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76話 処刑か暗殺、もしくは誘拐

 風舞




「オホホホ。お待ちしておりましたわご主人様。ハシウス様がお待ちでございます」



 宮殿のどこに戻るのか微妙に悩みもしたが、地下牢に戻ればエルセーヌさんが待っているかもしれないと思って転移してみたら案の定彼女はそこにいた。

 流石は俺の従魔なだけあって俺がどう考えるかは見通しているらしい。

 探す手間が省けて楽ではあるけれど、微妙に気味が悪いな。



「オホホホ。どうかなさいましたか?」

「いや、なんでもない。それよりも里長が俺を待ってるって?」

「オホホ。詳しい話はハシウス様のお部屋にご案内する間にお話しいたしますので、早速移動いたしましょう」

「ああ。宜しく頼む」



 こうして俺はエルセーヌさんに宮殿を案内されながら、この数分間でエルセーヌさんが何をしていたのか聞く事になった。

 事前にハシウスにアポイントを取っておいてくれたのなら事がスムーズ済んで楽だと考えるところなのだが、俺の秘書役を務めているエルセーヌさんが入れてきたアポイントとなると不安しかない。


 そんな事を考えながらエルセーヌさんに俺がハシウスに呼ばれることになった経緯を聞いたのだが、やっぱりエルセーヌさんは余計なことをしていた。

 むしろ余計な事しかしていなかった。



「おい! お前はファーシェルさんがなんて言ってたのか聞いてなかったのか!」

「オホホ。もちろん話し半分に聞いていましたわ」

「半分じゃなくて全部聞けよ! お前のせいで俺は処刑されるかもしれないんだぞ!」



 俺が牢屋の中にいる間にファーシェルさんに聞いた話によると、ハシウスは自分の父親のハヤテ以外を勇者として認めていないらしく、エルフの里の領内で勇者だと語るものがいたら処刑をするおそれがあるらしい。

 エルセーヌさんもその話を聞いていたはずなのだが、どうしてこのドリル女は俺が勇者だという事をハシウスに話してしまったのだろうか。



「オホホホ。心配ありませんわご主人様。ご主人様が処刑されるような事態には交渉を失敗しない限りなり得ませんし、仮に処刑される事になったら逆にハシウスを暗殺してしまえば良いのですわ」

