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73話 反逆の疑い

 風舞




「目立つ為に始めたのは分かってるんですけど、流石にこれは目立ちすぎじゃないですか?」

「そうですね。先ずはファーシェル様のところへ向かう予定でしたが、これでは先に進めません」

「おいエルセーヌさん……って、いつの間にかいなくなってるし」

『あの娘は裏での仕事が専門ですから、衆目につくことを避けたのでしょうね』

「だからってこの状況で放置していくのは酷くないですか?」



 トウカさんと腕を組んだまま里の中に入って、歩くこと数分。

 かなりの数のエルフに囲まれてしまった俺達は先に進もうにも身動きがとれなくなってしまっていた。


 今までのトウカさんは里を訪れる際には人目を避ける為に目深にローブを被っていたらしく、門番の中でもトウカさんの顔を知っている者は数人しかいなかったのだが、顔が知られていないにも関わらず有名人のトウカさんが堂々と真昼間に里を訪れたことが噂となって広まってしまったらしい。

 その上、巫のトウカさんが身元不明の人間と腕を組んで歩いているとあっては、その姿を一目見ようとやってくるエルフの数がとんでもないことになるのは容易く想像できるだろう。


 そんな事を考えながら目の前の人混みに酔いそうになっていると、衆人の内の一人のエルフがメモとペンを片手に俺達に話しかけてきた。

 見た目的にジャーナリストでもやってるのだろうか。



「あの、貴女が巫のトウカ様なのですか?」

「はい。私はトウカ。里長の義理の娘でございます」

「それじゃあ、そっちの黒髪の人間は誰なんですか? あと、一体トウカ様とはどういったご関係で?」

「こちらの方はフーマ様です。私との関係は、その……フーマ様は私に初めてを教えてくれて、これからも教えてくださる方でございます」

「えぇ! それってもしかして……」

「ちょ、ちょっとトウカさん!? そういう誤解を招く言い方は……」

「え? 私は何か間違った事を言いましたか?」



 あぁ、もう。

 そうやって可愛く小首を傾げられたら何も言えないじゃないか。



「では、トウカ様はどうして人々の前にお姿をお見せになったのですか?」

「私は今日、全てのエルフの皆様にお願いがあって来ました」

「お願いとはどういう…」

『おいフーマ。演説台の様な物は持っていないのですか?』

「一応立方体の石なら持ってますけど、それでも良いですか?」

『少し地味な気もしますが、何もないよりはマシでしょう』

「それじゃあ、すみません。お話はまだ聞くので少しだけ下がって貰えませんか? あぁ、はい。ありがとうございます」



 そうして、エルフの皆さんがそこそこの位置まで下がってくれたのを確認した俺は、トウカさんを連れて数メートル上まで転移してから真下に3メートル四辺の立方体の石を落とした。

 俺とトウカさんはそのまま石の上に難なく着地する。



「後は…」

「えっ!? あれっ!?」



 先程のジャーナリストっぽいエルフも演説台の上に転移させたのだが、何も言わずに転移させたためか驚かせてしまった。

 せめて手を向けるなり何らかのモーションをした方が良かったか。



「大丈夫ですか?」

「あ、はい。ありがとうございます。って、そうじゃなくて今のは転移魔法ですか?」

「はい、そうです」

「すごい! エルフでも転移魔法を使えるのはターニャ様しかいないのに、貴方何者ですか!?」



 何者って言われても正直に勇者ですなんて言える訳がないし、どうしたものか。



『言ってしまっても宜しいのではないですか?』

「いや、流石にこればっかりは俺だけで決める訳にはいかないんですよね」

『では、適当に言うしかないでしょう』



 適当にって言われてもなぁ。

 勇者以外の俺の肩書きって言ったら男子高校生とかシルビアとアンの主人とか、魔王の弟子とかしかないんだけど……。

 あ、それで良いか。



「俺はフラム・レッドの弟子です。弱っちい頃に拾われて育てられました」

「ふ、フラム・レッドというと、ソレイドで有名な伝説の冒険者ですよね!?」

「はい。そのフラム・レッドです。俺は森の中で彼女に保護されて鍛えてもらいました」

「では、その黒髪は生まれつきのものなのですか?」

「そうですね。産まれた時からずっとこの色です」

「それじゃあもしかして……」

「それよりも、トウカさんの話を聞かなくて良いんですか?」

「あ、そうでした」



 一応嘘を見抜くギフト持ちのエルフがいても大丈夫な様に話をしたけど、流石にこれ以上突っ込まれたらボロが出そうな気がするし、そろそろ話を戻させてもらった。

 今日のメインは俺じゃなくてトウカさんなんだし、彼女の方に注目してもらいたいからな。



「すみませんでしたトウカ様」

「いえ、確かにフーマ様の魔法は鮮やかですから気になってしまうのも仕方ないと思います」

「寛大なお心に感謝いたします。それで、私達にお願いがあるという事でしたが」

「はい。皆様も既にご存知の事だとは思いますが、近頃の世界樹は魔物の巣食う魔の病巣となってしまっています。私は巫として世界樹を正常な状態に戻そうと力を尽くしてきましたが、私一人の力では魔物の発生を抑えきる事は不可能でした。先ずは私の力が及ばないばかりに里に住む皆様にご迷惑をおかけしてしまった事と、今日この時まで皆様の前に姿を見せなかった事をこの場を借りて謝罪させてください。誠に申し訳ございませんでした」



