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13話 エール

 風舞




 俺達が家を出て少し歩くとすぐに日は暮れた。

 街は街灯と建物から漏れるランプで暖色に染まり、酒場からは食事をする人々の賑やかな声と弦楽器の陽気な音楽が溢れている。



「それで、どこに食いに行くんだ? 行きつけの店でもあるのか?」

「うーむ、そうじゃのう。折角冒険者登録したしギルドの酒場に行くのはどうじゃ?」

「おお! 良いわねそれ。是非ともそうしましょう!」

「フウマもそれで良いかの?」

「ああ、俺も一度あそこで食事してみたいと思ってたんだ。そこにしようぜ」

「うむ。決まりじゃの」



 こうして、俺達一行は再び冒険者ギルドへと足を運ぶ事となった。




 ◇◆◇




 風舞




 冒険者ギルドの中は昼間に来た時よりも冒険帰りであろう人々でごった返しており、酒場の席は一席も空いていない。

 建物の隅の方に座って酒を飲む人々もいる。



「あら、凄い人ね」

「これじゃあ座れなさそうだな」

「そうじゃな。さて、どうしたものかの」



 俺達が入口の辺りで別の所に行こうかと話していると人の多さに立ち尽くしている事に気がついたのか、俺が頭に斧を落としたいかつい顔のおっさんがやって来た。

 もしかして昼間はよくもやってくれたなって言いに来たのだろうか?

 怖い。



『よう!昼間の兄ちゃん達じゃねえか。飯食いに来たのか?』


「な、なあローズ。このおっさん何て言ってんだ?」

「うむ。飯を食いに来たのかと聞いておる」

「そうか。復讐に来たわけじゃないのか」



 良かったー。

 どうやら復讐に来た訳ではないようだ。

 油断していない状態では転移魔法も通用しないだろうし、おっさんとの再戦は避けたいところである。


『ああ、兄ちゃんは共通語が使えないんだったか』

『うむ。この二人はまだ覚えておらぬのじゃ。して、何か用かの?』

『ああそうだった。嬢ちゃん達飯食う場所が空いてなくて困ってんだろ? 俺が食ってるところは3人くらいなら座れるからどうかと思って誘いに来たんだ』

『ほう、それは助かるの。案内してくれ』



 何やらおっさんと同席する事になったらしい。

 俺と土御門さんは話をしながら歩くおっさんとローズの後に続いた。



『フーマのやつ、お主が昼間の復讐に来たと思っておったようじゃぞ。』

『ガッハッハ! 面白い兄ちゃんだ!!』


 俺はまた背中をバシバシ叩かれた。

 え、何?復讐じゃないんだよな?

 本当について行って大丈夫なんだよな?


 そうして俺がおっさんに怯えながら歩き着いたのは、冒険者ギルド内の屋台の横にある木箱が置いてあるスペースだった。

 おや、俺たちの他にも一人先客がいるようだ。

 ん?あのウサミミってもしかして。



「あらあら! また会ったわね!!」

『ひゃう!? な、なんですか? ってマイムさん?』

「うふふ。やっぱり良い触り心地ね」

『ちょ、ちょっとマイムさん? しょ、しょこはだめです! って尻尾まで!?』



 やっぱり受付嬢のミレイユさんだ。

 仕事終わりに一杯やっていたのだろうか。

 隣にいたはずの土御門さんがいつのまにかかミレイユさんの耳と尻尾をモフっていた。

 土御門さんは今にもグヘへって言い出しそうなだらしない顔をしている。



「グヘへヘヘ」



 っ本当に言うのかよ!?