「何が良いのですわだ! 暗殺なんて出来るわけ無いだろうが!」

「オホホ。転移魔法の使えるフーマ様ならハシウスを適当な場所に連れ出して殺せるでしょうし、アイテムボックスを使えば死体の処理も簡単にできますわ」

「そういう意味じゃねぇよ!」



 はぁ、俺は大人相手に交渉なんてやった事無いのにいきなり里を納めるハシウス相手に交渉を成功させろなんて言われても出来る気がしない。

 頼みの綱だったエルセーヌさん本人が最悪暗殺しちゃえば良いじゃんとか言ってるし、マジでどうすれば良いんだよ。



「大丈夫ですかフーマ様?」

「は、はい! 何の心配もないですよ!」

「そうなのですか? 大変汗をかいていらっしゃる様ですが」

「今日はかなり暑いですからね」

「オホホホ。ご主人様のその汗は冷えてでたものではないのですね。数百年間もの長い間里を治めてきたハシウスを前にしても余裕な様で安心いたしましたわ」

「ちっ、お前マジで覚えとけよ?」



 そんなやり取りをエルセーヌさんの遮音結界に包まれながら話すこと数分。

 俺達はようやくハシウスの部屋の前にたどり着いた。

 そういえば途中ですれ違ったエルフの皆さんが俺が顔を向けるとサッて目をそらしたんだけど、あれはなんだったんだろうか。



「オホホホ。お二人とも準備は宜しいですか?」

「はい。私は問題ありません」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。少し心の準備をしたい」

『はぁ、まったくフーマは情けないですね』

「俺はフレンさんと違って慎重なんですよ」

『おい! それではまるで私ががさつな女であるみたいじゃないですか!』



 えぇ、フレンダさんはかなり大雑把なところがあると思うんですけど…。

 俺に術をかける度に気絶させるし、何の準備もなくいきなり噛みついてきたりするじゃん。



「オホホホ。ハシウス様、フーマ様をお連れいたしましたわ」

「あれ!? なんでもうドアを開けてるんだ?」



 フレンダさんとかなりどうでも良い言い合いをしていたら、エルセーヌさんがいつの間にか音もなくドアを開けて部屋の中にある襖の前でお辞儀をしていた。

 なんでドアがあるのに襖もあるんだ? なんて思いもしたが、ハシウスは和風の物が好きらしいし趣味で作らせたか勇者ハヤテが残していった物なのだろう。


 そんな事を考えながら急いで心の準備を整えていると、その襖の奥から低い男の声が聞こえてきた。

 声音的にかなり機嫌が悪そうである。



「随分とふざけた声だな。まぁ良い、入れ」

「オホホホ。失礼いたしますわ」



 エルセーヌさんはそう言うとそっと襖を開いて、俺に中に入る様に目配せした。

 襖が開かれたことで機嫌の悪そうな顔をしたナイスミドルのエルフと既に目があっているし今から逃げることは出来ないのだが、いくらなんでも急過ぎやしないか?


 俺はそんな事を考えつつも、出来るだけ愛想が良くなる様に頑張って笑顔を浮かべ、靴を脱いでから畳張りの部屋の中に入った。

 ハシウスの部屋は時代劇でよく見るようなお殿様への謁見に使われそうな和室になっていて、ハシウスは上座にあたる位置で肘おきに頬杖をつきながらあぐらをかいて座っている。

 俺はそんなハシウスにじろじろと眺められながらも、畳の(へり)を踏まないように注意して下座のあたりでそっと正座をした。

 トウカさんとエルセーヌさんはそんな俺の斜め後ろにそれぞれ腰を下ろした。



「で、お前が勇者の名を(かた)るフーマで間違いないな?」

「はい。確かに俺がそのフーマです。初めましてハシウス様。この度は私などの為に貴重なお時間を割いていただき有難うございます」

『おいフーマ。あまり下手に出てはなめられますよ?』



 そんな事言われたっていきなりタメ口をきくのもどうかと思うし、俺の中にある形式ばった挨拶がこれしかないんだから仕方ないじゃんね。



「ほう、腑抜けた顔をしている割にはなかなか身の程をわきまえているではないか」

「有難うございます」



 おや? 意外と俺の挨拶は好印象だったのか?

 この調子でどうか怒りを抑えて俺を処刑しないでくれ。



「それよりもエルセーヌ。何故ここにトウカがいるんだ? 俺はトウカまで呼んだつもりはないんだが」

「オホホホ。トウカ様がこちらにいらっしゃったのは彼女自身の意思ですわ」

「何だと?」

「こんにちはお父様。私はお父様にお願いがあって馳せ参じました」

「お願いだと? 巫としての職務を全うできていないお前がお願いを聞いてくれというのか?」

「はい。確かに私は巫としての職務を全うできない未熟者ですが、里をまもりたいという思いはお父様と同じであるつもりです。どうか私の話を聞いてはもらえないでしょうか?」

「お前の思いが俺と同じだと!? ふざけたことを言うな! 俺がどういう思いで数百年にわたり里を治めてきたのかお前には分かると言うのか!? 無能な小娘が知った風な口を叩くな!」



 えぇ、別に今のトウカさんの話にキレるところはなかったと思うけど何で顔を真っ赤にして怒鳴りちらしてんだよ。

 さっきまで凄い怖い人だなって思ってたけど、怒るのがいきなり過ぎて逆に緊張感が抜けちゃったんですけど。



「オホホホ。落ち着いてくださいましハシウス様。先ずはフーマ様との用件を先に済ませてはどうですか?」

「ああ。そうだったな。おいフーマ」

「はい、何でしょうか?」

「お前が勇者だと言うのは事実か?」

「はい。確かに俺はとある国によって日本から召喚された勇者です」

「それでは、この手紙に書いてある事も真実か?」



 ハシウスはそう言うと、側においてあった棚から封筒を取り出して俺の前に放り投げて来た。

 俺はどこかで見た覚えがある様な封筒を手にとってその中身に目を通す。


 ってこれ、ボタンさんが書いた手紙のコピーじゃん。

 俺がアイテムボックスに入ってるものとは微妙に字面が違う気がするし、もしかしてエルセーヌさんが書いたのか?



