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64話 超高高度戦術支援

 風舞




「あ、フーマじゃん。お腹の中の大っきな大蛇は倒し終わったの?」



 ボタンさんの書いた脅迫文を読み終えてから訓練場に向かうと、舞とローズの刀の素振りを見ていたターニャさんが俺に声をかけてきた。

 どうやら俺が遅れてきたのは腹の中の大蛇と戦っていた為だという事になっているらしい。

 大方、舞がいつまでも待っても帰ってこない俺への腹いせに適当な事をターニャさんに言ったのだろう。



「はい。中々手強いやつだったんですけど、なんとか水に流してやりましたよ」

「そっかそっか。快便な事は良いことだね」



 ターニャさんはそう言うと、俺の顔を見てニッと笑った。

 折角直接的な表現は避けて話してやろうと思っていたのに、色々と台無しである。

 そんな事を考えながらニコニコと笑うターニャさんを呆れた顔で見ていると、刀を振っていた舞とローズが俺に気がついてこちらにやって来た。



「遅かったわねフーマくん。もしかしてエルフのメイドさんにナンパでもしていたのかしら?」

「いやいや。俺が遅れてきたのはトイレで大蛇と戦っていたからってマイムが言ったんだろ?」

「あら、そうだったかしら」

「ふむ。それで首尾の方はどうなんじゃ?」

「ああ。特に問題もなく済んだぞ。これで何とかなるみたいだ」

「そうか。それは何よりじゃな」



 腰に刀を納めたローズはそう言うと、腕を組んで首を縦にウンウンと振った。

 そういえば舞の刀の名前は聞いたけど、ローズの刀にも何か銘がついているのだろうか。



「ねぇねぇ。それよりも私はフーマが戦うところを見せてもらいたいんだけど」

「別に構いませんけど、また随分と急ですね」

「だって、マイムとミレン先生が二人揃ってフーマは強いって言うんだもん。凄い気になるじゃん」

「この二人が大袈裟なだけで、俺は別に強くありませんよ」

「あら、私に魔法なしで勝った上に全盛期の力を取り戻しつつあるフーマくんが強くない訳が無いじゃない」

「いやいや、見た感じターニャさんの強さってユーリアくんクラスだろ? そんな人に強いって思われても困るんだけど」

「おお、何のスキルも使わずにターニャの強さを見抜くとは流石フーマじゃな」



 舞はともかくローズは俺を持ち上げる事を楽しんでるな。

 今だってかなり意地の悪そうな顔をしてるし、間違いない気がする。



「それじゃあさ、私と手合わせしてよ!」

「えぇ、流石にターニャさんとじゃ勝負にならない気がするんですけけど」

「ダメよターニャちゃん。フーマくんは勝ったときに何かご褒美が無いと本気を出してくれないの」

「いや、別にそんな事は……」

「まぁまぁ、お主は少し黙っておれ」



 俺はそう言ってよじ登ってきたローズに口を塞がれて舞とターニャさんのやり取りを見守ることになった。

 俺の話をしているはずなのに、どうして俺は会話に参加させてもらえないのだろうか。



「んー。ご褒美かぁ。ちなみに、フーマは何か欲しい物はある?」

「ムゴムゴムゴムゴムゴムゴ(俺も新しい剣が欲しいです。)」

「なるほどなるほど。フーマくんはエルフのメイドさんが欲しいらしいわ」

「え、えぇ。流石にそれを用意するのは難しいんだけど」

「でも、エルフの里で一二を争うターニャちゃんよりも強い黒髪の少年となると、それなりにフーマくんの下で働きたいというエルフも出てくるんじゃないかしら?」

「確かにそれもそうだね。それじゃあ、フーマが勝ったら私が里で一番のメイドをフーマのために探すっていうのはどう?」

「乗ったわ! それじゃあそういう事だから、頑張ってねフーマくん!」

「ぷはっ、何が頑張ってね、だ! 結局マイムがエルフのメイドさんが欲しいだけだろ!」

「な、何の事かしら? 別にエルフのお姉さんの貧乳をさわさわし放題だぜ! 何て思ってないわよ?」

「もっと最低な理由だったよ!」



