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80話 優秀な従魔

 風舞




「ああ、はい。そこは木を切って落とし穴を掘るよりも木に油をかけておく方が良いと思います。そうすれば第1階層のグリーンエイプの様に木登りが得意そうな魔物をそこである程度減らせる筈です。後は陣を敷く為に周りの木を間引くにしても、ある程度は残しておいた方が魔物の誘導もしやすいと思いますよ。トウカさんの家から里までの通路を太くして、切った木を残りの森の中に転がしておくだけでもそこそこバリケードとして役立つと思います」

「しかし、そうなると柵を設置する為の木材が用意できないのではないか?」

「エルフの皆さんは魔法が得意みたいですから柵を挟んでの戦闘はあまり無いでしょうし、柵の代わりにいくつかデカい石を置いておくので遠距離攻撃はそれを盾にして防いでください」

「なるほど。確かに石を置いておいてくれれば後は我々で土魔法で加工すれば少ない魔力消費で木材よりも丈夫な柵が出来るか」

「それと、柵を設置する際は魔物の侵攻ルートに対して垂直に置くのではなく、斜めに置くと良いと思います。そうすれば魔物を正面から受け止めなくても済みますし、間延びした軍勢は攻撃の密度が薄くなりますからね」

「ふむ。まさかフーマから我が妹と同じ戦略が出てくるとは思わんかったが、これは中々に効果的じゃぞ。妾も戦場で何度か使った事があるが、敵の軍の密度をある程度自分達で操作できるだけでもかなり楽に戦を進められる」

「聞いたか? 数時間後にはお前達に実際にその様に指揮してもらうから各自しっかりと頭に入れておけ!」

「「「はっ!!」」」



 スタンピード対策会議に俺達も参加しておよそ2時間半、俺はファーシェルさんに頼まれた通り思った事をそのまま口にして実際に使えるのか判断してもらっていた。

 勿論戦争初心者の俺の意見が全て通る訳では無いが、相手が人間ほど知能の高くない魔物であるためか言ってみた事の半分は実際に採用される事になっている。

 俺の知識の出所は漫画やアニメやゲームなのに、まさかこんなにも役立つとはかなり意外だ。


 そうそう。

 俺は異世界に来てこういう活躍をしたかったんだよ。

 断じて舞に椅子にされた事でエルフの皆さんに有名になりたかった訳では無かったのだ。


 なんて事を考えながら思わぬ活躍の場をいただけて満足感を感じていると、俺の横に立っていた舞がコップに入った水を差し出してくれた。



「お疲れ様フーマくん。作戦会議にも参加できるとは、流石はフーマくんね」

「ありがとう。とは言っても、漫画やアニメで見た事を試しに言ってみてるだけなんだけどな」

「それでもこうしていくつかは採用されてるんだから大したものよ。ほら、シェリーさんとファルゴさんは途中でお腹が空いたって言ってどっかへ行ってしまったもの」



 そう言った舞の指差した方向に目を向けてみると、ファルゴさんと団長さんの立っていた位置に2人分のスペースが出来ていた。

 まぁ、あの人達は会議よりも実戦で真価を発揮するタイプだし、ここにいても仕方ないと考えるのは無理もない気がする。



「言われてみれば俺も腹が減ってきたな」

「あぁ、もうそんな時間か。私達はこのまま話し合いを続けてるから、お前達も夕飯に行ってきて良いぞ」

「すみませんファーシェルさん。それじゃあ、お言葉に甘えて良いですか?」

「ああ。フーマに話を聞きたいと思っていたところはさっきので最後だし、お前達には朝から働いてもらわねばならないから、さっさと飯を食って寝てくれ」

「分かりました。それじゃあ夕飯が食べ終わった頃にまた来るんで、岩を置いておく場所を後で教えてください。あ、水も必要でしたらたくさんあるんでそっちもお願いします」

「そうか、水は何かと使うから用意してくれると助かる。岩を置いておく場所は後で使いを出すから、フーマ達は少しでも部屋で休んでてくれ」

「流石にそれは悪いですし、ここまで自分で来ますよ?」



 俺は転移魔法が使えるから別に何の手間でも無いしな。

 ていうか、みんな忙しそうにしてるのに俺への伝言の為だけに働かせるのが心苦しい。



「いや、迷宮王狩りをするお前達には万全の状態で明日を迎えて貰わなくてはならないから、このぐらいはさせてくれ」

「そうよフーマくん。フーマくんは今回の戦争の要なんだから、少しでも長く休憩させてもらいましょう。と言うより、折角フーマくんと添い寝するんだから早く部屋に戻りたいわ。ね、トウカさん?」

「い、いえ。私はその様なはしたない事は考えていませんが、フーマ様は少しでも早くお休みになって体力と魔力の回復に努めるべきだと思います」

「そういう訳だ。何かと落ち着かないのは分かるが、お前は休むのも大事な仕事だ。それでも働きたいと言うのなら、明後日から事後処理を好きなだけやらせてやるから安心しろ」

