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78話 夕日に向かって…

 風舞




 世界樹からどこか落ち着ける場所へ行こうと考えて俺が転移した先はソレイド近郊の草原の上だった。

 辺りを見回してみると、俺達がこの世界に来て最初に転移して来た魔の樹海とソレイドの高い外壁、さらにはオレンジ色に染まり始めた綺麗な夕焼け空が見えた。


 そんなロケーションの中で草原の上に腰をおろすと、俺の胸に顔をくっつけていた舞もそのまま腰をおろした。



『さて、フーマとマイの乳繰り合うところを見ても面白くないので私は戻りますね』

「ありがとうございますフレンダさん」

『ふん。何故私が礼を言われるのかは分かりませんが、私に恩義を感じるのなら今晩にでもオセロの相手をしてください』

「はいはい。そのくらいなら全然構いませんよ」

『では、私は失礼いたします。しっかりやるのですよ』



 フレンダさんはそう言い残すと、白い世界へと戻って行った。

 俺にはフレンダさんが感覚共有をオンにしているのかオフにしているのかはフレンダさんが喋らない限り分からないが、あの人はなんだかんだ頼りになる大人だし本当に白い世界に戻ったのだろう。



「さてと、そろそろ落ち着いたか?」

「ええ。ありがとう風舞くん」



 俺の問いかけに対して、舞はなおも俺の胸に顔を埋めたままでそう返事をした。

 俺はアイテムボックスから綺麗なタオルを取り出して舞に渡しながら再度話しかける。



「やっぱりエルフの里に比べるとこっちの方が少し暑いよな」

「そうね。鎧を着てると少し蒸すわ」

「じゃあ、鎧は預かるから脱いでも良いぞ。ていうか、暑いから俺が脱ぎたい」

「分かったわ」



 舞はそう言うと、俯いたまま俺から離れて後ろを向いてレッドドラゴンの鎧を脱ぎ始めた。

 俺も自分の武装を解除してアイテムボックスにしまってから、舞が足元に置いたレッドドラゴンの鎧とタオルに手を伸ばしてそれもアイテムボックスにしまってた。

 舞が一つに束ねていた髪をほどきながら、背中を俺に向けたままで口を開く。



「ねぇ風舞くん」

「ん? どうした?」

「風舞くんはこの世界に来てから、凄くカッコ良くなったわね」

「そ、そうっすか」

「ふふっ、そうっすよ」

「舞も、舞もこの世界に来て凄く可愛くなったよな」

「ありがとう風舞くん。凄く嬉しいわ」



 舞はそう言いながら、俺の方を振り返ってふんわりと微笑んだ。

 さっきから俺の心臓の音が煩すぎるせいか、頭がぼんやりとして全く回らない。



「なぁ舞」

「何かしら?」

「俺は……、いや、何でもない」

「ふふっ、おかしな風舞くんね」

「そうか?」

「ええ。とってもおかしいわ」



 舞はそう言うと、俺の右手をそっと掴んでゆっくりと歩き始めた。

 俺は舞に手を引かれながら、舞の隣を一緒に歩いた。



「ねぇ風舞くん。風舞くんってかなり女の子にモテるわよね」

「い、いやぁ、そんな事無いと思うぞ」

「言い換えるわ。風舞くんはかなり女の子にモテます」

「あ、はい。そうですか」

「それでね、私はとてもとても不安な訳です」

「はい。すみません」

「私は風舞くんとずっと一緒にいたいけれど、風舞くんがシルビアちゃんやトウカさん、もしくはボタンさんやフレンダさんと結ばれたら、私は邪魔になってしまうと思うのよ」

「そんな事は無いと…」

「話は最後まで聞きなさい」

「あ、はい。すみません」

「私は風舞くんと一緒にいたい。でも、風舞くんの邪魔にはなりたく無い。そうなると私が風舞くんにとっての一番になるしかないのよ」



 そこで私をもっと見て欲しいとか、風舞くんにとって私はどういう存在なの? とか言わずに、俺にとっての一番になるしかないと言うのがかなり舞らしいと思った。

 俺はこういう舞の思い切りの良いところも好きなんだと思う。



「それでです。私はどうすれば他の女の子達よりも前に出れるかを考えました」



 舞はそう言うと、俺の手を離して俺の真正面に立った。

 舞の顔が真っ赤に染まっているのが夕日のせいでは無い事が余裕でわかるぐらい、舞は俺の顔を真っ直ぐ見つめている。



「は、はい」

「本当なら私の夢のためにこれをするのはやめておこうと思っていたのだけれど、もうそんな事言ってられないわ。風舞くんは今から私が言う事を一語一句聞き逃さずにしっかりと脳みそに刻み込みなさい」

