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49話 浮気現場?

 舞




『おい人間。どうして貴方が落ち込んでいるのですか?』

「別に落ち込んでませんよ。ただ、自分が思ったよりも子供で少し嫌気がさしただけです」

『トウカが無理をしていたのは彼女の自己判断ですし、たかが十数年しか生きていない貴方が子供ではないなら何だと言うのですか』

「ありがとうございます。フレンダさん」

『ふん。いつもそのぐらい素直なら可愛げもあるのですがね』

「それじゃあ、今度からそうしましょうか?」

『止めてください。気持ち悪い』



 風舞くんの後を追って台所に行くと、彼が誰かと話している声が聞えてきた。

 一瞬風舞くんの頭がおかしくなったのかと思ったけれど、そういえば片腕のサイクロプスとの戦闘の前後で、近い内にフレンダさんが外の世界を見れる様になるかもしれないと言っていたし、話し相手はフレンダさんなのかもしれない。


 ローズちゃんや風舞くんに話はよく聞くけど、私はフレンダさんについてあまりよく知らないのよね。

 というか、折角弱ってる風舞くんを慰めて私に惚れ込んでもらおうと思ってたのに、風舞くんは楽しそうに笑ってるし、フレンダさんに私のポジションを取られてしまったわ。

 ちょっとジェラシー。


 そんな事を考えながらドアの隙間から顔だけを出して台所を覗き込んでいると、私に気が付いた風舞くんが手を洗ってこちらに歩いて来た。



「何してんだ?」

「ちょ、ちょっとフーマくんの様子を見にきただけよ。調子はどうかしら?」

「ん? 何を作るのかは少し悩んだけど、特に問題はないぞ」

「そ、そう。それなら良かったわ」

「何だよ。なんか変だぞ?」

「別に変じゃないわよ。それより、何か手伝える事はあるかしら?」

「それじゃあ、スープを作るつもりだからその芋を剥いて食べやすいサイズに切ってくれないか?」

「分かったわ」



 そう返事をした私は、台所の隅にある野菜の入った箱にジャガイモの様な薄い茶色の芋を取りに行った。

 はぁ、何となく風舞くんの顔を見づらいというか気まずいわね。

 こういうのを浮気現場を目撃してしまった恋人の気持ちと言うのかしら。

 まぁ、風舞くんと私は別に恋人同士というわけでは無いのだけれど。



「いや、別にそういうんじゃないですよ」

「ん? 何か言ったかしら?」

「あぁ、いや、別にマイムに言った訳じゃないぞ」

「もしかしてフレンダさん?」

「ああ。ってそういえば、まだマイムには話してなったな。今の俺の五感はフレンダさんに逐一送られてるんだ」

「そうなのね。それじゃあ、初めましてフレンダさん。土御門舞と言います」

「覚えておいてやるだって。…ん? ああ、そういえばそうでしたね。俺は高音風舞です。……いや、別に呼び方は変えなくて良いですよ。風舞でもフーマでも大した違いはありませんし」



 何か風舞くんがフレンダさんと楽しそうに話している。

 それにしても、フレンダさんは風舞くんが寝ている間だけじゃなくて風舞くんが起きている間も傍にいる様になったのね。

 いや、傍にいるというよりは五感を共有してるのだから、それは一つになっているという事なんじゃ………。



「破廉恥よ風舞くん!!」

「はぁ?」

「そうやってフレンダさんといつもイチャイチャべったりしてるなんて不純だわ!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。話が見えないんだけど」

「だって、風舞くんとフレンダさんはいつも感覚を共有してるのでしょう? それってつまり、フレンダさんは風舞くんの体の隅々まで体感してるという事なのよ!?」

「いや、それを言われると弱いんだけど俺はフレンダさんが時々うるさい以外は困ってないし、別に良いんじゃないか? …って、急に大声出さないでくださいよ」

「ほら、またイチャイチャしてるじゃない!」

「別にイチャイチャしてないだろ。って、分かったから騒ぐのをやめてください。……おい、舞? 泣いてるのか?」

「泣いてないわよ!」

「そうは言うけど泣いて……は? 幾ら何でもそれは…。やんないと大声で叫び続けるって、フレンダさんに何の得があるんですか? ……あ、そうっすか。それじゃあやりますよ。はぁ、」



 風舞くんは自分の頭に手を当てながら諦めた様にそう言うと、一度目を閉じて深く息を吸って吐いた後で、真面目な顔で目を開いた。

 少しだけ彼の顔が赤くなっている様な気がする。



「ふ、風舞くん?」

「ごめんな、舞」



 風舞くんはそう言うと、私の事をぎゅっと抱きしめた。


 え?

 ええっ!?

 何これ、どう言う事!?

 さっきフレンダさんが風舞くんに何かをする様に言っていた気がするけど、それがこれ?

