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79話 ぶふぉっ!!?

 

「ただいま」

「今戻ったわ!」



 ソレイド近郊の草原から世界樹のトウカさんの家に転移魔法で戻ると、案の定ローズ達は既に世界樹から戻っていた。

 全員鎧や武器などを装備していないし、そこそこ前からここで待っていたみたいである。  



「お帰りなのじゃ。どうやら無事に仲直りできたみたいじゃな」

「ええ! フーマくんの魅力にメロメロにされてしまったわ!」

「へぇ、中々フーマもやるじゃねぇか」



 ファルゴさんがそう言いながら俺の首に腕を回してきて頭をわしゃわしゃと力強く撫で始めた。

 めちゃくちゃ恥ずかしいからやめてほしいんですけど。



「それより、俺達がいない間に何か異常はありませんでしたか?」

「異常っていうほど異常な事はないが、強いて言うならあれじゃないか?」



 ファルゴさんがそう言って指を指す方向に目を向けると、ソファに座って静かにお茶を飲むトウカさんと、そのトウカさんに膝枕されているユーリアくんがいた。

 心なしかユーリアくんが困った様な顔をしている気がする。



「なんすか、あれ?」

「俺達がここに戻ってきた時にフーマ達は二人で出かけてるってトウカさんに伝えたらああなった」

「何でまた?」

「さぁ? 自分で聞いてきたらどうだ?」



 ファルゴさんはそう言うと、俺の背中を押してトウカさんの前に差し出した。

 俺が目の前に現れたのにも関わらずトウカさんは目を閉じたままお茶を飲んでいる。

 なんとなくトウカさんに話しかけるのが躊躇われた俺は、とりあえず目があったユーリアくんに話を聞いてみることにした。



「なぁ、何で膝枕されてるんだ?」

「何でだろうね。僕の方が理由を聞きたいぐらいだよ」

「当人でも分からないのか?」

「うん。フーマとマイムが二人で出かけたって話したら、急に僕に膝枕される様に言って来て、それからずっとこんな感じなんだよね。ちなみに逃げようとするとほら、」



 ユーリアくんがそう言いながら体を起こそうとすると、お茶を飲んでいたトウカさんがユーリアくんの頭をそっと押さえつけた。



「こうなるんだよ」

「な、なるほど?」

「フーマ達が戻ってくれば解放されると思ったんだけど、そうならないみたいだし助けてくれない?」

「なんだそりゃ」



 膝枕されてて助けてくれない?なんて言ってくる人初めて見たぞ。

 まぁ、どうやら俺達が原因みたいだから一応話しかけてはみるけどさ。



「すみませんトウカさん。ただいま戻りました」

「お帰りなさいませフーマ様。ご無事な様で何よりでございます」

「あ、どうも。それで、何でユーリアくんを膝枕してるんですか?」

「何となくです」

「何となくですか」

「はい。何となくです」

「そ、そうですか」



 え? なにこれ。

 とりつく島も無いんですけど。

 トウカさんは目を閉じたまま俺と目を合わせてくれないし、こんなのどうしようもなくね?


