任せといて!」

「それとユーリア!」

「あぁ、やっぱり気づいてたんだね」

「私達の危機のために駆けつけてくださってありがとうございます」

「ううん。僕がたどり着いたのはついさっきだからお礼を言われる義理はないよ」

「いいえ。貴方のような優しい弟がいて私は幸せです。私の妹のフォローをお願いします」

「うん! ター姉とトウカ姉さんは僕が守るから任せといて!!」

「よろしい。ターニャもユーリアも私の自慢の妹と弟です。貴方達を頼りにしています! 後の事は頼みましたよ!!」

「「うん!」」



 私は愛する妹と弟が元気に返事をしたのを確認し、フーマ様の顔に再び目を下ろしました。



「今度は私がフーマ様を助けます」



 そう言った私はフーマ様の唇にそっと口付けし、ギフトを使ってフーマ様の魂の治療を開始しました。


8月12日分です。

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