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102話 舞の秘策

 風舞



 ガァァァァ!!



 サラムさん達にローズを預けて森を抜けると、俺達を視界に収めたオーキュペテークイーンが炎に包まれながら両翼を広げて鳴き声を上げた。

 オーキュペテークイーンは俺の放ったファイアーボールの炎に包まれたままなのだが、全く熱がっている様子はなく堂々と立っている。



「今の内に一気に決めるわよ! 真・斬波!」



 舞がそう言いながら一瞬でオーキュペテークイーンに近寄って刀を振るったのだが……



 グギャガァァァ!!!



 ――オーキュペテークイーンを中心とした暴風により舞は吹き飛ばされてしまった。

 それと同時に、オーキュペテークイーンを包んでいた炎が(はら)われてその中からオーキュペテークイーンが姿を現す。



『どうやら、完全回復には至っていない様ですね』



 フレンダさんの言う様に、オーキュペテークイーンの首筋にはローズに付けられたのであろう傷が残っている。

 見た感じあの黒い葉を食べて回復した事によって傷はかなり浅くなっているのだが、おそらくその内部までは完全に修復されていないだろうし、あそこが新たな弱点となっていると思う。

 それよりも…。



「あの翼ってもしかして…」

『はい。どうやらフーマの予想が当たってしまった様ですね』



 フレンダさんが歯噛みする様にそう言った。

 炎に包まれている間はシルエットだけしか判別できなかったため気付かなかったのだが、炎が払われた事により、オーキュペテークイーンの全身がありありと窺える。



 ギュアァァァァ!!



 俺達を威嚇する様にそう叫ぶオーキュペテークイーンの翼が、4枚に増えていた。

 それに、心なしか胴体部分が小さくなって身体が引き締まっている気がする。

 いや、元は胴体の長さは2メートル以上あったのに今は俺と同じくらいになっているし、実際に小さくなっているのか。



「気をつけて風舞くん! おそらくスピードが段違いに上がってるわ!」



 空中で姿勢を立て直した舞が両足で着地をしながらそう言った。

 オーキュペテークイーンはその体の構造上、空を飛ぶときには魔力を推進力として使っているだろうし、翼が増えた事によって単純にその出力は上がっているはずだ。



「すみませんフレンダさん。ギフトを使わせてください。フレンダさんとのソウルコネクトで体が丈夫になっている今ならそれなりにギフトを使いこなせるはずです」

『言っている意味が分かっているのですか?』

「ギフトの代償で体が壊れる事も、フレンダさんにもその痛みを味わわせてしまう事も分かっています」

『私の事は良いのです! それよりも、フーマの魂が取り返しのつかない傷を負うかもしれないのですよ!』

「それももちろん分かっています。でも、ここでギフトを使わないと、俺が死ぬよりももっと取り返しのつかない事になる気がするんです」

『しかし!』



 そうしてフレンダさんの制止を振り切ってギフトの力を使おうとしたその時、俺の向かい側に立っていた舞がとてつもない気配を爆発させてその姿を消した。

 それと同時に…



 ギュアァァァァ!!?



 —オーキュペテークイーンが翼の一枚に深い傷をつくりながら真横に倒れこむ。



「舞?」

「殺す殺す殺す殺す殺す。ローズちゃんを苦しめたお前は何が何でも殺す!」



 そう叫びながら刀についた血を払う舞は黒いオーラを纏い、目を血走らせていた。



『フーマ! ギフトを使うのは後です! 今は舞のサポートにまわりなさい!』

「はい!」



 見た感じ舞の理性はまだ十分に働いている様ではあるが、どう見ても様子がおかしい。

 もしかして、妖刀星穿ちに意識を乗っ取られ始めてるのか?



「これ以上誰も傷つけさせはしない! ローズちゃんも、風舞くんも、みんな私が守る!!」



 舞はそう言うとまたもや姿を消し、オーキュペテークイーンの目の前で刀を下段に構えていた。

 舞の途轍もないスピードで放たれた斬撃を紙一重で躱したオーキュペテークイーンはたまらずといった様子でそのまま上空に飛び立って舞から距離を取り始める。



「風舞くん!」

「お、おう!」



 俺は舞の指示に従ってオーキュペテークイーンの真上に舞を転移させた。

 刀を切り上げたままの姿勢で転移させられた舞は刀を両手で握り直し、思いっきり振り下ろす。



「燦き!!」



 ズガァァァン!!