 はぁ、どうして舞ちゃんはこうも自分の欲望に忠実なのだろうか。

 確かに俺のメイドさんなら舞のメイドさんも同然だから舞の命令にも従うんだろうけど、流石にメイドさんに貧乳を触らせろなんて命令をするのはどうかと思うぞ。



「で、どうするのじゃフーマ?」

「まぁ、魔法を使ってもいいならやるぞ。最近ずっと使ってなかったから実戦で感覚を取り戻したいとは思ってたしな」

「よし、それじゃあ早速やろう! この建物の上に闘技場があるからそこを使ってやろっか」

「ちなみに、模擬戦のルールとかってあります?」

「何でもありのガチンコバトルだけど、場外と相手を殺しちゃったら反則負けね。致命傷になる攻撃でも即死じゃなきゃ治せるから好きにやっていいよ」

「随分と実戦形式なルールですね」

「だってその方が面白いでしょ?」



 その方が面白いってどこの戦闘民族だよ。

 本当はターニャさんは勇者の末裔じゃなくて戦闘狂の子孫なんじゃないか?



「分かりました。それじゃあそれでやりましょう」

「オッケー。じゃあ、取り敢えずママに一声かけてから闘技場に行こうか」



 こうして、俺はターニャさんと模擬戦をする事となった。

 ローズ曰くターニャさんは戦闘において天性の才能を持ってるらしいし、模擬戦で俺が学ぶ事も多い気がする。

 折角戦ってくれるというのなら本気でやろう。




 ◇◆◇




 風舞




 ターニャさんがファーシェルさんに闘技場の使用許可を取って来た後、彼女に連れられて闘技場まで行くと観客席に沢山のエルフが座っていた。

 俺と一緒に闘技場まで来た舞とローズもいつのまにか解説席の様な場所に座って俺とターニャさんに手を振っている。



「で、こうして屋上まで来たんですけど、ギャラリーが多すぎやしませんか?」

「いやぁ。ママに闘技場を使っても良いかって聞きに行ったら丁度軍会議をやってたから、軍の主要なメンバーにも話が伝わっちゃったんだよね」

「それじゃあ、ここにいるエルフ達はほとんどが軍隊のお偉いさんなんですか?」

「そうだね。みんなうちの里の自慢の兵士達だよ」

「へぇ、軍隊って言うと男性の方が多いイメージでしたけど、女性の方も結構いるんですね」

「ああ。エルフは腕力よりも魔法がものを言うタイプだからな。女の方が男よりも強いなんて事はウチじゃあ結構ザラにあるんだよ」

「すみませんファーシェルさん。大事な会議を中断させてしまって」

「それはフーマが気にする事じゃないよ。私達もフーマの戦いっぷりに興味があるから、思う存分ウチの娘をぶっ飛ばしてくれ」

「えぇ、ママはフーマの応援をするの?」

「そりゃあフーマは大事なお客さんだから当然だろう? ただ、ステータスに10倍近い差があるのに負けたら承知しないよ?」

「うん! 絶対勝つからちゃんと見ててね!」



 やべぇ。

 ターニャさんがもの凄いやる気出してて全然勝てる気がしない。

 気を抜いてたら試合開始と共にコテンパンにされるんじゃないか?


 そんな俺の不安はつゆ知らず、解説席に座っている舞とローズから声援が飛んできた。



「頑張れフーマくーん!」

「お主が本気を出せば余裕で勝てるはずじゃ! 何をしても良いから絶対に勝つんじゃぞ!」

「はぁ、あいつらは気楽で良いな」

「えぇー、そうは言うけどフーマだって随分と落ち着いてんじゃん」

「まぁ、強敵と戦うのも何回も経験してきたからこういうのも慣れてきてますし、緊張するというよりはギャラリーの視線が恥ずかしい方が強いですからね」



 昨日の午後は舞の馬にされてすごしていたため、エルフの皆さんの俺を見る視線が完全に変なやつを見るそれになっている。

 先ほど階段を上って来た時も、「おい見ろよ。あれがファーシェル様期待の黒髪の変態らしいぜ」とか、「ねぇ、もしもあの人間が勝ったらターニャ様があの人間の専属メイドを探すんだって、あんた立候補したら?」「えぇ、私は俺に座ってくれとか言われるの嫌だよぉ〜」とか、酷いセリフが聴こえてきたし凄く恥ずかしい。