「は、はい」



 俺がそう返事をすると、舞は一度目を閉じて深呼吸を始めた。

 草原を穏やかな風が駆け抜ける音と舞の呼吸の音、そして俺自身の鼓動の音が聞こえてくる。

 深呼吸をする舞の顔は夕日に照らされて輝き、思わず見惚れてしまうほど美しかった。


 そうして舞の形の良い胸が肺に押し上げられて上下するのを眺めながら舞の深呼吸が終わるのを待っていると、再び目を開いた舞が俺の顔を真っ直ぐに見つめながら口を開いた。



「風舞くん」

「はい」

「私は……私は、風舞くんが好き! 風舞くんの顔が好き! 性格が好き! 料理が上手なところが好き! 優しいところが好き! 私のお願いをいつも聞いてくれるところが好き! 私の頭を撫でてくれたその手が好き! 困ってる人を見ると放っておけないところが好き! 強いところが好き! 私のパートナーでいてくれる事が好き! 怒っている風舞くんが好き! 泣いている風舞くんも好き! 笑っている風舞くんはもっと好き! 風舞くんの匂いが好き! 体温が好き! 声が好き! ちょっぴりエッチなのに奥手なところが好き! ローズちゃんに回し蹴りされる風舞くんが好き! 女ったらしな風舞くんが好き! そのくせ肝心なところではヘタレな風舞くんが好き!」

「ちょ、ちょっと舞さん? 最初の方は凄い嬉しかったんだけど、途中から俺の事貶してない?」

「そんな事無いわ! 私は風舞くんの全部が好き! 愛してるわ! 世界で一番貴方が大好きよ! 自分でも愛が重いって思うぐらい大好きだわ! どう!? これが私、土御門舞よ! 風舞くんを好きで好きで愛おしくてどうしようもない女の子。それがこの私、土御門舞なのよ!!」

「えーっと。その、何ていうか凄い嬉しい。嬉しすぎてなんて言えば良いのか分からないぐらい嬉しい」

「ふふんっ!! 当然よ! この私がここまで恥ずかしい思いをして告白したのに、風舞くんが嬉しくない訳が無いわ!」



 舞はそう言うと、自分の中で燃え盛る恥ずかしさと照れ臭さを隠すように力強く笑った。

 俺はこの時の舞の笑顔を一生忘れる事は無いと思う。

 それぐらい今の舞の笑顔が魅力的で愛おしかった。



「やっぱり舞には敵わないな」

「安心なさい! 私は常に風舞くんの味方だから敵わなくても大丈夫よ!」

「そうか」

「そうよ!!」



 舞がここまで俺のことを想っていてくれた事と、それを伝えてくれた事が凄い嬉しい。

 俺はいつも舞に色んなものを貰ってばっかりな気がする。

 これは俺も舞の想いに応えないとだな。


 そう思って覚悟を決めて舞に俺の想いを伝えようとしたのだが、舞が俺の口に人差し指をつけてそれを阻んだ。



「ダメよ風舞くん。私はこんなところで風舞くんの返事を聞くつもりは無いわ。私が思わず昇天してしまうくらいのロケーションとシチュエーションでその答えを教えてちょうだい」