 オーキュペテークイーンも舞が転移してくる事を分かっていた様で風の斬撃を放ったが、舞の攻撃によって手前で破裂させられ、その爆風に煽られて勢いよく落下してきた。

 一方の舞も爆風に吹き飛ばされ、壁に背中を強く打ち付ける。



「ファイアーボール!」



 俺は目の前に落下してきたオーキュペテークイーンの顔面目掛けてファイアーボールを放ち、舞の元へ転移した。

 壁に体を埋める様にして打ち付けられていた舞が、口の中から血の混じった唾を吐き捨てながら刀を握りなおして口を開く。



「どうやらここの壁はかなり薄いみたいね」

「そうなのか?」

「ええ。厚さは1メートルを切ると思うわ」



 舞はそう言いながら壁の方へ向き直ると、素早く刀を振って世界樹に穴を開けた。

 おいおい、ダンジョンの壁は破壊するのがかなり難しかったんじゃないのか?



『一体何をするつもりなのでしょうか?』

「さぁ?」

「風舞くん。私がオーキュペテークイーンの隙を作るから、この穴から外にオーキュペテークイーンを転移させてちょうだい。こうして外が見えているのなら出来なくはないでしょう?」



 舞が切り目を雷魔法で焦がしながら壁にぶら下がっている俺の方を見てそう言った。

 おそらく先ほどの様に木々に閉じ込められるのと、ローズ達が狙われるのを避けるための作戦だろう。

 今も真っ黒なオーラを放ち続けてはいるが、どうやら舞の判断力はいつも通りみたいだ。



「確かにできなくはないだろうけど、舞の刀がオーキュペテークイーンに触れてると舞まで一緒に転移されるかもだぞ?」

「別にそれでも構わないわ。いや、むしろその方が助かるわね」



 舞は俺から目をそらしながらそう言うと、力強く壁を蹴ってオーキュペテークイーンの元へ飛んで行った。



『なんにせよ、舞の作戦が上手くいけばお姉様からオーキュペテークイーンを遠ざける事ができます。今は舞の援護に回るとしましょう』

「分かりました」



 つい今しがた俺と話していた舞は何かを堪える様な顔をしていたしあの状態が長くもつとは思えないのだが、今は舞があの状態を維持できている間にオーキュペテークイーンを倒すことを考える方が合理的であるはずだ。

 仮に舞まで戦闘不能な状態に陥ったら手のつけようが無くなってしまうが、俺が出来る限りのバックアップをすれば舞の負担も減るはずだ。


 俺はそんな事を考えながら、空中で留まっているオーキュペテークイーンを刀を構えながら睨みつけている舞の元へ転移した。




 ◇◆◇




 舞




「いや、むしろその方が助かるわね」



 私は風舞くんにそう言い残した後、壁を足場にしてオーキュペテークイーンの元へ向かった。

 今は妖刀星穿ちの力を意識が呑まれる限界まで解放しているから、万が一の事を考えて出来るだけ風舞くんの側にはいたくなかったのだ。


 妖刀星穿ち。

 エルフの里の宮殿で見つけたこの刀は、どうやら確かな意思を持つ魔剣であるみたいだ。

 その力は刀の持ち主にまさしく星をも穿てそうなほどの力をもたらすが、その代わりに持ち主にとてつもない破壊衝動をもたらしてくる。


 感覚的に元は妖刀ではなかった気がするのだけれど、刀身には『妖刀星穿ち』という銘が刻まれているし、未だによくわからない刀なのよね。

 おそらく本当の意味でこの刀に認められたらこの破壊衝動に耐えなくても済む様になると思うのだけれど、流石にさっきの瞑想だけじゃ付け焼き刃もいい所ね。



 グギャァァ!!!



 おっと、今は目の前の敵に集中しないとだったわ。

 オーキュペテークイーンはおそらくあの黒い樹の葉を食べた事で傷の一部を回復した上にいくらかパワーアップしているだろうし、気を引き締めて戦わないと。



「さて、微妙に頭が痛くなって来たから早めにケリをつけさせて貰うわよ」



 私はそんな事を口の中で小さく呟きながら刀を中段に構え、上空のオーキュペテークイーンをしっかりと見据えた。

 一方のオーキュペテークイーンは見開かれたその金色の目で私を見据え、魔法を放つために体内で魔力を練り始めている。


 先程の縮地と風魔法の合体技を使った攻撃で私が短い距離ならかなりのスピードで移動できる事を考慮して、出来るだけロングレンジで戦うつもりなのだろう。

 そんな事を考えながら刀の先を軽く振りながらオーキュペテークイーンの出方を窺っていると、私の元へ風舞くんがやって来た。



「隙を作るって言ってたけど、どうするつもりなんだ?」

「まぁ、見てなさい」



 私は風舞くんの問いかけにそう短く返し、刀を右手だけで握って剣先を下ろしながらゆっくりとオーキュペテークイーンに向かって歩き始める。

 オーキュペテークイーンは露骨に隙を見せる私に対して魔法を撃つか躊躇するだろうが、ローズちゃんに致命傷に近い傷を負わされて頭に血が上り、パワーアップしたことによって気が乱れている今ならば簡単に誘いに乗ってくるはずだ。



 ギュアァァァァ!