「まぁまぁ、ここにいるエルフのほとんどは軍人だから、フーマが良い試合をしたらみんな見直してくれるって」

「はぁ、そうなる様に出来るだけ頑張りますよ」

「さて、それじゃあそろそろ始めても良いか?」

「うん! 私はいつでも大丈夫だよ」

「あ、俺はちょっと待ってください」

「ん? 何か準備でもあるのか?」

「まぁ、準備とは言っても俺の身支度とかじゃ無いんですけどね」

「ん? それってどういう事?」



 ターニャさんが今一得心がいってない様な顔をしている。

 確かに少しだけ言葉不足だったかもしれない。

 俺はそんな事を考えながら、頼りになる俺の従魔を呼び出した。



「エルセーヌさん」

「オホホ。お呼びですかご主人様」

「またこいつか。こいつは何処にでも湧いて出て来るな」

「すみません。俺も自重する様には言いつけてるんですが、どうも小賢しいところが抜けないみたいで」

「まぁ、今はそれはいい。で、そいつを呼び出してどうするんだ?」

「それじゃあエルセーヌさん。俺が何をしてもこの闘技場が壊れない様に結界を張ってれ」

「オホホ。参考までにどの程度の攻撃をするのか教えていただいてもよろしいですか?」

「そうだな。じゃあ、怒ったミレンの全力パンチに耐えられるぐらいで」

「オホホ。かしこまりましたわ」



 エルセーヌさんはそう言って一度俺に向かってお辞儀をすると、いつものように一瞬で闘技場と観客席を薄い膜で包みこむ様に結界を張った。

 闘技場の上にいた俺達は、エルセーヌさんの張った結界の上に立っている様な状態である。



「へぇ、随分と固そうな結界を張らせるんだな」

「ミレンにも何をしても良いって言われたんで、このぐらいは必要かと思いまして」

「ほう、これは期待出来そうだな。それじゃあ、改めて準備は良いか?」

「はい。お待たせしてしまってすみません」

「良いって良いって。それじゃあ、なんでもありのガチンコ勝負で、戦闘不能か場外で負けね。じゃ、私はあっちに行くねー」



 ターニャさんはそう言うと、持って来ていたトゲトゲのメリケンサックを手に嵌めながら俺から離れて行った。

 ターニャさんが四角形の闘技場の真ん中辺りで立ち止まったのを見て、ファーシェルさんが大声で開幕の宣誓をする。



「只今からエルフ里随一の戦士であるターニャと、人間の黒髪の戦士フーマの模擬戦闘を始める! 見物をしている者は両者の戦いを見て自らの糧とするように! それでは、双方構え!!」

「よろしくねフーマ」

「はい。お手柔らかにお願いします」



 俺はターニャさんが拳を握って構えてそう言ったのを見てから、空を見上げながらそう言った。



「ん? 私から視線を逸らしてて良いの?」

「はい。これが俺の戦闘スタイルなんで」

「へぇ、変なの」



 ファーシェルさんはそんな感じで俺たちの会話がひと段落するのを見届けると、挙げていた右手を振り下ろしながら試合開始の合図をした。



「それでは始め!!」

「どりゃぁぁ!!」

「テレポーテーション!」



 試合開始直後、俺は勢いよく突っ込んでくるターニャさんの雄叫びを聴きながら、遥か上空へと転移した。

 ターニャさんは魔法と徒手格闘術の両方に優れた遠近両方をこなせるタイプであるらしいため、とりあえずは拳の届かなそうな距離まで逃げて来たのである。



「さてと、ちょっと良いですかフレンダさん」

『どうかしましたか?』

「かなり上空まで来たからターニャさんが何をしてるのか見えないんですけど、フレンダさんにはターニャさんがどうしてるか分かります?」

『私もフーマの知覚を共有しているだけなので、正確な事は言えませんがフーマの行動によってあのエルフの娘がどう動くのかは予想できます』

「流石フレンダさん。それじゃあ、早速攻撃を始めるんでよろしくお願いします」

『はい。私も久方振りに戦の場に立ててかなり心が踊っているので、本気で支援をするとしましょう』



 こうして戦略的戦闘のスペシャリストであるフレンダさんの戦術支援を手に入れた俺は、ターニャさんのいる豆粒ほどの大きさになった闘技場を見下ろしながら攻撃を始めることにした。

 フレンダさんの力を借りるのはいささか反則気味である気もするが、俺の中にいるフレンダさんは俺の一部と言っても間違ってはないだろうし、ターニャさんも何でもありだって言ってたからこのぐらいは構わないだろう。

 さて、闘技場の上にいるターニャさんはどう動くのかね。

5月28日分です。

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