「よ、よーし。早く飯を食って寝よっと。それじゃあ、さっさと行こうぜ!」

「あ、僕は少しだけやる事があるからまだここにいるよ。どうせ僕がついて行ってもマイムや姉さんの邪魔になりそうだしね」

「妾もまだ気になる事がいくつかあるから少しだけ残る。お主達が寝る前には部屋に戻るじゃろうから、待っておってくれ」

「分かった。それじゃあ、お先に失礼します」

「ああ。明日は頼んだぞ」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」



 こうしてエルフの軍人さんの会議を手伝わせて貰えた俺は、一足先に失礼させてもらう事となった。

 これ以上ここに残っていても難しい話は分からないし、邪魔になる前にお暇しておいた方が良いだろう。

 子供のうちは自分の身の程を弁えて、大人の世界にはあまり自分から頭を突っ込まない方が可愛がって貰えると幼い頃に母さんに教わったしな。



「さてと、私達のめくるめく夜はこれからよ! さぁ、まずは腹ごしらえに行きましょう!」

「ま、マイム様? いきなり走り出さないでください!」

「あぁ、こうなったマイムには何を言ってもダメですよ。諦めてマイムに引っ張られてください」

「ふ、フーマ様!? 何故その様な全てを悟った様なお顔をしていらっしゃるのですか?」

「さぁ! 美味しいお料理が私達を待っているわ!」



 そんな感じで元気いっぱいの舞ちゃんに引っ張られながら、俺とトウカさんは決戦前夜のバタバタと忙しない宮殿の廊下を走って行った。

 はぁ、もうすぐ舞とトウカさんに挟まれて寝るのか。

 凄い緊張してきた。




 ◇◆◇




 風舞




「だぁぁ、食い過ぎた」



 宮殿の中庭でたんまりと夕飯をいただいてきた俺は、そう言いながら自室のベッドに倒れこんだ。


 エルフの里では戦の間は戦闘に参加しない人達総出で洗濯や料理をするらしく、宮殿の中庭は炊き出しをするエルフとそれを食べに来たエルフとでごった返していた。

 一般市民のエルフ達はまだ何と戦うのかすらもよく知らない様だったが、戦が始まると聞いたらこうして即座に対応できるのが、エルフの里の軍隊が無敗の記録を持っている要因の一つでもあるのだろう。



「この雰囲気なら世界樹がダンジョンだって伝えてもみんな受け入れてくれそうだよなぁ」



 里に混乱を及ぼさないために世界樹がダンジョンであるという情報を町中で言いふらさずにファーシェルさんやハシウスに内密に会いに行ったりもしたが、先ほどのたくましいエルフ達を見る限りそれは考えすぎだったかもしれない。


 なんて事を考えながらぼんやりと天井を眺めていると、俺の真横から聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「オホホホ。こんばんはご主人様。良い夜ですわね」

「そうだな。ところでエルセーヌさん」

「オホホ。どうなさいましたか?」

「そうやって必要のない時まで俺が気づかない登場の仕方をするのをやめろ。あと、俺の胸をさするな」

「オホホホ。興奮してしまいましたか?」

「ウルセェ!」



 そう言って身体を起こすと、俺の横で添い寝していたエルセーヌさんはベッドから降りて俺の目の前に立って居住まいを正した。

 ちっ、エルセーヌさんもそこそこ美人だからこういうからかわれ方をすると微妙にドキッとするんだよな。

 今だってどういう訳かエルセーヌさんの首輪を締めようとは思えないし。



「で、何の用だ?」

「オホホ。ファーシェル様からの伝言で参りましたわ」

「あぁ、石を置きに行く件か」

「オホホホ。その通りでございます。早速向かわれますか?」

「ああ。マイム達には迎えが来たら行くって言ってあるからそうしよう」

「オホホ。お二方はどちらに?」

「風呂に入って来るってさ。よし、それじゃあ先ずはどこに行けば良いんだ?」

「オホホホ。私もご主人様と添い寝したいので先ずはお風呂で私の体を隅々まで洗ってくださいまし」

「分かった。とりあえず、最近よく通ってた門に行って来るな。じゃ、エルセーヌさんも遅れずにさっさと来いよ」



 そうして、俺はアホな事を言ってくるエルセーヌさんを部屋に残して世界樹とエルフの里を繋ぐ門の上まで転移した。

 ここなら顔見知りの門番さんも何人かいるし、話しかけて要件を伝えれば対応してくれるだろう。

 俺はそんな事を考えながら、世界樹の方を向いて警備をしている顔見知りのエルフの青年に話しかけた。



「こんばんは。バリケードを作るための岩を持って来ました」

「ぬおっ!? き、鬼畜王か。いきなり現れるもんだから驚いたぞ」

「その鬼畜王って呼び方なんですけど、誰が広めてるんですか?」

「さぁ。俺も同僚から聞いただけだからそこまでは知らないが、軍隊に所属している誰かだと思うぞ」

「そうですか」



 これは先ほどの会議の時に確信した事なのだが、エルフの軍隊では俺は鬼畜王という名前で呼ばれているらしい。

 ターニャさんとの模擬戦の後からエルフのメイドさんに目を背けられたり、「おい見ろよ。あれがターニャ様を一方的に追い詰めた鬼畜の人間らしいぜ」とか言われたりしてたから、おそらくターニャさんとの模擬戦が原因だとは思うのだが、かなり不名誉な二つ名を付けられてしまった。

