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97話 捕縛

 舞




 そういえば、鳥は呼吸器系に肺の他に気のうと呼ばれる臓器があった気がする。

 気のうは空気を全身に送るポンプの役割をしていて、潜水採食する時や高所の飛行に役立つらしい。



「とすると、差し詰め私は水の中を泳ぐ小魚ってところかしら」



 ローズちゃんの作戦通りに湖の中に飛び込んだ私はそんな事を呟きながら、水に沈んだ森の中を泳いでいた。

 ローズちゃんの作戦は実に単純なもので、水中戦に慣れていなそうなオーキュペテークイーンが水中にいる私を襲って来たところを強襲してやろうというものである。


 先程までのオーキュペテークイーンは急接近して足の爪で攻撃してくるのみで、噛みついてきたりはしていなかった。

 足を使っての水中の獲物の捕獲は水面が邪魔になるだろうし、生い茂る木々のおかげで目視での捕捉も難しくなっているためオーキュペテークイーンにとってはかなりやりづらい環境になっていると思う。



「さてと、そろそろ準備が出来たかしらね」



 水中に入ってそろそろ10秒が立つし、ローズちゃんやサラムさんの準備も整っている頃合だろう。

 よし、それじゃあ作戦開始と行きますか。



「土御門舞流剣術 奥義の壱 燦き!!」



 私は自分でつけた技名と共に、水柱を大きくあげるために刃を横向きにしながら居合を放った。

 今の今まで気配を押し殺していたためオーキュペテークイーンは私を見失っていた様だが、派手な音と共に立ち上がった水柱を見て勢いよく近づいて来る



 よし、ここまではローズちゃんの作戦通りね。

 後は頼んだわよ!





 ◇◆◇




 ローズ




「ふむ。流石はマイじゃな。見事な手際じゃ」



 マイが水中に潜ってから数秒後、妾の指示通りに潜ませていた気配を勢いよく膨らませたマイによって大きな水柱が上がった。

 妾達三人が気配を潜めて水中に潜っている間空中を旋回していたオーキュペテークイーンが、勢いよく翼をはためかせながらマイの元へとグングンと近づいて行く。


 その間にフウマの用意した巨石の下で息を潜めていた妾は、オーキュペテークイーンの死角から素早く水上に躍り出て、水中に飛び込み始めたオーキュペテークイーンを真上から吸血鬼の顎門(アルカード・スレイヴ)で作り出した5メートル程の大剣で叩きつけた。



 グギャァァァ!!?



 オーキュペテークイーンが思わぬ位置からの攻撃を受け困惑し、大きく立ち上った水飛沫の中でその両翼を激しく震わせる。

 妾は引き続き大剣でオーキュペテークイーンを押さえつけながら、水中で囮役となってくれたマイの気配が勢いよく近づいてくるのを感じて、妾の側でひっそりと息を潜めていたサラムに指示を出した。



「今じゃ!」

「アイスエイジ!!」



 グゴガギャァァァ!!!



 サラムの魔法によって、水中に押さえつけられておったオーキュペテークイーンごと辺り一面が凍り付いていく。

 さて、これでしばらくはこやつを押さえつけられれば良いんじゃが、果たしてどうなるじゃろうか。




 ◇◆◇




 風舞




「あん? 何かめちゃくちゃ凍ってるんですけど」

「どうやらサラムが氷魔法を使った様ですね」

『見てくださいフウマ。オーキュペテークイーンがお姉様とサラムによって拘束されています』



 オーキュペテークイーンの巣穴から飛び出して眼下を確認してみると、バカでかい大剣でオーキュペテークイーンの頭を押さえつけるローズと、オーキュペテークイーンに両手を向けて氷魔法を放ち続けるサラムさんの姿が目に入った。

