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68話 椅子と背もたれ

 風舞




 はぁ、俺はターニャさんと大して話もしてないのにどうしてこんな事になってしまったのだろうか。

 ていうか、まさか本当に腕を折られるとは思わなかった。

 まぁ、意外と綺麗に折ってくれたから回復魔法を使えば早く治りそうではあるんだけど。


 なんて事を考えながら折られた腕を押さえていると、ターニャさんの正面に座っていたローズが椅子から立ち上がって俺の方へテケテケとやって来ながら口を開いた。



「おいターニャ。メイドではなく、弟子にしてもらうのでは無かったのか?」

「あ、そうだった。お願いフーマ。私をフーマの弟子にしてください!」

「え? それじゃあ、ターニャちゃんはフーマくんが好きだからメイドにしてもらいたいとかじゃないの?」

「え? 私がフーマを好き? そんな訳無いじゃん」



 マイムが何言ってんのか訳わかんない、みたいな顔でターニャさんがそう言った。

 はぁ、それじゃあ俺の腕は折られ損じゃん。



「え、えーっと。その、ごめんね?」

「………」

「ふ、フーマくん?」

『おいフーマ。この小娘に私たちが受けた痛みを倍にして返してやりなさい』

「椅子」

「い、椅子?どういう事かしら?」

「椅子になれ」

「じょ、冗談よね?」

「はっはっは。マイムには俺が冗談を言ってるように見えるのか? おい、エルセーヌさん」

「オホホ。かしこまりましたわ」



 エルセーヌさんはそう言うと、俺の望み通り舞を取り押さえて跪かせた。

 流石優秀な俺の従魔なだけあって、こと嫌がらせに関してはいつもより動きが素早いな。



「ちょ、ちょっとエルセーヌ! 私が悪かったからそこをどいてちょうだい!」

「オホホ。私はご主人様の命に従っているだけですわ」

「ありがとうエルセーヌさん。それじゃあ、よっこいせっと」

「うげっ。ちょ、ちょっとフーマくん? 本気で一日椅子にする訳じゃ無いわよね?」

「あれ? 何で椅子が喋ってるんだ?」

「オホホホ。流石はご主人さ、うぐっ!?」

「お前は背もたれになれ」

「お、オホホ。ご、ご主人様?」

「俺はエルセーヌさんが右腕を離してくれなかった事を忘れてはないぞ?」

「オホホ。か、かしこまりましたわご主人様。ですから、首の拘束具をじわじわと締めるのをやめてくださいまし」

「それじゃあ早くしろ」

「オホホホホ。流石は鬼畜お、うげっ!?」

『よくやりましたフーマ。流石は私の見込んだ人間なだけはあります』



 こうして、俺は四つん這いの舞を椅子にしてエルセーヌさんを背もたれにして、足を組みながら偉そうに踏ん反り返った。

 ケツの下の舞の暖かさと後頭部に感じるエルセーヌさんのおっぱいの感触が癖になりそうなほど最高である。

 そんな感じで女性二人を物のように扱うクズ野郎の俺に、ローズが呆れた顔をしながら話しかけてきた。



「はぁ、お主らは全く何をやっておるんじゃ。ほれ、腕を治してやるから見せてみよ」

「あ、サンキュー」

「ねぇ、ミレンちゃん。フーマくんを説得してくれないかしら?」

「いや、流石に今回のはお主が悪いしそうなっても仕方ないじゃろ」

「うぐぐ、こんな事ならもう少し冷静に行動するんだったわ」

「ほらほら、椅子が喋っちゃダメだろ?」

「ふ、フーマくんがここぞとばかりに私を雑に扱うわ。で、でも、あのフーマくんが私の頭を叩いてくれるなんて、これもこれでありね」



 うわぁ、舞さんが頭をペシペシ叩かれて喜んでるんですけど。

 少なくとも俺は舞に椅子にされてる間、舞に尻に敷かれて嬉しいなんてこれっぽっちも思わなかったぞ。


 なんて事を思いもしたが、微妙に今の舞には関わりたくなかった俺は何食わぬ顔でターニャさんに話しかけた。



「で、俺の弟子になりたいってどういう事ですか? あと、メイドがどうとかいう件も教えてくれると助かるんですけど」

「え、えぇ。いきなりこんな光景を見せられて何がなんだか分からないんですけど。ていうか、何でフーマは当然のようにマイムに座ってエルセーヌの胸に頭を(うず)めてるの?」

「えっ!? そうなの!?」

「…エルセーヌさん」

「オホホ。かしこまりましたわ」

「ちょっとエルセーヌ! 私の顔の周りに結界を張るのをやめなさい!」

「おい椅子。お前、少しは椅子らしく静かにできないのか?」

「あ、はい。静かにさせていただきます」

『おぉ、あのマイを言葉だけで黙らせるとは中々やりますね』

「で、何の話だったっけ?」

「何故ターニャがお主の弟子になりたいかという話じゃろ?」

「あぁ、そういえばそうだったな。で、何でなんですか?」

「え!? マジでこのまま話を続けんの?」

「え? 何かおかしな事でもありますか?」

「いや、この人は何を疑問に思ってるんだ? みたいな顔をされても困るんですけど!」



 え?

 俺は一度舞に椅子にされてるんだし、冤罪で腕を折られたんだから椅子にするぐらい許されてもいいよな?

