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98話 ソウルコネクト

 


 ■■■■■■




 私ハ速ク飛ブモノ。

 私ハコノ世界樹ノ支配者。

 私ハ ■■ 様ニ創ラレシ空ノ女王。


 ソレナノニ、何故私ハ地面ニ縛リツケラレテイル。

 ヒトハ翼ヲモタナイ弱キ存在ダ。

 何故醜ク地ヲ這ウ存在ニ私ガ押サエツケラレネバナラヌ。


 赦サナイ。

 私ハ何モノニモ縛ラレヌ。


 赦サナイ赦サナイ赦サナイ赦サナイ赦サナイ………




 ◇◆◇




 ローズ




 妾とサラムでオーキュペテークイーンを縛り付けて数分。

 オーキュペテークイーンは頭を押さえつけている妾の大剣から逃れようと激しく首を振り、サラムに氷漬けにされまいと翼を激しく振って暴れ続けておった。



「サラム。お主の方はあとどのくらいちそうじゃ?」

「あと5分ってところかな。流石にLV5の氷魔法を維持し続けるのはかなりキツイよ」

「それだけ保てば上等じゃ。カグヤの儀式が完了するまでは妾達で何としても押さえるぞ」



 フウマ達が錫杖を回収してきたことによってオーキュペテークイーンの討伐の目途が一応はたっておる。


 じゃが、何故こやつは魔法を使わないのじゃ。

 おそらく空を飛ぶために魔力を温存しておるのじゃろうが、こやつが攻撃用の魔法が使えぬ道理はない。

 流石にカグヤによる弱体化が始まる前には魔法を使ってこの状況を打破しようとするはずなんじゃが………


 そう考えながらも暴れ続けるオーキュペテークイーンの頭を押さえつけておったその時、今の今まで暴れ続けておったオーキュペテークイーンがピタリと動きを止めて翼で体を包み始めた。



「サラム! ここが正念場じゃ! こやつが魔法を使う前に一気に縛りつけるぞ!」

「了解!」



 妾の隣で氷魔法を発動させ続けていたサラムはそう言うと、魔法の出力を一気に上げてオーキュペテークイーンの全身を瞬く間に氷で包み込み始めた。

 一方の妾はサラムの作り出した氷がオーキュペテークイーンの頭まで届いた瞬間に一度吸血鬼の顎門(アルカードスレイヴ)を解除して次なる攻撃に備える。



「喰らうがよい! 雷鳴轟く開闢(ビクトリアンオース)!!」



 そうして舞の技から着想を得た新必殺技をオーキュペテークイーンの頭に叩き込もうとしたその時、オーキュペテークイーンが翼を大きく広げながら周囲に暴風を放ち始めた。



 グゴガギャガァァァァ!!



 サラムは激しい風の奔流で吹き飛ばされてしまった様じゃが、妾は何とかその場に踏みとどまって吸血鬼の顎門アルカードスレイヴを振り下ろす。



「嘗めるでないわ!!」




 ◇◆◇




 風舞



「嘗めるでないわ!」



 オーキュペテークイーンが激しい風を放ち始めて数秒後、暴風の隙間からローズのそんな声が聞えてきた。

 暴風の中心地からここまでそれなりの距離があるのだが、立っているのがキツイほどの風圧が俺の体にのしかかっている。



『構えなさいフウマ! 今はお姉様が押さえ込んでくださっていますが、直にこちらに飛び込んできますよ!』

「構えろったって、どうしたら良いんですか!?」

『先ずは遮蔽物を用意! その後に二人を連れて距離を取りなさい!』

「分かりました!」



 俺はそう返事をしてフレンダさんの指示通りに目の前に直径5メートルほどの巨石を取り出して10メートルほど前に転移させたのだが………



「マジかいな」



 巨石が粉々に砕かれて暴風と共に俺達の方に吹き飛んできた。



「あっぶねぇ」

『間一髪でしたね』

「はい。常に舞達の位置を意識しといて良かったです」



 舞とカグヤさんに素早く手を伸ばして真上に転移した俺はフレンダさんとそんな話をしながら、真下の様子を確認していた。

 暴風で満たされたオーキュペテークイーンから半径数十メートルの範囲では俺の用意した巨石が吹き飛ばされ、氷の大地がガリガリと削られて暴風に混ざって飛び散っている。



「これ、近づいたら全身を削られるんじゃないですか?」

『そうですね。氷と土の破片で体を切り刻まれると思います』

「どうしましょ」

『どうしましょうか』

「えぇ、何か良い方法はないんですか?」

『こうなってしまっては純粋な火力で押し勝つしかないと思います』

「はぁ。それじゃあ、とりあえずはオーキュペテークイーンの巣穴でカグヤさんの儀式が終わるのを待ちますか」

「すみませんフーマ様。どうやら儀式の間に転移させられると儀式が中断させられてしまうみたいです。おそらく世界樹と私の間に繋がっているパスが転移と同時に切断されてしまったのでしょう」

