表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/516

52話 男の別れ

 風舞




 ローズ達が帰って来て数分後、俺達はトウカさんの家のリビングでお茶を飲みながら、この数時間で何があったのかを報告し合っていた。



「なるほどなるほど。つまりミレンは武の真髄をいきなり語り始めて、ターニャさんをワンパンで気絶させて帰って来たんだな」

「いや、じゃから妾は基礎的な話しかしてないって言ってるじゃろ」

「いやいや、何が攻撃が来る場所は四択だから殆どの攻撃は避けられるだよ。それじゃあ攻撃の軌道も自分のどこを狙われてるのかも全く分かんないし避けられるわけないだろ。それに、自分の攻撃を当てたいなら相手に殺気を当てて、相手がそのストレスに耐えかねて攻撃したところにクロスカウンターを打ち込むって、普通の人には出来ねぇよ」

「そ、そうじゃろうか? マイムは今説明した様なことを時々やっておるぞ?」

「マイムは戦闘ガチ勢だから普通の人にカウントするなよ」

「あらフーマくん。それはどういう意味かしら?」

「ちょ、ちょっとマイムさん? そんなに力強く俺の肩を握ったら俺の肩が砕けちゃうよ?」

「あら、私は戦闘ガチ勢だからこの程度挨拶に過ぎないわよ?」

「あ、そういえばマイムの好きな物を夕飯に作ろうと思ってたんだけど、これじゃあ作れなくなりそうだなぁ」

「大丈夫よ。怪我してもきっとミレンちゃんが治してくれるわ」

「ご、ごめんなさい。マイムって超可憐だよな」

「ふふ。初めからそう言えば良いのよ」



 ふぅ、どうやら許してくれたらしい。

 この前外で舞にシャンプーしてもらった時から、何故か舞は猛者とか脳筋とか言われるのを嫌がるんだよな。

 危うく今回も肩を砕かれそうになったし、もう少し気をつける様にしよう。



「それで、ミレンはエルフのお姫様をぶっ飛ばすなんて頭のおかしい事をしたとして…」

「おい! 妾の頭がおかしいとはどういう事じゃ!」

『おい! お姉様の頭がおかしいとはどういう事ですか!」

「いやいや。魔族の中ではどうか知らないけど、普通余所(よそ)のお姫様をぶっ飛ばしたら処刑されても文句言えないからな?」

「そ、それはそうかもしれぬが…」



 舞の膝に座っていたローズは不服そうにそう言うと、体重を後ろに預けて舞の胸を枕にし始めた。

 いいなあれ、俺もいつかやらせて欲しい。

 そんな事を考えながらローズの後頭部で柔らかく潰れている舞の胸をお茶をすすりながら横目で眺めていると、その当の舞がローズの耳をいじりながら話を続けた。



「それで、どうしてファルゴさんは気絶してるのかしら?」

「それはその、どうも僕の修行のやり方が悪かったみたいなんだよね」

「別にユーリアの所為って訳じゃないだろ。まぁ、ユーリアの修行の方針もミレン並みにぶっ飛んでるとは思うけどな」

「ん? ユーリアくんは何をしたんだ?」

「えーっとね、……」



 そうしてユーリアくんは自分がファルゴさんにやった訓練内容を俺達に説明してくれた。


 そういえば、ファルゴさんはずっと白目剥いたたまま団長さんに膝枕されてるけど、何で誰もファルゴさんの目を閉じてあげないんだ?

 あれじゃあ起きた時に目が乾燥してすごい痛いと思うんだけど、良いのか?


 そんな事を考えながらユーリアくんの話を聞くこと数分。

 やはりというか何というか、ドSなユーリアくんの訓練はとんでもないものだった。



「はぁ、流石にその訓練はどうかと思うぞ」

「そうかな? 一応途中まではファルゴもこれなら強くなれそうだって言ってたんだけど」

「そうは言うけど俺だって恐怖心は普通に感じてるし、攻撃されてもストレスを感じないなんて事ないぞ?」

「でも、フーマは自分の怪我を何とも思わないみたいに戦うじゃないか」

「それは知識にある攻撃方法をやってみたら偶々そうなっただけで、よく話題にされる自爆ももう一回やろうとはあんまり思わないぞ」

「あんまり、なんだな」



 あれ? なんか団長さんが呆れた様な顔をしている。

 別におかしな話はしてないよな?