 むしろ腕を折り返さないで椅子にしてる分優しいぐらいだと思うんだけど。



「はぁ、話が進まぬから妾から説明をしても良いか?」

「あぁ、ごめんミレン先生。えーっとね、模擬戦であそこまでボロ負けしたのは初めてだったから、どうすればフーマみたいに強くなれるのか知りたいんだけど、ダメ?」



 くそう。

 普段は活発な女性に上目遣いでお願いされると断りづらいな。

 それに、あいつと重なるからか、どうも俺はターニャさんに弱いみたいだ。



「いや、その、別にダメじゃ無いんですけど。それが何でメイドがどうとかいう話になるんですか?」

「え? だって、何の見返りも無く弟子にしてくれなんて言われても嫌じゃない?」

「どちらかと言うと、次期里長のターニャさんをメイドにする方が気が引けるんですけど」

「ほれ、やっぱりフーマはこう言ったじゃろ?」

「でも、それ以外だと私にあげられる物何て大したものは無いよ?」

「別に俺はそこまで大した人間じゃないんで、ターニャさんを弟子にするのに報酬は要りませんよ。それに、ミレンにも先生としての報酬は渡してないんですよね?」

「え? だって、先生と師匠は全然別物じゃない?」

「…、そうなのか?」

「妾にもよく分からんが、ターニャの中ではそうらしいぞ」

「ふーん」



 よく分からないけど、ターニャさんの中に師匠と先生に対するこだわりでもあるのだろうか。

 まぁ、特に興味も無いから別にどうでもいいんだけど。



「で、結局フーマはターニャを弟子にするという事で良いのか?」

「ああ。とは言っても、俺はターニャさんに何を教えたら良いんだ?」

「それじゃあ、先ずはあのデッカい燃える石の魔法を教えてよ!」

「あぁ、あれはアイテムボックスからデッカい燃える石を出しただけですね」

「え? アイテムボックスなら私も使えるけど、あんなに大きいの入らなくない?」

「そうなのか?」

「うむ。フーマのアイテムボックスが異常なだけじゃ。妾にもあのサイズの物体を入れる事は出来ぬ」



 異常って、ローズも大概酷い事を言うな。

 確かに大きい物を出し入れする時の方が魔力消費が多いけれど、俺には今まで大きすぎてしまえない物とかなかったから、こうしてターニャさんに言われるまで気がつかなかった。

 でもまぁ、俺は転移魔法に対してかなり適性があるらしいし、どデカい物が出し入れ出来るぐらいならおかしくは無いだろう。

 断じて異常というほどでは無いはずだ。



「それじゃあ、戦闘中に使ってたのは転移魔法だけだったし俺にはターニャさんに教えられる事何もなくね?」

「えぇ!? 折角弟子にしてもらったのにフーマの強さの秘訣を何も教えて貰えないの?」

「そう言われても、正面から戦ったら間違いなくターニャさんの方が強いですし、むしろ俺の方が戦い方を教わりたいぐらいなんですけど」

「ふむ。それでは、フーマの剣の稽古をターニャがつけたら良いのではないか? フーマがアイテムボックスを使わなければ間違いなくターニャが勝つと思うが、ターニャはターニャでフーマがどの様に格上相手と戦うのか学べるじゃろう」

「おぉ! 流石ミレン先生! 超グッドアイディアじゃん! フーマもそう思うっしょ?」

「はい。俺もターニャさんに剣の稽古をつけて貰えるのは嬉しいですし、そうしましょうか」

「オッケー。それじゃあ、早速今日の夜からやろうよ。フーマ達はこれからユーリアのとこに行くんでしょ?」

「はい。夜には戻って来ると思うんで、それでよろしくお願いします」

「ふむ。それでは話も済んだようじゃし、そろそろ世界樹に行くとするかの」

「あ、ちょっと待ってミレン先生。これ、今朝言ってたユーリアの好きなお肉。たくさんあるから良かったらみんなで食べてね」



 ターニャさんはそう言うと、アイテムボックスから木のカゴに入った大きな肉を取り出した。

 何の肉なのかは分からないが、脂がのっていてかなり美味しそうである。

 そういえば昼飯食ってなかったし、腹減ってきたな。



「うむ。礼を言うのじゃ」

「良いって良いって、ユーリアによろしく言っといてね。あと、トウカに…いや、やっぱ何でも無いや」

「む? よく分からんが、二人にはターニャが肉を用意してくれたとしっかりして伝えておこう」

「あぁ、それじゃあそんな感じでよろしく。じゃ、折角の打ち上げなんだから楽しんできてね!」

「はい。ありがとうございますターニャさん」

「ありがとうターニャちゃん。このお礼はまた近いうちに必ずするわ」

「う、うん。マイムもいろいろ頑張ってね」

「ん? 私は特に頑張る事ないわよ?」

「あ、そうなんだ。それじゃあ、行ってらっしゃい」

「はい、行って来ます。テレポーテーション」



 こうして、俺達はターニャさんに見送られてトウカさんの家の前まで転移した。

 そういえば、舞とエルセーヌさんを椅子と背もたれにしたままで外に来ちゃったけど、誰も突っ込みを入れて来ないな。

 まぁ、当人達がが何も言って来ないんだし別にいいか。


 俺はそんな事を考えながら、舞の背中に馬乗りになってエルセーヌさんに背中を押さえてもらいながらトウカさんの家までパッカパッカと進んだ。

6月1、2日分です。

次回更新分は6月3日分とさせていただきます。

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