 なんて事を考えながらユーリアくんと一緒に困った顔を向けあっていると、ローズや団長さんと共にこそこそと話し込んでいた舞がこちらにやって来た。



「ねぇフーマくん。何をしているのかしら?」

「えっと、ユーリアくん救出作戦?」

「姉さんが僕を膝枕したまま解放してくれないんだよね」

「あらそうなの。それじゃあ、私が助けてあげましょうか?」

「えっ? マイムにそんな事出来るのかい?」

「余裕よ、余裕。まぁ、見てなさい」



 舞はそう言うと、目を閉じたままお上品にお茶を飲むトウカさんに話しかけた。



「ねぇトウカさん。貴女、今晩フーマくんと添い寝して良いわよ?」

「ぶふぉっ!!? 」



 舞の突拍子の無いセリフを聞いたトウカさんが、飲んでいた紅茶を吹き出して今までのトウカさんからは聞いたことも無い様な声を出した。

 って、あーあ。ユーリアくんの顔がびしゃびしゃになってるよ。

 俺はそんなユーリアくんの顔にタオルをのせてやり、けろっとした顔をしている舞に話しかけた。



「なぁマイムさん? 何をどうしたらそうなるんだ?」

「え? だってトウカさんが寂しさをユーリアさんで誤魔化してたから、フーマくんと添い寝すれば解決するでしょう?」

「そ、そんな事ありません!」

「それじゃあ、フーマくんと添い寝しなくても良いのかしら?」

「そ、そんな事ありません……」

「それじゃあそれで決まりね。フーマくんも良いかしら?」

「え? 本当に添い寝するのか?」

「そうよ。ちなみにトウカさんの反対側では私も寝るから安心してちょうだい」

「あ、マイムも一緒なのね」

「当然でしょう? 二人っきりだとトウカさんが深夜にフーマくんを襲いだすかもしれないでしょう?」

「襲いません!」

「あぁ、なるほど。それじゃあ確かにマイムがいた方が良いかもな」

「でしょう?」

「だから襲いませんってば!」



 顔を真っ赤にしたトウカさんが勢い良く立ち上がりながらそう言った。

 あれま、トウカさんに膝枕されながら顔にかかったお茶を拭いてたユーリアくんが床に落ちちゃったよ。



「大丈夫か?」

「うん。ありがとうフーマ。僕は大丈夫だよ」



 ユーリアくんはそう言いながら体を起こすと、タオルを持ったまま遠い目をしてとぼとぼと廊下を歩いて行った。

 えーっと、ドンマイユーリアくん。



「さてと、それじゃあ問題も片付いたし宮殿に向かいましょうか」

「片付いてません!」

「あら、淑女たるもの常に落ち着いていないとダメよ。ね、フーマくん?」

「え? そこで俺に振るのか? えーっと、ミレンはどう思う?」

「淑女からかけ離れたマイムが何を言ってるんじゃと思わなくもないんじゃが、妾は今晩どこで寝れば良いんじゃ?」

「もちろん私達と一緒に寝るのよ!」

「ふむ。それならば何の問題も無さそうじゃな」



 いやいや、問題だらけだしむしろ問題が積み上がってるだろと思いもしたが、それを言ったら面倒な事になりそうだからやめておいた。

 その後、女性陣でどのような位置取りで寝るのかについて話をしている間に服を着替えたユーリアくんが戻ってきたところで、俺達は揃って宮殿へと向かった。


 これは余談なのだが、家を出てエルフの里へと歩いている間、一番後ろを歩いていたトウカさんが少しだけ嬉しそうな顔をしながら小さくガッツポーズをしていたのを見て、ちょっぴりドキッとしました。




 ◇◆◇




 風舞




「オホホホ。お待ちしておりましたわ皆様」



 色々と準備を済ませた後、全員で宮殿に向かうとエルセーヌさんが我が物顔で正面玄関から出て来て俺達を出迎えてくれた。

 宮殿の門番の青年エルフもエルセーヌさんがこうしてここにいる事に何の疑問も持っていないらしく、普通にエルセーヌさんにお辞儀とかしちゃっている。

 おいおい、こんなんでエルフの警備兵は大丈夫なのか?



