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66話 3人の女

 風舞




 ターニャさんとの試合後、燃え盛る石のせいで右腕を焦がしてしまったために一度部屋に戻って着替えをすませた俺はそのままベッドに転がってユーリアくんとの約束まで時間を潰すことにした。

 魔力の消費量的には大した事ない試合だったが、エルフの皆さんに白い目を向けられたせいで精神的に疲れたのである。

 はぁ、マジで外に出ないで引きこもりたい。


 そんな事を考えていたお疲れな俺の元へ、元気一杯な舞ちゃんがやって来た。



「あら、随分と元気がないわね。もしかしてメイドさんが来るのが決まったから緊張しているのかしら?」

「あぁ、そういえばそんな話もあったな」

「そうよ! 無事にフーマくんはターニャちゃんに勝利したわけだしとても楽しみね!」



 そう言ってウキウキとした表情で小躍りを始める舞ちゃん。

 どんだけエルフのお姉さんの胸をサワサワしたかったんだよと思わなくもないが、舞が楽しそうに笑ってるしこれはこれで右腕を焦がしながら戦ったかいがあったのだろう。



「そういえば、ミレンとエルセーヌさんはどこに行ったんだ?」

「ミレンちゃんはファーシェルさんと話がしたいからってフーマくんが着替えている間に部屋から出て行って、エルセーヌは知らないわ」

「まぁ、エルセーヌさんは放っておいても良いか」



 あの悪魔は普段からそこら辺をプラプラしてるし、彼女の力が必要な時はいつでも呼べば出て来るから放っておいても構わないと思う。



「そういえば、アンちゃんとシルビアちゃんの様子はどうだったかしら?」

「あぁ、そうだよ。その話をマイムにしようと思ってたんだ」



 アンの病気が無事に治りそうな事もそうだが、それよりもシルビアがソレイドのダンジョンを攻略した事を舞に伝えようと思っていたのをすっかり忘れていた。

 まさかシルビアがこんな短期間でそこまで強くなっていると知ったら舞も驚くだろうな。

 そんな事を考えながら、肝心なところはもったいぶりつつ舞にシルビアが凄く強くなっている事を伝えたのだが……



「そう。やっぱりあのは強くなったのね」



 話を聞いた舞の感想は俺の期待していたものとは全く異なるものだった。



「やっぱりって、マイムはシルビアが強くなると思ってたのか?」

「ええ。シルビアちゃんなら強くなって当然だと思ってたわ」

「それはまた、何でだ?」

「フーマくんには分からないのかしら?」

「ああ。残念ながら俺にはどうしてシルビアがそこまで強くなれたのか分からない」

「そう。でも、それはシルビアちゃんの前で言っちゃダメよ」

「ん? どういう事だ?」

「そうね。にぶちん野郎のフーマくんにヒントをあげるとしたら、戦う乙女は強いって事よ」



 ん?

 戦う乙女は強いってどういう事だ?

 そりゃあ、強くなるには戦うしかないんだろうけど、この場合の戦うはそういう事じゃない気がする。



『はぁ、フーマは相変わらず愚昧ですね』



 えぇ、フレンダさんにまでそう言われんのかよ。

 シルビアが俺のために強くなろうとしてくれてるのかもって考えが浮かばなくも無かったけど、それだけで普通なら死ぬかもしれない様な事を出来るもんなのか?



「だぁぁ、女の子って難しいな」

「ふふふ。それは難しいじゃなくて可愛いって言うのよ」

「へぇ、ますます分からん」

「ふふっ、そうやって頭を悩ましているフーマくんは可愛いわね」



 舞はそう言うと、ニマニマとした顔で俺の頭を撫でてきた。

 何となく舞にからかわれているみたいで居心地が悪い。



「はいはい。で、ユーリアくんとの約束まではまだ二時間ぐらいあるけどどうする?」

「そうねぇ。別にここでフーマくんとこうしてても良いのだけど、折角だし買い物でもしに行く?」

「いや、出来れば街には出たくないな。行くなら世界樹の方に行こう」

「それじゃあ、そうしましょうか」

「おう」



 こうして、俺と舞は一足先に世界樹の方へ行っていることにした。

 一応部屋にはローズ宛に書き置きも残しておいたし、特に問題は無いだろう。



「さてと、それじゃあ行こうか」

「そうね。それじゃあよろしくお願いするわ」

「……」

「どうかしたのかしら?」

「いや、何でもない。テレポーテーション!」



 そんな感じで久しぶりに舞と転移することに何だか小さな幸せを感じてしまった俺は、舞から顔をそらしながら世界樹の麓へと転移した。




 ◇◆◇




 風舞




「それにしても、何度見ても馬鹿げた大きさよねぇ」



 世界樹の麓に転移した直後、舞が目の前に現れた世界樹を見上げながらそう言った。



「ああ。何でもこれはデカい木じゃなくて、デカい木の形をしたダンジョンだからこんなにデカいらしいぞ」

「ふーん。それじゃあ、あそこにいる緑色の猿はもしかして魔物なのかしら?」

「え? どこにいるんだ?」

「ほら、あそこよあそこ」



 そう言って舞が指をさす方向を目を凝らして見てみると、こちらをじっと見つめているグリーンエイプと目が合った。

 ダンジョンの中や洞窟で遭遇した時はすぐに襲いかかって来たのに、今は俺達の方を見つめるのみで全く動こうとしない。



「なんか気味悪いな」

「そうね。どうする? この距離なら多分魔法で撃ち落とせるわよ?」

「いや、やめとこう。ああいうのはちょっかいを出すとろくなことにならないって相場が決まってるんだ」

「そう、それは残念ね。それにしても、どうしてあの猿は全く動こうとしないのかしら?」

「さぁ? 迷宮王に(きた)る日まで待機するように命令でもされてるんじゃないか?」

「来る日って何かしら?」

「そりゃあスタンピードだろ」

「まぁ、それしか無いわよね」



 俺の横に立っている舞がフゥっと息を吐く様にそう言った。


 エルフの軍隊がスタンピードに備えて何をしているのかも、そもそもスタンピードのおそれがあることを知っているのかも分からないが、少なくとも里に住む多くのエルフはそんな危機的な状況にあることを知らないみたいだった。