「わ、分かった」

「よろしい。それじゃあ、私の事を抱きしめなさい!」

「え? なんで?」

「え? だって抱きしめたいでしょう? いいえ、風舞くんは私の事を抱きしめたいのよ。そうでしょう?」

「あぁ、はい。抱きしめたいです。抱きしめさせてください」

「もちろん許可するわ! さぁ、私を力強く抱きしめなさい!」



 そう言って両腕を広げた舞に俺はゆっくりと近づいて行って舞をそっと抱きしめた。

 舞の豊満な胸が俺の胸に圧迫され、舞の心音が感じ取れるぐらい大きく聞こえる。

 きっと俺の心臓の音も舞に丸聞こえなのだろう。



「ねぇ風舞くん」

「なんだ?」

「好きよ」

「あ、ありがとう」

「愛してるわ」

「…ちょ、超ありがとう」

「ふふふふふ。凄い幸せだわ」



 舞が俺の背中に手を回してサワサワと触りながら、俺の顔に自分の頬をつけて頬ずりを始めた。

 なんか舞に一方的に想いを告げられて抱きしめろって言われて抱きしめて、これじゃあ舞にやられっぱなしで負けた気がする。

 とはいえ、告白の返事はまだするなって言われたし、何か別の方法を考えないとダメなんだけど…。


 と、そんな事を考えながら舞に頬ずりをされながら抱きしめる事しばらく、太陽がそろそろ沈みきる頃合で舞は満足したのか俺からゆっくりと離れた。



「ありがとう風舞くん。凄く嬉しかったわ」

「そりゃあ良かった。そう言えば舞、ソレイドの門ってあんな色だったけ?」

「え? ……って別に変わってないじゃない」



 俺は舞がそう言って俺の方へ向き直ったタイミングで、俺は舞の目の前に転移して、額にキスをした。



「か…」

「か?」

「か、かかか…」

「だ、大丈夫か?」

「か、カッコ良すぎよ。し、心臓が爆発しそうだわ」



 あの舞が凄く恥ずかしそうなに顔を真っ赤にしながら額を両手で押さえてプルプルと震えている。

 俺はそんな舞の見た事がないくらい可愛い姿につい堪えきれず、再び舞を抱きしめた。



「だ、ダメよ風舞くん。し、死んじゃう。私、死んじゃうわ」

「舞。俺にとって舞は特別だ。舞が邪魔になるなんて事は絶対に無いし、俺は死ぬまでずっと舞の隣にいるから安心してくれ」

「わ、分かったわ。分かったから許してちょうだい。もう無理。幸せすぎて本当に死んじゃうから」



 流石にこれ以上は俺自身も耐えられなくなってきたため、舞を抱きしめる腕を緩めた。

 俺の腕の支えを失った舞が草原の上にペタリと座り込んで恥ずかしそうに震えている。



「だ、大丈夫か?」

「み、見ないでちょうだい。顔が緩みきってて恥ずかしいわ」

「そうか? 今の舞は凄く可愛いと思うぞ?」



 俺がそう言いながら舞の顔を覗き込むと、舞がスクッと立ち上がって叫びながら走り去って行った。



「あぁぁ、もう! ズルいわ! バカ! 女ったらし! 大好き! ウルトラ鬼畜チートヤロー!!!!」



 えぇ、いくらなんでもウルトラ鬼畜チートヤローは酷くないか?

 ていうか物凄いスピードで夕日に向かって走ってたけど、一体どこまで走るつもりなんだ?


 俺はそんな事を考えながら、バクバクと煩い心臓を落ち着かせつつ両手を挙げて走る舞の後ろ姿を見つめ続けた。





「ふひっ、ふひひひひひ」

「あのー、舞さん? 大丈夫ですか?」


 夕日に向かって走って行った舞が元の位置まで戻ってくるのを待っていたら、完全に日が暮れてしまっていた。

 というより、日が沈むまで舞が走るのをやめなかったのである。


 その舞さんは現在、ようやく息を整え終わって俺の右腕に抱きついて奇妙な笑い声を上げている。



「ええ。何の問題もないわ。さぁ、みんなももうダンジョンから戻ってる頃だろうし、私達も早く帰りましょう!」

「あ、ああ。そうだな」

「ふひっ」

「…本当に大丈夫か?」

「え? 何の事かしら?」

「いや、大丈夫なら良いんだけどさ」

「ふふふ。おかしな風舞くんね」



 おかしいのは舞の方だろと思いもしたが、舞が幸せそうに笑うもんだからツッコミを入れるのが躊躇われた。



「それじゃ、そろそろ行くとするか」

「ええ! みんなが私たちを待ってるわ!」

「ああ、それじゃあ行くぞ! テレポーテーション!」


 こうして舞との仲をぐっと縮める事が出来た俺は、世界樹の最後の決戦に挑むためにトウカさんの家へと戻った。

 さて、そろそろエルフの里と世界樹を巡る問題をパパッと解決しちゃいますかね。



 

6月13日分です。

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