『そう言えばミレイユは嬢ちゃん達の専属になったんだっけか』

『む? 知っておったのか?』

『そりゃあ俺はギルドマスターだしな。専属がつくような有望な冒険者の事は勿論覚えてるぞ』

『おお。お主ギルドマスターだったのか』

『ん?ああ。そう言えば言ってなかったな。俺がソレイドの冒険者ギルドマスターのガンビルドだ。よろしくな嬢ちゃん。』

『うむ。しばらく厄介になるぞ』

『まあ、話はここらにして飯にしようぜ。ここの煮込みは美味いぞ!』

『そうじゃの。それではまずは食事にするとするかの』



 ローズ達の話が一段落するのを見て俺は木箱に座った。

 真ん中にテーブルが置いてあり、その周りを三つの木箱で囲んでいる。

 因みに土御門さんとミレイユさん、俺とローズが同じ木箱に座りガタイの良いおっさんは一人で一つの木箱に座っている。



「さて、お主らは何を食べるんじゃ?」

「んー。ローズに任せて良いか? 何が美味い食い物かいまいちわかんないし」

「うむ。マイもそれで良いか?」

「ええ、私もそれで良いわ」



 土御門さんがミレイユさんにくっつきながら答えた。

 まだ会って一分も立っていないのにミレイユさんの目がとろんとしている。

 なんか、エロいな。



「ああそうじゃった。お主らも何か呑むかの?」

「ええ勿論よ。ね? 高音くん!」



 土御門さんが俺にそう尋ねてきた。

 何を決まりきった事を言っているのだろうか。

 俺たちは日本では未成年だがここは異世界。

 法に定められた年齢制限など存在しない。

 それならば異世界定番のあの酒を飲まずにはいられないだろう。



「ああ、勿論だとも」

「エールを頼む」「エールをお願いするわ!」

「う、うむ」



 ローズが俺達の勢いに驚いたのか少したじろいだ。

 異世界に来たら一度は挑戦してみたかったエールを注文してみた。

 ビールによく似た酒で少し酸味があるらしい。

 いや、よく知らんけど。



『そういえば、皆さんは変わった服装をなさっていましたけれども、どこの出身なんですか? 聞き覚えがない言葉で話していらっしゃいますし、かなり遠方のご出身だと思うんですけど……』



 ローズとおっさんが注文をし、料理を待つ間にミレイユさんが俺達3人に声をかけてきた。



『妾達は別の大陸から来たのじゃ。この二人とは旅の途中に出会ってそれから共にしておる』

『へー皆さん随分と遠くから来たのですね。それならばその不思議な強さも納得です』

『そうかの? 妾達は言うほどステータスは高くないぞ?』

『その、なんと良いますか。私にはスキルって訳じゃないんですけど何となく相手の強さが分かる力があるんです。それでなんとなく皆さん強そうだなぁと思って』

『ほう、また珍しい力じゃな。ギフトというやつか』

『おう、俺はミレイユのこの力と受付嬢としての力に一目置いてるんだ。将来はギルドマスターになれるほどの器だと思ってるぞ』

『えぇ、私はそんな大した女じゃないですよぉ』



 何やらおっさんとローズとミレイユさんが楽しそうに話している。

 土御門さんはずっと尻尾をモフっているがちょっと退屈そうだ。



「私達も早く話せるようになりたいわね」

「ごめんな。俺のせいで」

「ごめんなさい。そういう意味で言ったんじゃないのよ。今ここにこうしていられるのも高音くんの転移魔法のおかげなんだし、持ちつ持たれつよ」

「ああ、ありがとう」



 俺と土御門さんの日本人組でそんな話をしているとミレイユさんが俺達の方を見ていた。



『あの、お二人は何をお話しているんですか?』

『早く共通語を覚えたいと言っておったの』

『そうでしたか、私もお二人と早くお話ししたいです!』

「ん? ミレイユさんは何と言ってるのかしら?」

「お主らと話がしたいんじゃと」

「まあ、ミレイユさんも同じ気持ちだったのね! 私も早くお話ししたいわ!!」



 土御門さんがそう言って耳をモフりだおし始めた。

 ミレイユさんがどんどんあられもない姿になっていく。

 これ、外でやっても大丈夫なのか?



『うひゃう! ま、マイムさん。こ、これ以上はらめれしゅ。も、もう勘弁してくだしゃい』

「ふふふ、ここがええんか? ええんやろ!」



 俺が土御門さんとミレイユさんの絡みを堪能している間にも、続々と料理が運ばれてくる。

 料理はポトフのような煮込み料理と黒いパンと一口サイズの肉を焼いたものだ。

 肉は牛型の魔物のものらしい。


 後で聞いた話なのだが、魔物は魔石になって消える前に肉や皮を剥ぎ取れば素材として残るそうだ。

 そのため冒険者は魔物を即死をさせない様に気を付けるらしい。



「おお! これがエールか。本当にビールみたいだな」

「そうね、匂いも多分同じだと思うわ」



 そして、俺達のお待ちかねのエールがやって来た。

 エールは樽のジョッキに入っていてビールの様に泡立っている。



「それじゃあ早速、乾杯!」

「ああ。乾杯!」



 そうして俺たちが飲もうとしたところでミレイユさんから声がかかった。



『あの、今のはどういう意味ですか?』

『ん、ああ。乾杯と言っておるの』

『そうですか。それでは、』



「か、カンパイ!」



 ミレイユさんが俺達のジョッキにコツンと自分のジョッキを当ててそう言って笑った。

 なんかいいな。こういうの。



「ああ、乾杯!l」

「ふふ。乾杯」



 俺達も二人でそう言い、おっさんとローズともジョッキをぶつけた。



『えへへ。少しだけどお話しできました』


『健気じゃのう』

『だろ?この娘はギルドでも人気があるんだが、なんで浮ついた話を一切聞かないんだか俺にはわからん』



 そうして冒険者1日目の夜は賑やかに過ぎて行った。

 因みに俺達の始めてのエールはいまいちだったとだけ言っておこう。

 あれってビールの味すらもわかんないやつが飲んでもただ苦いだけだな。

ローズの別大陸云々は嘘です。


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