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89話 戦の目的

 風舞




「奥義 フウマの巨乳好きぃぃ!!」

「やるわね、それじゃあ私も! 奥義 風舞くんのメイドキチぃぃぃ!!」

「ほい」

「マイも中々やるではないか。それならば、必殺 フウマの夜這いキス魔ぁぁぁ!!」

「それならばこれはどうかしら!? 必殺 風舞くんの鬼畜むっつりスケベぇぇ!!」



 ドライアドをソレイド近郊の草原に転移させてローズの手伝いに行ってしばらく、何故か俺は舞とローズの二人になじられ続けていた。

 一番初めのきっかけは舞が新しい必殺技を披露した事だったのだが、それを見たローズが何故か便乗して必殺技? を繰り出す様になってしまった。


 まぁ、図体が大きくて小回りの効かないグリフォンは転移魔法さえあれば格好の的なんだけど、二人とも攻撃よりも俺をなじる方に熱中してないか?



「風舞くん! 次よ、次!」

「おいフウマ! 妾ももう一度頼むのじゃ!」

「なぁ、そろそろ泣きたくなって来たから早くトドメをさしてくれないか? 二人とも必殺技って言うわりには全然グリフォンを倒せてないぞ」



 先程から放ち続けている舞とローズの奥義は確かにかなりの威力ではあるのだが、そこは流石迷宮王のグリフォンを相手にしているだけあってか未だに倒しきれてはいない。

 グリフォンは一番初めの舞の居合によって翼を裂かれてからは、俺に転移された直後に身を固くしているらしく、舞とローズは攻めあぐねている様だった。



「それもそうね。それじゃあ、そろそろ幕引きにしましょうか」

「うむ。妾も新技の方針は決まってきたし、もう終わらせても良いじゃろう」



 舞とローズはそう言うと、それぞれの武器を構えて鋭く神経を研ぎ澄まし始めた。

 いくら舞とローズが攻めあぐねていたとは言っても何度も高火力の攻撃を繰り返しているし、グリフォンは既に疲労が蓄積して動きも鈍ってきている。

 次の攻撃で決まるというのも強ち見当違いでは無いだろう。


 ていうか、さっきから俺はグリフォンを転移させるだけで何もしてなくないか?

 俺も剣を振ったり魔法を撃ったり、普通の戦闘もやりたいんですけど。



「はぁ、迷宮王戦なのに俺がなじられる意味が分からん」

『お姉さまになじってもらえるなどそうあることではありませんよ。ほら、グリフォンが立ち上がりましたから集中なさい』

「あぁ、はいはい。それじゃあ行くぞー、ほいっと」



 そうして毎度のごとく舞とローズの目の前にグリフォンを転移させると、武器を構えていた二人は獲物を目の前に差し出された飢えた猛獣の様にグリフォンに襲いかかった。



「修羅の型・弐の奥義 真・風舞くんのスケコマシィィィィ!!」

「唸れ! 雷鳴轟く開闢(ビクトリアンオース)!!」



 ギュェェェェン!!



 舞の白く輝く雷を放つ漆黒の刀と、ローズの赤い雷を纏う真紅の大剣がグリフォンを斬り裂き焼き殺した。

 どうやら二人とも攻撃をする際に雷魔法を使うことで大火力とする新技を思いついた様である。

 ていうか、舞はともかくローズはビクトリアンオースとかカッコいい技名をつけるなら俺をなじる必要なかったじゃないか?


