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96話 審美眼

 風舞




「はぁ、かなり広いですね」

「はい。反応自体は大分近くなっているのですが、まさかここまで入り組んでいたとは」



 オーキュペテークイーンの巣穴の探索を初めて早五分、俺とカグヤさんとフレンダさんによる錫杖捜索隊は分岐路の多い巣穴の中を行ったり来たりしていた。

 一応カグヤさんのナビゲーションにより大まかな方向は合っているとは思うのだが、本当に最短ルートを進んでいるのかは怪しいところがある。



『どうやらまた別れ道のようですね』

「今度はどっちの方が近そうですか?」

「一応錫杖の反応は左側の方が近そうなのですが、正しい道順は分かりません」

『ちっ、使えない女ですね。これならフーマを小粋なトークで和ませている私の方がまだ役に立っています』



 果たしてフレンダさんがいつ小粋なトークで俺を和ませたのかは疑問ではあるのだが、カグヤさんの指示通りに進んで良いのかという点に関しては一考の余地がある気がする。

 別にカグヤさんが間違った指示を出しているとは思わないのだが、彼女は錫杖の大まかな方向しか分からないみたいだし、正しい道順を示せるのかはまた別の話だ。



「よし、ここに剣を立てて倒れた方向に向かいましょう」

『何ですか、その微妙に効果があるのか無いのか分からない方法は』

「これは俺の産まれた所では有名な話で、古くから旅人は道に迷った時に杖を立ててそれが倒れた方向に進んでいたそうです」

「フーマ様の故郷の習わしですか。それならば確かに効果があるかもしれませんね」

「という訳なんで、早速やってみますね」



 そう言った俺は分岐路の真ん中に立って手に持っていた片手剣を人差し指だけで支えて地面に立てた。

 このやり方は人間が無意識に行きたいと思っている方向に無自覚に倒してしまうそうなのだが、俺には豪運という頼もしいスキルがあるわけだし、何となく良い方向に進んでくれそうな気がする。



『おいフーマ。分かっていますね? しっかりと右に倒すのですよ』



 ………まぁ、こういうのは無意識にやらないと意味がないし、フレンダさんの指示には従わずに出来るだけ心を無にして行うとしよう。



「それじゃあ離しますね」

「何だかドキドキしますね」

『分かっていますね? 右ですよ、右!』



 そんな感じで俺達3人に見守られていた片手剣は何の因果か、始めにカグヤさんが示した左側へと倒れた。

 別に心の汚いフレンダさんの指示に従いたくなかったとか、フレンダさんの指示に従わない方が面白そうだとか、微妙にポンコツなところのあるフレンダさんの指示に従うのが不安だからわざと左側に倒したという訳ではなく、何の気なしに剣を離したら左側に倒れてしまったのだ。

 まぁ、なんとなくこうなる様な気はしていたけれど、こうなってしまったらもう左側に進むしかない。



「おお、どうやら私の指し示した道()正しい道だった様ですね」

『おいフーマ! やはりこの女、私の声が聞こえていますよ! だって今()って強調しましたもん! 絶対今の言い方には悪意がありました!』



 カグヤさんはトウカさんの先代の巫みたいだし、トウカさんと同様にギフトの力でフレンダさんの声が聞こえているとは思うのだが、何故かカグヤさんはフレンダさんに気がついていないかの様に振る舞っている。

 俺としてはカグヤさんがフレンダさんをどう扱おうが別に構わないのだが、さっきからフレンダさんが俺の中で暴れてるから出来ればこれ以上神経を逆撫でする様な言動はしないでもらいたい。



「はぁ、それじゃあ早速行くとしましょうか」

「はい。私の方がどこぞの引きこもりよりも優れているところをフーマ様にご覧に入れましょう」

『おいフーマ! やはりこの女はここで始末しておくべきです! おい! 聞いているのですか!?』

「はぁ、まじで早く錫杖見つかんないかなぁ」



 そんな俺の願いが天に届いたのか、剣を使ったおまじないで決めた道を数十メートルほど進んだ所で俺達はオーキュペテークイーンの寝床らしき場所を見つけた。

 魔物であるオーキュペテークイーンの寝床は普通の獣の巣とは違い、フンや食べ残しが無い為か悪臭はあまりしない。

 魔物の中には普通の動物の様に食事や排せつを行うモノも存在するらしいが、ダンジョンの中で暮らすオーキュペテークイーンは食事を必要としない魔物なのだろう。



「しっかし、これはかなりの量の武器ですね」

「はい。武器だけでなく防具もありますし、オーキュペテークイーンにかつて挑んだ者達の遺品がここに集められているのでしょう」



 オーキュペテークイーンが何を思って剣や鎧などを集めているのかは分からないが、寝床の周辺には沢山の武器や防具が無造作に積み上げられていた。

 この世界樹がローズが産まれる前から存在するダンジョンである事を考慮するとあまり多くはない様に感じるのだが、それでもかなりの数の人々がオーキュペテークイーンに挑んで死んでいった事が窺える。



『ほとんどが長い歴史の中で風化して使い物にならなくなってしまっていますね』

「この剣も錆びちゃってますし、あんまり使えそうな武器はありませんね。カグヤさんの方はどうですか?」

「えぇっと、おそらくこのあたりにあると……。あ、ありました!」



 カグヤさんはそう言うと、ひときわ高く積み上げられていた武器の山に近づいて行ってその中から一本の杖を持ち出して来た。

 てっきり迷宮王の力を弱める事の出来るすごい効果の杖だからかなり派手な見た目をしていると思っていたのだが、錫杖は先端に透明なクリスタルと金属の輪っかが付いているのみであまり凄そうな逸品には見えない。