「マジかいな」

『今その女の無能を嘆いても仕方ありませんし、一先ずは適当な横穴に転移して体制を立て直しましょう』

「本当に申し訳ございません」

「別にカグヤさんが謝ることじゃありませんよ。ともかく、いったん転移しますね」



 そう言ながら手ごろな横穴を視界に収めた俺は、妖刀星穿ちを握ったまま目を閉じて動かない舞とカグヤさんを連れて転移した。

 出来れば横穴の奥の方に転移したかったのだが、この部屋では視界に入らない場所に転移するのは魔力の消費量が多いし、致し方ない。



「さてと、この後はどうしたもんかな」

「もう一度儀式をやり直しましょうか?」

「いや、いつオーキュペテークイーンが攻めて来るとも限らないのでそれはやめておきましょう」

『しかし、そうなると完全に手詰まりですね。先ほどまででも攻撃を入れる事が困難でしたのに、これでは近づくことすらできません』

「やはり、私が危険を承知で儀式をやり直すしか」

「いいえ。カグヤさんの儀式は必ず成功させなくてはなりませんし、ここぞという時に発動できなくては困ります」

「しかし……」

「フレンダさん。さっき言ってたやつお願い出来ませんか?」

『良いのですか?』

「もうこうなったら四の五の言ってる暇は無さそうですし、このままじゃ俺は足手まといになってしまいます」

『分かりました。それでは、オーキュペテークイーンの発している暴風が収まるタイミングで魂を繋ぎます。制限時間は………一先ずは30分といったところでしょうか』

「そんだけあれば十分ですよ」

「魂を繋ぐ? フーマ様とフレンダ様は一体何をなさるおつもりですか?」

『おや、もう私を無視するのはやめたのですか?』

「別に元から無視などしていませんよ。ただフレンダ様を避けていただけです。それよりも、魂を繋ぐとは一体………」



 カグヤさんがそう言いながら俺に詰め寄ってきたその時、つい先ほどまで目を閉じて瞑想を続けていた舞が深く息を吐きながらゆっくりと目を開いた。

 舞の発するピリピリとした雰囲気に呑まれた俺達はただ無言で舞が言葉を発するのを待つ。



「………お腹空いたわ」

「『「は?」』」

「お腹空いたわ」

「あ、ああ。ほら、串焼きならあるけど、食べるか?」

「ええ、ありがとう」



 舞は笑顔でそう言いながら串焼きの入った紙袋を受け取ると、二本一気に袋から取り出して一口で食べてしまった。

 ほらほら、口の周りにタレが付いてるぞ。



「それで、新しいスキルは覚えられたのか?」

「ええ。新しく内丹術を覚えて、見切りと剣術のLVを4まで上げたわ」

「マジかよ。内丹術って中国の武術のあれか?」

「正確には武術というわけでは無いのだけれど、概ねその通りね。ざっくり説明すると気を操って自身にバフをかけるみたいなもんよ」

『内丹術など聞いた事しかありませんが、まさかマイが習得できるとは思いもしませんでした』

「ん? 聞いたことならステータスポイントを使えば覚えられるんじゃないですか? フレンダさんはポイントいっぱい余ってるでしょう?」

『ステータスポイントを使って覚えられるものは最低限その内容を知っているものに限ります。私は内丹術がまさか自身を強化する類のスキルだとは知りませんでした』



 ステータスポイントを使えばどんなスキルでも覚えられると思っていたけど、最低限それがどんなスキルか知っておかないと習得出来ないって事か。

 確かに漠然と強くなりたいと思ってポイントを使おうとしても新しいスキルが習得できる訳無いだろうし、当然っちゃ当然か。



「まぁ、何はともあれこれで舞も強くなった訳だし、これでもう少し戦い易くなりそうだな」

「風舞くんも魂を繋いで強くなるのでしょう?」

「あぁ、聞いてたのか」

「最後の方は覚えたスキルの最終確認をしていただけだったから一応聞いていたわ。それよりも、風舞くんはその魂を繋ぐ………面倒だからソウルコネクトって呼ぶわね…で、どのくらい強くなるのかしら?」

「さぁ? どのくらい強くなるんですか?」

『私のステータスの5パーセントぐらいをフーマに加算するつもりです。より深く魂を結びつければ更なる強化も可能ですが、それ以上は継戦能力が落ちますし、リスクも大きくなります』