「まぁ、そうしないといけない状況になったらまたやるかもしれないですね」

「ユーリアが言ってるのはそういうところなんじゃないか?」

「ん? そうなのか?」

「うん。何ていうかフーマとマイムは戦闘に慣れすぎてるっていうか、自分の怪我や命に無頓着だよね」

「流石に俺も怪我したくないし死ぬのは嫌だぞ。なぁ?」

「ええ。私もまだまだ死にたくはないし、怪我するのも嫌ね」

「そう言うやつらは自分の身を遥か空の上に吹っ飛ばしたりしないと思うんじゃが」

「えぇ、ミレンまでそういう事言うのかよ。お前だってこの前雲の上まで転移してたじゃん」

「それは空を飛ぶ算段がついておったし、お主の所為でいきなり空の上に転移させられる経験を一度していたからじゃ。フーマの様に戦闘経験も力もない状態で同じ事をやろうとは考えんよ」

「そりゃあそうよ。だってフーマくんはチートキャラですもの」

「え? それ褒めてんの?」

『そんな訳ないでしょう』

「あら、私は常にフーマくんの実力を認めているし尊敬しているわよ?」

「ははは。マイムは優しいなぁ」

『だから、褒められてませんよ?』



 まぁ、舞が俺を褒めているか褒めていないのかはともかく、俺だって死ぬのは怖いし痛いのも嫌なんだけど、ユーリアくんや団長さんは俺のことを何だと思っているのだろうか?

 以前から思っていた事だけど、団長さんやユーリアくんの俺の戦闘力に対する期待というか信頼が少し高すぎる気がする。



「まぁ、俺がどうこうって話は置いといても、結局ユーリアくんはファルゴさんを気絶させてるんだし修行の方針は変えた方が良いんじゃないか?」

「うむ、ファルゴはフーマと同じでまだまだ戦闘経験も技量も足りておらぬし、先ずは魔物を相手にしながらレベルを上げるのが先じゃろうな」

「そっかぁ、僕も何かファルゴの力になれれば良かったんだけど、そう上手くはいかないみたいだね」

「まぁ、ファルゴがこうやって人に教えを請う事は珍しいし、これからも気にかけてやってくれよ」

「うん。僕なんかで良ければそうさせてもらうよ」



 常々思ってたけど、団長さんって結構いい奥さんだよな。

 ファルゴさんの事をいつも一番に考えてるみたいだし、こうやってファルゴさんが頑張っている時も大きなお世話にならない範囲で裏で手助けをしている。

 時々酔っぱらった団長さんにファルゴさんが抱きしめられてダウンしてるのを見かけるけど、あれぐらいなら愛情表現の一種としてむしろ可愛らしい部類に入るだろう。



「ん? どうしたフーマ? 私の顔に何か付いてるか?」

「あぁ、いえ。何でもないです。それで、今後の方針はどうしますか?」

「そういえばまだ決めてなかったわね」

「ああ、今日の昼に合流したのに色々とバタバタしててまだ話し合えてなかったからな」



 まぁ、バタバタした原因の一端は俺にあるんだけど、今はその事は置いておこう。

 話を掘り返してまた舞とローズに正座させられるのは嫌だし。



「ふむ。妾達の目的は世界樹の朝露の入手で、お主らの目的は魔物の異常発生の調査じゃったか?」

「ああ。とは言っても私達が依頼されてるのは調査であって問題の解決じゃないから、エルフの里にたどり着いた時点で八割方依頼は達成してるんだよな。魔物の異常発生の大本は世界樹だったってお偉方に報告すれば、後は椅子持ちのやつらが適当に話し合ってどうにかするだろ」

「ふむ。それでは後は妾達の用だけじゃが……」

「それは私の方で当てが出来たわよ。ターニャちゃんが用意してくれると言っていたわ」

「ターニャさんか。怒ってなければいいけどな」

「むぅ、その様な目で妾を見るでない」

「で、ユーリアくんはどうするんだ? トウカさんの様子を見に来たんだろ?」

「うん。僕の方はもう大丈夫だから気にしないでいいよ。トウカ姉さんは今もマイム達のおかげでゆっくり休めているみたいだし、当分は僕もここで暮らして姉さんが働きすぎないように見張り役をするつもりだからね」

「そうか。何か困った事があったらいつでも相談してくれよ?」

「うん。ここまで連れてきてくれてありがとう。フーマ達のお蔭で道中かなり楽しかったよ」



 ユーリアくんはそう言うといつもの可愛らしい笑顔でニコッと笑った。

 出来ることならトウカさんの体調不良の件も何とかしたいけど、トウカさんはエルフの里で唯一のかんなぎで、その儀式が無いと魔物が今よりも湧き出してくるらしいからどうしようも無いんだよな。