 そんな事を考えながら地面に倒れ伏したグリフォンを眺めていると、舞とローズが二人揃ってパタリと地面に倒れこんだ。

 ギフトによって形を維持されていたローズの大剣は搔き消える様に無くなってしまった。



「おい! 大丈夫か!!」

「え、ええ。ちょっと体が痺れただけよ」

「妾もじゃ。剣を構えている間は何とか吸血鬼の顎門(アルカードスレイヴ)で雷を自身には流さない様にしておったんじゃが、剣術スキルを使う際に流れてしもうた」

「あ、そう。それじゃあ別に放っといても大丈夫だな」

「ええ。今触られたら余計ビリっと来そうだからそうしてくれると助かるわ」

「分かった」



 やっぱりスキルと魔法を併用するのはかなり難しいのか。

 見た感じは完璧な技に見えたけど、魔法の扱いに長けているローズでも痺れている訳だし、雷を纏ったり放ちながらの攻撃はかなり難しいものなのだろう。


 俺はそんな事を考えながら舞とローズの間を通って、ピクリとも動かないグリフォンの元へと向かった。

 おそらく絶命には至っているとは思うのだが、何かの間違いがあるかもしれないしな。



『ふむ。傷だらけではありますが、状態はそれほど悪くなさそうですね』

「そうなんですか?」

『はい。グリフォンで使える素材は爪と骨と羽の皮膜ぐらいですから、胴体の傷はそこまで重要ではありません』

「へぇ。それじゃあ…お、入った」



 後で解体でもして素材を手入れるか、なんて事を考えながらグリフォンをアイテムボックスに入れようとしたら問題なく入れる事ができた。

 アイテムボックスは生きている物は入れる事が出来ないし、グリフォンはしっかりと死んでいた様である。



「よし、その内誰かに売り払って金にしよう」

『まったく、フーマは相変わらず金にうるさいですね』

「借金があるんだから仕方ないじゃないですか」

『私は金に困った事が無いのでその様な事を言われても分かりません』

「さいですか」



 何となくイメージ的にフレンダさんとローズは魔王とその妹になるまでの叩き上げの時代があった気がしてたけれど、よくよく考えたらローズとフレンダさんにはいつから生きているのか分からないぐらい長生きの叔母がいるらしいし、もともとそれなりのお嬢様だったのかもしれない。

