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81話 いざ、決戦の大地へ

 風舞




「よし、これで終わりだな」

「オホホホ。お疲れ様ですわ、ご主人様」

「ああ。エルセーヌさんもお疲れ様」



 ファーシェルさんに頼まれていた通り、バリケード用の岩を設置するために指定されたポイントを回った俺とエルセーヌさんは、最後に宮殿の中に用意されていた大きな貯水槽にアイテムボックスに入れておいた川の水をたっぷりと注いで一通りの仕事を終わらせた。

 この貯水槽は今回の戦のためにエルフの皆さんが急いで土魔法で用意したらしく、主に洗濯や洗浄などの生活用水として使われるらしい。



「あ、そう言えばエルセーヌさんに一つだけ聞きたかった事があるんだけど良いか?」

「オホホ。何なりとお聞きくださいまし」



 エルセーヌさんはそう言うと、遮音結界を俺たちの周りに張って俺に目配せをした。

 どうやら俺の意図を察して気をきかせてくれたらしい。

 いつも通り俺の従魔は優秀だな。



「それじゃあ聞くけど、世界樹の魔物を制圧するためにわざとスタンピードを起こして迎え撃つっていうのが今回の作戦の本筋だよな?」

「オホホ。そうですわね。迷宮王の様な強力な魔物をご主人様達で倒した後に、スタンピードを起こして魔物を一掃するのが今回の作戦の肝で間違いありませんわ」

「そこが疑問なんだけど、スタンピードって人工的に起こせるもんなのか?」

「オホホホ。秘策があるのですわ」

「秘策ねぇ。またローズに怒られる様な策じゃ無いだろうな?」

「お、オホホ。もちろんそうはならないと思いますわ。多分」



 あ、この反応は絶対怒られる事をするつもりだ。

 しかし、スタンピードを自力で起こすなんてトウカさんみたいにダンジョンに干渉できる様な能力を持ってないと厳しいと思うんだけど、そう簡単に出来るものなのだろうか。



「なぁ、その秘策っていうのはエルセーヌさんしかまだ知らないのか?」

「オホホホ。誰も知らないから秘策なのですわ」

「なぁ、俺にもその秘策ってやつを教えてくれよ。どうせ後でローズにバレて怒られるんだから、今俺に教えても別に問題ないだろ?」

「オホホホ。私は何も悪い事をするつもりはありませんわ」

「そう警戒するなって。怒られる時は俺も一緒だ」

「お、オホホ。裏切りませんわよね?」

「ああ。俺はお前の主人なんだから、俺が信じてやらなくてどうするんだよ」

「ご主人様!」



 あ、エルセーヌさんが感動した顔をしている。

 なるほど、今度からエルセーヌさんに自白させたい時は無理に聞き出そうとするんじゃなくて、こうしたら良いのか。

 覚えておこう。



「で、結局どうやってスタンピードを起こすんだ?」

「オホホホ。ご主人様は私が魔王様の魔封結晶を持っていた事をご存じですか?」

「ああ。そういえば最近ローズがエルセーヌさんにもらった魔封結晶でちょっぴり背が伸びたって言ってたな。それがどうかしたのか?」

「オホホホ。実はその魔封結晶は私が入手したものの一部でして、魔王様にお渡しした物よりも一回りほど大きい物を持っていますの」

「へぇ。で、それをどうするんだ?」

「オホホホ。もちろんその魔封結晶を世界樹に向かって投げつけるのですわ。今は私の結界で魔封結晶から溢れ出るエネルギーを封じ込めていますが、世界樹に向かってそれを投げつければ間違いなくスタンピードは起こりますの」



 魔封結晶には魔物を活性化する能力があるし、エルセーヌさんの言う様に世界樹に向かって投げつければスタンピードが起こると言うのも考えられなくはない。

 この前舞と一緒に世界樹のてっぺんに言った時に確認した様に世界樹の上には沢山の魔物が待機していたし、そこに何かしらの干渉をすればダムが決壊するかの如く魔物の大侵攻が始まるとエルセーヌさんは考えているのだろう。



「ふーん。でも、本当に世界樹に向かって魔封結晶を投げつけるだけでスタンピードが起こるのか?」

「オホホホ。以前ご主人様の前に現れた変異サイクロプスは私が実験で魔封結晶を結界から取り出した時に世界樹から出てきたものなのですわ。その際は一瞬取り出しただけでもそこそこの数が寄って来ましたし、世界樹に投げ込めばかなりの数の魔物を活性化させる事が出来るでしょう」