 まぁ、エルセーヌさんがどうにかする為に裏で動いてるらしいし、今回は下手に手を出さない方が良いだろう。



「ふむ。それでは妾達は里の方に行くとするかの。流石に病人のおるところで厄介になる訳にはいかんからな」

「そうね。私もターニャちゃんとまた一緒にお風呂に入る約束をしてるし、そろそろ宮殿に向かわないと」

「そっか。それじゃあ、一先ずはここでお別れだね」

「まぁ、当分はエルフの里に滞在する予定だからまた遊びにくるつもりだけどな」

「うん。姉さんもそうしてくれると喜ぶだろうし、いつでも来てよ」

「さて、いささか名残惜しいけれどそろそろおいとましましょうか」

「そうじゃな」



 そうして俺達は客室に置いてあった荷物を持って玄関に向かった。

 そういえば、あの金色の目のサイクロプスに襲われた時に置いてきてしまった荷物も回収に行かないとだよな。

 近々エルセーヌさんに一緒に行ってもらうか。


 そんな事を考えながら玄関のドアをくぐると、見送りに立ってくれたユーリアくんが声をかけてきた。



「そういえばフーマ。魂の治療の件はどうするんだい?」

「どうって、トウカさんの今の状態じゃこれ以上ギフトを使わせるわけにいかないし、別の方法を探すつもりだぞ」

「ごめんねフーマ。姉さんなら治せるかもって言ったのに」

「気にすんなって。俺もトウカさんが元気になってくれた方が嬉しいし、もしも治す方法が見つからなかったら、トウカさんが元気になった頃にまた来るつもりだからさ」

「そっか、ありがとうフーマ」

「ああ。だからユーリアくんはトウカさんがこれ以上無茶しないようにしっかりと見張っとくんだぞ」

「ふふっ。もしも姉さんがギフトを使おうとしたら魔法を使ってでも止めるつもりだから任せといてよ」

「ま、まぁ、程々に頼む」



 魔法を使ってでも止めるって、ユーリアくんは一体トウカさんに何をするつもりなのだろうか。

 あの片腕のサイクロプス相手に使った魔法を見てから俺の中でのユーリアくんのイメージがドSで固定されているから、トウカさんをベッドに縛りつけたりしそうとか考えちゃうけど、流石にそれは無いよな?



「フーマくん。そろそろ行かないと宮殿の閉まる時間に間に合わないから出発しましょう」

「ああ。それじゃあなユーリアくん。色々大変だと思うけど頑張れよ」

「うん。フーマこそ頑張ってね。それじゃあまた」

「ああ、またな」



 そうしてユーリアくんと握手をした俺は、ユーリアくんに見送られながらトウカさんの家を後にした。

 あんまり長々と別れの挨拶をして明日また会う事になったら互いに気恥ずかしいし、これぐらいあっさりした別れで丁度良いだろう。



『おいフーマ。泣いているのですか?』

「別に泣いてないですよ」

「あらフーマくん? どうして泣いているの?」

「だから泣いてないって」

「む? フーマが泣いておるのか?」

「だから泣いてないってば!」

「あ、フーマくんが逃げたわ!」

「追うのじゃマイム! これ以降フーマの泣いておる顔を見れる機会はないかもしれんぞ!」

「分かったわ!」



 別にユーリアくんと今生の別れになる訳ではないしまた直ぐに会えると分かっているのに、こんなにも長い時間を共に暮らした男友達はユーリアくんが産まれて初めてだったから、少しおセンチになってしまったみたいだ。

 なってしまったみたいなんだけど、どうして舞やローズはそんな感慨深い気分になっている俺を放っておいてくれないのだろうか。



「待ちなさいフーマくん! 私が優しく抱きしめて傷心中のフーマくんを慰めてあげるわ!」

「いや、別にそういうの要らないから! マジでそっとしておいてくれたら数分で元気になるから!」

「遠慮するでないぞフーマ! こういう時こそ一人で抱え込まずに妾達にその思いを打ち明けるべきじゃ!」

「嘘つけ! それじゃあ何でそんなに楽しそうな顔してるんだよ!」

「そんな事無いわよ? サンダー!」

「危なっ!? 魔法まで撃ってきといて何が慰めるだ!」

「あら、そうやって逃げ回るフーマくんがいけないのよ?」

「いやいや、普通そんなギラギラしてる目で追いかけまわされた逃げるから!」



 そうして俺はハンターと化した舞やローズから逃げるためにエルフの里へ向かって全力で走ったのだが、当然の如く二人から逃げられる訳もなく、俺は為すすべもなく捕まってしまった。

 はぁ、ユーリアくんとの別れを惜しんで流した涙はもう枯れてるからそろそろ勘弁してくれないかな。

 舞とローズによって地面に押さえつけられた俺は、赤く染まり始めた空を見上げながらそんな事を考えて涙を流した。



5月15日分です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