15話 初めてのダンジョン
風舞
「そうだ。アイテムボックスにリュック入れようか?」
俺は商人ギルドを出た後すっかり忘れていた魔法をふと思い出して提案した。
そういえば土御門さんが作ったコップを入れたっきり使ってなかった。
「そうじゃの、ダンジョンに入る前に入れてしまうか」
そうして俺達は転移魔法の珍しさ故に目立たない様に、路地裏に移ってリュックの中身を全て出してアイテムボックスの中に入れた。
ローズもアイテムボックスを使えるが、物を出し入れすると魔力を消費するため今回は魔力量が一番多い俺のアイテムボックスに全て入れた。
「よし、全部入れ終わったの」
「ありがとう。高音くん」
「どういたしまして」
俺は転移魔法のレベルは高いがまだ使い慣れていないため一つずつしか出し入れ出来ない。
ローズが言うには練度が上がれば一度に複数個出し入れ出来るようになるらしいので、ローズに硬貨を借りてポッケの中で出し入れすることにした。
俺の魔力は一分で5前後回復するので硬貨なら一分ごとに出し入れすれば、常に最大値あたりを保っておける。
「それで、まずは冒険者ギルドに行くんだったか?」
「うむ。ソレイドの街は冒険者ギルドで入場券を買わねば入れんらしいからの」
「そうだったのか」
昨日冒険者ギルドマスターに食事中に聞いたらしい。
あのいかついおっさんがギルドマスターだったとは思いもしなかった。
そんな事を考えながら路地裏を出ようとした時、俺は足元に丸薬のような物が落ちているのを見つけた。
飴玉くらいのサイズで真っ黒のものだ。
「ん? なんだこれ?」
「高音くん? 行きましょう?」
「ああ。今行く」
俺は後でローズに聞いてみれば良いかと思い、とりあえず拾ったそれをアイテムボックスに入れて二人の元へ走って行った。
◇◆◇
風舞 冒険者ギルドにて
『あ、皆さんこんにちは。今日は冒険に行くんですか?』
『うむ。早速ダンジョンに行こうと思って入場券を買いに来た』
冒険者ギルドに来た俺達をミレイユさんがニコニコしながら迎えてくれた。
ウサミミが話すタイミングに合わせてピコピコ動いていて可愛い。
あれ?土御門さんがミレイユさんをモフりに行かない。
微笑みを浮かべてローズとミレイユさんが話しているのを見ている。
体調でも悪いのか?
『そうでしたか。皆さんはダンジョンに入るのは初めてですよね? 今回は何日間を予定にしてますか?』
『妾は別大陸におった時何回か潜ったことがあるが後ろの二人は初めてじゃの。今回は二人のならしの予定じゃから今晩には戻る予定じゃ』
『ミレンさんは初めてじゃなかったんですね。そのお年なのに凄いですね』
『なに、妾などあ奴らに比べたら大したことないわい。あ奴らの方が伸びしろがあるからの』
『いくつも修羅場をくぐってそうなミレンさんが言うくらいですから、それは楽しみですね』
ん?ローズとミレイユさんがこっちを見て何か話している。
土御門さんが二人に手を振るとミレイユさんが振り返して、ローズとミレイユさんが会話を再開した。
やっぱり土御門さんが大人しい気がする。
よし、聞いてみるか。
「なあ、土御門さん。体調悪いのか?」
「いえ、そんなことないわよ? どうしてそう思ったのかしら?」
「ああ。今日はミレイユさんをモフりに行かないんだなと思って」
「ああ。そう言うことね。今日は敢えて行かないようにしてるのよ」
「ん? どうしてだ?」
「ミレイユさんが私のモフりに慣れないようにする為よ。私のモフりレベルもイメトレによって日々上がっているけれども、ミレイユさんが慣れてしまっては元も子もないわ。私としてはモフりに行きたいけれども、モフリストとしては今日はモフる訳にはいかないの」
わお、モフリスト土御門さんは今日も全くぶれていなかった。