 ほら、やっぱり乗ってきた。


 オーキュペテークイーンは歩きながら刀を軽く振っている私に向かって先程と同じ風魔法の斬撃を飛ばしてくる。

 乱戦中に見切るのが難しいこの攻撃をされたらなかなか避けられないけれど、私の誘いにホイホイと乗ってきた攻撃なら避けるのはそう難しくない。


 私はそんな事を考えながらオーキュペテークイーンの攻撃を縮地で横に移動する事で躱し、



「これでもくらいなさい!!」



 ーー妖刀星穿ちを風魔法で後押ししながら思いっきり投げ飛ばした。




 ◇◆◇




 風舞




「これでもくらいなさい!!」



  舞がいつになく真剣な顔をして隙を作ると言うから何をするのかと思って見ていたら、オーキュペテークイーンの風魔法を最小限の動きで躱して刀を思いっきり投げ飛ばした。

 てっきりお得意の縮地と風魔法の合体技による高速移動をすると思っていたから、全く反応できなかった。



 ギュアァァァァ!?



 どうやらそれはオーキュペテークイーンも同じだった様で、一度舞に深い傷を作られた翼に妖刀星穿ちが深々と突き刺さる。

 俺はそんな異様な光景に驚いて微妙に反応が遅れながらも、オーキュペテークイーンを舞の作り出した穴から世界樹の外に転移させた。



「あれ? 出来るだけ遠くに転移させたつもりだったんだけど、思ったよりも近いな」

『おそらくですが、フーマがオーキュペテークイーンを転移させたところまでがあの迷宮王の住処なのではないでしょうか』

「あぁ、言われてみればそんな気がします」



 確かに以前舞とエルセーヌさんとともに世界樹の天辺付近の調査をした時に他の魔物が入り込まない空間があったし、それが迷宮王の領域の境界線だったと考えれば色々と辻褄があう。

 迷宮王の領域が世界樹の外まで広がっている事はかなり意外だが、こうして転移魔法に何らかの干渉があったわけだし、その線で間違いないはずだ。


 そんな事を考えている俺の元へ、舞が首に手を当てて軽く肩を回しながら歩いてきた。

 なんとなく先程までのピリつく様な雰囲気が抜けている気がする。



「ふぅ、一先ずは上手くいったみたいね」

「ああ。まさか刀を投げるとは思わなかったぞ」

「ふふっ、敵を騙すにはまず味方からって言うでしょう? それに、そろそろ手放さないと妖刀星穿ちに意識を乗っ取られそうだったから、ああするのが良いと思ったのよ」

「マジか。あれってやっぱり呪いの刀だったんだな」

「別に呪いの刀という訳では無いと思うのだけれど、まだ私を正式な主人と認めていないから反抗しているのでしょうね。あ、何か別の武器を借りてもいいかしら?」

「へぇ、よく分かんないけど、魔剣だしそういう事があってもおかしくないか。それじゃあ、炎の魔剣でも良いか?」

「ええ。うーん、少し軽いけれど長さはまあまあ良い感じだしこれなら大丈夫そうね」



 舞が俺から受け取った炎の魔剣を軽く振りながらそう言った。



『何というか、掴み所のない娘ですね』

「でしょう? だから可愛いんですよ」

「ん? 何が可愛いのかしら?」

「いや、何でもない。それより、そろそろオーキュペテークイーンを追おうぜ。なんか嫌に静かで不気味すぎる」

「そうね。てっきり妖刀星穿ちの力で暴走状態になると思っていたのだけれど、予想が外れたわ。あの子、血が付いてるのを凄い嫌がるからオーキュペテークイーンに刺さったままだと癇癪を起こすと思っていたのだけれど…」

「一応確認しておくけど、あの子って妖刀星穿ちの事だよな?」

「ええ。もちろんそうよ?」



 舞が何を当然の事を聞いているのかしら? とでも言いたげな顔でそう言った。

 マジかいな。

 舞はオーキュペテークイーンでも暴走しかねない刀をさっきまで振り回してたのかよ。

 やっぱり舞はチートキャラだな。



『はぁ、妖刀を敵に刺して暴走を狙うとは、マイは恐ろしい事を考えますね』

「はい。こればっかりは俺も同感です」

「ん? さっきからフレンダさんと何を話してるのよ」

「舞は頼りになるなって話だよ」

「むぅ。なんだかはぐらかされた気がするのだけれど、今は誤魔化されておいてあげるわ。それよりも、早く外に出るとしましょう。流石にオーキュペテークイーンの様子が気になるわ」

「そうだな。よし、行くか!」



 こうして、俺と舞は舞の斬り開けた穴から世界樹の外に飛び出した。

 さて、オーキュペテークイーンはどうなっているのかね。

8月8日分です。



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