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65話 圧倒的勝利

投稿ミスがありましたが修正しました。

 舞




「ふむ。やはり上に跳んだようじゃな」



 試合開始直後、風舞くんが闘技場の上から姿を消したのを見てローズちゃんが空を見上げながらそう言った。

 確かに空を見上げてみれば豆粒位の大きさの風舞くんの姿が確認できる。

 どうやら試合の始まる前に空を見上げていたのは上空に大きな障害物が無いかを確認するためであったようだ。



「ターニャちゃんもフーマくんがあそこにいるのは瞬時に分かったみたいだけど、どうやって手を出すべきか悩んでいるみたいね」

「そうじゃな。あの距離では魔法を届かせるのも厳しいじゃろうし、仮に届いたとしてもこの距離では楽に避けられるから下手に魔法を撃てずに困っているのじゃろう」

「でも、フーマくんには魔力消費がかなり少ない最強の攻撃があるのよね」

「うむ。これはかなり一方的な試合になるかもしれんの」



 そんな話を解説席のマイク型魔道具を使いながら話していると、舞台の上から降りたファーシェルさんがエルセーヌと共に私達の元へやって来た。



「なぁ、その魔力消費が少なくて最強の攻撃ってのは何なんだ?」

「なに、見ておればすぐに分かると思うぞ。ほれ、ちょうど始まったみたいじゃ」



 ローズちゃんのその言葉を聞いて空を見上げたファーシェルさんは口をあんぐりと開けて驚いた声をあげた。



「こ、こんなのありか?」

「オホホホ。流石ご主人様ですわ」

「もちろんよ。何せフーマくんは私のパートナーなんですもの!」



 私は自慢のパートナーが評価された事を誇りに思いながらそう言った。

 さて、試合はまだまだ始まったばかりだしターニャちゃんが一体どうやって風舞くんの攻撃を(しの)ぐのか見物ね。

 というより、凌がないと即死しそうな気がするわ。

 私はそんな事を考えながら、空の上の風舞くんを見上げ続けた。




 ◇◆◇




 風舞




「さてと、まずは一つ目」



 俺はそう言いながらアイテムボックスからボタンさんに山を崩して作ってもらった巨石を取り出してそのまま真下に落とした。

 闘技場からは真上に転移するように心掛けておいたため、今落とした石は俺が立っていた場所にしっかりと着弾するはずだ。



「ねぇフレンダさん。ここって高度何メートルぐらいなんですか?」

『大体500メートルといったところではないでしょうか』



 やっぱりフレンダさんにメートル法を教えておいて正解だったな。

 この世界で使われてる長さの単位だと俺が想像しづらいって事で教えておいたんだけど、それがまさかこんなタイミングで功を奏するとは思いもしなかった。



「それじゃあ、地面に石が衝突するまで何秒ぐらいか分かります?」

『一つ目が着弾するまではおよそ10秒程度でしたね』

「思ったよりも落下時間が長いんですね」

『山を切り崩した物をそのまま落としているのですから、空気抵抗を考慮するとこの程度でしょう』

「なるほど。それで、こうやって転移魔法で高度を保ってますけどこの後はどうします?」

『ルールには場外に出ると反則負けというルールがあるのですから、闘技場が石で埋め尽くされるまで絶え間なく降らせ続けなさい』

「まぁ、とりあえずはそうなりますよね」



 こうして、フレンダさんとお気楽な会話をしていた俺はアイテムボックスに入っている巨石を取り出しては落としてを繰り返すことになった。

 既に一つ目の巨石の土煙で闘技場の様子は全く分からないが、ただ真下に石を落とすだけだしそこまで標的を見誤る事はないだろう。

 俺はそんな事を考えながら、在庫が全く切れる事のなさそうな巨石を落とし続けた。




 ◇◆◇




 ターニャ




「ヤバいヤバいヤバい。マイムもミレン先生もフーマは強いって言ってたけど、流石にこれは強いとかそういうレベルじゃないでしょ」



 私は無数に振ってくる巨石を避けながらそう声を漏らした。


 試合開始直後フーマが姿を消したためもしかしてと思って真上を見上げてみると、遥か上空にフーマの姿があった。

 移動の瞬間は全く見えなかったけれど試合開始直後に私から逃げるなんて少し期待外れかな、なんて思っていたけれど、そんな私の考えは全くの見当違いだった。



「こんなの勝てっこなくない?」



 フーマの攻撃は至ってシンプルでただひたすらに大きい石を降らせ続けるだけなのだが、これがシンプルなだけに対処しづらい。

 まず石が大きすぎて魔法で止めるのが難しいし、仮に砕けたとしても降ってくる破片が増えるだけだから、雑に攻撃するわけにもいかない。

 ならば石が降ってこなくなるまで避け続ければ良いのではないかとも思うのだけれど、降ってくる石のせいで闘技場の足場がどんどん減っていくし、第一フーマの攻撃のペースは落ちるどころかどんどん上がっていってるような気もする。