『あぁ、そう言えばエルセーヌは記憶力がかなり良いのをわすれてました』



 マジかいな。

 こんな宣戦布告状みたいな手紙をハシウスが読んだってことは、間違いなく俺は処刑されるじゃん。



「おい! 俺が質問をしているのに何故黙っている!」

「えーっと、すみません。真実です」



 今さら違うとは言ってもハシウスが信じてくれるとは思えないし、それならば正直に話した方が事が早く済む気がする。

 今日はハシウスと仲良くなりに来たんじゃなくて交渉をしに来たんだし、例えエルセーヌさんが勝手に用意したものでも上手く使うべきだろう。



「そうか。では、お前に最大限の便宜を図らねば我が里はあの忌々しい女狐によって攻められるという訳だな?」

「まぁ、そういう事になりますかね」

「お前には我が父真の勇者ハヤテ様が発展させてきた里に攻撃するという意味が分かっているのか?」

「いや、これに書いてある内容は理解できますけど、あんまり実感はないです」

「実感が無い、だと?」

「はい。俺はその勇者ハヤテさんに会った事ないですし、そもそもこれに書いてある事は俺のお願いを聞いてくれなかった場合に起こりうる事ですので、俺自身に里を攻撃しようという意思は今のところはありません」

「何を言い出すかと思えば、自分が勇者だと騙るばかりか願いを聞けだと!? お前といいトウカといい何故この俺がお前達ごときの願いを聞かねばならんのだ!!」

「別に俺の願いはそんなに興奮するほど大したもんじゃないですよ。ただ、世界樹という名のダンジョンを一般解放して巫とかいうクソみたいな人柱システムをやめてもらいたいだけです。トウカさんの方のお願いもこれに近いものだと思います」

「はい。フーマ様のおっしゃる通り私の願いも今後私の様なエルフが産まれない様にすることと、里の崩壊を回避するために世界樹から湧く魔物を駆逐するためのお力添えです」

「ふざけるな! 世界樹がダンジョンだと!? その様な馬鹿な話があってたまるか!」

「そう言うと思ってたんで、実際に自分の目で見て確かめてください」



 もうこのおっさんと話してるのはかなり面倒になってきたし、さっさと現実に直面してもらうとしよう。

 ていうか、このおっさんといつまでも話をしていたくない。

 俺は早く舞に謝りに行きたいんだよ。



「何っ!? お前は巫でも里長でもないのに世界樹に近づいたのか!?」

「近づかないと調査は出来ないでしょう? それに警備兵さん達は普通に通してくれましたよ。もしかして知らなかったんですか?」

「世界樹は我々エルフの産みの親で神聖な物なのだ! 例え里長の俺でもそう易々と近づいて良いものでは…」

「あぁ、はいはい。エルセーヌさん」

「オホホホ。かしこまりましたわ」



 俺が指示を出すと同時に、エルセーヌさんはハシウスを薄い膜のような結界に閉じ込めてそう言った。

 俺がエルセーヌさんの名前を呼び始めた時には既に動いていたし、大方俺が指示を出すのを今か今かと待っていたのだろう。



「_____!_______!」

「ああ、遮音結界も張ったのか」

「オホホホ。余計なお世話でしたか?」

「いや、なかなか良い判断だと思うぞ。どうせしょうもない発言しかしてないだろうし、声がデカイから凄くうるさかった」

『良いのですか? 流石にここまでやったら、本当に処刑になるかもしれませんよ?』

「大丈夫ですよ。そうなったら逃げますし、よくよく考えたら次期里長はターニャさんになるんだから、別にここに来る必要もなかったんですよね」

「オホホホ。今さらそれに気付くとはご主人様はおバカさんですわね。何か別の思惑があるのではないかと考えた私が恥ずかしくなりますわ」

「えぇ、流石にそこまで馬鹿にする事もなくない?」

「ふふふ。私はお父様と決別する覚悟を決めてここに来たのに、なんだかグダグダになってしまいましたね」

「すみませんトウカさん。初めは真面目に話をするつもりだったんですけど、このおっさんがうるさかったので我慢できませんでした」

「いえ、元はと言えば私はフーマ様にわがままを言って着いてきたに過ぎませんし、話は全てが終わった後でゆっくりとしますから大丈夫ですよ」

「それじゃあ、そろそろ行きますか。あ、このおっさんに危害を加えるつもりはありませんけど、そこに隠れてる忍者の皆さんも一緒に行きますか?」



 俺が適当にそんな事を言いながら3人分の靴を回収してからハシウスの方へ近づいていくと、掛け軸の裏や天井裏や畳の下から三人の忍者が現れた。

 男の忍者が二人に女の忍者が一人の組み合わせである。

 3人とも目元以外は黒い布で隠しているため顔はよくわからないが、その内の1人は体つきが間違いなく女性だし金色の長い髪とエルフ耳は露出しているからクノイチで間違いないだろう。

 エルフの女性にぴっちりした黒い忍装束を着せるなんてハシウスはなかなかいい趣味をしてるな。



「オホホホ。私でも何とか気配を感じ取るのが精一杯でしたのに、どうしてご主人様は隠れている者達が忍者だと分かったのですか?」

「いや、俺には何の気配も感じとれなかったぞ。ただ、ハシウスが無防備に俺達を一人で出迎えるとは思わなかったし、和風の部屋だったからいるんじゃね? と思って言ってみたらこの人達が勝手に出てきただけだ」



 あ、エルフ忍者達が悔しそうな顔をしている気がする。

 でも、俺の当てずっぽうなセリフで出てきちゃう方が悪くない?