「へぇ、あの時のサイクロプスはエルセーヌさんがけしかけて来たって言ってたけど、そもそもあの魔物が出てきた原因もエルセーヌさんだったのか」

「オホホホ。ご主人様方の力を量るのと魔物を駆除するのにちょうど良い機会だったのですわ」

「なるほどなぁ」



 そういえばあの金色の眼のサイクロプスは里には目もくれずに山脈の方へ走って行ったって小耳に挟んだけど、エルセーヌさんの持っていた魔封結晶に導かれていたのか。

 俺たちがエルフの里に来てからは魔物が世界樹からは出て来ていないらしいし、魔封結晶の力で魔物をおびき寄せられるというのはそこそこ信憑性のある説である気がする。


 そんな事を考えつつエルセーヌさんの話に相槌を打ちながら歩いていると、俺達は宮殿の中に入って廊下の突き当たりまでたどり着いていた。

 ここを右に行くと俺の借りている部屋があって、左に行くとファーシェルさんのいる会議室がある。



「さて、エルセーヌさんはこの後はどうするんだ?」

「オホホホ。ファーシェル様に報告を済ませたら私も今日は早めに休ませていただくつもりですわ」

「そっか。それじゃあお疲れさん。明日は頑張ろうな」

「オホホ。お待ちくださいご主人様。今話した事はくれぐれも内密にお願い致しますわ」

「分かってるって。じゃ、おやすみエルセーヌさん」

「オホホホホ。くれぐれも頼みますわよ。おやすみなさいませご主人様」



 こうしてエルセーヌさんに雑な挨拶をして別れた俺は、さっさと風呂に入って舞達を待つために早足で廊下を歩き始めた。




 ◇◆◇




 風舞




「ってエルセーヌさんが言ってたぞ」

「はぁ、あやつは相変わらずじゃな」



 エルセーヌさんと秘策については内密にすると約束した後、舞達が帰って来る前に風呂から上がった俺が髪を乾かしていると、会議室に残っていたローズが一人で戻って来た。

 その後、俺はいつもの様にローズに髪を洗う様に頼まれて、部屋に備え付けの風呂場で彼女の髪を洗いながらエルセーヌさんの秘策をローズに言いふらしている最中である。



「で、どうするんだ? あれってミレンにとって大事なもんなんだろ?」

「そうなんじゃが、今回はエルフの里のための行動じゃし多目に見てやるつもりじゃ。全てが終わった後でエルセーヌに結晶を回収する様に命じればそれで良いじゃろ」

「ふーん。それもそれでそこそこ大変な気もするけど、意外と罰が優しいな」

「まぁ、あやつはあやつなりに頑張っておる様じゃし、そう目くじらを立てる事も無かろうよ」

「そんなもんか。さて、流すぞー」

「うむ」



 そんな感じでローズとたわいもない話をしながら髪を洗ってやった俺は、風呂場から出て舞達の帰りを鎧の手入れでもしながら待つ事にした。

 明日は朝から戦いっぱなしだろうし今のうちにメンテナンスをしておかないと、いざという時に後悔しそうなだしな。



「あ、そういえばレッドドラゴンの鎧も預かってたんだった」



 ソレイドの草原で舞から鎧を預かってそのままになっていたのを思い出した俺は手をついでに手入れをしてやるためにアイテムボックスからレッドドラゴンの鎧を取り出した。

 レッドドラゴンの鎧は着る人の体に合わせて伸び縮みするため、今は舞の体にぴったり合うサイズと形になっている。

 舞の体に合う形という事は、舞の胸の膨らみや腰回りも如実に表現されているわけで……



「って、俺は何鎧相手に興奮してるんだよ」



 気がついたら俺の両腕が鎧の胸部に伸びて硬い鎧のおっぱいを揉もうとしていた。

 どうやら夕方の舞の柔らかな感触が忘れられなくて悶々としていた様である。



「落ち着け。落ち着くんだ俺。もうちょっと待ったら二人が添い寝してくれるんだから、鎧なんかに現を抜かさなくても良いはずだ」



 そう自分に言い聞かせる様に言ってはみたのだが、俺の体は心に反して舞の形をした鎧を抱きしめていた。

 だって、さっきからずっと舞達を待ってるのに全然来ないから我慢出来なかったんだよ。


 なんて自分に言い訳をしながら鎧を抱きしめていたその時、勢いよく部屋のドアが開いて舞とトウカさんが入って来た。

 あ、ヤバ。



「お待たせフーマくん! さぁ、一緒に寝ましょう! って、あら? 鎧を抱きしめて何をしているのかしら?」

「よ、鎧のメンテナンスをしていただけだ。ほら、綺麗にしておいたから今返すぞ」

「え、ええ。ありがとう。でも、さっきのフーマくんはどう見ても鎧に欲情する変態さ…」

「さぁ! 今すぐベッドに向かおう! 俺はマイムとトウカさんと一緒に寝れるこの時をずっと待ってたんだ!」

「ふ、フーマ様と一緒に…」

「そ、そうね。あまりフーマくんを待たせすぎたら可哀想だし早くベッドに向かいましょう」



 そう言って赤くなった顔で恥ずかしそうにモジモジとする舞とトウカさん。

 あっぶねぇ、何とか誤魔化せたみたいだな。

 危うく舞に変態の汚名を着せられて立ち直れなくなるところだった。

 まぁ、変態と言われても仕方ない事をしてたんだけどさ。



「それじゃあ、俺は片付けを済ませたらすぐに寝室に向かうから先に行って準備しててくれ。流石にその格好で寝るわけじゃ無いんだろ?」



 今の舞とトウカさんは普通に余所行きの格好をしているし、寝る前にパジャマなり寝巻きなりに着替えるはずだ。



「そうね。フーマくんの好みにぴったりのネグリジェを用意したから、覚悟すると良いわ! さぁ、行きましょうトウカさん」

「ま、マイム様? 本当にあのネグリジェを着るのですか?」

「ええ。きっとあれを着たらフーマくんを悩殺できる筈よ!」



 舞はそう言うと、恥ずかしそうな顔をするトウカさんを引っ張って寝室へと入って行った。

 一方リビングに残された俺は急いで鎧と手入れ道具をアイテムボックスに仕舞い、風呂に入っているローズの鼻唄を聴きながらもう一度歯を磨いて、サッと髪型を整えた。

 今日は添い寝をするだけでその先に進むつもりは無いが、こういうエチケットは大事だって聞いた事があるからな。


 そんな事を考えながらコップ一杯分の水を飲んだ俺は一度深呼吸をして、舞とトウカさんの待つ寝室のドアをノックした。



「入って良いか?」

「ええ、もちろんよ!」

「ど、どうぞ」



 そんな自信満々の舞のセリフと恥ずかしそうにしながらも受け入れてくれたトウカさんのセリフを聞いた俺は、(はや)る心臓の音を聞きつつ二人の待つ決戦の大地(寝室)へと脚を踏み入れた。

6月16日分です

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