「うむ。出迎えご苦労である。それで、軍の準備はどの程度進んでおるんじゃ?」

「オホホ。既に部隊の編成は終わり、いつでも出撃できる様になっていますわ。細かい話はファーシェル様が会議室でお待ちですのでそちらで」

「うむ。それでは案内を頼むぞ」

「オホホホホ。かしこまりましたわ」



 あれま、俺がボケっとしてる間に話が終わっちゃたよ。

 流石元魔王と魔王の妹の元従者なだけあって、こういう伝達は大した内容じゃなくてもかなり様になるな。



「ふふっ。何だか今日のミレンちゃんは活き活きしてる気がするわね」

「ああ。あれが本来のあいつの姿なんだろうな」

「む? どうしたのじゃ? 早く来んと置いていってしまうぞ?」

「ああ、悪ぃ。今行く!」

「ええ、今行くわ!」



 そんな感じで、俺たち一行はエルセーヌさんとミレンの後に続いてファーシェルさんの待つという会議室へと進んだ。


 エルセーヌさんに案内されて宮殿の廊下を進む事しばらく、俺たち一行は会議室のドアの前に立っていた。

 ここまで何人かのエルフを見かけたが皆忙しそうな顔でバタバタと動き回っており、エルフの里が一丸となって動き始めているのを感じた。

 ここ数日に宮殿の中で見かけたエルフのメイドさんも忙しそうにしていたし、末端の人まで何かしらの仕事を割り振られているのだろう。



「オホホホ。こちらがファーシェル様のいらっしゃる会議室ですわ。会議は既に始まっていますので、皆さまは中に入ったら適当な場所で話の進行具合を確認してくださいまし」

「うむ。ご苦労じゃ。では、早速入るとするかの」



 ローズはそう言うと、何の遠慮もなく扉を開けて中に入って行った。

 中で話していたエルフのお偉いさん達の視線が、俺たちの方へ一斉に向けられる。

 そんな視線の中の一つであるファーシェルさんは俺達、というか俺の姿を確認すると笑顔で俺の元へ歩いてきた。



「おぉ、待っていたよお前達。よく来てくれたね」

「ど、どうも。遅くなってすみません」

「なぁに、フーマは私達エルフの救世主なんだから謝る事はない」

「救世主、ですか?」

「そうとも。よく聞けお前達! お前達もよく知っているだろうが、ここにいるフーマはターニャを一方的に追い詰めた圧倒的な実力者だ! こいつがいる限り私達に敗北は無いと知れ!!」



 え? 何それ?

 もしかしてファーシェルさんは魔物との大決戦に際して俺の力をあてにしてるのか?



「おぉ! あの鬼畜王フーマが力を貸してくれるのなら、何も怖いものはないな!」

「けどさ、私、鬼畜王があっちの黒髪の人間の女の子に乗り物にされてるのを見たわよ?」

「それじゃあ、鬼畜王よりもあの人間の娘の方が強いという事なのか?」

「分からんがあの人間の娘の覇気はかなりのもんじゃし、只者では無いのじゃろう」


「ふふん! 聞いたフーマくん? みんな私達の実力を買ってくれているみたいよ?」

「あ、ああ。どうやらそうみたいだな。超逃げたい」



 俺がそんなセリフをボソッと呟くと、ファーシェルさんが口元に笑みを浮かべたまま俺の近くまで寄って来て耳元で囁いてきた。



「なぁフーマ。ハシウスとターニャを世界樹の中に放置して私の仕事を増やしておいて、まさか逃げようだなんて無責任な事は言わないよなぁ?」

「も、もちろんですよ! 馬車馬の様に働くんで何でも命令してください!! よーし! エルフのみんなを幸せにする為に頑張っちゃうぞぉ!!」

「良い子だ。それじゃあ先ずは、私が考えた部隊の配置を説明するからフーマは最適な罠と攻撃方法を考案してくてくれ」

「え? いきなりそんな事言われても、俺には軍事なんて分かりませんよ?」

「大丈夫だ。お前にそこまで専門的な話をするつもりはないから、思いついた事をそのまま口にしてくれればそれで良い。お前が嫌がらせが得意だって事は今現在私が身をもって体感してるからなぁ」



 怖い。

 怖いよファーシェルさん。

 何で笑顔を浮かべてるのにそんなにドスの効いた声が出てくるんだよ。


 って、俺がファーシェルさんに虐められている間にみんなそれぞれで自己紹介をしてエルフの軍人さんに溶け込んでるし。

 良いなぁ、俺もあんな感じで楽しそうにエルフのお姉さんと話とかしたかった。



「よし、全員顔合わせは済んだ様だな。それでは、作戦会議を続ける!」



 こうしてファーシェルさん進行の下、スタンピード対策会議が始まった。


 ちっ、何でファーシェルさんが俺が世界樹の中にハシウス達を置いて来た事を知ってるんだよなんて事を考えながらふと辺りを見回すと、俺の方を向いてにっこりと笑うエルセーヌさんと目が合った。

 俺と目が合ったエルセーヌさんが口パクで何かを言っている。


 オホホホホ。ざまぁ見ろですわ。


 クソっ!

 あの金髪ドリル女、絶対シメる。

 何があってもシメる。


 なんて事を考えながらエルセーヌさんにガンを飛ばしていると、軍隊の配置について説明していたファーシェルさんから叱り声と説明用の駒が飛んできた。



「おいフーマ! 私の話を聞け!!」

「す、すみません!」



 はぁ、真面目にエルセーヌに付き合っていた俺が馬鹿だった。

 俺はそんな事を考えながらエルセーヌさんの首輪を強く締めて、ファーシェルさんの話に集中を始めた。





6月14日分です。

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