 俺達がローズ達と別行動を始めた時とかなり景色が変わっているが、どうやらローズ達は当初の目的通りオーキュペテークイーンの足止めをしっかりと行っていた様である。



「あれ? 舞の姿が見えないけれど、どこに行ったんだ?」

「ここよ」

「ぬわおっ!?」



 ローズ達を中心に舞の姿を首を振りながら探していたら、その舞が俺の横に並びながら真下に落下していた。

 俺の横を落下している舞は全身ずぶぬれながら活き活きとした笑顔を俺に向けている。



「い、いつからそこにいたんだ?」

「ついさっきよ。風舞くん達が巣穴から出て来るのが見えたから私もあそこから飛び降りたの」



 舞が俺達が出てきたところとは別の横穴を指さしながらそう言った。



「あ、そうっすか。それで、これはどういう状況なんだ?」

「見ての通りよ。ローズちゃんがギフトの力といくつかのバフで自身を強化してオーキュペテークイーンを押さえつけて、サラムさんがオーキュペテークイーンの周りを凍り付かせて動きを封じているの」

「で、なんで舞はあんなところにいたんだ?」

「ローズちゃんの作戦で私はサラムさんが凍らせ始めた水から勢いよく脱出したんだけど、ついでだからそのまま風魔法で体を浮かして風舞くん達を迎えに行くことにしたのよ」

「それでは、私達はこの後どうすればよろしいのですか?」

「カグヤさんはその錫杖を使って弱体化の準備を始めてちょうだい。その間に私達がオーキュペテークイーンの体力を少しでも削るわ」

「それじゃあ、取り敢えずは手ごろな巨石の上に転移してカグヤさんが儀式を始められる様に準備するか」

「はい。私は儀式の最中は動けませんので、その間の護衛もお二人にお願いします」

「ええ。任せておきなさい!」

「よし、それじゃあ良い感じのところにおりますね。テレポーテーション」



 俺はローズ達から少し離れた巨石の上に舞とカグヤさんをつれて転移した。

 ここからならオーキュペテークイーンとローズとサラムさんの様子がよく分かるし、カグヤさんも儀式がやり易いと思う。



「ふぅ、それじゃあカグヤさんは早速儀式を始めてください」

「はい。出来るだけ早く儀式を進めますが、オーキュペテークイーンを目に見えて弱体化させるには5分ほどかかりますので、その間はよろしくお願いします」

「了解よ! 私と風舞くんの華麗なコンビネーションで貴女をしっかりと守るから安心してちょうだい!」

「ふふふ。期待していますよ。それでは、早速始めさせていただきます」



 カグヤさんはそう言うと、錫杖の柄を両手でしっかりと握り締め、クリスタルを顔の前に掲げて瞑想を始めた。

 カグヤさんが儀式を始めた事により錫杖が淡い金色の光を発し始め、クリスタルの中心に虹色の光が集まっていく。

 心なしかカグヤさん自身も輝いている様な気がした。



「す、すげぇ」

『こ、このぐらい全盛期の私と比べると大した事ありませんね』

「フレンダさんは結界魔法の使い手なんですから、比べようがなくないですか?」

『そ、それを言ったらそうですが、私も戦闘に参加できたらオーキュペテークイーンなどお茶の子さいさいです』



 まぁ、元世界最強の魔王の第一の従者ならそうなんだろうけど、肉体をもたないフレンダさんでは戦闘に参加できないし、今それを言っても仕方ない気がする。



「ねぇ風舞くん。護衛をするとは言ったけれど、私達は何をすれば良いのかしら?」

「そうだなぁ。飛んでくる氷塊を打ち落としたり、オーキュペテークイーンが魔法を使って来ない様に見張っとけば良いんじゃないか?」

「それじゃあ、今の内にオーキュペテークイーンに攻撃を仕掛けに行くというのはどうかしら? 攻撃は最大の防御とよく言うでしょう?」

『いえ、それはやめておいた方が良いと思います。現在はお姉様とサラムの力によってなんとかオーキュペテークイーンを押さえ込んでいますが、そこにマイが攻撃をしに行ったら思わぬ反撃をくらうかもしれません。それに、近接攻撃を得意とするマイがオーキュペテークイーンに近づくにはサラムの氷魔法を弱めなくてはなりません。それではオーキュペテークイーンの拘束が破られる可能性があります』



 確かにローズとサラムさんはかなり本気でオーキュペテークイーンを押さえ込んでいるみたいだし、そこそこ離れているこの距離でも肌寒さを感じるから刀の間合いまで近づくのは厳しい気がする。