 ていうか、ハシウスの護衛ならこのおっさんが捕まる前に出てこいよ。



「それで、貴方達はどうしますか? いきなり襲いかかって来ないなら一緒に連れて行ってあげますよ?」

「……」

「え? 着いてくるんですか?」



 何でこの忍者達は一言も喋らないで、ハシウスを守るように立ったまま動かないんだ?

 もしかして忍者って喋っちゃダメなのか?

 俺はそんな事を考えながら畳の上で自分の靴を履いて立ち上がり、もう一度忍者達に話しかける。



「なんかよく分かんないんで、着いて来たいならハシウスに触っといてください。それじゃあ、トウカさん達も準備良いですか?」

「はい。よろしくお願いいたします」

「オホホホ。私はフーマ様がハシウス様を誘拐、ではなく世界樹までお連れした事をファーシェル様に伝えて参りますわ」

「おい、くれぐれも言葉には気をつけろよ? 次に今回みたいな事をしたらお前が泣くまで尻を叩くからな」

「お、オホホホ。もちろん心得ておりますわ。それでは、失礼いたします」



 エルセーヌさんはそう言うと、ハシウスを拘束している結界を維持したまま姿を消した。

 どうせ注意してもエルセーヌさんならろくでもない事をファーシェルさんに話してしまうのだろうが、ファーシェルさんならエルセーヌさんの話を鵜呑みにはしないだろうし問題ないだろう。



「じゃ、直接世界樹の中まで跳ぶんでちゃんと掴まっててくださいね。テレポーテーション」



 こうして、トウカさんと俺は顔を真っ赤にして怒っているハシウスを連れて世界樹まで戻った。

 あ、結局忍者の皆さんもついて来るんですね。




 ◇◆◇




 風舞




「おい! ここはどこだ! お前は俺をどうするつもりだ!」

「あれ? 結界が外れてる。もしかして転移魔法を使うと結界は取れるのか?」

「いえ。フーマ様が転移される直前に結界が外れていましたし、おそらくエルセーヌ様が外したのでしょう」

「あぁ、なるほど」



 ハシウスを連れて世界樹の中に連れて来た後、俺とトウカさんは周りに魔物がいないかを確認しながらそんな話を始めた。

 先程世界樹の中で長距離転移をした時に魔力の消費量が普段通りだったので、試しに直接世界樹の中に跳んでみたのだが何の障害もなく普通に転移できてしまった。

 ソレイドのダンジョンは転移魔法で外から入る事は出来なかったのに、世界樹だと出来るのか。

 原因が分からないのはなんとなく気持ち悪いが、ダンジョンの外と中を転移魔法で行ったり来たり出来るのは便利だし、まぁ良いか。



「おい! 俺の話を無視するな!」

「ははは。どっかで聞いた様なセリフですね」

『おいフーマ。それは私の事を言っているのですか?』

「いや、そんな事ありませんよ」

「誰と話している! それよりもここはどこだ!」

「どこって世界樹の中ですよ。ここからあっちの方に行くと出口があるんで、出たいなら自分で出てください。じゃ、そういう事で」

「おい! 一体何の目的でこんなことをするんだ!」



 もうハシウスと話すのも疲れたからさっさと別れたかったのに呼び止められてしまった。

 この人は裸足で動き辛そうな着物を着てるのに元気だな。



「目的ですか、そうですね。ハシウスさんは巫の役割が何か知ってますか?」

「巫の役割は世界樹の管理をする事だ! それがどうしたと言うんだ!」

「じゃあ、世界樹の管理が具体的には何をするのか知ってますか? もちろん剪定(せんてい)や雑草を抜いたりじゃないですよ?」

「世界樹の管理とは穢れを廃し、常に正常な状態を保つことだ。巫は世界樹によって……、」

「あぁ、知らないみたいなんでもういいです。巫の仕事はギフトを使ってダンジョンの中で湧く魔物の数を減らす事です。なので、ハシウスさんには今から実際に魔物と戦って巫の仕事を手伝ってもらいます。ハシウスさんはトウカさんの仕事が上手くいってなかったのが歯痒かったみたいですし、それが自分で出来るなら本望ですよね」