 今は降ってくる石を避けながら積み上がっていく石の山を登り続けているけれども、土煙で視界がどんどん悪くなっていっているため、避けるのすらも厳しくなってきている。



「あぁ、もう! ドンドンドンうるさい!」



 私は避け続ける事しか出来ない現状に憤りを感じて、大声でそう叫んだ。




 ◇◆◇




 風舞




 引き続き闘技場の500メートルほど上空にて、俺は尚も変わらず巨石を落とし続けていた。

 かれこれ50個近くは落としている気がする。



「ねぇフレンダさん。これっていつまで続ければ良いんですか?」

『どうやら相手は魔法を撃つことすらも出来ず避け続けているだけみたいですし、そろそろ終わらせても構いませんよ?』

「終わらせるって具体的にはどうするんですか?」

『そうですね。例えば、闘技場を埋め尽くせるぐらいの大きさの石を降らせるのはどうですか?』

「あぁ、それなら表面が赤くなって少し溶けてるぐらい熱々の石があるんですけど、それいっちゃいます?」

『そうですね。それなら間違いなく息の根を止められるでしょう』

「………………。息の根を止められるんですか?」

『ええ。むしろ、これだけの攻撃をされてもまだ生きているあのエルフの娘に尊敬すら覚えます』

「おい! 危うくフレンダさんの口車に乗せられてエルフのお姫様をぶっ殺すところだっただろうが!」

『口車とは何です! 私はフーマが勝ちたいと言ったから手助けをしていただけじゃないですか!』

「あのもう少し左に落としてくれとかいう指示がまさか息の根を止めるためのものだったとは思いもしませんでしたよ!」

『どちらにせよまだあの娘は生きているのだから良いのではありませんか!』



 石を落とすだけなのにやけに細かい指示を出すなとは思ってたけど、あの指示がターニャさんを殺すためのものだとは思いもしなかった。

 フレンダさんの脳内では詰め将棋の様にターニャさんを追い詰めていく様な石の落とし方が考えられていたのかもしれない。

 相変わらずフレンダさんは恐ろしい女である。



「はぁ、殺さずに勝つ方法は無いんですか?」

『それでは、とりあえずは先程話に出た高温の巨石を降らせて、あのエルフがその対処に夢中になっている間に転移魔法で場外に跳ばせば良いのではないですか?』

「そういうまともな案が出せるなら最初からそうしてくださいよ。って、危なっ!?」



 フレンダさんとの会話に夢中になって石を降らせるの忘れてたら、下からターニャさんの氷の剣が飛んできた。

 直感のお陰でどうにかそれを避けられた俺は、もう50メートルほど上空に跳んで真下を見据える。



「なんか、ターニャさん凄い怒ってません?」

『それはこんなに悪質な攻撃のされかたをされれば、どんな温厚な人も怒ると思いますよ』

「はぁ、さっさと終らせよ」




 そう言った俺は、アイテムボックスから今までとは比べ物にならないぐらい巨大な超高温の石を取り出して、そのまま真下に落とした。



「あっづ!」



 アセイダル戦でも使ったこの燃える石シリーズは確かに強力ではあるのだが、アイテムボックスから取り出す時に百パーセント火傷をするのが唯一の難点である。



「さてと、それじゃあ大体7秒後に転移しますかね」

『好きになさい!』



 こうして、若干拗ねてしまったフレンダさんのそんな台詞を聞いた俺は、心の中でターニャさんが魔法を使うであろう7秒後までのカウントダウンを始めた。




 ◇◆◇




 舞




「あら、急に落石が止まったわね。どうしたのかしら?」

「弾切れを起こしたんじゃないのかい?」

「いや、あやつは山一つ分を持ち歩いておるからそれは無いと思うんじゃが」

「オホホ。ターニャ様の攻撃を見て焦っていた様ですし、おそらく考え事でもしていたのではないですか?」

「ふむ。確かにそれならばあやつらしいが、…………っておいおい。フーマはまだ手加減を覚えておらんのか?」



 ローズちゃんのその言葉につられて空を見上げると、突如として現れた燃え盛る隕石が降ってくるのが見えた。

 今までの直径3メートル強の石とはサイズが桁違いで、あれが振ってきたら闘技場はもちろんターニャちゃんも間違いなく大ダメージをくらいそうな気がする。



「おいターニャ! 今すぐ棄権しろ! 流石にお前だけではあれを止める事は出来ない!」

「やだ! このまま何も出来ずに負けたくないもん!」

「あぁ、もう! どうしてうちの娘はこうも負けず嫌いなんだ!」



 ファーシェルさんはそう言って闘技場の舞台の上に向かおうとしたのだが、観客席を囲む結界にそのゆく手を阻まれてしまった。



「おいエルセーヌ! さっきみたいに結界に穴を開けろ!」

「オホホ。心配なさらなくても御息女に被害が出る事はありませんわ」