 エルセーヌさんがスタンピードを乗り越えるために、裏でこそこそと動き回ってくれてはいるのだが、里長は未だ大きな動きを見せていないし、スタンピードに際してエルフの里は頼りになりそうに無い。


 里長がここまで動かずにいるのは、ボタンさんが教えてくれたあの歴史的背景があるためなのかもしれないが、里と600年前の勇者の面子よりも今を生きるエルフ達を優先するべきだと考えてしまうのは、俺の視野がまだまだ狭いせいなのだろうか。


 なんて事を考えながら世界樹を見上げていると、舞が俺の手を掴んで世界樹のてっぺんの方を指さした。



「ねぇフーマくん。今からあそこに行ってみましょ!」

「あそこって、世界樹のてっぺんか?」

「ええ。世界樹がダンジョンなら、最後の迷宮王がいるのもあの辺りなんでしょう?」

「で、それを見に行きたいと?」

「流石フーマくんね。その通りよ!」



 世界樹の外側に魔物がいるという事は魔物が内側と外側を出入りするための通路があるのだろうが、流石に迷宮王がいる場所が野ざらしという事はない気がする。

 それにあの金色の目をしたビームを飛ばしてくるサイクロプスみたいな遠距離攻撃が出来る魔物がいたらかなり危険だし、正直舞の提案にはのりたくない。



「またローズに怒られたら嫌だから俺は行きたくないんだけど」

「でも、今のフーマくんは転移魔法があるから逃げようと思えばすぐに逃げられるでしょう?」

「それはそうだけど、もしも俺が認識できない速さの攻撃をしてくる魔物がいたらどうしようも無いだろ」

「そんな魔物がいたらどうせ世界樹は攻略できないんだから、今死ぬか今度死ぬかの違いしかないわ!」



 えぇ、俺は出来れば1秒でも長く生きていたいんですけど。

 なんて事を考えながら駄々をこねる舞を説得しようとしたその時、意外な所から舞の意見に賛成する声が聞こえてきた。



『別に構わないのではないですか?』

「え? マジで言ってるんですか?」

『はい。その娘の言うようにフーマが危惧するような強さの魔物がいたらいずれは出くわすことになるのでしょうし、エルセーヌに結界を張らせておけば即死する事はまずありません』

「あぁ、なるほど」

「フレンダさんは何て言ったのかしら?」

「エルセーヌさんに結界を張らせれば良いんじゃないかって」

「えぇ、あの女も連れていくのかしら?」

「俺の知る限りじゃ防御系最強がエルセーヌさんなんだから仕方ないだろ」

「オホホ。お褒めいただき光栄ですわ」

『おいフーマ! エルセーヌよりも私の方がより強い結界を張れるのですが!』

「ちっ! 出たわね腹黒オホホ女!」

「オホホホ。そういえばご主人様、例のご褒美の件はどうなりましたか?」

「えっ!? ご褒美って何の事よ!」

『おい! 聞いているのですか? 私は世界一の結界魔法の使い手なのですよ!』



 なるほど。

 女が三つ合わさって(かしま)しいという漢字を考え出した人はこういう気持ちだったのか。

 やべぇ、すごく逃げたい。



「なぁ、行くなら行くで早く行きたいから準備してもらっても良いか?」

「オホホホ。ご主人様がそう望むのでしたらその通りにいたしましょう」

「ちょっと! どうして結界を張るだけなのにフーマくんと腕を組んでいるのよ!」

「オホホホ。結界を張る体積か小さいほど強固な結界を張れるのでこれは必要な事なのですわ」

「それじゃあ、私もフーマくんに抱きつくわ! これは仕方ない事ですもの!」

「なぁ、そうやってセミみたいに抱きつかれたら動けないんだけど」

「オホホ。流石マイム様ですわ。とても淑女とは思えない素晴らしいお姿です」

「何ですって!?」



 そんな感じで始まった舞とエルセーヌさんの喧嘩を眺めながらフレンダさんがいかに優秀な結界魔法の使い手なのかを教わる事約一時間、ようやく舞とエルセーヌさんの間で話がついたらしい。



「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ。それじゃあ、今日だけはフーマくんの腕に抱きつく事を許してあげるわ」

「お、オホホ。マイム様がそうおっしゃるのでしたら、その通りにさせていただきますわ」

「よし、話は済んだみたいだな。それじゃあさっさと行くぞ」

『おい! ここからが私がヒュドラの猛攻を片手間で封じ込めた際の見せ場なのですから、最後まで話を聞きなさい!』

「はいはい。その話はまた今晩にでもゆっくり聞きますよ。それじゃあ、二人とも準備は良いな?」

「ええ。私は大丈夫よ」

「オホホ。私も問題ありませんわ」

「よし、それじゃあ行くぞ。テレポーテーション!」



 さて、未だ謎の多い世界樹のてっぺんにはどんな化け物が住んでいるのかね。

 エルセーヌさんと舞に左右から抱きつかれた俺はそんな事を考えながら、世界樹のてっぺんを目指して転移魔法を使った。




5月30日分です。

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