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46話 姉と妹(と従者)

 風舞




 人生とはままならないもので、とある苦しみから逃れようとしたあまりに、むしろ行動を起こした場合の方がより燦燦さんさんたる結果になってしまう事は多々ある。

 人間誰しも生きていれば自分の思い通りにならないことの方が多いのだ。


 今だってそう、俺はしたくもないのに魔王様と自称剣姫様に正座をさせられている。

 はぁ、思い返してみても俺はそこまで悪い事をしてないと思うんだけど。



「ではフーマくん。何か申し開きはあるかしら?」

「まずはミレンの件なんですけど、久しぶりに外の世界を体感できるフレンさんのお願いを聞いてたら結果的にそうなりました」

「あら、そうとは何がどうしてどうなったのかしら?」

「えーっと、まずミレンを起こして抱きしめた後、首筋に………」

「ま、待つのじゃフーマ! それ以上は言わんで良い! マイムももう良いじゃろう!」

「はぁ、ミレンちゃんがそう言うのならいいわ。でもそれじゃあ、それはどういうことかしら?」



 舞が正座をする俺にピッタリとくっついて俺と腕を組んでいるエルセーヌさんを指さしながらそう言った。

 俺と従魔契約を結んだエルセーヌさんの首には、紫色の光の首輪が付いている。

 そういえばこれ、ボタンさんがキキョウにつけてたのと同じやつだな。



「えーっと。俺にも今一分かりません」

「オホホ。昨夜ぶりですわねマイム様」

「ええ、そうねエルセーヌ。それで、昨日の晩いきなり私とシェリーさんを襲撃してきたエルセーヌがどうしてフーマくんと一緒にいるのかしら?」

「え? お前そんな事してたの?」

「オホホ。それは勘違いですわ、……何とお呼びすれば?」

「なんでもいいぞ」

「オホホ。それではご主人様。昨日の晩、私がマイム様とシェリー様にご挨拶に向かったところ、私はお二人に殴られそうになったから避けただけですの。私はマイム様方に一切の攻撃をしていませんわ」

「だ、そうだぞ?」

「そ、それはそうだけど。でも、その魔族は私とシェリーさんにものすごい殺気をぶつけてきたのよ!」

「え? マイムはエルセーヌさんが魔族だって知ってたのか?」

「ええ、ユーリアさんのお母様がそう言ってたわ。それにターニャちゃんもユーリアさんもお二人のお父様も知ってる事よ」

「へぇ。という事らしいんで、トウカさんもそんな気まずそうな顔しなくて大丈夫ですよ」

「フフフ。ありがとうございますフーマ様」

「それもよ! どうしてフーマくんは私を差し置いて正統派エルフのトウカさんと仲良くしてるのよ! フーマくんはエロフ派なんでしょう!」


『はぁ、このマイムという女はうるさいですね。おいフーマ。この女を黙らせなさい』



 なんかもう、グダグダになってきたしスタバに戻って良いんじゃね?