 幸いにも宮殿で働くエルフや軍隊の中でしかまだ広まっていないみたいだが、一般市民のエルフに広がるのも時間の問題な気がする。



「ちっ、なんとしても活躍して黒髪の英雄とかカッコいい二つ名を広めないと」

「ん? 鬼畜王は英雄になりたいのか?」

「いや、英雄とかに興味はないですけど、カッコいい二つ名が欲しいだけです。ってそうじゃなくて、バリケード用の岩を持って来たんで、どこに置けばいいのか教えてくれませんか?」

「とりあえずはこの門の前に置けば良いと思うけど、岩なんてどこに持ってるんだ?」

「どこってここですけど」



 俺はそう言いながらアイテムボックスから1メートル四方の立方体の石を取り出して、俺の真横に置いた。

 このサイズの石なら俺のアイテムボックスに数百個は入ってるし、形も良いから加工もしやすいだろう。

 これを作ってくれたボタンさんには感謝しなくちゃな。



「お、おい。今どこから出したんだ?」

「どこってアイテムボックスですけど」

「おい! そういう貴重な魔法はあんまり人前でポンポン見せるな! 俺たちは魔法が得意なエルフだからまだ良いが、人間の間じゃ転移魔法みたいな貴重な魔法を使える様な奴は奴隷にされて死ぬまで働かされるって聞いたことあるぞ!」

「す、すみません。でも、ターニャさんとの模擬戦でも使ってたんで別に良く無いですか?」

「あの試合の詳細は軍のお偉いさんしか知らないんだ。俺たちが知ってるのはせいぜいお前がターニャ様に圧勝した事と、お前が鬼畜だって事だけだ」

「そうだったんですか。てっきり俺が転移魔法が使える事はみんな知ってるんだと思いました」

「確かにお前が転移魔法を使える事はトウカ様の演説の一件で噂にはなっているが、それもあくまで噂に過ぎないし実際にお前が転移魔法を使えると信じてる奴はかなり少ない。それだけ転移魔法が貴重な魔法だって事だ」

「す、すみません」

「はぁ、こんなアホな奴がターニャ様よりも強いってんだから世の中謎だらけだよな。それじゃあ、俺は隊長を連れて来るからお前は大人しく待ってろ! 良いか、くれぐれも余計な事はするなよ?」

「はい。分かりました」



 エルフの門番さんはそう言うと、階段を降りて行ってしまった。

 最近は何も考えずに転移魔法を使ってたけど、そういえば人前で見せるのは良くないってローズも言ってた気がする。

 奴隷にはなりたくないし、今後はもう少し気をつけた方が良いか。



「オホホホ。まったく、ご主人様は(わたくし)がいないとダメダメですわね」

「ちっ、何も言い返せないのが凄く悔しい」

「オホホホ。そもそも、ご主人様が会議室から退出されてから1時間ほどしか経っていないのに、この様な末端まで柵の配置場所などの細かい情報が伝わっている訳が無いではありませんか」

「そ、そうだな」

「オホホ。悔しそうな顔をなさるご主人様は大層可愛らしいですわね」



 エルセーヌさんはそう言うと、ニヤニヤとムカつく笑みを浮かべながら俺の頭を撫でてきた。

 体の芯からカァっと熱くなるのを感じる。



「オホホホ。この様なダメダメなご主人様には優秀な私が常についていないと駄目ですわね」

「だぁぁっ、もう! 調子に乗るな!」

「ぐぇっ! オホホホホホホ。失礼いたしましたわ」



 くそっ。

 従魔が俺よりも優秀すぎて何を言い返しても負け犬の遠吠えみたくなってしまう。

 今もエルセーヌさんは首を絞められてるのに楽しそうにニヤニヤと笑っているし、これじゃあ俺が癇癪を起こす子供みたいじゃないか。


 そう思えてきてなんだか虚しくなった俺は、エルセーヌさんの拘束を解いた。



「はぁ、俺の方こそ置いて行って悪かった。それじゃあ、さっきの門番さんに宮殿から使者が来たって言ってくるから、その後に案内してもらっても良いか?」

「オホホホ。もちろんですわご主人様」

「ありがとな」

「オホホホ。よく聞こえませんでしたわ。もう一度大きな声で言ってくれませんか?」

「あ! り! が! と! う!」

「お、オホホホ。鼓膜が破けるかと思いましたわ」

「ちっ、自分から言わせといて我儘言うな」

「オホホホ。やはりご主人様の従魔になって正解でしたわ」

「そりゃどうも」

「オホホホホホホ」



 そんな感じで俺はニヤニヤとムカつく顔をしているエルセーヌさんのオホホを聞きながら、ちょっぴり嬉しさを感じつつ階段を降りて行った。

6月15日分ですわ。

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