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50話 ローズ流回避術

 


 トウカの家を出てしばらく、妾はエリスの案内でエルフの里にある訓練場に来ておった。

 エルフの里の街並みはソレイドによく似ておるが、ソレイドに比べると木造建築物の割合がかなり高い様に感じる。

 この広大な訓練場も木造である様じゃし、エルフの建築術は木を使う事にかなり特化しているみたいじゃ。



「オホホ。ここが訓練場ですわミレン様」

「ほう、かなり大きい施設なんじゃな」

「オホホ。現里長の奥方であるファーシェル様は軍事に力を入れていらっしゃいますので」

「ふむ。それでどうやって中に入るんじゃ? 警備の者もいる様じゃが」

「オホホ。私の魔法で中までご案内してもよろしいのですが、今回は許可証を使いましょう。折角ハシウス様に発行していただきましたからね」

「ほう、お主はその様な物まで持っておったのか」

「オホホ。少しお願いしたらすぐに作ってくれましたわ」

「まぁ良い。それでは早速中に入るとするかの」

「オホホ。かしこまりましたわ」



 訓練場にはかなりの広さの屋外訓練場と3階建の屋内訓練場があり、ユーリアとファルゴは屋内訓練場の2階に、シェリーとターニャは屋外訓練場にいると、警備の者が教えてくれた。

 そう易々とエルフの要人の居場所を話すのもどうかと思ったのじゃが、エリスの持つ許可証はかなりの権利を有するものみたいで、その許可証さえあればエルフの里で多くの事に融通が利くらしい。

 全く、こやつはそれを手に入れる為に一体何をしたんじゃろうか。


 そんな事を考えながら訓練場を歩いていると、通りがかった屋外訓練場にシェリーとターニャの気配を感じた。

 どうやら実戦形式での訓練をしている様じゃな。



「オホホ。どうなさいますかミレン様」

「そうじゃな。シェリーにも今晩どこで寝るのか聞かねばならんし、一度声をかけにいくかの」

「オホホ。かしこまりました」



 そうして妾とエリスがシェリーとターニャのいる方へ向かっていくと、数多くの見物人に見守られる中で戦うシェリーとターニャの姿が見えてきた。

 いや、戦うと言うにはいささかステータス的にも技量的にも差がありすぎる様じゃな。



「ちっ、避けんなクソ女ぁ!!」

「いやいや、そんな見え見えの攻撃当たる訳ないでしょ。良い? シェリーちゃん。相手に攻撃を当てようと思ったら、相手が見えない速さの攻撃をするか、相手が避けられない位置に攻撃を置くしかない。シェリーちゃんは攻撃を置くっていうのがかなり下手くそなんだよ」

「うるせぇ!」

「やれやれ、困ったなぁ。さて、そろそろ避けるのも飽きてきたからまた吹っ飛ばすね。それっ!」

「あだっ!!?」



 ドゴォォン!!



 ふむ。

 どうやらターニャがシェリーに稽古をつけてやってる様じゃが、シェリーはターニャの言う事を理解出来てはいてもイメージは出来ていない様じゃな。



「オホホ。あの赤い狂人は今まで絶対的な格上と戦った事は無かった様ですわね」

「ほう、そういうお主はどうなんじゃ?」

「オホホ。私の場合は要人に近づく場合がどうしても多かったですし、訓練相手はフレンダ様しかいなかったので基本的に格上としか戦った事がありませんわ」

「それならばシェリーに何かアドバイスをしてやったらどうじゃ?」

「オホホ。そう意地の悪い事を言わないでくださいまし。私があの狂人にアドバイスをしても素直に聞いてくれるとは思いませんし、今の私のステータスはターニャよりも上なので今一言葉に説得力を持たせられませんわ」

「ふむ。どうやらその様じゃな」



 今のエリスのステータスは平均で4千前後。

 それに比べてターニャのステータスは2千前後しかない。

 これではエリスがターニャと戦ってもあまりアドバイスに説得力を持たせられんというのもその通りかもしれんの。



「エリス。遮音結界を解くのじゃ。少し妾も身体を動かしてくる」

「オホホ。期待してもよろしいのですか?」

「妾を誰じゃと思っておる。いくらステータスに差があってもあの程度の小娘にはまだまだ負けられんよ」

「オホホ。それはそれは、是非とも面白いものを見せてくださいな。それでは行ってらっしゃいませ」

「うむ。妾が格上との戦い方というものを教えてやろう」



 そう言った妾は遮音結界が解除されるのを確認すると、エルフの人混みを一足で飛び越えてシェリーとターニャの間へと降り立った。



「あれ、ミレンちゃんだっけ? どうしてここに?」

「ユーリアに用があってここまで来たんじゃが、お主らが何やら楽しそうな事をしておったから様子を見に来たんじゃ」

「へぇ、おーいシェリーちゃん。お友達が見に来てくれたよー。そろそろ立ったらー?」

「ちっ、言われなくてもそのつもりだ」

「あぁ、よいよい。お主は休んでおれ。妾が少しだけ手本を見せてやろう」

「ん? ミレンちゃんも私と戦いたいの?」

「うむ。偶にはこういうのも楽しそうじゃしの」

「へぇ、ちなみにミレンちゃんってステータスどのくらい?」

「そうじゃな。大体千を超えたぐらいじゃな」

「シェリーちゃんと同じくらいか。それじゃあ私が怪我する事は無さそうだね」

「おいミレン。これは私の喧嘩だ。手を出すんじゃねぇよ」

「全く、お主も強情じゃな。言ったじゃろ? 妾は手本を見せてやるだけじゃ。間違ってもこやつを殺す様な事はせんから、後でいくらでも殴り返せばよかろう。それに、お主もどうすれば良いのか分からなくて途方に暮れておったんじゃろう?」