 俺自身ももう少しトウカさんやエルセーヌさんと話したいし、舞にはもう少し待ってもらいたいんだけど。



「なぁマイム。トウカさんの家って世界樹の下にあるんだけど、知ってたか?」

「それがどうしたのかしら?」

「こんなに完璧なエルフのトウカさんが世界樹に住んでるんだぞ? どんなところなのか見てみたくないか?」

「ま、まぁ、見てみたくはあるけれど」

「あー。そういえば、トウカさんの作ってくれたエルフの伝統料理すごい美味しかったなぁ」

「べ、別に羨ましくなんてないわよ!」

「ねぇトウカさん。マイムがもっとトウカさんとお話したいらしいんで、もしよろしければマイムをトウカさんの家に連れて行ってあげてくれませんか?」

「フフフ。私などの家でよろしいのでしたら、ぜひお越しくださいな」



 はぁ、トウカさんがユーリアくんと同じで察しの良い人で本当に助かった。

 昨晩トウカさんが作ってくれた料理は別にエルフの伝統料理ではないらしいけど、俺は初めて食べる料理だったし舞を誤魔化すにはちょうどいいだろう。



「だってよマイム。トウカさんもこう言ってるし、お言葉に甘えたらどうだ?」

「そ、そこまで言うのなら案内されてあげなくもないわ! 仕方なくよ仕方なく!」

「分かってるって。それじゃあトウカさん。マイムをよろしくお願いします。俺達もそこそこで切り上げてトウカさんの家に向かいますので」

「分かりました。警備兵の者にはその旨を伝えておきますので、フーマ様方は来た時と同じ道を通って家までいらしてください」

「はい。ありがとうございます。マイムはトウカさんにあまり迷惑をかけるんじゃないぞ」

「分かってるわ! さぁ、行きましょうトウカさん!」

「あぁ、はいはい。少しお待ちくださいマイム様」



 そうして、何だかんだいいつつも自身のオタク魂にあらがえなかった舞は、トウカさんの手を掴んで楽しそうに話しながら時計塔の階段を下りて行った。

 よかったね舞ちゃん。



『貴方、碌な死に方をしませんよ?』

「うるせぇやい」

「はぁ、それで何故エリスがフーマと共におるんじゃ?」

「その前に、また遮音結界を張ってもらって良いか?」

「オホホ、お待たせしました」



 エルセーヌさんは返事をすると一瞬で遮音結界を張った。

 すごいな。

 無詠唱だし発動までかなり時間が短かったぞ。



「それじゃあ、まずは自己紹介をしようぜ。エルセーヌさんはミレンの正体を知らないんだろ?」

「オホホ。正体、ですの?」

「ほら、やっぱりローズの事気づいてないみたいだぞ?」

「へ? ローズ陛下?」

「なんじゃ、エリスは気づいておらなかったのか。妾はローズ・スカーレット。お主の前の主人の実の姉である」

『あぁ、なんと麗しいのでしょうお姉さま』

「へ、陛下は処刑されたのではなかったのですか?」

「へぇ、スカーレット帝国ではそうなってんのか。良かったなローズ。大々的な捜索はされてないみたいだぞ」

「いや、妾が殺されてる事にされても素直に喜べんのじゃが」

「ほ、本当にローズ陛下なのですか?」

「エルセーヌさんの本名を知ってるのはローズとフレンダさんだけなんだろ?」

「し、失礼いたしました陛下! これまでの数々のご無礼をお許しください!」

「うむ。別に構わん。息災であったかエリス」

「はっ。この不肖エリス。いついかなる時も魔王様の身を案じておりました」

「嘘つけ」『嘘ですね』

「お、オホホ。何をおっしゃるのですかご主人様?」