 トウカさんはそう言うと、深々と頭を下げて全てのエルフに謝罪した。

 文字通り死ぬ気で里の為に働いてきたトウカさんが謝る必要はないと思うのだが、こうして頭を下げられるところが彼女の強くて優しいところなのだろう。


 エルフの観衆が黙って壇上のトウカさんを見つめる中、彼女の演説は続く。



「そして、非常に勝手なお願いだとは思うのですが世界樹に蔓延る魔物を殲滅するために、どうか皆様のお力を貸していただきたいのです」

『おいフーマ。民衆を動かすには先導者が必要です。貴方が名乗りをあげなさい』



 沢山のエルフがトウカさんの話に注目してはいるのだが、フレンダさんの言う様にエルフ達は自分がどう動くか決めかねているのか誰もトウカさんのお願いに答えようとはしない。


 名乗りをあげろと言われても何を話せば良いのかは分からないが、とりあえずはスタンピード鎮圧への意気込みでも語れば良いかと思ったその時、突然石の演説台の上に俺とトウカさんとジャーナリストのエルフ以外の人物が現れた。



「そこまでだよ二人とも。いくら何でもこんなに多くの民を扇動するのは見逃せない」



 目にも留まらぬ速さで俺を組伏せたターニャさんはそう言うと、一瞬で氷の剣を出現させて俺とトウカさんの首筋に突きつけてきた。

 転移魔法で逃げ出そうにも、ターニャさんに密着されているこの状況ではそれも出来そうにない。



「あのー、俺は扇動してるつもりは無かったんで見逃してくれませんか?」

「流石にこれだけの人を集めておいて扇動してないは無理があるっしょ。まぁ、話は後で聞いてあげるから大人しく捕まってくんない?」

「フーマ様」

「この状況じゃあ逃げるのは無理っぽいし、特に悪いことをするつもりは無かったんで今はターニャさんの言う通りにしましょう」

「しかし!」

「大丈夫ですよ。ターニャさんがその気になったら俺の首はもう飛んでましたし、俺は何の怪我もしてません。ですから、ターニャさんに向けている槍を下ろしてください」

「……分かりました」



 ターニャさんに氷の剣を向けられるのと同時に渦巻く水の槍をターニャさんに突きつけていたトウカさんはそう言うと、魔法を解除して両手を上げた。

 俺の直感と豪運が全く反応しなかったって事はターニャさんに俺を攻撃する意志が無かったって事だろうし、この判断で間違ってはいない筈だ。



「ありがとう師匠。それじゃあ、念のために手錠をかけさせてもらうけど我慢してね」

「はい。特に抵抗する気も無いんでお任せします」

「うん。そうしてくれると助かるよ」



 そう言ったターニャさんは手錠の片方を俺の右腕にかけて、もう片方を彼女自身の左腕につけた。

 これで俺がどこかに転移しても、もれなくターニャさんもついて来ちゃうわけだ。

 転移魔法を使える俺の拘束方法としては最適なものと言えるであろう。



「冒険者フーマ及び巫トウカ、両名を里への反逆行為の疑いで捕縛する!」

「そんな、トウカ様は私達を扇動してなど…」

「ごめんねカウフちゃん。私もししょ、フーマ達がそんな事をするとは思えないけど里の治安維持と警備が私の仕事だからさ」

「はい、…分かりました」

「うん。それじゃあ行くよ二人とも。念のために言っておくけど怪しい動きをしたらその首をはねるから注意してね」

「分かりました」

「……」



 こうして宮殿まで自分たちの足で歩いていくつもりだった俺達は、反逆行為の疑いをかけられてターニャさんに連行される事となってしまった。

 一応当初の予定通り宮殿には行けるみたいなんだけど、まさかこんな事になるとは思いもしなかった。


 はぁ、エルセーヌさんならこうなる事も分かっていただろうに、あいつは何を考えているのだろうか。

 俺はそんな事を考えつつどこにいるのか分からないエルセーヌさんの首輪をきゅっきゅっと締めながら、ターニャさんに大人しく連行された。



6月7日分です。

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