「大丈夫ですよファーシェルさん。フーマくんがターニャさんを殺すなんて事は間違ってもありません」

「だが…、」



 そうして私達が言い合っている間にも風舞くんの落とした隕石は落下を続け、一方のターニャちゃんは積み上げられた巨石の上に立って魔法の詠唱を続けていた。

 そして後2、3秒で隕石が直撃するといった瞬間、ターニャちゃんが渾身の魔法を放った。



「砕け! ヨトゥンフィストォォォォォ!!!」




 ◇◆◇




 風舞




「砕け! ヨトゥンフィストォォォォォ!!!」



 予定通りきっちり7秒間数えて闘技場の上に転移すると、丁度ターニャさんが大きな氷の拳を燃え盛る巨石に向けて振り抜くところだった。


 よし、このタイミングなら気配遮断さえ使えば真後ろに行ってもバレる事は無さそうだな。

 そう考えた俺はターニャさんの真後ろに一瞬で転移して彼女を舞達の近くに転移させる。


 後はこの燃える石をアイテムボックスにしまえば万事OKだな。

 そう思って燃える石に右手を指し伸ばしてアイテムボックスにしまおうとしたのだが…



「痛っだ!!?」



 思ったよりも巨石の落下速度が速かったためか、タイミングを見誤って右腕を折ってしまった。



『おいフーマ。右腕が火傷と骨折で痛いのですが』

「はぁ、文句を言うならもう少しマシな作戦を出せばよかったじゃないですか」

『まるで私が役立たずだったみたいに言わないでください! 右腕が痛いので帰りますよ!?』

「別に構いませんけど、この後のミレンのお褒めの言葉は要らないんですか?」

『……フーマは卑怯です』



 相変わらずフレンダさんはチョロいなぁ。

 なんて事を考えながら回りの土煙が晴れると途中で強制的に解除されたターニャさんの魔法が砕けるのを待っていると、闘技場に張られていた結界が解かれて舞とローズとエルセーヌさんが寄ってきた。



「お疲れ様フーマくん。今回は随分と派手に戦ったのね」

「ああ。出来るだけターニャさんに攻撃させないようにしようと思ったらああなった」

「じゃが、最後のあの攻撃はいささかヒヤッとしたぞ」



 ローズがそう言いながら、俺の右腕を回復魔法で治し始めてくれた。

 俺は魔力の循環速度を落としながらその回復魔法を受け入れる。



『あぁ、これだけで怪我をしたかいがあるというものです』



 いや、別に俺はローズに治療をしてもらおうために右腕を骨折したわけじゃないんだけど。

 なんて思いもしたが、これでフレンダさんの機嫌が直ったみたいだし取り敢えずは良しとしておこう。



「オホホ。私もあのサイズの巨石を落とされたら結界の維持に窮するところでしたわ」

「まぁ、あれはターニャさんの目を惹くために出した俺のアイテムボックスの中で一番派手なものだからな」



 そんな事を話しながら引き続きローズの治療を受けていると、ファーシェルさんが気絶しているターニャさんを抱き抱えてこちらへやって来た。



「も、もしかして、ターニャさんに怪我とかありましたか?」

「いや、怪我と言っても掠り傷程度だし、魔力切れで気絶しているだけだね」

「ふむ。それで試合はフーマの勝ちで良いのか?」

「ああ、そう言えばそうだったね。とんでもないものを見せられたからすっかり忘れていた」



 ファーシェルさんはそう言うと、観客席の方へ振り替えって大声で試合結果を発表した。



「勝者、黒髪の人間フーマ!」



 俺はその声に反応して両腕をバッと挙げたのだが、観客席はしんと静まりかえっていて誰も俺の勝利を讃えてくれない。

 あれ? もしかしなくても、俺は何かをやらかしたか?



「オホホ。流石はご主人様。見事なアウェーっぷりですわね」

「大丈夫よフーマくん! 私はさっきのフーマくんの戦いはとても鬼畜で素晴らしいと思うわ!」

「まぁ、あんな出鱈目な戦い方を見せられたらこうなるのも無理はないじゃろ」

「えぇ、勝ったのにあんまり嬉しくない」

『おいフーマ。何故勝者の貴方がおずおずと逃げ出す様に闘技場を出て行くのですか』



 なんて事をフレンダさんに言われたが、俺はエルフ達がドン引きしている中で胸を張れる程豪胆な気概は持ち合わせていないのである。

 はぁ、折角舞のせいで広まった汚名を返上する良い機会だと思ったのに、これじゃあ余計に悪い噂が広まりそうな気がする。


 そんな感じでターニャさんとの模擬戦で勝利したのにも関わらず素直に喜べない結末を迎えた俺は、沢山のエルフの微妙な視線に貫かれながら闘技場を後にした。



5月29日分です。

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[一言] 確かに微妙な戦い方ですね笑笑 not cool 、not cheat
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