「いや、だってさっき安息の地を求めてエルフの里に来たって言ってたじゃん」

「はぁ、お主も相変わらずの様じゃな。しかし、無事で安心したぞエリス」

「ありがとうございます魔王様。そのようなお言葉をかけていただき、このエリス感涙の極みでございます」

「嘘つけ」『嘘ですね』

「オホホ。な、何の事でしょうか?」



 あぁ、なんかエルセーヌさんの性格が読めて来たぞ。

 さてはこの人、長い物には巻かれる姑息なタイプだな。

 まったく、誰に似たんだか。



「そういえば、ずっと気になってたんけどエルセーヌさんはなんで俺達の後をつけてたんだ? たまたま時計塔にいたって訳じゃないんだろ?」

「はい。私は昨日の昼頃からフーマ様方を尾行していましたわ」

「ふむ。何故その様な真似を?」

「はっ。私が近ごろ拠点にしているエルフの里に力を持った者が現れたので、その敵情視察をするつもりだったのであります」



 ありますってどこの軍人だよ。

 いや、フレンダさんの直属の諜報員だったらしいし、あながち軍人で間違ってないのか。



「ん? 昨日の昼頃って俺達が変なサイクロプスに襲われてた頃だよな。もしかしてローズがサイクロプスの気配を感じ取れなかったのって、エルセーヌさんの所為なのか?」

「お、オホホ。何のことですの?」

「あぁ、やっぱりそうなのか」


 見るからにエルセーヌさんが焦っているし、多分彼女が俺達にあのサイクロプスをけしかけたのだろう。

 結界に入れとけばサイクロプスの気配を外に漏らさずに捕獲しておくことも簡単だろうし、エルセーヌさんの今の様子を見る限り間違いない気がする。

 あのサイクロプスの魔眼は光線を発射するものだったから、ローズが気配を掴めなかった理由が分からなかったんだけど、このドリル頭が原因だったのか。



「のうフーマ。こやつ、締め上げても良いのではないか?」

「そうだな。危うく俺達は死にそうになったんだし、別に良いと思うぞ」

「オホホ。冗談ですわよねご主人様?」

「いやぁ、どうだろうな。そういえばフレンダさん。エルセーヌさんの嫌がる事って何ですか?」

『そうですね。尻を叩かれるのとオホホという口調を指摘されるのを嫌がります』

「へぇ」

「ご、ご主人様? フレンダ様から何をお聞きになったんですの?」

「さぁ? ところでローズ。体罰と精神罰どっちが良いと思う?」

「ふむ。あまり時間をかけてはおれんし、両方やれば良いのではないか?」

「それもそうか。それじゃあ、ローズはケツバット係な」

「お、オホホ。ケツバットとは何ですの?」

「ケツバットってのは俺の故郷で広く有名な体罰だ。ものすごく硬い金属の棒でケツを殴られるっていう簡単なやつだぞ」

「ほう。それはシンプルで分かりやすいの」

「お、オホホ。何かの冗談ですわよね?」

「オホホ。冗談ではありません事よ?」

「ご、ご主人様!? どうか、どうかお許しください。命じて頂ければどの様な仕事でも致しますので!」

「それじゃあ、エルフの里に来てからやった事全部話してくれ。どうせ他にもヤバい事しでかしてるんだろ?」

「そ、それだけで良いのですか?」

「あぁ後、嘘をついたり情報を伏せたりしたらその時点でケツバットな。準備は良いかローズ?」

「うむ。これで殴れば良いのじゃろう?」



 ローズが手元に吸血鬼の顎門(アルカード・スレイヴ)で作った真っ赤な棍棒で自分の手を軽くパシパシと叩きながらそう言った。

 うわぁ、表面がデコボコしててあれで殴られたら凄い痛いだろうな。