「ちっ、好きにしやがれ」

「という訳じゃ。妾が相手をしてやるから本気でかかって来い」

「えぇ、私が全力でやったらミレンちゃん一撃で死んじゃうよ? マジ瞬殺だよ?」

「ほう、それは何ともやりがいがありそうじゃな」



 そう言った妾は地面で座り込んでいるシェリーの服を掴んで彼女を持ち上げた。

 よし、エリスもこっちを見てるし投げても問題なさそうじゃな。



「おい、何してんだ?」

「何って少し邪魔だったから退いてもらおうと思っただけじゃ。ついでにエルセーヌに怪我も治してもらうとよい」

「は? 何言って…って、おい!?」

「そりゃっ!」

「アホかぁぁぁ!」

「うわぁ、シェリーちゃんかわいそー」

「別に投げられるくらい大した事無いじゃろ」

「わお、ミレンちゃんて超ワイルドだねぇ」

「そうかの? さて、それではそろそろ始めるとするかの」

「うん。私はいつでもオッケーだよー」

「それでは、かかって来るが良いぞ」

「へぇ、先手は譲ってくれるのかな? でも、簡単に死んじゃ嫌だからね!」



 ターニャはそう言うと、妾の周りに氷の剣を出して一斉に放って来た。

 確かに魔法の精度はかなりのものじゃが、これなら目を瞑っていても避けられるの。

 この小娘は妾を倒す事のみを考えて上半身しか狙っておらんし、それが攻撃する前から全て視線と殺気に出てしまっておる。

 これでは妾が攻撃をもらう事は無さそうじゃな。


 妾はそんな事を考えながら、全ての氷の剣をただその場にしゃがみ込むだけで避けた。

 妾の頭の上で氷の剣が互いにぶつかり合って粉々に砕ける。



「ほれ、もう終わりか?」

「そんな訳無いじゃん!」

「ほう、お主は近接格闘も出来るのか」



 ターニャの拳は確かにステータス通り速いし無駄の少ない動きではあるが、これならマイの方が良い拳を持っておるかもしれぬ。

 いや、マイの戦闘技術は幼い頃からの血反吐を吐く様な訓練と、妾の知らない様な洗練された武術体系の上に成り立っておるものじゃし、たかが数百年を非効率的な訓練と僅かばかりの才能だけで戦ってきた小娘と比べるのは酷かもしれんか。



「あれぇ? 何で見えてもないし動きも遅いのに当たらないの?」

「そうじゃな。ではそろそろ種明かしをしてやるとするかの。シェリーもしっかりと聞いておくんじゃぞ!」

「おう!」

「よそ見をするな!」

「おっと、慌てるでない。まず、これは人型の相手と戦うときならいつでもそうなんじゃが、大抵の攻撃は手か足から飛んでくる。たまに口や腰のあたりから攻撃してくる奴もいるが、それは今は良いじゃろう。ここまでは良いか?」

「何を当たり前の事を!」

「ふむ。そうは言うがこれがかなり重要な事での。攻撃はこの四箇所からしか飛んで来んし、同時に三箇所以上から飛んでくる事は身体の構造上まず無い。つまり、攻撃がどこから来るのかを予想するのは難しく無いという訳じゃ」

「それじゃあ、これならどう?」



 ターニャは格闘術だけでは(らち)があかないと思ったのか、氷の剣も混ぜて攻撃する様になった。

 確かにこうすれば攻撃の起点の選択肢が格段に増えるし避けづらくもなるが、



「そういう時はこうじゃ!」



 妾は地面に火球を打ち込む事で煙幕をつくり、ターニャの視界を封じた。



「この程度!」

「うむ。こうすれば大抵の相手は魔力感知を元に攻撃してくるが、そういう場合は自分の魔力を周りに散らしてどこにいるのか分からなくすれば良い。シェリーの場合は元々ほとんど魔力が無いから、魔力の流れを抑えるだけで殆ど感知される事は無くなるじゃろ」

「クソっ。風よ!」



 ふむ。まだまだ若いの。

 確かに煙幕を張られたらその煙幕から出るか風魔法で煙幕そのものを散らしたくはなるが、それでは自分の位置を相手に教えている様なものじゃ。

 どうしても動こうとすれば気配が出やすいものじゃし、気配を消すように動こうとしても煙幕の動きのせいでその位置分かりやすくなってしまう。



「ほれ、後ろががら空きじゃ」

「なっ、いつの間に!?」

「まぁ、今のは魔法を使って少しインチキをしただけなんじゃが、この様に範囲攻撃以外は全て自分の身体と次に動く場所に放たれるもんじゃし、相手が攻撃をするタイミングさえ分かればそれなりに避けられる。ちなみに、避ける時は相手が次の攻撃をしづらい場所に避けるのが一番じゃ。そうする事で、相手の連撃が速すぎて避けれぬという事もかなり減るからの。仮にそれでも避けられない攻撃をしてくる奴が相手の場合は、それはもう絶対に勝てぬ。大人しく諦める事じゃな」

「ねぇミレンちゃん。私には今の話を聞いても何で避けられるのか分からないんだけど」

「それはお主の攻撃が甘いからなんじゃが…よし、次はそのあたりの事を教えてやるかの」



 妾はそう言うと、ターニャから一度距離をとった。

 む? 何で誰も一言も言葉を発していないんじゃ?

 エリス以外は全員が信じられないものを見た様な顔をしておるが、妾は何もおかしな話はしてないと思うんじゃが、何かまずかったじゃろうか。

 ふむ、帰ったらフウマに聞いてみるとするかの。

 妾はそんな事を考えながら、額に汗を浮かべるターニャを視界におさめて拳を構えた。


5月13日分です。

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