 何で? どうして?

 凄い嬉しいんですけどーーーーー!!!???



「ふ、風舞…くん?」

「ホントごめん」

「あっ」



 風舞くんは短く謝罪すると私からパッと離れて、私に背を向けてまな板の方を向いてしまった。

 風舞くんの耳が今まで見たことがないくらい赤くなっているのが分かる。

 そんな風舞くんを見て、なんだか私まで恥ずかしくなってきていると、その当の彼が舌打ちをしながら小さく声をもらした。



「ちっ、あんたがやれって言ったんだろうが」



 どうやらフレンダさんにからかわれたみたいだ。

 でもそうか。

 フレンダさんにやれって言われたから私を抱きしめてくれたのか。

 なんか微妙に悔しいわね。


 そういえば、前にもこんな事あったわね。

 あれは確かソレイドにいた頃ミレンちゃんと買い物に出かけた時、私とミレンちゃんは美味しいケーキがあると噂のレストランの長い列にそのケーキを目当てに並んでいた。


 並び始めて数時間ほどでようやく店に入る事が出来たのだが、店員さんの話によるともう私の目当てであったケーキは売り切れてしまっていたらしい。

 こんなにも長い時間待ち続けたのに、食べられないのか。

 私がそんな感じで絶望感に打ちひしがれていると、私の後ろに座っていたダンディーな老紳士が私の肩を叩いてこう言った。



「すまないお嬢さん。私は甘い物が苦手なのに間違えて注文をしてしまったから、代わりに食べてはくれないかい?」



 甘い物が苦手な人がいくらなんでも間違えてケーキを注文する訳がない。

 そう思った私はこぼれ落ちそうになる涎を堪えながら彼の有難い申し出を断ろうとしたのだけれど、彼は支払い分よりも少しだけ多い銀貨を自分の座っていた席のテーブルに置くと、さっさと店を出て行ってしまった。

 その時の私はあの老紳士への感謝を胸にローズちゃんとケーキを半分こして食べたのだけれど、少し後になって私は悔しくてたまらなくなった。


 確かにあの老紳士には今でも感謝はしているし、もらったケーキも凄く美味しかった。

 でも、私は土御門舞。

 欲しいと思ったものは、例えどんな手段を使ってでも自分の力で手に入れる。

 それが土御門舞という女であるはずだ。



 それならば………



「ごめんね風舞くん」



 私はそう言って料理を再開しようとする風舞くんの背中に抱きついた。

 自分の心臓の鼓動の他に、私よりも速いスピードで血液を循環させている風舞くんの心臓の音が聞こえる。

 ふ、ふふふ。

 どうやらかなり効いたみたいね。



「ま、舞さん?」

「あら、どうしたのかしら風舞くん?」

「あのー、どうしたんですか?」



 風舞くんは焦るとその感情を悟られまいとするためか敬語になる事が多々ある。

 今回もかなり緊張しているのだろう。



「風舞くんがフレンダさんに命じられて謝りながら私を抱きしめるもんだから、その仕返しをしただけよ」



 風舞くんはフレンダさんに頭の中で騒がれると言われて私を抱きしめてくれた。

 でも、私には頭の中で直接大声を出されるという経験が無いから分からないけれど、その程度なら絶対にフレンダさんの命令を聞かなくてはならない程じゃないはずだ。

 つまるところ風舞くんは私なら抱きしめても良いと思ってくれたという訳で……。


 でも、それとこれとは別よ。

 私は抱きしめてもらえるのなら、謝りながらじゃなくて愛を囁きながらとかの方が良いの。



「えーっと、ごめんなさい」

「あら、どうして風舞くんが謝るのかしら?」

「いや、その、何となくそういう気分になって」

「ふふ。私の抱きしめ心地はどうだったかしら?」

「か、かなり良かったです」

「それなら今度からいつでも抱きしめてくれて良いのよ?」

「いや、それは遠慮させてくれ」

「そう、それは残念だわ」



 私はそう言うと、少しだけ名残惜しく感じながらも風舞くんからパッと離れた。

 風舞くんはまだ私に背を向けたままでピクリとも動こうとしない。


 私はそんな風舞くんが今どんな顔をしているのか見てみたくなったけれど、寸でのところでその思いをグッと堪えた。

 今もしも彼の顔を見たらそのまま押し倒してしまいそうな気がするし、私のこんなに緩みきった顔を見られるのは恥ずかしいもの。



「それじゃあ、私は出しっ放しのポットとコップを片付けて一度トウカさんの様子を見てくるわね」

「ああ」



 私はそんな風舞くんの短い台詞を聞いて何だか幸せな気分になりながら、リビングの方へと戻って行った。

 あ、お芋の皮を剥くのを頼まれてたんだったわ。



5月12日分です。

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