「わ、分かりましたわ! 全てお話させていただきますの!」

「なんじゃ、つまらんのう」

『はぁ、いつになったらエリスは成長してくれるのでしょうか』



 そうして、俺達はどこかの姉妹によく似て微妙に残念なエルセーヌさんのお話を聞くことになった。


 はぁ、俺達にサイクロプスをけしかけたり、舞やシェリーさんに殺気を当てて挑発したぐらいだから絶対禄でもない事してるんだろうな。

 俺はローズに胸を棍棒でつつかれて涙目になっているエルセーヌさんを見ながらそんな事を思った。




 ◇◆◇




 ユーリア




 フーマとトウカ姉さんを追ってマイムとローズさんがスタバを飛び出して行った後、残された僕達はそのまま席についたままでフーマ達を待つことになった。

 僕はそんな状況の中で、どうにもトウカ姉さんが気になって仕方がない様子のター姉の話し相手をしている。



「ねぇユーリアー。トウカどこに行ったのかなぁ?」

「さぁ? 気になるなら探しに行けば良いんじゃない?」

「いや、別にそういう訳じゃないんだけどさー」



 ター姉とトウカ姉さんは僕がまだ子供の頃は実の姉妹の様に仲が良かった。

 ただ、ある時期を境に二人の仲は悪くなり、ター姉は以前の様にトウカ姉さんにすり寄ったりしなくなって、トウカ姉さんはター姉に敬語を使うようになってしまった。

 当時の僕はター姉とトウカ姉さんに何があったのかを聞いたのだが、二人とも話を聞こうとしてもはぐらかすばかりで何も教えてはくれなかった。

 僕としては昔のように仲良くとはいかなくても、せめて普通に話を出来るぐらいの関係にはなって欲しいのだけれど、この二人の様子ではそれもなかなか厳しそうである。



「「はぁ」」



 そうしてふとついたため息に、僕と同じタイミングでついたシェリーのため息が重なった。



「どうしたんだいシェリー? 何か悩み事でもあるのかい?」

「いや、別に悩みって訳じゃねぇんだけどよ。ただ、上には上がいるって事を改めて思い知らされただけだ」

「ん? どういう事だ?」

「ああ。実は昨日の晩にな、エルセーヌとかいう魔族に襲われたんだよ」

「あぁ、あの人の話か。確かにエルセーヌは掴み所が無いし、本能で戦うシェリーの苦手なタイプかもしれないね」



 昨日の晩、僕達がエルフの里や世界樹について話し合っていた時に現れたエルセーヌという女性は、ハシウスに雇われてアドバイザーをやっていると言っていた。


 今の世界樹は木の上の方から降りてくる魔物が後を絶たないらしく、エルフの里はその対処に追われて、実際には何匹もの魔物を取り逃がしているらしい。

 本来なら(かんなぎ)であるトウカ姉さんが世界樹に祈りを捧げていれば魔物の発生量は抑えられる筈なのだが、そのための儀式について記されていた書物の多くが失われているためか、世界樹から降りてくる魔物は一向に減らないらしい。


 トウカ姉さんは真面目だから儀式をおろそかにする事はないと僕は思うのだけれど、ハシウスは現れる魔物が一向に減らないのはトウカ姉さんの実力が不足しているためだと考え、姉さんに儀式の頻度を増やす様に命令したそうだ。

 トウカ姉さんは僕に儀式の詳細を教えてはくれなかったが、儀式はおそらくトウカ姉さんのギフトの力を使って行うものだと僕は考えている。

 僕はギフトを開花してないからよく分からないけれど、ギフトを使っていると体力精神力共に削られていくため、長時間の使用の後はそれなりの休憩を挟まないといけないものであるらしい。