「それがカグヤさんの探していた錫杖なんですか?」

「はい。そうは見えませんか?」

「ええ、まぁ。思っていたよりも地味なデザインなんですね」

「ふふふ。これは私達巫の力を通して初めてその効果を発揮する特殊な錫杖ですから、フーマ様がそう感じてしまうのも無理はありません」

『田舎者のエルフに似合ったなんともみすぼらしい武器ですね』

「ただ、この錫杖は今では再現不可能な高度な技術が詰め込まれた至極の逸品です。フーマ様も見た目に惑わされてその本質を見抜けない様ではどこぞの吸血鬼の様に無能を晒すことになりますからお気を付けくださいね」

『上等です!! この私を怒らせた事を後悔させてやりますよ! おいフーマ! やっておしまい!』

「やっておしまいじゃねぇですよ。さて、目的は果たしましたし直ぐに戻りますよ。あまり舞達に負担をかけられません」

「はい。私も今度こそ儀式を成功させますので、どうぞよろしくお願いします」

『おいフーマ! 私の話をちゃんと聞いてください!』



 かくして、無事に錫杖をゲットした俺達一行は来た道を素早く引き返して舞達とオーキュペテークイーンのいる広間へと戻る事となった。

 道中フレンダさんとカグヤさんの間で一悶着…いや、数悶着あったが、この錫杖があれば迷宮王を弱体化させる事が出来るらしいし少しは戦いやすくなるだろう。


 もう少しで戻るからもうちょっとだけ持ちこたえていてくれよ。




 ◇◆◇




 舞




 引き続き世界樹の最頂部、隠されし迷宮王の部屋にて、私とローズちゃんとサラムさんの3人はそんな談笑をしつつもオーキュペテークイーンの攻撃をいなしたり躱したり、魔法を撃ったりしてかの迷宮王の気を引き続けていた。


「ねぇローズちゃん。どうしてあの迷宮王は風舞くん達を追いに行かないのかしら」

「さあの。単純に一度手痛い攻撃をしてきたお主に夢中になっておるのか、弱体化されても問題ないと考えておるのではないか?」

「弱体化される前に君達を倒しておこうと考えているんじゃないのかい?」

「いや、あやつはまだ一度も魔法を見せておらんしそれは無いじゃろうな」

「あら、あの迷宮王は魔法も使えるのかしら?」

「あぁ、そういえばお主には言ってなかったの。オーキュペテーは風魔法を操るハーピィの上位種じゃ。その迷宮王であるオキュペテークイーンが風魔法を使えぬ道理は無かろうよ」

「そう。それじゃあ、あの迷宮王が魔法を使うようになってからが本番ってわけね」

「そうだね。僕もこの身を持って味わったけれど、あの迷宮王の魔法はかなり強力だ。君達も魔法の前兆を察知したらただ避ける事だけを考えた方が良いよ。間違っても防ごうだなんて思ってはいけない」

「あら、そう言われると試してみたくなるわね」

「そうじゃな。強力な魔法の使い手であるお主がそこまで褒める魔法とは妾も興味があるの」

「いやいや、僕はお世辞で言ってる訳じゃないからね。ちゃんと忠告通りに避けてよ?」

「ふふ。もちろん冗談よ」

「妾も趣味と実戦の区別はつくつもりじゃ」

「はぁ、それが本当である事を僕は祈っておくよ」



 オーキュペテークイーンは攻撃を2連撃にしたり大きく迂回しながら攻撃をしたりと手を変え品を変え襲って来るが、今のところは何とか一度も攻撃をくらわずに凌ぎ切っている。

 妖刀星穿ちを黒刀に切り替えて強度を上げて戦っているため刃こぼれの心配も無いし、この調子ならあと数時間はこのままの状態を維持できるだろう。


 それにしても、この妖刀星穿ちは一体どんな魔剣なのかしらね。

 黒刀にしている間は破壊衝動がかなり強まるみたいだけれど、私は自分の感情をそれなりに制御できるから星穿ちに操られる事は無いし、全くもってこの刀の特性が掴めないわ。

 まぁ、一般的には刃こぼれしやすい刀が丈夫である事に特に文句は無いのだけれど、まだ何か秘められた力がありそうな気がするのよね。



「む? 何か気になる事でもあるのか?」

「いいえ。別に何でもないわ。それよりも、そろそろ風舞くん達が戻って来ても良い頃合だと思うのだけれど、中々帰って来ないわね」

「ちょうどついさっき錫杖を見つけて折り返しているみたいだよ。多分あと数十秒で戻って来るんじゃ無いかな」

「それじゃあ、風舞くん達が戻って来やすい様に少しだけオーキュペテークイーンに攻撃を仕掛けるとしましょうか」

「それならば、一つ試してみたい事があるんじゃが構わんかの?」



 そうして、ローズちゃんの作戦を聞いた私とサラムさんはその作戦にのる事となった。

 ふっふっふ。

 もしこの作戦が上手く行ったらあの異端児である風舞くんも驚くでしょうね!


 私はそんな事を考えながら、ローズちゃんの指示通りに風舞くんの作り出した湖の中に飛び込んだ。

8月2日分です。

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