微笑みの薄っすらと開いた目の間からギラギラとした光が漏れ出している。
あ、ミレイユさんがブルっとした。
『む? どうしたのじゃ?』
『いえ。何か悪寒がしたんですけど気のせいみたいです』
ローズが人数分の入場券を買った後、ミレイユさんに手を振って貰って見送られた俺たちは満を持してソレイドの中央のダンジョンに向かった。
今日も可愛いミレイユさんに見送られて元気百倍である。
◇◆◇
風舞
ダンジョンの前は多くの冒険者でごった返していた。
入場待ちの冒険者が列を為して並んでいるが、そこまで待つことは無く俺達はドッグタグの様に首から下げた冒険者証と入場券を提示して中に入る事が出来た。
第1階層はかなり広く入り口も多いらしいため転移魔法陣に入った後は周りには冒険者がいなかった。
「ついに、遂に私の剣姫への道が始まるのね!」
「ああ、遂にきたな!!」
土御門さんが拳をぐっと握りしめながら目をキラキラさせてそう言った。
俺もこのワクワクを抑えられない。
「初めてのダンジョンだから気合いが入るのもわかるが、冷静に行動するんじゃぞ。初心者の冒険者の最大の死因は慢心と油断じゃ。心せよ」
テンションが上がりすぎて気が急いていた俺達をローズが諌めてくれた。
確かに調子に乗った転移者が死ぬのはよく読んだ展開だ。
冷静に行動しよう。
「まあ、あまり張り詰めても良いことはない。大事なのは平常心じゃよ。平常心」
「ええ、注意しておくわ。それで今日の目標は?」
「うむ。今日は第1階層でフウマのレベリングとマッピングの練習じゃな」
「できれば今日中に共通語が覚えられるところまでステータスポイントを稼ぎたいな」
「そうじゃな。特に問題が無ければ勇者のお主なら覚えられると思うぞ。質問もないなら探索を始めるとするかの」
「そうだ。魔封結晶の反応はあるのかしら?」
土御門さんがふと思い出した様にそう尋ねた。
ローズがダンジョンの中に魔封結晶があると言っていた。
確かに俺も気になる。
「うむ。どうやらダンジョンの中で間違いない様じゃの。この階層ではなさそうじゃが、下に行けばそのうち見つかるじゃろ」
「そうか、じゃあ早速行こうぜ」
「そうね! 頑張りましょう!」
俺達は土御門さんが突き出した拳に拳を合わせて探索を開始した。
ローズが言うには俺でも第1階層の魔物を相手に出来るらしい。
最初は土御門さんが前衛で俺がローズにマッピングを教わりながら後衛だ。
因みにどんな魔物が出るかは聞いていない。
これからはどんな魔物が出るかわからない状況の方が多いため、脅威度が低いここで初見の魔物に対応する練習をするためだ。
マッピングは方眼紙の様な紙に一定の歩数ごとに印をつけていき地図を作っていくらしい。
立体の場合はやり方が違うそうだが、それはその時改めて教えてくれるそうだ。
第1階層は洞窟の様な見た目だが、道はほぼ直線で地面も平らなのでマッピングの難易度は高くないらしい。
後でローズが冒険者ギルドで手に入れた地図と比べて答え合わせをする予定なので出来るだけ正確にやりたい。
俺達が探索を始めて五分程で道の先に魔物を見つけた。
膝下くらいの大きめのウサギに角が生えた見た目をしている。
あれがここの魔物か。
あんまり強そうには見えない。
魔の樹海で俺が丸呑みされそうなサイズのトカゲもどきを見たからかあの魔物が弱そうに見える。
おっと、これは慢心だ。
しっかりと気を引き締めよう。
「ホーンラビットじゃの。あの角にさえ気をつければ問題ないはずじゃ。マイのステータスじゃと手加減せんと即死じゃろうから気をつけるんじゃぞ」
「ええ、わかったわ」
土御門さんがそう答えた直後、気がついたら彼女がホーンラビットの真横に立っていた。
いつの間にあそこまで移動したんだ?