 おそらくローズとサラムさんは自身に強力な魔法防御系のスキルか何かを発動させているのだろう。



「フレンダさんが言うにはあそこまで近づくのは厳しいし、マイが攻撃するとこの均衡が崩れるかもだからやめておいた方が良いってさ」

「そう、それもそうね。とは言っても飛んでくる氷塊を打ち落とすだけというのもなんだか物足りないわ」



 舞が唇を尖らせて不服そうにそう言いながら、オーキュペテークイーンの翼によって弾き飛ばされた直径50センチほどの氷塊を斬り落とした。

 いやいや、俺には舞みたいに何でもない様な顔をしてかなりの速さで飛んでくる氷塊を斬り落とすなんてできないぞ。



「それじゃあ、しばらくは俺がカグヤさんの護衛をしておくから何か使えるスキルでも覚えたらどうだ? アセイダルと戦った時はちょっと瞑想しただけで新しいスキルを覚えていただろ?」

「そうさせてくれるのなら嬉しいけれど、良いのかしら?」

「ああ。何となくあのオーキュペテークイーンを倒すには舞の攻撃が鍵になってくる気がするし、今は少しでも舞が強くなってくれた方が助かる」

「ふふっ。風舞くんにそこまで期待されてはやるしかないわね。それじゃあ、私も数分だけ瞑想させてもらうわ」



 舞はそう言うと、カグヤさんの近くで座禅を組んで鞘に納めた妖刀星穿ちを膝の上に置いて目を閉じた。

 どうやら妖刀星穿ちを持ったまま瞑想をする様である。

 よし、これで舞の強化とカグヤさんによるオーキュペテークイーンの弱体化が上手くいけばなんとか勝てそうだな。



『おいフーマ。まだ気を抜くのは早いですよ。あの迷宮王の目はまだまだ本気を出している目ではありません』

「すみません。確かにこうやって上手く行ってる時ほど気を引き締めるべきですよね」

『分かっているのなら良いのです』

「ありがとうございますフレンダさん」

『………』

「フレンダさん?」

『フウマもオーキュペテークイーンに十分に対抗できる様な力が欲しいですか?』

「そりゃまぁ。せめてオーキュペテークイーンの攻撃に反応できるくらいの力はほしいですけど、何か方法があるんですか?」

『私とフウマの力を結び付ければ一時的にフウマのステータスの向上と、私のスキルや魔法の一部の行使が可能となります』

「それはかなり凄そうですけど、力を結び付けるってどういう事ですか?」

『簡単に言えば私の魂をフウマとより深く結び付ける事によって、フウマのステータスの底上げと私のスキルや魔法の一部をフウマに流し込むというものです』

「魂を深く結び付けるなんてそんな事しても大丈夫なんですか?」



 以前フレンダさんが俺とフレンダさんの魂の融合を防ぐためにくさびを打ち込んだって言っていたし、魂を深く結び付けるのはそれなりに危険な行為だと思う。



『もちろん大丈夫ではありません』

「おい!」

『ですので、魂の融合を私の力で出来るだけ食い止めて、その上で制限時間を設けます』

「ちなみになんですけど、魂が融合するとどうなるんですか?」

『確証はありませんが、魂の融合が始まるとお互いの記憶が混ざり始め、そのまま融合していくとどちらかの人格がどちらかの人格を取り込み始めます。最終的には主人格となった方がもう片方の人格を完全に吸収して吸収された人格は消滅するでしょう』

「こわっ! 薄々そんな気はしてたけど、怖っ!」

『まぁ、これはあくまで最終手段ですので、フウマが危機的な状況に陥らない限りは私も力を結び付けるつもりはありません』

「それじゃあ、俺が危機的な状況に陥ったら…」

『問答無用で力を結び付けます。フウマもオーキュペテークイーンに殺されるよりは多少私と魂が融合した方がマシでしょう?』

「それはそうですけど、出来れば融合したくないですね」

『ふんっ! それでしたら精々死なない様に気張る事ですね!』

「なんで微妙に喧嘩腰なんすか」

『知りません!』



 まぁ、何はともあれフレンダさんもフレンダさんで不甲斐ない俺の為に最終手段を用意してくれたみたいだし、俺も俺で出来る事を精一杯やろう。



「さてと、それじゃあ俺はこの二人をしっかりと守り通すとしますかね」



 俺は心の中でフレンダさんに感謝しつつ、舞とカグヤさんを守り通すために精神を研ぎ澄ませた。


8月3日分です。

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