 ただ、体調の悪そうなトウカ姉さんを見る限りはギフトを使って消耗した力が回復する前に、またギフトを使っているのだと思う。

 姉さんは自分がかんなぎとしてエルフの里を守らなくてはならないと考えているし、おそらく自分の疲労も厭わずに力を使っているのだろう。



「ん? 何の話ー?」

「あぁ、エルセーヌの話だよ」

「えっ? 誰それ?」

「はぁ。昨日の晩会ったエルフの里のアドバイザーをやってるって言ってた魔族の事だよ」



 自分はエルフの里のアドバイザーをしていると言ったエルセーヌは、儀式が意味をなさないなら魔物の発生原因を調査してその大元を断つべきだとハシウスに提案したらしい。

 世界樹はエルフの里でも大きな意味と役割を持つ大樹で、本来世界樹にはエルフの里長とかんなぎしか近づいてはいけないものとされている。

 エルセーヌはその風習を解いてエルフ総出で世界樹の調査をするべきだと考えているそうだ。



「あぁぁ、そんなんいたわー」

「はぁ、姉さんは昔から人の話を全然聞かないよね」

「なんだよー。ユーリアだって小っちゃい頃は私やトウカの後を付いて回って大人の話を聞いてる振りをしてただけだったじゃんかよー」

「それは昔の話でしょ。僕はもう幼くないし、姉さんと違って人の話を聞いてる振りをしたりしないよ」

「ちぇ、なんだよなんだよ。お姉ちゃんの事そうやってイジメて楽しいのかー!」

「はいはい。お店の人の迷惑になるから静かに座っててね」

「ちぇ、あの頃の可愛いユーリアはもういないのか。で、何の話だったっけ?」

「あぁ、はい。シェリーがエルセーヌさん? って人が強いって言ってた話なんすけど」

「なんだよぉファルちん? 緊張してんのかぁー? ほれほれー」

「ちょ、いきなりストローで頬をつつかないでくださいよ」

「おい、ファルゴは私のものなんだから手を出すなよな!」

「分かってるって。ちょっとからかっただけだからそんなに怒んないでよー。ファルちんとシェリーがラブラブなのは分かってるからさ」

「ば、そういうんじゃねぇよ!」



 顔を赤くしたシェリーがター姉のストローを握りつぶしながらそう言った。

 はぁ、ター姉はすぐそうやって人をからかうんだから。

 そんな事を思いつつ自分のカーフィーをストローで吸い上げていると、隣に座っていたファルゴが小さな声で話しかけてきた。



「ねぇ、ユーリアさん。ユーリアさんってお姉さんが二人もいて大変そうっすね」

「分かるかい? 昔はあの二人も仲が良かったんだけど、今の僕は間に挟まれる立場だから余計大変なんだよ」

「兄弟や姉妹がいない俺にはよく分からないんすけど、頑張ってください」

「ありがとうファルゴ」



 あぁ、ファルゴは優しくて素直でいい子だなぁ。

 それに比べて家のター姉ときたら………。



「えー、でも、シェリーはもっとおしゃれしてファルちんにアピってった方が良くない?」

「ちっ、そんなシャバい事できるかよ!」

「ほらー、またすぐ怒ったー。女に大事なのはほーよー力だよ?」

「うるせぇ! ファルゴはありのままの私が好きって言ってくれたんだ!」

「はぁ、そんな事言ってるからエルセーヌごときに手も足も出ずに負けちゃうんだよ?」

「ちっ、それは関係ないだろ!」

「関係なくないよ。シェリーは素直すぎるんだよ。それじゃあ自分よりもステータスが高い相手や賢い魔物には勝てないよ。シェリーはもっと技と読みを磨くべきだね。今のままじゃファルちんの事守れないよ? ほら、今も少し揺さぶられただけで視野が狭くなって大事なファルちんに剣が向けられている事に気が付いてない」



 ター姉はファルゴの首の後ろに突き付けられている氷の剣を指さしながらそう言った。

 あぁ、ター姉は魔法の発動がもの凄く早いし正確だから、こういう風に人の裏を取るのがかなり得意なんだよなぁ。

 確かに直線的なシェリーには苦手な相手かもしてない。



「ちっ! 殺すっ!」

「お、やる気かなぁ? それじゃあ、ターニャお姉さんが可愛いシェリーちゃんの相手をしてあげよう」

「はい、そこまでだよ二人とも。それ以上はお店の人に迷惑がかかるし、やるなら他の人の迷惑にならない所でやってね」

「あ、それもそうだね。それじゃあ訓練場に行こうか。シェリーちゃん?」

「望むところだこの野郎! お前のその気に食わないにやけ面をぶん殴ってやる!」



 そう言うと、二人はスタバの返却カゴに木製のコップを投げいれて口喧嘩をしながら去っていった。

 やれやれ、ター姉はどうして仲良くしたい人には当たりが強くなっちゃうんだろうなぁ。

 あんなんだからいつまで経ってもトウカ姉さんとの仲が進展しないと思うんだけど。



「大丈夫かいファルゴ?」

「あぁ、はい。ありがとうございます」

「それなら良かったよ。さて、折角フーマの奢りなんだし、そろそろ何か別の物も注文しないかい? 僕はここのケーキも食べてみたかったんだよ」

「ユーリアさん」

「ん? どうしたんだい?」

「俺、強くなりたいです。もっと強くなりたいです」



 ファルゴが真面目な顔で自分の中の何かを押さえつける様にしながらそう言った。

 僕と会った頃のファルゴなら今みたいな状況なら諦めたような乾いた笑みを浮かべていただろうけれど、フーマ達と行動を共にする間にファルゴの中で何かが変わったみたいだ。



「そっか。それじゃあ、僕たちも訓練場に行こうか」

「うす」



 人間は僕達エルフに比べると寿命が短いためか、まるで生き急ぐかのように精神的な成長を遂げていく。

 エルフである僕には人間のその感覚は分からないけれど、フーマやファルゴ達の成長の速さには驚かされてばかりだ。

 そんな日を追うごとに成長していく人間ファルゴ達の一助になりたい。

 それは長い時を漫然と生きる僕達エルフの習性なのかもしれない。


 僕はそんな事を考えながら店員にフーマ達への言伝を頼んで、ファルゴと共に訓練場に向かった。


5月9日分です。

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