俺が土御門さんの動きに驚いていると、角を一撃で斬り落とし返す刃で後ろ足を斬り払った。
「すげぇな」
「うむ。見事じゃな。指摘するところも特にない良い攻撃じゃった」
俺でも何とか目で終えるスピードだったので大分手加減したのだろうが、それでも素早く鮮やかな動きだった。
ホーンラビットは土御門さんの突然の攻撃に遅れて気がついた様だが、もう動けない。
「さて、解体をするからナイフを出してくれんか?」
「ああ。ほらよ」
「うむ。すまんの」
俺は商人ギルドで用意してもらったリュックの中に入っていた解体用のナイフをローズに渡した。
ナイフを受け取ったローズがホーンラビットの首を締めてトドメをさし、解体しながら魔物について説明をする。
「先にも言ったと思うが、魔物は即死せずに倒すとこの様にすぐに魔石にはならんのじゃ。より具体的には魔物の体力の数値を大きく越えないようにトドメをさした場合にこうなる。こうすることで魔物を剥ぎ取れるから覚えとくんじゃぞ」
魔の樹海では全ての魔物がすぐに魔石を落として霧に変わった。
どうやら魔の樹海での土御門さんの攻撃は全てオーバーキルだったようだ。
ローズが鮮やかな手つきで次々と血抜きや皮剥ぎをし捌いていく。
うへぇ、結構グロいな。
いつか異世界に行った時の為と思い一通りの解体を動画で見たことがあるが、実際に生で見ると結構違う気がする。
「土御門さんは血とか見るの慣れてるのか?」
「そうね。熊や猪の解体は生で何回か見たことがあるからこういうのが苦手ということはないわ。ただ、魔物とは言え、命を奪うのは初めてだったから少し剣が鈍ってしまったわ。改めて武器の恐ろしさを知ったわね」
土御門さんが真面目な顔でそう答えた。
さっきの鮮やかな攻撃からはそうは見えなかったが内心僅かながら葛藤があったらしい。
俺も魔物相手に命のやり取りをする覚悟を自分の番までに決めておかなくてはいけないかもしれない。
「なに、一度の戦闘でそこまで考えられれば上出来じゃ。自分の力と武器の力、そして相手を知ることが何よりも重要じゃからな」
「武器の力か」
俺は初めてのダンジョン攻略で学ぶ事が多そうである。
ローズの解体が終わり全ての素材をアイテムボックスに収納した俺達は再び探索を再開した。
ホーンラビットは角と皮、肉が売れるらしい。
骨以外はほとんど捨てる所のない初心者には嬉しい魔物だ。
その後土御門さんが5回ほど戦闘を繰り返した後マッピングを交代し、いよいよ俺が戦う番がやってきた。
相手はホーンラビット一体である。
「頑張って! 高音くん!!」
「朝の素振りを思い出してやれば良い。肩の力を抜くんじゃぞ」
ホーンラビットと向かい合っている俺に土御門さんの声援とローズのアドバイスが届く。
朝の素振りか。
相手の急所をしっかりと狙う様にしよう。
相手はウサギ型の為後ろ足さえ傷つけられれば、動きを阻害出来るだろうが剣の腕が低い俺では胴体の下にある足を狙うのは難しい。
やはり頭を狙うのが良いのだろうが角が邪魔だな。
俺では斬り落とせないだろうしどうしたものだろうか……。
そうだ。あれを使ってみるか。
「よし、行くぞ!」
作戦が決まった俺はホーンラビットに向かってまっすぐに走った。
俺が威嚇するように睨んでいたためか幸いにもホーンラビットはまだ動いていない。
ホーンラビットに俺の剣が届くまで後一歩といったところで俺は左手に握っていた銅貨をホーンラビットの左側に転移魔法を使って落とした。
俺の攻撃を待ち構えていたホーンラビットが突然の金属が鳴る音に注意をそらす。
やはり兎なだけあって音には敏感なようだ。
そうしてホーンラビットの注意がそれている間に銅貨を落とした方とは反対の右側に一歩で飛び込みしっかりと両手で剣を握りしめて振り下ろした。
グゥッ!!