 魔族は長生きってだけでもそれなりに力がある証拠になるみたいだし、きっとかなりの名家の出身なのだろう。



『まぁ、フーマが貧乏なのはともかく、この後はどうするのですか?』

「外に出て里の防備の手伝いか、他の迷宮王の部屋にお手伝いに行くかですかね」

「一番の目標はエルフの里を滅ぼさせない事じゃし、外に出て防衛戦に参加するのが良いじゃろうな」

「それじゃあ、とりあえずは里の方に様子を見に行って、余裕がありそうなら皆を探しに行く感じで良いか。多分迷宮王を倒したのは俺達が一番最後だろうし」



 グリフォンとの戦闘が始まってから30分はここにいるし、おそらく他の皆は既に迷宮王を倒し終わってそれぞれで動き始めている気がする。

 まぁ、何はともあれ迷宮王はこれで全部倒せたと思うし、後は金色の目のサイクロプみたいな変異種に気を付けながら戦えばエルフの里の勝利は硬いだろうな。


 そんな事を考えながら舞とローズの方に近寄って行くと、舞が難しい顔をして考え事をしている事に気がついた。

 いや、地面に突っ伏しているため難しい顔をしているのかは分からないが、雰囲気的に難しそうな顔をしている気がする。



「なぁ、舞。どうかしたのか?」

「ええ。ちょっと気になる事があるのよね」

「何じゃ? 申してみよ」



 ローズも地面に突っ伏したままだし、二人揃ってこの体勢で真面目な話をしているのは何か面白いな。

 よし、触らないでくれって言われたけどちょっとだけつついてみるか。



『怒られても知りませんよ?』



 仮に怒られてしまったらしっかりと平謝りするとしよう。

 多分謝れば許してくれ…たら良いなぁ。



「ええ。これは以前風舞くんとエルセーヌとで世界樹のてっぺんに行った時のはなしぃぃ!!?」

「む? どうしたんじゃ?」

「いいえ。何でも無いわ。それで話の続きなのだけれど…」



 おお、そのまま話を続けるのか。

 舞がどうして俺につつかれた事を指摘しないのかは分からないが、放っておいてくれるのなら続けるとしよう。



『ですから、怒られても知りませんよ?』


「世界樹のてっぺんの一定範囲には魔物がいなかったのよ」

「ふむ。一定範囲とはどのくらいなのじゃ? にょえいっ!!?」



 にょえいっ!!? って、ローズは中々良い反応をするな。

 ビクッとした舞と違ってローズは大きく震えたから、反応的にはローズの方が面白いかもしれない。



「にょえい?」

「い、いや、何でもないのじゃ」



 お、ローズも黙っていてくれるのか。

 よし、もう一回ずつつついてみるとするかね。



『あのー、そろそろ止めておいた方が良いと思いますよ』


「あらそう。えーっと、範囲は大体100メートルぐらいだったかしら」

「100メートルというと、妾の身長の70倍くらいか。かなり広い範囲じゃな」

「ええ。それで思ったのだけれど、その範囲が迷宮王の部屋とぉぉ!? 同じぐらいの広さな気がするのよね」

「ふむ。確かに言われてみればその通りにゅわっ!? かもしれぬ」

「でしょう? 迷宮王の部屋には他の魔物も入り込まないし、範囲も同じぐらいなら世界樹の上の方に迷宮王がいても…、おかしくないと思うのよ」



 うわっ!?

 もう一度舞をつつこうとしたら手首を掴まれてしまった。

 何で顔は地面に突っ伏したままなのに、そんな事が出来るんだよ。



「ふむ。それならば一度その場所の様子を見に行った方が良いかもしれんの」

「あ、あの二人とも? 何で突っ伏したまま俺の手首を掴んでるんだ?」

「ふふふ。別に大した理由は無いわよ? ねぇ、ローズちゃん?」

「うむ。別にフウマも痺れさせてやろうとは思っておらん」



 あれま。

 二人とももう動ける様になってたのね。

 既に舞もローズも体を起こして笑顔で俺の事を見つめているし、この先の展開は言うまでも無い気がする。



『はぁ、私も同じ痛みを味わうのですから勘弁して欲しいものです』

「まじスンマセン」

「あら、何を謝っているのかしら?」

「うむ。後悔先に立たずとは良く言ったものじゃな」

「や、優しくしてね?」

「「サンダー」」



 こうして、満面の笑みの舞とローズに電撃を流し込まれた俺はしばらくの間二人に弄ばれ続ける事となった。

 一応弱めに雷魔法を使ってくれたおかげか数分ほどで復帰する事ができたが、あのフレンダさんが音をあげるほど二人の攻めが酷かったから痺れがとれた後もまともに動く事は出来なかった。


 フレンダさんの忠告はしっかりと聞いた方が良い。

 今回の件から得た俺の教訓はそんなものだった。




 ◇◆◇




 ユーリア




 スピアクイーンビーを倒した後、迷宮王の部屋から出て世界樹の外への通路を見つけた僕とトウカ姉さんは襲いかかってくる魔物を蹴散らしながら太い枝を下へ下へと降りて行っていた。