「フレンダさんの5パーセントっていうとどのくらいですか?」

『私のステータスの平均が1万5千弱ですので、750くらいがフーマの全てのステータスに加算されますね』

「それじゃあ、ざっと魔力と知能が2千ぐらいで、他のステータスが900前後になるって事ですか」

「それじゃあ私のステータスよりも高くなるじゃない! ズルいわ! 私もソウルコネクトしたい!」

「えぇ、そんな事言われても困るんですけど」

『舞の中は暑苦しそうなので私も嫌です』

「フレンダさんも嫌だってさ」

「それじゃあカグヤさん! 私とソウルコネクトしましょう! カグヤさんのギフトは魂に関するものらしいし、そのくらい出来るでしょう!?」

「え、えぇ!? フーマ様とフレンダ様のケースは特殊な事例ですし、流石に私にはできませんよ」

「むぅ、そうやって風舞くんばっかりホイホイ強くなって羨ましいわ。それだからチートキャラって言われるのよ」

「いやいや、たかだか数分瞑想しただけで新しいスキルを覚える舞に言われたく無いんですけど」

『そうですね。その様な真似をする人物はお姉様を含めて数人しか私も知りません」

「別にこのくらい大した事無いわよ。仮想敵を作り出してそれと戦い続ければ勝手にスキルが習得されるわ」



 何だそりゃ。

 自分の中に仮想敵を産み出すってどうやったらそんな事出来るんだよ。

 ていうか、ローズも舞と同じ事が出来るのか。

 俺の周りの人達はチートキャラが多すぎる気がする。



「はぁ、今はそれは良いや。それよりも、オーキュペテークイーンが風の壁を消したら一気に攻めるぞ」

「ええ。多分ローズちゃんはあの中で上手く暴風をやり過ごしてるでしょうし、体勢を立て直すぐらいの時間は作ってあげましょう」

「それでは、私はサラムの元へ向かいます。どうやら生きてはいる様ですが少なからず怪我をしている様なので、それを治療したら援護に向かいますね」

「分かりました。それじゃあ、俺と舞の2人で攻め込む事になるのか」

「あら、不安なのかしら?」

「いや、正直ちょっとだけワクワクしてる」

「ふふっ。それでこそ私の大好きな風舞くんよ!」

『どうやらオーキュペテークイーンが風の壁を解除し始めたみたいですね』



 フレンダさんの言う様に眼下の暴風が少しずつ薄れて来ている。

 風の壁の中からオーキュペテークイーンの殺気がひしひしと伝わってくるし、どうやらあちらさんもかなりやる気みたいだ。



「よし、それじゃあよろしくお願いします」

『分かりました。魂を繋ぐ瞬間におそらく頭痛に似た痛みが伴うと思うので、覚悟してください』

「了解です。一思いにお願いします」

『それでは行きますよ。ソウルコネクト発動!!』



 あぁ、どうやら舞のネーミングセンスはフレンダさんに認められたんだな。

 そんな事を思ったその瞬間、俺の頭の中心から全身にフレンダさんにギフトを無理やり開花させられそうになった時と同等の痛みが走った。

 俺は予想以上の痛みを受けて頭を抱えながらその場でよろめく。



「痛っつ」

「大丈夫!?」

「あぁ、痛みは一瞬だけだったみたいだ」



 痛みは一瞬で引いたのだが、全身が燃える様に熱い。

 まるで身体の芯から大量のエネルギーが湧き出しているみたいだ。



『成功です。これで私の魂とフーマの魂が繋がりました』

「そうですか。ありがとうございます」



 俺は真面目な声で話すフレンダさんの声に反応しながら、舞に支えられていた体を自立させてゆっくりと目を開く。

 それと同時に、俺の中で暴れていたエネルギーがスッと落ち着いて滑らかに全身に馴染み始めた。



「ふぅ、思ったよりも痛くてビックリした」

「ふ、風舞くん?」

「ん? どうかしたか?」

「め、目が…」

「目? 目がどうかしたのか?」

「赤いわ。風舞くんの目が赤くなってるわ!」

「え? もしかして今の痛みで充血でもしたのか?」

「そうじゃなくて、黒目の部分が赤くなってるの! 吸血鬼モードのローズちゃんの目とそっくりよ!」

「え? マジ?」

「はい。フーマ様の瞳が真っ赤に色付いています」

『ソウルコネクトの副作用の様ですね。どうやら風舞の体に吸血鬼の形質の一部が出ている様です」

「マジかいな」

「ズルい! ズルいわ! 何で風舞くんばっかり強くなった上にカッコ良くなるのよ! 私も金髪になったり角を生やしたりしたいわ!」

「いやいや、俺に角は生えて無いだろ」

「そういう問題じゃないのよ! もう良いわ。こうなったらさっさとあの不細工な迷宮王を倒してドライアドと契約しに行くわよ。契約したら風舞くんの前でドライアドのおっぱいをこれでもかというぐらいに揉んでやるんだから!」



 別にそれをされた所で俺は悔しくもなんとも無いのだが、舞はやる気を出しているみたいだしツッコミを入れるのはよしておこう。

 それよりも、今は目の前のオーキュペテークイーンの方が重要だ。



「よし、それじゃあ一丁派手にやりますか」

「ええ! 私達のコンビネーションを見せつけてやりましょう!」



 そうして互いに鼓舞し合った俺と舞は互いの顔を見てニッと笑い合いながら、オーキュペテークイーンの待つ戦場へと飛び降りて行った。




8月4日分です。

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