「ふ、ふざけたことを言うな! 適当な事を言って俺を暗殺するつもりなんだろう! 第一、ここが世界樹の中だという証拠は無いではないか!」

「それは無事に外に出られたらわかりますよ。それじゃあ頑張ってくださいね」

「お、おい! 待て!」



 そんな感じでハシウスと忍者の皆さんをダンジョンの中に置き去りにした俺は、トウカさんを連れて彼女の家に転移して戻って来た。

 俺の話を信じて俺が指差した通りの道を進んだら徒歩5分くらいで出られるんだけど、ハシウスは俺の事が大嫌いみたいだし反対側に進むのだろう。

 むしろ反対側に進んでくれ。

 そんな事を考えながらトウカさんの家のリビングを見回すと、ソファーの上でくつろいでいたターニャさんと目があった。



「あ、お帰り師匠。どこ行ってたの?」

「ちょっとトウカさんと遊んできました。それよりも、一つ聞いても良いですか?」

「うん。別にかまわないけど、何?」

「ぶっちゃけハシウスさんってどんくらい強いんですか?」

「え? 急に何?」

「ちょっと気になっただけですよ。それよりもどうなんですか?」

「よく分かんないけど、えぇっとそうだねぇ…ステータスだけで考えるならシェリーちゃんよりもちょっと上なくらい?」

「それじゃあ全然問題なさそうですね」

「問題ないって何の話?」

「それを話す前に、ターニャさんって俺の弟子ですよね?」

「まぁ、一応そうだね」

「弟子ってことは俺が出した課題はこなすって事ですよね?」

「まぁ、そうだね」

「じゃあ、今からダンジョンの中に入って日の出までにハシウスさんと一緒に世界樹を攻略してきてください。もちろん魔物を全部倒してこいなんて酷いことは言いませんよ」

「え? ちょ、ちょっと待って。パパが世界樹の中にいるの?」

「はい。ついさっき世界樹の中に置いてきました」

「え? 師匠の言ってることが訳わかんないんだけど」

「ほら、早く行かないとハシウスさんが死んじゃうかもしれませんよ? あ、途中で引き返したら……ターニャさんって何をされるのが嫌ですか?」

「確か大事にしていた日記帳があった筈です」

「じゃあ、その日記帳をターニャさんから奪って街中で音読した後で燃やします」

「ちょっとトウカ! いくらなんでもそれは酷すぎでしょ!」

「私は何も言ってませんが?」

「あぁもう、ムカつく! それじゃあ、私がパパを連れて世界樹を攻略したら何かご褒美はあるの!?」

「何か欲しい物でもあるんですか?」

「それじゃあ、私が課題を成し遂げたらトウカのポエムノートを街中で音読して燃やして!」

「そんなのあるんですか?」

「な、なな、何の事でしょう? 私にはフーマ様が何を言ってるのか分かりません!」



 あぁ、両手をブンブン振ってるしこれは絶対あるな。

 俺もトウカさんがどんなポエムを書いていたのか興味があるし、ターニャさんのご褒美はそれでいいか。



「それじゃあ、ターニャさんが無事にハシウスさんを連れて世界樹を攻略してきたら、トウカさんのノートをぶん取って増刷してから街中で音読して原本を俺が貰うってことで」

「ふ、フーマ様!? ターニャが言ったことと内容が変わっていませんか!?」

「え? 多分気のせいですよ。ターニャさんもご褒美はそれで構いませんよね?」

「うん。増刷したやつを私にもくれるなら良いよ」

「じゃ、頑張ってください!」

「うん! 行って来ます!」



 俺はそう言ってダンジョンへと元気一杯に走って行くターニャさんを見送りながら、腕を組んで笑顔で頷いた。

 よし、これでどっちに転んでも俺には面白い事しか起きないな。



『おいフーマ。ろくな死に方をしませんよ?』

「ふ、フーマ様? 流石に先ほどの話は冗談ですよね?」

「………。さてと、それじゃあ俺も着替えた後でマイムに会いに行きますかね」

『おい! 無視をするんじゃありません!』

「無視をしないでください!」



 こうして面倒事を全て無事に終わらせた俺は、先行してダンジョンに潜っているマイム達に合流するために準備を始めた。

 この後はある程度まで魔物を減らしたらエルフの軍隊の準備が終わるのを待って、人工的にスタンピードを起こす予定らしいんだけど、エルセーヌさんは本当にそんな事が出来るのかね。



6月10日分兼11日分です。

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