 既にスタンピードが起こっているため魔物の数はとどまることを知らないが、上から下へと魔物の軍勢が大移動をしている為かそこまで移動が厳しいという事はない。



「姉さん、ちゃんと付いてきてる!?」

「はい! 周りの魔物が鬱陶しくはありますが、特に問題はありません!」

「もうすぐ第30階層の辺りだから一旦中に戻るよ!」

「はい! 道案内は任せましたよ!」



 滝の様な魔物の軍勢に沿って移動してきたけれども、流石にこれより下は魔物が多すぎるから外から降りるのはかなり難しいと思う。

 僕とトウカ姉さんは空中戦にそれほど慣れていないし、まずは一番下まで内部から移動して、そこから一気に里の方まで駆け抜けるのが最善の方法だろう。



「見つけた! 魔物が何体かいるけど、このまま一気に突っ切るから援護よろしく!」

「露払いなら任せておきなさい!」



 後ろから聞こえてきて姉さんの返事を聞いた僕は、風魔法で姿勢を制御しつつ大きなアリ型の魔物を足蹴にして世界樹の(うろ)へと飛び込んだ。

 僕と姉さんが世界樹から外に出た時もそうだったけれど、世界樹は内部と外部を木の洞を通って行き来できるようである。



「姉さん! アリが18匹、カマキリが7匹!」

「また虫ですか、体液を飛ばされる前に一撃で倒してしまいましょう! アクアランス!!」



 僕の後に続く姉さんがそう言いながら僕が状態異常魔法で一時的に動きを止めた魔物を的確に一撃で仕留めていく。

 流石は僕の目標とする水魔法の使い手なだけあって高速移動中でも命中率は全く落ちないみたいだ。



「よし、後20秒ぐらいで通路に出るよ! 出た先にも魔物はいるけど、このまま突っ切って良い!?」

「はい! 第30階層までの道筋を感知できるならお願いします!」



 僕は感知系のスキルが他のエルフよりもかなり得意みたいで、それなりの範囲の魔物の分布と魔物の動きによって生じる空気の流れを音と魔力を感知して認識する事が出来る。

 そうして認識した情報からダンジョンの内部構造を推測する事もある程度なら出来るから、こうして道案内を買って出たのだ。

 まぁ、姉さんは微妙に方向音痴なところがあるから先に走らせたくなかったっていうのもあるんだけれど…。


 そんな事を考えながらアリ型の魔物を屠りつつ狭い通路を全速力で駆け抜けて行くと、僕と姉さんは無数のアリが跋扈(ばっこ)するダンジョンのメインロードに出る事が出来た。

 ふむ、どうやら僕達が出たのは第31階層の真ん中のあたりみたいだね。



「多分10分も走れば第30階層まで行けると思うよ」

「分かりました。流石に少し走り疲れてきましたから、第30階層についたら休憩にしましょう」

「僕はそのまま進んでも構わないよ?」

「いいえ。無理をしてフーマ様に頭を撫でてもらう前に命を落としたくはありませんし、少しだけ休憩をします」



 以前の姉さんは里の為にと言ってその身を削りながら巫の儀式を続けていたけれど、フーマ達に出会って姉さんは自分の体を大事にする事を覚えてくれたらしい。

 姉さんの体は姉さんだけのものではない事を学んでくれたのだろう。



「うん。やっぱりフーマ達を姉さんに会わせる事が出来て本当に良かった」

「何ですか!? 戦闘中はもう少し大きい声で話してください!」

「早くフーマと婚姻をして幸せになってねって言ったんだよ!」

「こ、こここ婚姻!!? ユーリアはこの様な時に何を言っているのですか!!」



 顔を真っ赤にした姉さんはそう言いながら周囲の魔物を一気に殲滅すると、僕の元にズンズンと大股で寄って来て僕の襟を掴んでガクガクと揺さぶり始めた。

 うんうん、やっぱり姉さんが元気なのは良い事だね。



「ユーリア! 何をニヤニヤと笑っているのですか!! あまり実の姉をからかうものではありませんよ!」

「ごめんよ姉さん。でも、僕はフーマが義理の兄になってくれたら嬉しいかな」

「そ、そういう話は全てが終わってからにしてください! 第一、私がフーマ様と、こ、こここ婚姻など!!」

「あ、下への階段を見つけた」

「ちょ、ちょっとユーリア! 私の話を聞いているのですか!」



 姉さんは生まれてからの長い時をただ巫として生きるためだけに浪費して来た。

 だが、フーマやミレンさん、それにマイムやファルゴやシェリーのお陰でその長く苦しい運命が今まさに断ち切られようとしている。


 この戦いはスタンピードからエルフの里を守る戦いでもあるけれど、僕にとっては姉さんが巫という檻の様な人生から解放されるための戦いという意味合いの方が大きい。

 僕にとって大切な家族である姉さんの幸せのために、何としてでもこの戦に勝って最高の結末を迎えるとしよう。


 僕はそんな事を考えながら、顔を真っ赤にして怒る姉さんとともに世界樹の中を駆け抜けた。

遅くなってしまい申し訳ありません。


次回投稿は7月8日予定です。

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