ホーンラビットが短く鳴き声をあげて倒れた。
どうやら俺のステータスでは頭に当たっても急に霧になることはないようである。
5秒ほどかけてしっかりと魔物が動かなくなるのを確認した俺は剣を鞘に収めて息を吐いた。
「ふう」
「おめでとう高音くん。見事な戦いだったわ!」
「そうじゃの。しっかりと自分の手札を使った良い戦いじゃった」
「ああ、ありがとう。ローズ、解体のやり方を教えてくれないか? そこまで自分でやってみたい」
俺はホーンラビットの方を向き土御門さんに背を向けて腰を下ろし、ナイフを取り出した。
土御門さんには俺の手がまだ震えてるのを見られたくない。
今までにない緊張とちょっぴりの恐怖に俺の手は戦闘後にもかかわらず震えている。
「うむ。そうじゃの。マイはまた後で解体を教えるから、マッピングした地図と戦闘時間から今どれくらいダンジョンにいるのか計算してくれ」
「ええ、わかったわ」
土御門さんにそう言ったローズが俺の元へとやって来て隣に腰を下ろした。
「お主も男じゃな」
「うるせぇよ」
どうやら俺の様子に気がついたローズが気を使ってくれたみたいだ。
「今まで碌に武術もやったことないお主がここまで出来るとは思っておらんかった。よく頑張ったの」
そう言ってローズが隣に座る俺の頭に手を伸ばして微笑みながらワシャワシャと撫でた。
俺は少し照れ臭くなりながらも小声でお礼を言った。
「ありがとな」
「なに、気にせんでよい」
気が付いたら手の震えがいつの間にか止まっていた。
ローズに教わりながら何とか解体を済ませた俺は、待たせた土御門さんに謝罪を入れ再び探索を再開した。
ホーンラビットを倒していくうちにレベルも上がっていったためか、次第に初戦のように手が震えることもなくなっていった。
そしてホーンラビットを倒してちょうど30匹目で俺のレベルが6になり、目標の分のステータスポイントが貯まった。
「ふう。何とかやりきったな」
「ええ、ついにやったわね。早速共通語を覚えましょう!!」
「おう!」
俺は土御門さんと並んでステータスカードを確認して共通語を習得した。
「よし、やったな! これで共通語を話せるぞ!!」
「ええ、やったわね! これでミレイユさんともお話しできるわ!!」
「うむ。よくやったのじゃ」
俺達はダンジョン内にも関わらず3人でハイタッチをして笑いあった。
一通り笑いあった後、今日の目標である共通語習得を達成した俺達はダンジョンを後にした。
早速共通語を使ってミレイユさんに報告に行くとしよう!
◇◆◇
フウマ タカネ
レベル 6
体力 27/45
魔力 1332/1338
知能 1335
攻撃力 24
防御力 22
魔法攻撃力 24
魔法防御力 25
俊敏性 26
魔法 転移魔法LV8
スキル ランバルディア共通語
称号 異世界からの来訪者 勇者
ステータスポイント 1
◇◆◇
マイ ツチミカド
レベル 39
体力 681/681
魔力 531/321
知能 610
攻撃力 671
防御力 621
魔法攻撃力 611
魔法防御力 609
俊敏性 702
魔法 風魔法LV2 水魔法LV1 土魔法LV1 火魔法LV1
スキル 身体操作 LV3 ランバルディア共通語
称号 異世界からの来訪者 勇者
ステータスポイント 320
私用により2019/2/28分は一話です。
少し長いので許してください。